レポート - 英国大学事情 -

2011年10月号「共同情報システム委員会JISC」

掲載日:2011年10月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

2011年2月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は、共同情報システム委員会(Joint Information Systems Committee : JISC)に対するレビュー報告書「Review of the Joint Information Systems Committee を発表した。今月号では、このレビュー報告書とJISCウェブサイト の中からJISCの活動に焦点を当てて、その役割を紹介する。

 

【1. 使命と戦略的目標】

【使命】

  • JISCはHEFCEなどの公的助成機関への助言委員会として、1993年に設置された。その使命は、教育、研究および高等教育機関の有効性を支援するための情報通信技術(ICT)の革新的利用へのワールド・クラスのリーダーシップを提供することにある。
  • JISCは全国の高等・継続教育機関に対して、ICTを利用した以下のような活動を提供している。
    • ワールド・クラスのネットワークである「JANET」
    • エレクトロニック・リソースへのアクセス
    • 学習、授業および研究のための新たな環境
    • 制度改革に関するガイダンス
    • 地域ごとの支援(地域支援センター)

 

【戦略的目標】

  • 費用効果が高く、持続可能な全国的な共有サービスとリソースの提供
  • 組織およびビジネス・システムの効率性と有効性の改善支援
  • 学習や授業の質および学生の大学での経験を改善するための支援
  • 研究の質、インパクトおよび生産性改善のための支援
  • JISCの活動はICTを基盤とするとともに、高等教育機関が個別または共同で達成できる範囲を超えた、全国的な利益と付加価値を提供することを目的とする。またJISCの活動範囲は、助成機関や高等教育機関からの需要や期待の高まりと新たな技術的機会への対応のために、飛躍的に拡大してきている。

 

 

【2. 組織】
  • 1902年、ガンの研究と治療のために、内科医や外科医によって英国初のガン専門の研究チャリティー機関、The Cancer Research Fundが設立された。1904年には、Imperial Cancer Research Fundと改名された。
  • 1909年までには、4人の研究者、6人のボランティアの科学者、14人のテクニシャンのいる研究所をロンドン中心部に持つに至った。1938年には、研究所の規模の拡大に伴い、ロンドン北部のMill Hill地区に移転した。その後、研究所はロンドン中心部の王立外科学校に隣接した建物に移ったが、1963年は、新たにロンドン以外にもいくつかの研究所を開設した。
  • 1920年代、何人かの医師や研究者のグループは、ガンの基礎研究より臨床研究に力を注ぐべきだとして、新たな研究チャリティー機関であるBritish Empire Cancer Campaignを設立し、後にThe Cancer Research Campaignと改称された。
  • 2002年、Imperial Cancer Research FundとThe Cancer Research Campaignは合併して、「Cancer Research UK」となった。現在では、ロンドン、ケンブリッジ、マンチェスター、グラスゴー、オックスフォードに5つの専属研究所を持つ。また、大学や主要病院などにも広範囲な研究助成を行なうとともに、主要都市の大学、NHSトラスト、キャンサー・ネットワークおよびその他チャリティー機関とのバーチャル・パートナーシップである「Centres of Excellence」を展開している。

 

 

【3. プロジェクト、プログラム、サービスへの支援】
  • JISCは現在、152件のプロジェクト21件のプログラムへの助成と運営を実施しているほか、高等・継続教育機関のニーズへの助言やリソースを提供する41の各種サービスを支援している。

【サービスの提供機関】

JISCが支援するサービスは、主に以下の機関を通じて高等・継続教育機関に提供されている。(最初の4組織は法人組織)
  • JANET(UK)
    JANET(UK)は、英国の教育・研究ネットワークであるJoint Academic Network(JANET)の運営
  • JISC Collections
    オンライン・リソースの出版元やデジタル・コンテンツの所有者との交渉
  • JISC Advance
    情報、助言やガイダンスの提供および7つのサービスと13の地域支援センターの統括
  • British Universities Film and Video Council
    高等教育、継続教育および研究において、映画の製作、研究および利用や関連メディアの利用を促進する団体。
  • Mimas
    マンチェスター大学内に設置されている全国的データ・センター
  • EDINA
    エディンバラ大学内に設置されている全国的データ・センター

