レポート

英国大学事情—2013年11月号「学生自治会によるサステイナビリティ・プロジェクト」

2013.11.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

【1. はじめに 】

 2013年4月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は、National Union of Students(NUS)が計画している「Students’Green Fund」PDF への500万ポンド(7億5,000万円)(1)の公的助成を発表した。今月号では、英国の高等教育機関や継続教育機関の学生自治会連合体であるNUSが運営するサステイナビリティ・プロジェクトを紹介する。1. 1ポンドを150円にて換算

【National Union of Students】

  • NUSは英国の高等教育および継続教育機関の学生自治会(student union)の95%にあたる約600の学生自治会が加盟する、約700万名の学生の利益を代表する自治組織である。NUSはNUS、NUS Services、NUS Charitable Servicesの3部門に分かれており、フルタイム換算で約220名のスタッフが所属する。
  • NUSはHEFCEやビジネス・イノベーション・スキルズ省(BIS)などの省庁から公的助成を一括して受けて、傘下の学生自治会による各プロジェクトへの助成を行ったり、運営支援をしたりする豊富な経験を持っている。
  • NUSによる、大学1年生を対象とした3年間にわたる調査では、調査対象者11,200名中の約85%の学生が、大学は積極的にサステイナビリティを促進する活動をすべきである、60%がサステイナビリティについてもっと学びたいと回答した。また約半数の学生が、環境に配慮した各種スキームに参加したいとしている。

【2. Students’Green Fund 】

  • NUSがHEFCEから総額500万ポンド(7億5,000万円)の助成金を一括して受けた上で、学生が主体となって計画する環境に関する各種のサステイナビリティ・プロジェクトに、公募を通じて支援することを目的とする。
  • 当プロジェクトは「学生の参加」、「パートナーシップ」、「インパクト」および「将来への布石」を基本テーマとする。
  • 2013年に公募を実施した上で20から25プロジェクトを採択し、2年間にわたり1件当たり年間5万ポンド(750万円)から15万ポンド(2,250万円)の助成を計画している。
  • NUSは、応募段階からプロジェクトの実施、プロジェクト間の連携、成果の共有、成功例の高等教育分野以外へのPRなど、各学生自治会を支援する計画である。

【応募条件】

  • 各高等教育機関の学生自治会は、所属機関とパートナーシップを組んで応募することになるが、プロジェクトは学生が主体となることが条件である。
  • プロジェクトは、サステイナビリティに明確に焦点が当てられていると共に、そのインパクトを数値化できる必要がある。またプロジェクト終了後も、将来の展開への布石となる可能性が高いことも評価対象となる。
  • 今までの経験上、プロジェクトのテーマ案としては以下のようなものが考えられるが、学生のイノベーションを尊重する観点から、勿論これら以外のテーマも考慮される。持続可能性に関する課題

・エネルギー消費量の削減 ・リサイクリング ・車や飛行機の利用削減
・地元食品の持続可能性  ・廃棄食品の削減 ・持続可能で倫理的な調達など

組織上の課題
・学生の代表者、コースの代表者、機関の長やアカデミックスのサステイナビリティ活動への参画促進など

参加者層を拡大するためのテーマ
・個人の行動の変革 ・学生宿舎のグリーン化
・サステイナビリティ活動に参加したことがない人たちへの参画促進
・地域コミュニティーにおけるサステイナビリティ関連学習会の開催など

  • 上記のテーマに加えて、以下のような目的に役立つプロジェクトも付加価値を高めることから、プロジェクトの採択にはプラスとなろう。・学業成績を向上させる ・学生の雇用可能性を高める
    ・ソーシャルエンタープライズや学生の起業を支援する
    ・高等教育進学者の層を拡大する

【3. NUSによるサステイナビリティ活動の実績 】

  • NUSは今までに、以下のようなサステイナビリティ活動促進プロジェクトを運営してきており、合計で77の英国の高等教育機関が参加した実績を持つ。以下の「Green Impact」プロジェクトや「Student Switch Off」プロジェクトには、参加大学がNUSに運営費を支払っており、当分野におけるNUSの活動実績が高く評価されていることを示している。

