レポート - 英国大学事情 -

2012年5月号「水利用、廃棄物、移動から生じる間接的炭素排出への対応」

掲載日:2012年5月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

【1. はじめに 】

   2012年1月、イングランド 高等教育助成会議(HEFCE)は、大学における間接的な炭素排出量を測定するためのグッド・プラクティス・ガイドとして、「Measuring Scope 3 Carbon Emissions-Water and Waste」と「Measuring Scope 3 Carbon emissions-Transport」の2冊のガイドブックを発表した。このScope 3の範疇の活動による水と廃棄物排出の測定ガイドブックは約50ページ、移動(travel)に関するガイドブックは約70ページあり、それぞれ測定方法、分類および定義等が詳細に記載されているが、当月報ではこれらの2冊のガイドブックの中から、大学における取り組み事例を中心に紹介する。
   すでに英国の多くの大学では、グリーン・ハウス・ガス排出削減への幅広い取り組みを実施している。今回、HEFCEからScope3の排出量の測定方法ガイダンスが出たことによって、各大学は所有またはコントロールしていないリソース(水利用、廃棄物、移動等)からの間接的なグリーン・ハウス・ガスの排出についても、HEFCEのガイダンスに基づき測定し、2012・13年度から測定結果を高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency)が実施している「Estate Management Statistics」に報告することになった。

【グリーン・ハウス・ガス・プロトコル(GHG Protocol(*1))】

Scope 1
(直接的排出)
大学が所有又はコントロールするリソースからの大気への直接的排出。所有又はコントロールする車、敷地内のボイラー、CHP発電および施設にて発生した化学品等からの直接的な排出
Scope 2
(エネルギーからの間接的排出)
大学が利用するが、大学が所有又はコントロールしていない、外部組織にて発電された電力や、生成された熱または蒸気等からの間接的な排出
Scope 3
(その他の間接的排出)
大学活動の結果ではあるが、大学が所有又はコントロールしていないリソースからのScope2以外の排出。購入した材料や燃料の生産、外注先企業が提供する車、廃棄物処理、スタッフの出張等に関わる間接的な排出

(グリーン・ハウス・ガスは、二酸化炭素、メタンガス、亜酸化窒素等を含む)

   2008年に制定された英国の「気候変動法」は、2050年における英国のグリーン・ハウス・ガス排出量を1990年比で最低80%削減すると共に、2020年までに排出量を34%削減することを最低限度の中間目標としている。高等教育分野は、公的分野によるグリーン・ハウス・ガス排出の大きな部分を占めているため、排出削減に対する主導的役割を担うことが期待されている。

 

【2. 水の利用と廃棄物から生じる間接的炭素排出へのガイダンス】

2-1) 水の利用から生じる炭素の排出への対応

   水の利用による炭素の排出は、水の供給や排水処理プロセスに使用されるエネルギーに関連し、現在、英国の上下水道事業は年間500万トンの二酸化炭素相当量(Mt CO2e)を排出している。

【デモンフォート大学の事例:水利用の自動メーター読み取り】

   2008年より、デモンフォート大学(De Montfort University)ではガス、電気、水の使用量を表すメーター(Automatic Meter Reading:AMR)システムを設置して、30分ごとに水とエネルギーの消費量をモニターしている。
   AMRシステムの導入によって、水やエネルギーのモニターや測定という本来の目的以外に、同システムに設置されている警報装置によって水漏れを即座に発見でき、建物への大規模な損害を未然に防ぐことができた、という副産物もあった。
   同システムは削減目標に対する水やエネルギーの使用量をモニターすると共に、各建物の炭素排出量を自動的に測定できるという利点もある。
   水の消費量は建物の利用状況を表す指標ともなるため、エネルギー消費量のほかに水の消費量を測定できるAMRシステムは、電気やガスの浪費を見出す目的にも利用できる。

