レポート - 英国大学事情 -

2012年3月号「経済成長の原動力としての高等教育 <英国大学協会報告書:「Driving Economic Growth: Higher Education-a core strategic asset to the U.K.」より>」

掲載日:2012年3月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

2011年12月、英国大学協会(Universities UK)は、英国の高等教育機関が国の経済成長を活性化させる重要な役割を担っていることをアピールするために、豊富なビュジュアル・データを使用した報告書、「Driving Economic Growthを公表した。

今月号では、この英国大学協会報告書の中から、特に興味深いと思われる点を抜粋して紹介する。この報告書には、多くのデータがグラフや図を使ってわかりやすく解説されているため、興味がおありの方は原文を参照されることをお勧めしたい。(当月報では、紙面の関係などから原文のグラフなどを表に置き換えたりして、編集し直している)

 

【1. サマリー】

【国際競争力】

  • 海外の競争国は高等教育に多大な投資をしている。例えば中国は、2020年までに米国と英国を合わせた数より多い大卒者を生み出すことを計画している。
  • 現在、大卒者が50%以上を占めるマネージャーやシニア・オフィシャル、専門職、準専門職や技術職という3つの職種グループは、2017年までに英国で生まれる新たな職の80%近くになると予測されている。
  • 2009年において英国の全成人の37%が高等教育修了資格を持っており、1997年の23%に比較して大幅に増加している。しかしながら海外諸国と比較した場合、全人口における技能水準(OECD第10位)と若年層人口における大卒率(OECD第6位)に関してはあまり振るわない。
  • 研究開発に関する論文引用回数については、英国は世界水準に比べて生産性が3.5倍以上高く、米国、ドイツ、日本や中国よりも高い。この水準を維持するには、継続的な投資が必要である。

 

【イノベーション】

  • 海英国経済の再編と将来の成長の多くの部分は、イノベーションを基にした産業にかかっている。これらのイノベーション型産業は大卒者の持つ技能を必要としており、例えば、クリエーティブ産業における大卒者の比率は、英国の労働市場の平均値の2倍近くなっている。
  • 2000年から2005年において、イノベーションに活発な企業は全産業の6%しかなかったが、その間における雇用増の54%を生み出している。

 

【経済への貢献事例】

  • 大学は就労者の技能の向上や再教育に重要な役割を果たしている。2009-10年度においては、約130万人の成人学生が高等教育機関にて学んでおり、成人学生の割合は英国永住学生の64%にも上る。
  • 英国には多くの留学生が学んでいるが、海外の多くの大学が世界中から優秀な留学生を獲得することに熱心になってきているため、英国のシェアは危機に直面している。英国は米国に次いで世界で2番目に人気のある留学先であるが、2000年には10.8%あったシェアが2009年には9.9%と減少している。そのため、世界で最も優秀な留学生を英国に引き寄せ続けられるような、政府の政策が重要となる。
  • 英国の大学の国際活動は、英国に多大な輸出収入をもたらしている。2009年度には、大学は英国経済に79億ポンド(約9,900億円(*1))の輸出収入をもたらし、その額は2025年には少なくとも169億ポンド(約2兆1,000億円)に達すると予測されている。

 

 

【2. 国際競争力】

2-1) 生産性

【総研究開発支出のGDP比】

米国 ドイツ 日本 英国 中国
3.2% 2.8% 2.7% 1.8% 1.7%

 

【高等教育機関における総研究開発支出の比率】

(2010年)

米国 ドイツ 日本 英国 中国
26.5% 17.6% 13.4% 12.3% 7.7%

 

【総人口と人口1,000人当たりの研究者数】

(2010年)

  中国 米国 日本 ドイツ 英国
総人口 13億5,000万 3億1,000万 1億2,700万 8.300万 6,200万
千人当たりの研究者数 0.9人 4.7人 5.2人 3.8人 4.1人

 

【論文出版数】

(2010年)

米国 中国 英国 ドイツ 日本
465,000 331,000 124,000 118,000 112,000

 

【世界における論文引用比率】

(2010年)

米国 英国 ドイツ 中国 日本
41.4% 10.9% 9.3% 7.6% 6.6%

 

