レポート - 英国大学事情 -

2013年5月号「イングランド地方の大学の財政状況<HEFCE report: Financial health of the higher education sector>」

掲載日:2013年5月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は今年3月、イングランド地方の大学の財政の健全性に関する調査報告書「Financial health of the higher education sectorPDF を発表して、2011-12年度のイングランド地方の大学の全般的な財政状況と12-13年度の財政見通しを公開した。これらのデータは、HEFCE が毎年各大学に提出を義務付けている年次会計報告書を基に集計されたものである。なお、これらにはスコットランド、ウェールズおよび北アイルランド地方の大学は含まれていないが、イングランド地方の大学の財政規模はスコットランド、ウェールズ、北アイルランド地方などを含めた全国規模の80%強を占めている。今月号では、このHEFCE報告書から要点のみを抜粋して、イングランド地方の大学の財政状況を紹介する。

 

 

【1. 2011-12年度の実績 】

1-1) 収入

(単位:100万ポンド)
2010・11年度 2011・12年度 増減
運営費交付金 7,205(1兆808億円<sup(*2)) 6,690(1兆35億円) -7.1%
海外からの収入(EU域外の留学生からの授業料等) 2,513(3,770億円) 2,747(4,121億円) +9.3%
授業料と教育提供契約からの収入(国内・EU) 5,235(7,853億円) 5,624(8,436億円) +7.4%
研究への公的助成と研究契約収入 3,564(5,346億円) 3,645(5,468億円) +2.3%
その他の運営収入 4,220(6,330億円) 4,335(6,503億円) +2.7%
大学基金への寄付と利息 196(294億円) 236(3億5,000万円) +20.7%
総収入 22,933(3兆4,400億円) 23,277(3兆4,916億円) +1.5%

 

   2011-12年度の総収入は、インフレ率調整後で前年比0.7%の減少となった。これは1994-95年度に始まった統計以来、初めての減少であった。(88大学にて、インフレ率調整後で前年度比減少となった。)この減少の主要因は、授業料の大幅値上げに伴う、HEFCEからの教育向け運営費交付金の大幅削減によるものである。
【授業料収入の内訳】 (単位:100万ポンド)
2010・11年度 2011・12年度 増減率
フルタイム学部学生(英国・EU域内) 2,859(4,289億円) 3,113(4,670億円) +8.9%
フルタイム大学院生(英国・EU域内) 544(816億円) 575(863億円) +5.8%
パートタイム学生(英国・EU域内) 536(804億円) 558(837億円) +4.0%
EU域外からの留学生 2,513(3,770億円) 2,747(4,121億円) +9.3%
その他 1,296(1,944億円) 1,378(2,067億円) +6.3%
授業料収入の合計 7,748(1兆1,622億円) 8,371(1兆2,557億円) +8.0%

 

   EU域外からの留学生による授業料収入は毎年増加しており、2000・01年度に比較してインフレ率調整後でも2倍以上に増えている。また、11-12年度の大学の総収入に対しては、平均で11.8%を占めるまでになってきている。(大学によって、0%から38.2%までと幅がある。)
   2010-11年度には、EU域外からの留学生の授業料収入が、授業料収入の総額の約50%を占めると回答した大学が20校あった。EU 域外からの留学生による授業料収入に依存する傾向は強まっており、大学の総収入の20%以上となった大学数は08-09年度の4校に対し、11-12年度では10校と拡大傾向にある。

1-2) 支出

   2011-12年度の総支出は、前年比2.0%の増加であった。総支出の52.6%にあたる122億4,100万ポンド(1兆8,362億円)は人件費であり、この比率は00-01年度の58.1%に比べ、近年は減少傾向にある。

1-3) 剰余金

   2011-12年度の運営剰余金は前年度の10億6,100万ポンド(1,592億円)から9億7,400万ポンド(1,461億円)に減少した。この剰余金額は、総収入の4.2%にあたる。なお、12大学は赤字を計上した。

1-4) 流動性資産と借入金

   2011-12年度における、大学の持つ現金などの流動性資産の総額は67億7,500万ポンド(1兆163億円)であり、これは118日分の支出を賄える金額に相当する。(前年度は109日分)。
借入金は前年度の50億2,900万ポンド(7,544億円)に対し、54億9,000万ポンド(8,235億円)に増加した。これは総収入の23.6%にあたる。

1-5) 年金等への積立準備金

   2011-12年度における年金支払い等への積立準備金(reserves)の総額は、89億6,600万ポンド(1兆3,450億円)であった。年金積立金への赤字額は前年度に比べて、10億2,900万ポンド(1,544億円)増えて40億6,600万ポンド(6,099億円)となった。

1-6) キャッシュ・フロー

   2011-12年度の運営活動によるキャッシュ・フロー総額は18億9,600万ポンドであり、総収入の8.1%であった。(前年度は9.2%)。キャッシュ・フローの総額は2004・05年度以来、毎年増加傾向にあり、財務の健全性を判断するにはプラス材料である。

 

【2. 2012-13年度の見通し 】

2-1) 収入

(単位:100万ポンド)
2010・11年度実績 2011・12年度見通し 増減
運営費交付金 6,690(1兆35億円) 5,427(8,141億円) -18.9%
海外からの収入(EU域外の留学生からの授業料等) 2,747(4,121億円) 2,934(4,401億円) +6.8%
授業料と教育提供契約からの収入(国内・EU) 5,624(8,436億円) 7,185(1兆7,778億円) +27.8%
研究への公的助成と研究契約収入 3,645(5,468億円) 3,805(5,708億円) +4.4%
その他の運営収入 4,335(6,503億円) 4,345(6,518億円) +0.2%
大学基金への寄付と利息 236(3億5,000万円) 236(3億5,000万円) -5.5%
総収入 23,277(3兆4,916億円) 23,920(3兆5,880億円) +2.8%