2-2) 廃棄物から生じる炭素の排出への対応

   2008年の英国の廃棄物総重量は、2億8,860万トンと推定される。政府報告書によると、廃棄物の総量は徐々に減少する傾向にある。最も廃棄物の排出が多い産業は、建設業と建物の取り壊し業である。英国の廃棄物の45%が回収されている一方、48%がごみ廃棄場に投棄されている。
   2009年における英国の都市ごみの総量は3,250万トンであり、その49%がごみ処理場に投棄され、残りの約50%がリサイクルやエネルギーの再利用によって、何らかの価値が回収されている。しかしながら、2009年の人口一人当たりの都市ごみは526Kgであり、EU平均値の512Kgに比べてまだ高い水準にある。
   近年、高等教育機関における廃棄物管理の重要性が増している。これには廃棄物管理に関する全般的な法規制の強化のほかに、高等教育分野のパフォーマンスを測定するベンチマークに廃棄物管理の情報が義務付けられた影響もある。
   高等教育機関における社会的責任と持続可能性への取り組みの管理、測定、改善及びその促進のために、Learning in Future Environments(LIFE)という、高等教育機関のための包括的なパフォーマンス改善システムも立ち上げられている。

【レスター大学の事例:廃棄物の監査と契約】

   2010年、レスター大学は企業に委託している廃棄物管理の契約更新に際して、近隣のラフバラ大学と共同で、どのような入札制度が適切かを検討した。その結果、廃棄物の管理情報とリサイクリングの可能性が、費用と同様に重要であるとの認識を深めた。
   同大学から半径約50Km以内の廃棄物管理企業が入札に参加した。入札は廃棄物の種類によって8つのロットに分割され、質の高い廃棄物管理データを得るために、ロットごとに廃棄物の重量に基づく支払い方式とした。
   この入札方法への変更によって、レスター大学はロットごとに契約した複数の廃棄物管理企業から廃棄物の種類ごとの管理データを入手できるようになった。このほか、同大学では年3回の廃棄物管理の内部監査を実施して、汚染や廃棄物の組成の詳細をチェックしている。
   年3回の廃棄物管理監査のうち2回は、主に学生のボランティア人員によって実施されている。学内のボランティア学生による環境チームと関連学部との連携によって、過去3年間にわたり詳細な情報を収集することができた。また2011年には、学内の清掃スタッフのみで構成される監査チームを結成し、各人が清掃していた建物を自分で監査するという実験的な試みも行った。
   このような各種の取り組みに関わった多くのレスター大学の学生やスタッフは、リサイクリングの特性と重要性のほか、リソースの効率的利用への理解を深めることができた。廃棄物の排出に関する管理情報も、経費削減、廃棄物排出削減およびリサイクリング戦略の優先順位づけへの手段を提供すると同時に、戦略的決定への強固なエビデンスの提供手段ともなっている。

 

【3. 移動から生じる間接的な炭素排出へのガイダンス 】

   通勤、通学や出張等の移動(travel)から生じる炭素の排出は、以下のタイプに大別される。

  • ビジネス・トラベル

    移動手段の車等を組織が所有し、それを業務上の移動に利用した場合の炭素排出はScope1の範疇に入るが、飛行機やレンタカー等、組織の所有物ではない場合はScope3に入る。

  • リース車

    大学が100%所有する資産として貸借対照表に計上されているリース車からの炭素排出はSccope1の範疇に入り、資産として計上されていない場合はScope3となる。