 

【4. 予算】

【2010・11年度予算】

支出項目 金額(単位:100万ポンド)
インフラおよびリソース 60(約78億円)
組織への支援 16(約21億円)
運営費 6(約6億円)
学習・授業 4(約5億円)
研究への支援 4(約5億円)
合計 90(約117億円)
  • 上記予算への主要助成元は、HEFCE(約45%)と高等教育を担当するビジネス・イノベーション・技能省(約28%)であり、その他は地方の高等教育助成会議やリサーチ・カウンシルなどが続く。

 

【2010/11年度予算配分】

活動 支出の割合(%)
JANET 43.5%
地域支援センター 8.5%
その他のコンテンツ・サービス 8.2%
JISC Advance 5.1%
JISC Collection 4.7%
サービス合計 70%
インフラ・データ管理 11%
学習・授業 4.3%
企業・コミュニティー参画 4.1%
研究への支援 3.1%
イノベーション関連合計 22.5%
運営費 7.5%
総合計 100.0%

 

【5. JANET(Joint Academic Network)】
  • JANET(Joint Academic Network)の予算はJISCの全予算の半分弱を占め、最大の活動分野である。JANETは、英国の教育・研究のニーズへの対応に特化したネットワークであり、英国の教育機関と研究機関を相互に結びつけるとともに、グローバル・インターネットへのリンクを通じて海外機関とも連動している。その他、JANETには、ネットワークの開発実験のための、コミュニティーに利用可能な別途のネットワークも含まれている。
  • JANETネットワークは、英国の大学、継続教育コレッジ、リサーチ・カウンシル、専門コレッジおよび成人・コミュニティー学習機関などを結び付けているほか、初等・中等教育を担当する教育省による「全国学校ネットワーク」を促進するための地域ブロードバンド・コンソーシアム間のコネクションも提供している。現在では、1,800万人以上のエンド・ユーザーが、JANETネットワークによってつながっていることになる。
  • JANETの活動は、個人や機関が教育、学習および研究における伝統的手法の境界を乗り越えられるように支援する役割も担っている。例えば、JANETのビデオ・コンファレンスやビデオ・ストリーミング機能は、遠隔地の学生への授業を可能にしている。また研究者は、JANETの高容量基幹回線を利用して、国内および海外での大容量データの保管や高性能コンピューター施設へのリンクができるようになっている。
  • JANETの本部はオックスフォードシャー州のディドコットにあり、総勢140人近いスタッフが、ネットワーク・オペレーションズ、戦略技術、調達、マーケティング、運営支援などの業務に従事している。

 

 

【6. 高等・継続教育機関のニーズ】
  • 今回の「レビュー報告書」を作成したJISCレビュー・グループは、高等教育および継続教育機関とのコンサルテーションを通じて、以下のようなICTを利用した、現在と将来のニーズを把握した。

【基盤的・全体的ニーズ】

  • 強固で安全かつ高性能のネットワーク・インフラ
  • アイデンティティーとアクセスの管理
  • クラウド・コンピューティング
  • 学生や外部ユーザーからの高まる期待への対応
  • 費用効果を改善するための、共有サービス(shared service)や高等・継続教育分野全体で共同調達活動
  • ベスト・プラクティスの共有
  • Higher Education Academyとの連携を通じた、教職員への訓練、教育および支援
  • 職員や学生のデジタル読解力(digital literacy)の改善

 

