レポート

英国大学事情—2011年3月号「国際高等教育統計データ -英国高等教育インターナショナル・ユニット作成資料から-」

2011.03.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

【1. はじめに】

 2007年、英国の大学長の団体である英国大学協会(Universities UK)内に、英国高等教育インターナショナル・ユニット(The UK Higher Education International Unit) が設置された。当インターナショナル・ユニットは、高等教育の国際化に関するタイムリーな情報と分析に対する英国高等教育界の高まる要望に応える目的で設立された。当センターは、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)、Guild HEおよび英国大学協会の資金助成を受け、3人の専門スタッフによって運営されている。

【インターナショナル・ユニットの主要活動】

  • 高等教育界における国際的な展開や情報をタイムリーに収集し、海外動向や英国への影響を予測する研究や分析を通じて、収集した情報の付加価値を高める。
  • これらの結果を英国の大学が自由に利用できるようにするとともに、国際化関連情報を共有するための会合や討議の場を提供する。
  • 英国の国際高等教育活動に従事する広範囲の組織間の連携を支援し、海外における英国の高等教育機関の評価を高める。

 2010年8月、英国高等教育インターナショナル・ユニットは「International Higher Education in Facts and Figures」と題する、国際高等教育の統計データ集を公表した。今月号では、最近の国際高等教育の動向を知るために、この統計データの中から一部資料を抜粋・編集して紹介する。

【2. 学生】

【英国における外国籍留学生数・トップ20国】

(2008・09年度)
(2008・09年度)

【国別・学生のモビリティー】

(出典:UNESCO Statistics, Data Centre)
(出典:UNESCO Statistics, Data Centre)
  • 「外国への留学率」は、各国における全学生数に対する海外に留学中の学生比率。
  • 「海外からの留学生率」は、各国における全学生数に対する海外からの留学生比率。

【留学生市場におけるシェアの推移・2000年と2007年の比較】

(出典:OECD、Education at a glance 2009, table C2.7.)
(出典:OECD、Education at a glance 2009, table C2.7.)

【英国の大学による海外教育活動】

(出典:HESA 2010, Students studying wholly overseas)
(出典:HESA 2010, Students studying wholly overseas)

【3. スタッフ】

【英国の大学スタッフ】

(2008・09年度)
(2008・09年度)

【4. 高等教育向け支出】

【国別・高等教育への公的・民間支出の比率】

(2006年度)(出典:OECD 2009, Education at Glance 2009, table B3.2b)
(2006年度)
(出典:OECD 2009, Education at Glance 2009, table B3.2b)

【5. 国際共同研究】

【国際共同研究件数と研究パートナー】

(2001年-2005年)(出典:Universities UK 2008, International research collaboration opportunities for the UK higher education sector)
(2001年-2005年)
(出典:Universities UK 2008, International research collaboration opportunities for the UK higher education sector)

筆者注:紙面の関係上、「その他の国々」の欄は省略した。

【6. 英国の国際高等教育に関する補足情報】

  • 2008年における英国の知識サービス産業の年商は1,180 億ポンド(15兆9,300億円*1)とGDPの6.3%に達しており、人口一人当たりの「ブレイン・パワー」の売り上げとしては世界トップである。(出典:The Work Foundation 2010)
  • 英国の人口は世界の1%ではあるが、世界の科学研究の5%を担うとともに、世界で最も引用される論文の14%を産み出している。(出典:Universities UK 2010 )
  • 英国の高等教育機関は英国経済に年間590億ポンド(7兆9,650億円)の貢献をしている。また、英国の主要輸出産業の一つであると同時に、英国で最も成長率の高い輸出産業でもあり、2009年には53億ポンド(7,155億円)の輸出収入をもたらした。(出典:Universities UK 2009)
  • 2008・09年度における英国の大学への留学生数は、EU諸国以外から248,000人、EU諸国から121,000人、合計369,000人に達した。(出典:HESA2010)
  • インドからの留学生数は2008・09年度に34,000人、前年比31.5%増と、最も高い増加率を示し、EU諸国以外からの全留学生の14%を占めた。(出典:HESA 2010)
  • 2007年には、世界中で280万人以上の学生が海外に留学しており、これは2006年度比123,400人、4.6%の増加である。主要11カ国がこれらの留学生の71%のホスト国となっており、その筆頭は米国で全留学生の21.3%を受け入れている。(出典:UNESCO 2009)
  • 2007年の英国において、研究を主体とする大学院生のほぼ半数(42%)は留学生であり、これらの研究主体大学院生のホスト国としての英国の世界シェアは15%となった。(出典:UK HE International Unit 2008)
  • 2008・09年度には、英国外で388,000人の学生が英国の大学資格を得るための勉学に励んでいる。このうち、83%の学生はEU域外の受講者である。(出典:HESA 2010)
  • 2009年において、全世界で162の海外ブランチ・キャンパスが設置されており、2006年に比べ43%の増加となった。その半分以上は米国の高等教育機関の海外ブランチ・キャンパスであり、11%がオーストラリア、10%が英国と続く。海外ブランチ・キャンパスのホスト国は過去3年間で、36カ国から51カ国に増加した。例えば、インドの高等教育機関は11の海外ブランチ・キャンパスを持っており、1カ所を除いてすべてアラブ首長国連邦(UAE)内に設置されている。アラブ首長国連邦は、海外ブランチ・キャンパス設置国として最も人気の高い国となっている。(出典:Observatory on Borderless Higher Education 2009)

【7. 筆者コメント】

 英国の大学に在籍している日本人留学生の数は、英国の大学への国別留学生数のトップ20にも入っていない。また、日本から海外への留学率も1.35%、海外からの留学生の比率も3.12%と低く、学生の海外へのモビリティーが低いことが、前述のデータからもわかる。

 英国の学生も留学率が1.02%と非常に低く、内向き志向であることがうかがえる。筆者はかって、英国の大学関係者から 「英仏の大学間の学生交換留学制度があるが、圧倒的にフランスからの留学生数が多く、交換留学は事実上ほぼ一方通行になっている」と聞かされたことがある。しかしながら英国では、上記のデータにもあるように、海外からの留学生の比率が約15%もあり、日本の3%強とは比べ物にならないほど国際化が進んでいる。

 日本の学習環境や研究環境が改善され、海外で学ぶ必要性が以前ほど無くなったためか、または学生の内向き志向が本当に強まっているせいか、定かではないが、若いうちに一定期間を異文化の海外で過ごし、マイノリティーとしての挫折感やある意味での差別を経験しながら、世の中には多様な価値観があるのだということを、身をもって体験することが、国際化を進める原動力ともなり、また日本が必要とする国際社会で活躍できるタフな人間を育てることにもつながることになろう。

注釈)

  • 1ポンドを135円で換算

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