レポート

英国大学事情—2013年10月号「学士課程修了者の学士号取得率、成績および就職状況」

2013.10.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

【1. はじめに 】

  • 「英国大学事情2013年第9号」にて、「イングランド高等教育助成会議」(HEFCE)が2013年7月に発表したイングランド地方の大学院への進学動向を紹介したが、HEFCEは続けて、学士課程修了時の学士号取得率、成績および就職状況などに関する「Higher education and beyond:Outcomes from full-time first degree study」と題する報告書も発表したので、今月号ではその一部を抜粋して紹介する。

【2. サマリー 】

  • 当報告書は、2006・07年度に英国の高等教育機関のフルタイムの学士課程に入学した、成人学生(*1)を除く英国人学生の卒業時の成績と就職状況を調査したものである。【筆者注】「英国大学事情2013年第9号」にて紹介した大学院への進学動向報告書はイングランド地方だけの統計であったが、今月号の統計は、イングランドのほか、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドも含む英国全土が対象となっている。2006・07年度に英国の学士課程入学者の総数は390,515名であったが、当報告書は成人学生約41,000名、留学生約40,000名などを除き、合計225,765名を調査対象(*2)としている。
  • 当報告書は、主に以下の4項目に分けて調査している。
    • 学士号の取得者
    • Firstまたは2:1(Second Honour Upper Division)などの成績優秀者
    • 学士号取得後に何らかの職に就いているか、または大学院などにて継続的に教育を受けている者
    • 学士号取得後、学士号取得を条件とした仕事に従事しているか、または大学院などにて継続して教育を受けている者

【筆者注】英国の大学の学士課程修了時における学士号は、その成績によって以下のように、4段階の優等学位(honoursレベル)に分けられる。

  • 無事に学士号を取得できた学生は、2002・03年度の入学者では81.5%であったのに比べ、2006・07年度入学者では82.3%と増加した。
  • Firstまたは2:1の優等学位付き学士号を取得した学生は、2002・03年度入学者で49.6%であったのが、2006・07年度入学者では53.3%と増加している。
  • 学士号を取得後、就職または大学院などにて継続的に教育を受ける者の比率は、2003・04年度入学者では72.0%であったのが、2006・07年度入学者では71.4%と多少減少している。
  • また、学士号取得後に学士号資格が必要な職業に就いているか、大学院などにて継続教育を受けている者についても、2002・03年度入学者では48.1%であったのが、2006・07年度入学者では47.8%と同じように減少した。

【2006・07年度入学者の特徴】

  • 女子学生が男子学生より21,000名も多く、また女子学生の方が前述した4つの調査項目のすべてにおいて、男子学生より比率が高かった。
  • 大学進学前に私立学校に通っていた学生は、4つの調査項目のすべてにおいて、公立学校に通った学生より高い比率を示した。

【2006・07年度入学者の専攻科目の影響】

  • コンピューター科学を専攻した学生は、4つの調査項目の内、「学士号取得後、学士号を条件とする職に就いたか、または大学院に進学した者」の項目を除いて、各項目にて最低の比率を示した。
  • マスコミュニケーションやドキュメンテーション専攻の学生は「学士号取得後、学士号を条件とする職に就いたか、または大学院に進学した者」の項目で最低であった。
  • 歴史、哲学および語学を専攻した学生は、学士号の取得率およびFirstや2:1という優秀な成績を収めた比率が最も高かった。
  • 教育、医学、医学関連科目、歯学および獣医学を専攻した学生が、最も高い就職率を示した。

【3. 統計資料 】

【4. 筆者コメント 】

  • Firstまたは2:1の優等学位付き学士号を取得した学生は、2002・03年度入学者で49.6%であったのが、2006・07年度入学者では53.3%と増加している。
  • 最近、英国の大学における卒業成績が全般的にかさ上げ傾向にあるという見方がある。Higher Education Statistics Agency(HESA)の統計によると、例えば最優秀のFirstを取得した学生は約6人に1人の53,000名強に達し、その数は過去10年間で倍増している。
  • 英国では、いわゆる一流企業への就職や弁護士、会計士等の専門職になるには、通常2:1以上の成績が求められることが多い。しかしながら、半数強の卒業生がFirstや2:1の成績を取得している現状では、産業界を始め各界から、現在の卒業成績証明は採用時にあまり参考にならないとの意見も出てきている。
  • このような意見を踏まえ、約200年間続いてきた現行の卒業成績証明書に加え、学年ごとの具体的な試験成績スコアや課外活動などを含めた成績証明書(Higher Education Achievement Report)を発行する大学が増えてきた。
  • なお、オックスフォード大学やケンブリッジ大学をはじめとした有力大学では、今まで通りの卒業成績システムを継続すると聞いている。

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