レポート - 英国大学事情 -

2014年1月号「大学の研究者へのキャリア支援組織:Vitae」

掲載日:2014年1月6日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

【1. はじめに 】

   非営利の全国的ネットワーク組織「Vitae」は、1968年以来続いてきた大学や研究機関の研究者のための専門教育やキャリア支援の各種プログラムを引き継いで、2008年に新たに発足した。今月号では、研究者の支援のために多様な活動をしているVitaeの活動の概要を紹介する。

【Vitaeの主要目的】

  • 研究者の育成への効果的な政策立案と実施に関与して、人的資源の価値を高める。
  • 高等教育機関による研究者への訓練や教育の提供を強化する。
  • 研究者のキャリアにインパクトを与えるために、研究者を力づける。
  • 研究者への専門的能力開発やキャリア開発のインパクトを明らかにする。

 

【2. 組織 】

Vitaeは、大学院博士課程に在籍する研究者や高等教育機関、研究機関の研究スタッフの自己啓発、専門的能力開発およびキャリア開発のための全国的組織である。
  • 【ナショナル・チームと地域ハブ】

    ケンブリッジ市内に、13名のメンバーから成る「ナショナル・チーム」を置くと共に、以下のように8つの大学内に「地域ハブ」を設置している。これらの8つの地方ハブは、地域のアカデミックス、研究者育成支援スタッフや雇用者などの間のネットワークの構築を目指し、イベントの開催や地域における情報の共有などを通じて、地域の高等教育機関を支援する。

    East of England Hub University of Hertfordshire
    London Hub King’s College London
    Midlands Hub University of Warwick
    Northwest Hub University of Manchester
    Scotland and Northern Ireland Hub University of Edinburgh
    South East Hub University of Sussex
    South West and Wales Hub Cardiff University
    Yorkshire and North East Hub University of Leeds
  • 【アドバイザリー・グループ】

    Vitaeは、英国全土の高等教育機関から、幅広い専門的経験や知識を持つ人材を集め、次のような専門家による助言グループを持っている。

    • Research Staff Development Advisory Group当グループは、研究スタッフに関する諸問題への専門的助言とVitaeによる各種プログラムへの戦略的助言をする。グループは、現在、リサーチ・カウンシルUK、大学、ウェルカム財団およびVitaeからの17名の専門家で構成されている。
    • External Advisory Group全てのVitaeのプログラムや活動は、中立的見地に立った外部助言者グループによって総括的にチェックされる。外部助言グループは、年4回の会合を開く。
    • Strategic Forum 外部助言グループの活動は、この戦略フォーラムにて定期的に開示される。当フォーラムの参加者は、外部助言グループ、リサーチ・カウンシルUK、個別のリサーチ・カウンシルおよび研究助成機関のメンバーである。
  • 【パートナーと関係機関】

    • リサーチ・カウンシルUKリサーチ・カウンシルにとって、Vitaeの活動は、英国の社会や経済に対する研究者の貢献の量、質およびインパクトを高めるための重要な任務の一つである。そのため、リサーチ・カウンシルUK内のResearch Career and Diversity UnitがVitaeの活動に対する資金助成の中心となっている。
    • Careers Research and Advisory Centre Limited(CRAC)CRACはキャリア開発とキャリア関連の学習を支援する、非営利の独立した全国的組織である。CRACは、1968年以来、大学院に在籍している研究者のためのスキル開発やキャリア開発への訓練や支援のために、リサーチ・カウンシルとの共同活動をしてきた。その実績によって、Vitaeの運営はCRACが行っており、Vitaeのナショナル・チームはケンブリッジ市内にあるCRACのオフィスに拠点を置いている。
  • 【助成機関】

    Vitaeは、主にリサーチ・カウンシルUKのResearch Careers and Diversity Unitによって資金助成されている。Vitaeのプログラムや活動に関する諸契約は、英国で7つあるリサーチ・カウンシルの中で最大規模のEngineering and Physical Sciences Research Council (EPSRC)が他のリサーチ・カウンシルを代表して行い、CRACが活動営を請け負っている。2007年から12年までの5年契約の総額は1,500万ポンド(25億5,000万円(*1))であった。

    * 1ポンドを170円にて換算

 

【3. 活動 】

【関係機関との共同活動】

  • 研究者のニーズを擁護し、研究者のインパクトを明らかにするために、助成機関や全国組織との間の戦略的パートナーシップを構築し、専門家、政策立案者や雇用者などを集めた場にて政策提言などをする。具体的には、次のような活動を行う。
  • 研究者のニーズを擁護し、研究者のインパクトを明らかにするために、助成機関や全国組織との間の戦略的パートナーシップを構築し、専門家、政策立案者や雇用者などを集めた場にて政策提言などをする。具体的には、次のような活動を行う。

