レポート

科学のおすすめ本ー 未来を拓く エシカル購入

2013.06.03

永山悦子氏 / 推薦者/科学ジャーナリスト

未来を拓く エシカル購入
 ISBN: 978-4-86018-248-9
 定 価: 1,900円+税
 編著者: 山本良一 氏・中原秀樹 氏
 発 行: 環境新聞社
 頁: 197頁
 発行日: 2012年12月11日

環境負荷の少ない商品・サービスを選ぶ「グリーン購入」という言葉は、広く知られるようになっている。では、「エシカル購入」はどんな消費行動か?

「エシカル」とは、英語で「倫理的」の意味。本書は「環境だけではなく、社会的側面(平等性、ジェンダー、健康、食料など)にも配慮する消費行動」と位置づける。編著者らは、2011年3月11日の東京電力福島第一原発事故がもたらした被害の状況から、「非倫理的な商品・サービスの罪」を指摘し、企業活動及び消費行動に「倫理性」という視点を導入することを訴える。

「消費」の語源は、ラテン語で「破壊、消耗、死へと向かうプロセス」だという。消費の本質は「倫理的ではない」ともいえ、消費者一人一人の意識改革が必要だ。一方、企業側の「非倫理性」も指摘する。一例が家電製品の「意図的な老朽化」、わざわざ耐用年数を短くして買い換え(新たな消費)を促す仕掛けだ。紹介されているのは、米国の小さな町の消防署にある一つの60ワットの電球。1901年6月から1度も消されずともり続けているという。実際、1924-39年、世界の主要電機メーカーは、電球の寿命が1000時間を超えないように合意するカルテルを結んでいた。

そもそも日本は、発展途上国の商品・サービスを適正な価格で継続的に購入する取り組み「フェアトレード」の市場が、非常に小さい。欧米と違い、個人よりも組織、協調性が優先され、消費者の社会的な責任が育ちにくい土壌が影響しているとみられる。

編著者らは、福島第一原発事故後の2012年春、エシカル購入を広げるため、「倫理的購入・CSR調達ガイドライン研究会」を組織した。本書は、その研究会に参加した有識者らが紹介したエシカル購入の基本的な考え方、地域や自治体における取り組み、NGO(非政府組織)からの問題提起、企業のCSR活動などを盛り込んだ。

編著者の一人、中原秀樹・東京都市大学教授は「現在の世代は、未来の世代の生存可能性に対して責任がある。一方、有限性という限界を守るため、ことを上から押しつけるようなことをすれば、政治的な全体主義を生む。有限性という限界を守りながら政治的全体主義に陥らない未来はどこにあるのかを探ることが、これからの私たちの大きな課題」と方向性を示す。「グリーン購入」の次の時代をのぞき、学べる1冊だ。

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