【Green Impact】

  • 当サステイナビリティ活動促進プロジェクトは学生自治会にて自発的に始まり、現在では英国の54の高等教育機関の1,000を超す事務部門や学科のサステイナビリティ活動への指導、評価および表彰活動を行っている。また、当プロジェクトは高等教育機関以外にも、NHSトラスト(National Health Service Trust)や地方自治体にも広がりを見せつつある。
  • 2011・12年度には、Green Impactプロジェクトを通じて、約25,000名の学生とスタッフがサステイナビリティ活動に参加した。
  • 廃棄物リサイクリング、水、出張、エネルギー、調達などに関するサステイナビリティ活動のプログラムは、各組織の方針やプロセスを重視した上で、NUSのGreen Impactチームが指導する。
  • 各プログラムの成果は、サステイナビリティ活動に関する学生監査役(student auditor)やGreen Impactチームによって監査を受け、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナなどの認定証が発行される。
  • NUSは今までに800名を超えるサステイナビリティ活動の学生監査役を養成してきており、彼らの雇用可能性とサステイナビリティ活動への認識を高めることにも役立っている。

【Student Switch Off】

  • これはフェースブックを利用して運営される、学生寄宿舎間のエネルギー消費削減競争プロジェクトである。
  • 当プロジェクトは今年で7年目を迎え、今までに高等教育機関に在籍する約50万名の学生が参加し、参加機関のエネルギー料金を合計で100万ポンド(1億5,000万円)以上節約した実績がある。これは、炭素換算で約7,127トンに匹敵する。
  • また2011・12年度だけでも、参加大学の学生寄宿舎の電気代を平均で約7%の削減に成功しており、二酸化炭素排出量を約1,500トン削減したことになる。
  • 2012年には、当プロジェクトは英国のサステイナビリティ活動に関する最優秀の行動変革キャンペーンに選ばれ、名誉ある「Ashden Award」を受賞した。
  • 本年度は、学生寄宿舎の13万室が当プロジェクトに参加しており、19,000名の学生が各寄宿舎におけるエネルギー消費削減活動をしている。

【Student Eats】

  • 当プロジェクトは、学生が大学敷地内で自分たちが消費する野菜や果物を自前で栽培できるよう、英国の高等教育機関を支援することを目的とする。このプロジェクトは国営宝くじ(The National Lottery)の収益からの助成金を運営費としている。
  • 近年、多くの学生が自分で消費する野菜や果物を栽培することに興味を抱くと共に、自分の食物の選択が与える倫理的、環境的インパクトに気を付け始めている。
  • 現在、当プロジェクトにはシェフィールド大学、ニューキャッスル大学、リーズ大学など、18の高等教育機関とその学生自治会が参加している。

 NUSでは上記のプロジェクトの他、ビジネス・イノベーション・スキルズ省(BIS)の助成を得て、不必要な灯りを消す運動である「Snap it Off」プロジェクト、「Green Impact」および「Student Switch Off」プロジェクトなどを支援するために、最近の卒業生を高等教育機関に派遣する活動である「Sustainable Behaviour Assistants」なども行っている。

【4. 筆者コメント 】

  • 英国の学生自治会は、所属する大学と組んでサステイナビリティ活動の促進に積極的に取り組んでおり、学生時代からサステイナビリティ活動に興味を抱かせるための各種プロジェクトを推進している。
  • 学生自治会の連合組織であるNUSのサステイナビリティ活動に、HEFCEや BISなどの政府機関が直接的に助成金を出しているということは、NUSがサステイナビリティ活動促進に多くの実績を上げてきた証であろう。
  • 「Green Impact」プロジェクトに、54の高等教育機関の1,000を超す事務部門や学科が参加しており、NUSがサステイナビリティ活動への指導の外に、評価や表彰活動まで行っていることは注目されよう。筆者は、英国はいろいろな面で表彰活動が巧みであると、常日頃から実感している。

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