【学習と授業】

  • 柔軟かつ多様な、学生に焦点を当てた提供
  • バーチャル・ラーニング環境および統合されたeラーニング・ツールとサービス
  • オープン・コンテンツを含むリソースへのアクセス
  • 全体的に質の高いコンテンツ
  • コラボレーションとコミュニケーションのためのツール
  • 社会的学習(social learning)への対応および個人の電子機器を利用した教育機関のシステムやリソースへのアクセスへの支援
  • 安全な評価システム

 

【研究】

  • 学際的または国際的活動を含む共同研究を推進するための高帯域ネットワーク
  • 国境を越えたデジタル・コンテンツにアクセスするための技術的および法的枠組み
  • リポジトリーとデジタル・キューレーションのサービス
  • 非常に大きなデータ・セットの保存、共有および分析のための設備
  • 効果的な検索とデリバリーのためのツール
  • 研究情報の管理
  • 容易に使用できるデスクトップ型ビデオ・コンファレンス設備

 

【企業と地域コミュニティーの関与の促進】

  • カスタマー・リレーションシップの管理
  • 柔軟なネットワーク・アクセス・ポリシー
  • 企業とアカデミックスを引き合わせるための教育機関のポータル

 

【管理と運営】

  • 1回のサイン・インで、関連する複数のシステムにアクセスできる安全なシステム(single sign-in systems)
  • 入学手続き、履修登録、タイムテーブルおよび成績管理のような多くの運営プロセスを支援する、教育機関全体としてのセルフサービス・システム
  • 「ブラウン・レビュー」と継続教育制度改革を受けた、学生情報システムの改善
  • 異なるシステムの統合
  • 柔軟なコーポレート・マネージメント・インフォメーション・システム
  • 高価でない、拡張可能な学生の記録システム
  • 記録情報管理

 

 

【7. 国際的評価と活動】

  • JISCは、高等・継続教育機関におけるワールド・クラスのICTのリーダーシップを提供する、数少ないワールド・クラスの組織の一つとして国際的にも認識されている。高等教育や研究に対して革新的なICTを駆使した全国的支援を実施しているのは、欧州や南北アメリカを含む西半球では、現在のところオランダのSURF FoundationとJISCの2機関だけであろう。
  • JISCとオランダのSURFは同様な戦略の下に、共同プロジェクトの実施やEUにおける高度な政策課題に影響を与えるための共同活動を実施している。また、JISCはデンマークのDEFF(Denmark's Electronic Research Library)やドイツのDFG(German Research Foundation)との連携活動も行っている。
  • 米国では高等・継続教育機関のための同様な全国的システムは存在しないが、JISCは非営利のメンバーシップ団体であるEDUCAUSEを含む多くのパートナーとも連携関係を持っている。

 

【8. 筆者コメント】

  • 高等教育や研究に対して革新的なICTを駆使した全国的支援を実施しているのは、西半球ではオランダと英国だけとのことで、英国が高等教育をはじめとした教育・研究のために、ICTを全国的に最大限に活用しようとの意欲が感じられる。そのために毎年90億円近い予算の投入とJANETの約140人のスタッフ数からも、力に入れようが分かる。
  • JANETネットワークは、英国の大学、継続教育コレッジ、リサーチ・カウンシル、スペシャリスト・コレッジ、成人・コミュニティー学習機関の間のコネクションのほかに、初等・中等教育の「全国学校ネットワーク」のための地域ブロードバンド・コンソーシアム間のコネクションも提供しており、総勢1,800万人以上のエンド・ユーザーが当ネットワークによってつながっていることは注目される。
  • またJISCの活動の一部として、オンライン・リソースの出版元やデジタル・コンテンツの所有者との交渉を担当する法人組織や、高等・継続教育および研究への映画や関連メディアの利用を促進する団体が存在するのも興味深い。
  • 英国の大学は長年にわたり、地域ごとに大学がまとまり、物品やサービスの共同購入コンソーシアムを組んで調達の効率化を追及してきた。ICTネットワーク分野においても、業務の共有サービス化、共同調達活動およびベスト・プラクティスの共有化が進んでいることがうかがえる。
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