 

   2012-13年度においては、19大学がEU域外からの留学生による授業料を中心とした海外関連収入が前年度比20%以上増加するとしている一方、37大学は前年比減少を予測している。減少を予測している大学は、最近の英国政府による学生ビザ発給要件の厳格化を懸念していると思われる。
【筆者注】 近年、学生ビザにて入国して、実際は大学や高等専門学校に通わずに就労に従事している若者が増えてきたため、英国政府は学生ビザ発給条件の厳格化や受け入れ校の管理体制の強化を指導している。

2-2) 支出

   総支出はインフレ率調整後で前年比3.2%の増加が予想される。人件費は過去2年間、前年度比減少となっていたが、2012-13年度はインフレ率調整後で前年度比3.2%の増加が予想される。その主要因は教職員数の増加にある。

2-3) 剰余金

   総収入の減少、総支出の増加の影響で、総収入に占める単年度の運営剰余金の比率は前年度の4.2%から1.6%に減少することが予想される。

2-4) 流動性資産と借入金

   現金などの流動性資産は前年度の118日分から101日分に減少すると予想されるが、なお健全な水準である。(8大学は20日分を切るとみられ、大学間に大きな差がある。)この主要因は、大学の大規模なインフラ整備計画による。このため、借入金の合計は61億7,400万ポンド(9,261億円)と、総収入に対して約26%(前年度23.6%)になると予想される。

2-5) 年金等への積立準備金

   年金等への積立準備金は、2012-13年度末で97億3,000万ポンド(1兆4,595億円)と予想される。

2-6) キャッシュ・フロー

   2012-13年度の運営活動によるキャッシュ・フロー総額は11億9,300万ポンド(1,790億円)と、前年度比7億300万ポンド(1,055億円)の減少が予想される。12-13年度のキャッシュ・フロー水準は、インフラ整備のための助成金や借入金による資金手当てがついていない場合は、更なる大規模インフラ整備には不十分である。

 

【3. HEFCEの見解 】

   2011-12年度のイングランド地方の大学の財政状態は、HEFCEが全大学の財務状況の包括的統計を始めた1994-95年度以来、インフレ率調整後で初めて公的助成額が前年度比減少に転じたにもかかわらず、全般的には健全な状況であった。
   予想される2012-13年度の財務状況は、教育向け運営費交付金の削減、新入学生の減少や経費増による剰余金の減少にもかかわらず、健全な状態にあると言える。
   多くの大学では、公的設備投資助成額の削減に伴い、今まで以上に内部剰余金を取り崩して設備投資に充てる比率が高まってきている。2012-13年度でも、この傾向は続くことになる。将来的には、大学の中には現在予想している剰余金の水準を高める必要がある所が出てこよう。さもなければ、設備投資活動は衰退し、大学の長期的持続性と学生の大学での経験に支障をきたすことになろう。
   新規授業料制度の導入に伴い、短中期(2012-13年度-15-16年度)的に、新入学生数の不安定な状況が継続すると思われるため、HEFCEとしては今後も大学への入学手続き業務を一手に行うUCAS(Universities & Colleges Admissions Service)からの進学希望者数や大学の財政に悪影響を及ぼす早期段階での指標を注視していきたい。

 

【4. 筆者コメント 】

   2012-13年度から、イングランド地方の大学の年間授業料の上限は約3,290ポンド(494,000円)から9,000ポンド(135万円)と大幅引き上げが認められた。その代わり、大学への運営費交付金は今後、授業料値上げ後に入学してくる学生の増加に伴い、教育への交付金を中心に段階的に大幅に削減されることになる。(研究への運営費交付金は、ほぼ横ばい。)
   イングランド地方の大学は教育・研究の質の高さに加え、世界共通語ともなった英語圏であることもフルに生かし、留学生の受け入れに非常に積極的である。特に授業料の高いEU域外からの留学生のリクルートに力を入れており、それらの地域からの留学生による授業料収入は2011-12年度で4,100億円と、大学の総収入の約12%を占めるまでになっている。
   また、その他の運営収入が年間6,500億円近くある。これには、学生向け寄宿舎、会議場、ホール、レストラン、ケータリングなどからの収入が含まれる。英国の大学は、大学の持つ施設を一般向けに積極的に貸し出しており、大学の収入源の一つであると同時に、一般市民との接触を図る場としても活用している。キャンパス内に劇場や映画館を持つ大学もあり、一般市民が数多く出入りしている。
   英国政府は2013-14年度も緊縮財政を継続するとしており、いくつかの部門を除き、原則的に聖域なき予算削減を計画しているようである。高等教育部門においても、更なる予算削減がささやかれている。
   イングランド地方の大学の総支出の中で、約1兆8,000億円と最大規模を占める人件費は、2001-11年度の58%から11-12年度には53%と減少してきている。今後は、人件費の次に大きな支出である物品やサービスの調達費に対する更なる削減努力が求められている。
   英国の大学では長年にわたり共同購入コンソーシアムを組んで、汎用品を中心に各種の物品やサービスの共同調達を実施しているが、更なる改善を目指すために「Procurement Academy」の設立が計画されている。
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