レポート

英国大学事情—2012年9月号「2010・11年度:大学・企業・社会の連携活動調査結果 <HEFCE:Higher Education-Business and Community Interaction Survey 2010-11>」

2012.09.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 2012年7月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は英国の高等教育機関による知識交流(Knowledge Exchange)活動に関する第11回目の実態調査である、2010-11年度「The Higher Education-Business and Community Interaction Survey」の調査結果を公表した。(この調査には、159の高等教育機関が回答を寄せている)。今月号では、この調査結果資料の中から、要点のみを抜粋して紹介する。

【1. 2003・04年度からの推移】

【大学・企業・社会の連携活動による収入】

(単位:100万ポンド、カッコ内は億円
(単位:100万ポンド、カッコ内は億円(*1)

【大学のアウトプット】

【提供する大学の比率】

【2. 2010・11年度の実績】

【パートナー別の収入】

  • パートナーからの総収入33億200万ポンド(約4,290億円)のうち、大企業からの収入が前年比7%増の6億2,900万ポンド(約820億円)となった一方、中小企業からの収入は横ばいであった。また公的およびチャリティー機関を含む第3セクター(*2)やソーシャル・エンタープライズ等の非営利団体からの収入は5%増加して12億2,100万ポンド(約1,590億円)となった。

【共同研究】

  • 共同研究収入は前年比16%増加し、総額8憶7,200万ポンド(1,130億円)となった。その内、公的機関との共同研究収入が一番大きく、前年比10%増の6億6,300万ポンド(860億円)であり、伸び率が一番大きかったのは、民間企業との共同研究収入で、42%増の2億800万ポンド(270億円)であった。

【契約研究】

  • 契約研究収入は前年比7%増加し、約10億ポンド(1,300億円)となった。この増加の最大要因は公的機関からの契約研究収入の8%増であり、大企業から収入は5%増、中小企業からの収入は3%増であった。

【コンサルタント業務】

  • コンサルタント業務収入は、前年比2%増の3億7,000万ポンド(480億円)となった。この増加は、主に前年度比7%増の大企業からの収入による。

【施設・設備貸出】

  • 施設・設備貸出収入は前年度比12%増の1億2,900万ポンド(170億円)となった。その内、大企業からの収入は前年度比22%増の4,000万ポンド(50億円)、中小企業からの収入は前年度比10%増の4,000万ポンド(50億円)であった。

【継続専門教育・継続教育】

  • 継続専門教育(CDP)およびその他の継続教育からの収入は、前年度比5%増の6億600万ポンド(790億円)であった。個人からの収入は13%増えた。2003・04年度以来、継続専門教育収入はインフレ調整後にて72%も増加している。
  • 大企業からの継続専門教育収入は前年度比10%増であった一方、中小企業からの収入は前年度比3%減の2,800万ポンド(36億円)となった。
  • 継続専門教育の収入源別では、公的機関や第3セクターからの44%を筆頭に、個人32%、大企業19%、中小企業5%と続く。

【地域再生プログラム】

  • 地域再生への助成プログラムからの収入は、前年度比5%減の2億300万ポンド(260億円)であった。これには、イングランド地方各地にあった地域開発エージェンシー(RDA)制度が廃止となったことが大きく影響している。

【知的所有権関連】

  • 2003・04年度と比較した場合、知的所有権関連(知的所有権に基づき設立した企業の株式売却益を含む)収入は、インフレ調整後で52%増加している。2009・10年度では、スピンオフ企業の株式売却益は2,600万ポンド(34億円)に上ったが、2010・11年度は800万ポンド(10億円)となった。この減少の一因としては、機関投資家が投資環境の改善まで投資を手控えたことが考えられる。
  • ライセンス収入(スピンオフ企業の株式売却益を除く)は、前年度比6%増の6,100万ポンド(80億円)であった。
  • 特許保護に関連する費用は前年度比7%増加し、3,100万ポンド(40億円)となった。(2009・10年度も前年比6%増)。これには、特許費用や特許弁護士費用が含まれる。
  • 開示特許数は前年度比8%増加し、特許申請数は前年度比12%伸びた。新規特許認可数は前年度比8%の減少であったが、特許関係のデータは申請から認可までのタイムラグがあるため、長期的観点でみる必要がある。
  • 英国の高等教育機関が所有する特許の累計は、前年比10%増の16,345件となった。
  • 大学が所有するスピンオフ企業に限ると、スピンオフ企業の年間総売上額は前年比19%増の9億1,800万ポンド(1,200億円)、外部からの投資額は前年比33%増の7億8,300万ポンド(1,020億円)となった。
  • 知的所有権に基づかないスタート・アップ企業の設立件数は前年度に比べ増加した。大学スタッフによる起業件数は前年度比約30%増の87件、大学の新卒者または最近卒業した者の起業件数は前年度約20%増の2,848件となった。
  • 設立後3年以上経過した、大学スタッフによるスタート・アップ企業数は前年度比27%増え、新卒又は最近卒業した者のスタート・アップ企業数は前年度比33%増加した。

【社会・コミュニティー・文化活動】

  • 前年度比38%増の140万人の一般市民が大学による無料の公開レクチャーを聴講した。有料のレクチャーへの参加者も前年度比21%の16万3,000人となった。
  • 170万人以上が有料の音楽、映画、演劇等のパフォーマンス・イベントに訪れ、約65万人が無料のパフォーマンスに参加した。また、約800万人が展覧会を訪れている。

【2010・11年度:米国と英国の大学の商業化活動の比較】

(金額単位:100万ポンド)
(金額単位:100万ポンド)

【3. 筆者コメント】

  • 産学・社会連携活動による総収入4,290億円のうち、契約研究収入が1,670億円(39%)、共同研究収入が約1,130億円(26%)と、この二つの活動による収入が全体の65%と約3分の2を占めており、大学の大きな収入源となっている。この中にはもちろん、リサーチ・カウンシル等の公的機関からの研究助成金も含まれており、公的分野からの収入は大きな割合を占めている。
  • 2009・10年度の統計によると、契約研究収入と共同研究収入の合計は、高等教育機関の全収入の約16%を占めており、英国とEUからのフルタイム学生からの授業料収入と同規模の収入をもたらしている。これらの研究収入は、景気動向に左右されずに、2003・04年度以降ほぼ毎年増加している。
  • 継続専門教育(CDP)やその他の継続教育からの収入は790億円もあり、多くの公的機関、個人及び企業が、仕事に有益な専門的知識の授業や自己啓発目的に大学での継続教育を受けている。大学を身近に感じており、大学の持つ知見を活用しようという意欲がみられるような気がする。大学も企業の要望に応えて、各企業のニーズに合わせた授業を開発しており、大学によっては、企業に出向いて講義を実施するなど積極的な活動を行っている。
  • 社会との連携活動の一環として大学が実施する無料の公開講義を、140万名もの一般市民が聴講し、有料の講義にも16万名を超える参加者があったことは注目されよう。また、170万人以上が大学による有料の音楽、映画、演劇等のパフォーマンス・イベントに訪れ、約65万人が無料のパフォーマンスに参加していることも、英国の大学が教育、研究の他に社会や地域コミュニティーとの連携を重視していることの表れであり、一般市民も又大学に対してある種の親しみを感じているのであろう。

注釈)
*1. 1ポンドを130円にて換算
*2. 英国の「第3セクター」とは、公共サービスを提供するチャリティー機関やNPO等を意味する。

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