  • 通勤・通学

    通勤/通学による炭素排出のほとんどはScope3に入る。ただし、大学がリースした車で、貸借対照表に載っている車による通勤はScope 1 となる。

【ノッティンガム大学の事例:持続可能な調達】

   ノッティンガム大学では、キャンパス内に「持続可能性イニシアティブ」活動を展開しており、スタッフ・学生用に乗り降り自由な無料のホッパー・バスの運行、自転車の貸出やメインテナンス、自転車置き場、自転車専用道路、カー・シェアリングおよび地元の交通機関が運行するバスの割引券の提供等を実施している。このほか、スタッフの通勤車には、二酸化炭素の排出量に基づく駐車料金を課している。
   出張は大学全体のトラベル・フット・プリントに大きな影響を与えるため、同大学は出張と経費の政策や手続きを改定し、出張に伴う各種予約と費用清算手続きに要する人的プロセスを大幅に削減することができた。
   現在では、全スタッフの出張精算手続はすべてオンライン化されており、各種の予約手続きの77%(英国平均は40%)もオンラインにて行われている。オンライン予約システムによって、スタッフは出張ごとにその二酸化炭素排出のインパクトを見ることになり、出張経費と出張による環境へのインパクト情報を見た上で、出張形態を決めることができるようになった。

【リーズ・メトロポリタン大学の事例:出張から生じる炭素排出への管理】

   リーズ・メトロポリタン大学では、すべてのスタッフの鉄道や航空機による出張予約手続きとチケットの購入を、公募を通じて1社の旅行管理会社に集中的に委託した際に、同社から提出される経営情報報告書の中に、同大学の出張から生じる毎月の炭素の排出状況が盛り込まれることを契約の一条件としている。旅行管理会社が使用する炭素排出量の計算方法も外部機関の監査を経ているため、同大学は出張から生じる炭素排出量のデータの正確さに自信を持っている。
   現在、同大学では車のリース契約の中にも炭素の排出量の報告を条件に入れるための交渉をしている。また、同大学ではScope3の炭素排出量をできるだけ正確に管理するための「Scope3運営グループ」を設置した。これらによって、同大学では問題の大きさと対処の優先順位づけができるようになっている。
   2009・10年度の同大学の出張に関連して生じた炭素排出量は1,320トン、スタッフや学生の通勤・通学による排出量は5,879トン、物品やサービスの調達による排出量は18,300トンであった。出張から生じる炭素排出量に関しては、航空機利用による排出が85%と圧倒的に最大部分を占め、車の用の場合は11%、鉄道の場合は4%であった。

【ケンブリッジ大学の事例:スタッフの通勤形態調査】

   ケンブリッジ大学は、毎年10月に1週間かけて、非営利団体であるCambridgeshire Travel for Work Partnershipを通じてスタッフの通勤形態の調査を実施している。調査は全スタッフが対象であり、2010年度の回答率は約16%であった。
   この調査結果を分析することによって、回答者の通勤によって生じる炭素の排出量を推計することができる。調査結果は、同大学の駐車場面積に関するデータと比較したクロス・チェックもされた上で、全スタッフをベースにスケール・アップされた全体像を把握している。

 

【4. 筆者コメント 】

   英国の大学には、Scope 1およびScope2の範疇に入る炭素の直接的排出およびエネルギー利用からの間接的排出に関する報告が義務付けられている。大学の中には、Scope 3に入るエネルギー利用以外の間接的炭素の排出も測定して大学運営に反映させているところもあるが、2012・13年度からは全大学にScope3による炭素の排出量の報告が義務付けられることになった。
   これに先立ち、HEFCEではScope 3に関する炭素排出の測定方法を統一するために、今回の詳細なガイドブックの発行に至った。HEFCEでは2013年末までに、高等教育全体のScope3の炭素排出量の目標値を設定する計画である。
   これらのHEFCEのガイダンスの中にはSCOPE 3の範疇に入る炭素排出量の測定方法等が詳細に記載されているため、特に興味をお持ちの大学の環境管理関係者の方には原文を参照されることをお勧めしたい。
   レスター大学が実施する年3回の廃棄物管理監査のうち2回は、主にボランティア学生が実施することによって学生の環境意識の向上に役立てていることや、ノッティンガム大学のスタッフは出張ごとにその二酸化炭素排出のインパクトをオンライン予約システム上で見た上で出張形態を決めることができるなど、各大学にて工夫が凝らされている。また、リーズ・メトロポリタン大学では出張予約手続きを1社の旅行管理会社に集中的に委託する際に、同大学の出張から生じる毎月の炭素排出状況の報告も契約に盛り込んでいることにも感心させられた。
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