【総研究開発支出に対する世界論文引用比率の相対的インデックス】

(2010年)

英国 ドイツ 米国 日本 中国
3.65 1.62 1.18 0.75 0.57

 

 

2-2) 高度技能経済に向けた国際競争

【25歳-64歳人口のうち高等教育終了資格保持者の比率】

(2009年)

ロシア 日本 米国 英国 フランス ドイツ イタリー 中国
54.0% 43.8% 41.2% 36.9% 28.9% 26.4% 14.5% 4.6%

 

【25歳-34歳人口のうち高等教育終了資格保持者の比率】

(2009年)

韓国 カナダ 日本 ノルウェー 英国 豪州 フランス 米国
63.1% 56.1% 55.7% 46.8% 44.9% 44.8% 43.2% 41.1%
(原文から8カ国のみを抜粋した)

 

【予想される年間の高等教育修了者数】

  2010年 2015年予想 2020年予想
中国 380万人 680万人 1,050万人
米国 260万 320万 380万
EU 290万 310万 340万

 

【成長している職種の伸び率予測 2007年-2017年】

マネージャー、上級職 専門技能職 準専門技能職、技術職 個人的サービス職
46% 81% 54% 20%

 

 

【3. イノベーション】

3-1) イノベーションと経済成長

【知識ベース経済への英国の転換:1970年-2007年】

(Gross Valued Addedベース)

  製造業 その他のサービス 知識ベースのサービス
1970年 34% 28% 24%
2007年 12% 28% 48%

 

【2002年-2005年における雇用の創生】

企業の様態 企業数の比率 新規に生まれた雇用の比率
イノベーションに富んだ高成長企業 6% 54%
イノベーションに積極的でない企業 94% 46%

 

3-2) 成長分野

【クリエーティブ産業における大卒者の比率】

(2010年)

地上波TV局 68% コーポレート・プロダクション 77%
ケーブル・サテライトTV局 72% その他のコンテンツ制作 63%
民間TV番組制作 72% アーカイブ・図書館 74%
ラジオ放送 71% 文化遺産 65%
ラジオ・ポストプロダクション 70% デザイン 65%
アニメーション 92% 文学 78%
コンピューター・ゲーム制作 80% ビジュアル・アーツ 79%
インタラクティブ・メディア 88% 英国経済の全体平均 37%

 

【クリエーティブ産業の英国経済への貢献】

事業分野 年間平均成長率(1997-2007年) 就労人口(2010年)
ソフトウェア、電子出版 12% 753,000人
音楽、ビジュアル・アーツ、演劇等 4% 305,800人
広告・宣伝 8% 299,200人
出版 5% 236,600人
デザイン 6% 225,400人
TV、ラジオ 8% 132,300人
建築・設計 6% 128,400人
クリエーティブ産業の全就労人口 4%
全産業の年間平均成長率 2,278,500人

 

3-3) 研究からイノベーションへ

【英国の大学から生まれた主なイノベーション:1953年-2006年】

1953年 DNAの発見 1976年 人体へのMRIスキャンの成功
1954 光ファイバーの発見 1978 体外受精による最初の試験管ベビー
1960 ペースメーカーの開発 1985 遺伝子指紋法の開発
1960s 道路標識の考案 1993 針なし注射器の開発
1961 人工股関節全置換手術 1997 成獣の細胞からの最初のクローン羊
1963 コンピュータ管理の列車運行計画 1998 ガソリンを使わない小型車の原型
1968 合成ホルモンによる経口避妊薬 2001 ウェールズ語の歴史の辞典
1970s 胚性幹細胞の発見 2006 警察官携行用の電子ノートブック
1972 ねじれネマティック液晶(TN液晶)    

 

【英国の大学の研究を基にした将来のイノベーションの例】

アルツハイマー病の探知と治療の改良 人体器官の遠隔モニタリング
置換用の人体臓器の培養 塩の代替物としての海藻
自然災害のモデル化 慢性的痛みの理解と新規鎮痛薬の開発
燃料源としての藻類の利用 自給自足可能な水中又は水上の定住地
不可視マント(invisible cloak)  