【高等教育機関との共同活動】

  • Vitaeは研究者に対する持続可能な専門的能力開発やキャリア開発を定着させるために、高等教育機関と緊密な連携活動を行っている。
  • Vitaeの戦略的目標の一つは、前述の「研究者のキャリア開発を支援するための合意書」と共に、「研究者育成のための声明:Researcher Development Statement(RDS)」および「研究者育成のための枠組み:Researcher Development Framework(RDF)」にも示されたように、高品質の学習リソースとベスト・プラクティスの共有を促進することにある。
  • 大学パートナーがホストする8つの地方ハブは、Vitaeの政策を実行していく上で重要な役割を担っている。具体的には、次のような共同活動が含まれる。
    • 「研究者のキャリア開発を支援するための合意」と「研究者育成のための枠組み(RDF)」に明記された事項を実行に移すための活動やプログラムを助成する。
    • 8つの大学に設置されている地方ハブによるニュースレターやイベントなどを通じて、地方のネットワークを支援する。
    • 高等教育機関がアプローチを共有できるようなプラットフォームを提供する。(高等教育機関が提供している事例のデータベースなど)
    • 研究者育成プログラムの主催者に、技能訓練からキャリア・プラニングまでの広範囲のコースやリソースを提供する。
    • Vitaeによる研究成果やレビューを公開することによって、研究者のキャリアや高等教育機関の政策を広く伝える。これらには、「Careers in Research Online Survey」や「 target="_blank">Principal Investigators and Research Leaders Survey」などが含まれる。
    • 個人的および専門的なキャリア開発への革新的なアプローチを他に先駆けて開発する。(筆者注:Vitaeは実際に、RDF Professional Development Plannerなどを開発した実績がある。)

【研究者との共同活動】

  • Vitaeは、専門的能力開発やキャリアに興味を持つ、大学院の主に博士課程の研究者や研究スタッフに対して、各種リソース、助言、情報およびフォーラムを提供している。具体的には、次のような活動がある。
    • Vitaeのウェブサイトにて、研究者向けの情報、ニュースおよび雇用機会を専門ポータルにて公開する。
    • 専門スキルやキャリア・ゴールに焦点を当てた、大学院コースに在籍する研究者のための3‐4日間の試験的プログラムである「Vitae GRADschools」や特定のキャリアに関するイベントを開催する「Vitae Careers in Focus」など、全国的なプログラムや活動を展開する。
    • 調査や研究を含む、労働市場や就職情報を提供する。
    • 国の政策立案やイニシアティブへのインプットの機会を提供する。

【雇用者との共同活動】

  • Vitaeは、専門的能力開発やキャリアに興味を持つ、大学院の主に博士課程の研究者や研究スタッフに対して、各種リソース、助言、情報およびフォーラムを提供している。具体的には、次のような活動がある。
    • 研究者の採用や雇用に関する雇用者側のニーズと経験を調査する。
    • 現在、研究者を雇用している又は雇用を計画している雇用者のネットワークを促進すると共に、研究者のキャリア・パスのマッピング作りを進める。
    • 雇用者のニーズに沿った、研究者の育成に関する情報を広く伝える。

【国際活動】

    • 欧州、米国およびアジアの国々における研究者の知識、行動様式および特徴を調査する。
    • 欧州委員会(EC)が採択した「研究者のための欧州憲章:European Charter for Researcher」と「研究者の採用に関する行動規範:Code of Conduct for the Recruitment of Researchers」に基づいて創設されたECの「HR Excellence in Research Award」を、英国の大学が取得できるように支援する。
    • 高等教育機関の研究者から企業への転職を支援するための、国境を越えた訓練モジュールを開発する。

 

【4. 筆者コメント 】

英国では、大学や研究機関の研究者のための専門能力教育やキャリア支援に対する各種のプログラムが実施されてきたが、より統一された、全国的活動を展開するために、2008年に非営利の全国的ネットワーク組織のVitaeが発足した。
Vitaeの活動は広範囲にわたり、「Careers in Research Online Survey」や「Principal Investigators and Research Leaders Survey」などの調査を実施している。これらの興味深い調査結果は、各ウェブサイトにて公表されている。
「RDF Professional Development Planner」はオンラインのキャリア開発プログラムであり、興味がある方は、次のウェブ中で掲載されているビデオ・クリップを参照ください。
http://www.vitae.ac.uk/researchers/291411/Manage-your-career-with-the-Vitae-RDF-Planner.html
余談ながら、英国では履歴書のことを通常、Curriculum Vitae(CV)とラテン語で言い表している。このラテン語を英訳すると、course of lifeと言うことらしい。したがって、今月号で紹介した「Vitae」という組織の名称は、「研究を一生のキャリアとする」という意味合いも持っていると感じた。
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