 

 

【4. 大学との関係】

4-1) 生涯学習

【英国永住の成人学生数】

学士課程 大学院課程(授業中心) 大学院課程(研究中心) その他の学士課程卒向けコース 合計
570,635人 315,810人 57,235人 391,875人 1,335,555人
筆者注: 成人学生(mature student)とは、通常、英国の学士課程では21歳以上の学生、大学院では25歳以上の学生を指す。約133万人の成人学生は、英国に永住している学生の64%に相当するとともに、パートタイム学生の94%を占める。

 

【年齢別・成人学生の比率】

(2009・10年度)

フル・パート別 21-24歳 25-29歳 30-34歳 35-39歳 40-44歳 45歳以上
フルタイム学生 31% 10% 4% 3% 2% 2%
パートタイム学生 13% 17% 15% 14% 13% 24%

 

【仕事に関連した教育・訓練コースを提供する高等教育機関数】

(2009・10年度)

仕事に関連した継続学習 119校
キャンパス外にての一般市民向けコース 128校
ビジネス向けの遠隔学習 130校
企業のために特別に開発して、企業に出向いて行う授業 138校
企業のために特別に開発して、キャンパス内で行う授業 148校

 

4-2) 産学連携

【大学との連携をしている中小企業の地域別比率】

スコットランド 84% 北東イングランド 80%
ウェールズ 86% 南東イングランド 70%
北アイルランド 80% 英国平均 74%

 

4-3) 世界市場における英国の高等教育

【留学先トップ10】

(2009年)

米国 18.0% カナダ 5.2%
英国 9.9% ロシア 3.7%
オーストラリア 7.0% 日本 3.6%
ドイツ 7.0% スペイン 2.3%
フランス 6.8% ニュージーランド 1.9%

 

【世界の留学生の増加傾向】

(2009年)

2020年予想 700万人 1990年 130万人
2009年実績 370万人 1985年 110万人
2005年 300万人 1980年 100万人
2000年 210万人 1975年 80万人
1995年 170万人    

 

【留学生の比率が高い国:トップ10】

(2009年)

オーストラリア 21.5% フランス 11.5%
英国 15.3% ドイツ 10.5%
オーストリア 15.1% ベルギー 9.2%
スイス 14.9% チェコ 7.3%
ニュージーランド 14.6% アイルランド 7.1%
(日本は3.1%で16位)

 

4-4) 輸出産業としての高等教育

【大学による英国経済への輸出収入】

2009年実績 2010年実績 2015年予測 2020年予測 2025年予測
£78億7,400万
(9,800億円)
£82億4,500万
(1兆300億円)
£104億1,300万
(1兆3,000億円)
£132億2,200万
(1兆7,000億円)
£168億9,500万
(2兆1,000億円)
この「輸出収入」の内訳のトップ5は以下の項目である。
  • 留学生の生活費等、キャンパス外での支出(大学による輸出収入の半分以上を占める)
  • 留学生からの授業料収入
  • 英国外にて英国の高等教育を学んでいる学生からの収入
  • 海外からの研究助成金や契約研究収入
  • 海外からのコンサルティング収入

 

 

【3. 筆者コメント】
  • この英国大学協会資料は、同協会による「Higher education in focus」という出版シリーズの一環であり、英国の高等教育分野の貢献度を一般市民にもわかりやすくグラフやイラストを利用してPRしているところに特徴がある。運営費交付金の大幅削減を受けて、英国大学協会としてもこのような一般社会の理解を得るための広報活動がより重要になってきている。
  • 英国の中小企業(従業員250人以下)の約4分の3が、契約研究、共同研究、コンサルティング委託など、何らかの形で大学と連携活動をしており、多くの中小企業が大学の持つ知見をうまく活用していることがうかがえる。
  • 世界の留学生の数が2009年の370万人から2020年には700万人と、今後10年間でほぼ倍増するという予測しており、学生の世界的なモビリティーが今後ますます活発化することがうかがえる。これに伴い、各国による留学生の獲得競争が激しくなっていくのであろう。

 

注釈)

  • 1ポンドを125円で換算
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