レポート - 英国大学事情 -

2008年6月号「大学リーグ・テーブルと高等教育へのインパクト」

掲載日:2008年6月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

【1. はじめに 】

2008年4月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は、大学のリーグ・テーブルとそのインパクトに関する報告書、「League tables and their impacts on higher educations in England」を公表した。

当報告書は、現在一般的に利用されている5種類の大学リーグ・テーブルの分析とリーグ・テーブルが如何に大学の意思決定や行動に影響を与えているかを知るために、HEFCEがCentre for Higher Education Research and Information(CHERI)、Open University*1およびHobsons Researchに委託した調査結果である。

この60ページ近い報告書には、多くの興味深い点が指摘されているため、サマリーと表の一部のみを抜粋して紹介する。

 

【2. 大学リーグ・テーブルの分析 】

 

英国内の大学のリーグ・テーブル

Sunday Times University Guide
The Times Good University Guide
The Guardian University Guide

ワールド・ランキング

Academic Rankings of World Universities
(Shanghai Jiao Tong University Institute of Higher Education)
THES-QS World University Rankings

  1. 上記の5種類のリーグ・テーブルは、高等教育分野の全体像を提供するものではない。
    これらのリーグ・テーブルは、フル・タイムの学部学生と、学科別ではなく大学全体にランキングの焦点を合わせたものとなっている。これにより、広範囲の特殊な大学、大学院大学または小規模でパートタイムの学生の多い大学は、ランキングから除外されている。これはリーグ・テーブルのユーザーの利便さを制限することにもなる。


  2. 使用されているいくつかの数値は、大学を正確に表したものとは言いがたい。
    使用されている数値の多くは、明確で一貫したコンセプトによって集計されたというより、利用可能なデータを集計したものとも言える。また、使用されているウェイティング付けも、大学の総合点に関して十分な有効性を持っているとは言いがたい。リーグ・テーブルの発行者によって望まれるとされる大学の質を反映するための測定法の開発に、より一層の努力が必要であろう。


  3. リーグ・テーブルの編集方法の透明性が不十分である。
    得点の計算方法が必ずしも明確であるとは言えず、標準化されていない結果を生み出す恐れもある。リーグ・テーブルの発行者の中には読者に対して、「公表された指標から全体的得点を導き出すことは不可能である。」とのコメントを出しているところもある。


  4. 掲載されるランキングは、主に評判の要素を反映していて、大学の質やパフォーマンスを反映しているとは限らない。
    英国内のリーグ・テーブルでは、大学入学時の学生の成績、大学での学生の成績および大学の公的研究評価(Research Assessment Exercise:RAE)のグレードが他の得点より高く、総合得点に反映されている。

    大学の総合得点は、「全国学生満足度調査:National Student Survey」に基づく指標とは、それほど相関関係がない。このことは、コースと教育プロセスなどの大学の質の諸要素はランキング結果にあまり貢献していないことを示す。

    世界ランキングにおいては、公表または引用された論文数がランキングに大きな影響を与えているように思えるが、全体像はまちまちである。


  5. リーグ・テーブルのフォーマットと内容を最新のものに更新すべきである。
    フォーマットと内容はよりアクセスしやすく、また双方向性にした方が良い。例えば,ユーザーにとって重要な指標を選択できる機能を備え、これらの機能へのウェイティング付けも一案であろう。また、リーグ・テーブルはオンライン・ラーニングなどの最近の展開および社会的責任や環境へのインパクトなど、社会が直面している課題への取り組みを反映することもできるであろう。

 

【3. 大学へのインパクト 】
  1. 大学はリーグ・テーブルによって大きな影響を受けている。
    大学自身は認めたがらないが、リーグ・テーブルと個別の指標は大学の行動と意思決定に大きな影響を与えていると思われる。

    多くの大学は、リーグ・テーブルをパフォーマンスの主要な指標として利用しており、大学の中には戦略目標として位置づけているところもある。また、一部のシニア・マネージメント・チームや理事会は、リーグ・テーブルを内部変革のための梃子(てこ)として利用している。

    大学がリーグ・テーブルに代表されるような公的イメージを重視することは理解できるが、各大学はリーグ・テーブルのパフォーマンスと大学の政策や優先事項の間の軋轢(あつれき)をうまく調整する必要がある。


  2. 大学は、ランキングの編集者およびランキングの測定方法に対して十分な影響力を持っているとは感じていない。
    多くの大学は付加価値へのより大きな得点配分とリーグ・テーブルが単なる評判や研究以上の広範囲な特徴を反映することを望んでいる。リーグ・テーブルの編集方法の不透明さが、多くの大学にとっての懸念事項となっている。


  3. 各大学は、「全国学生満足度調査」結果への対応策を講じている。
    リーグ・テーブルの評価項目に付け加えられて以来、「全国学生満足度調査:National Student Survey」結果の重要性は増しており、当調査結果に基づいた、大学による広範囲の対応策の導入が見受けられる。


  4. リーグ・テーブルは副産物として、より良いデータ収集という結果も生んだ。
    リーグ・テーブルは、多くの大学が自身のデータ収集方法のレビューを行うという結果も生んだ。


  5. 大学スタッフもリーグ・テーブルの影響を受けている。
    リーグ・テーブルと評価方法に対する大学の懐疑心にもかかわらず、ランキングはスタッフのモラルにも影響を与えている。しかしながら、それがアカデミック・スタッフの採用に大きな影響を与えているように思われない。(そうは言っても、特別な事情を除き、アカデミック・スタッフが現在在籍している大学より下のランクの大学に移籍することはあまり考えられないであろう。)


  6. リーグ・テーブルはその他の優先事項と競合することがある。
    リーグ・テーブルのパフォーマンスと大学の政策との間の軋轢は存在する。(例えば、アカデミック・スタンダード、大学進学率の向上、地域社会との連携、社会的に価値のある学問の提供等)。大学はそれらの軋轢を最新の注意を払って解決していかなければならない。


 

【4. リーグ・テーブルのユーザーへのインパクトに対する大学の認識 】
  1. 伝統的に大学入学を希望する学生が、リーグ・テーブルをより良く利用する傾向がある。
    学業成績が良く、中産階級以上の若い大学進学希望者にとってリーグ・テーブルは影響力がある。しかしながら、それは複雑な意思決定プロセスの一部であり、しばしば既に固めた決心を確認するために利用されている。学科や所在地が、依然として意思決定の重要な要素となっていると思われる。

    大学組織としての総合ランキングよりも、学科別のランキングの方が「パフォーマンス」のより良い指標になるであろう。


  2. リーグ・テーブルは国際的にも、学生、アカデミックスおよび政府に影響を与えている。
    海外の留学生は、英国の留学先の選定にリーグ・テーブルをますます利用する傾向にある。外国政府や奨学金支給機関は、留学生の支援や英国内の留学先の決定に、リーグ・テーブルを利用している。

    海外のアカデミックスの中には、英国のどの大学に移籍するかを決定するにあたり、リーグ・テーブルに影響されることもある。

 

【5. 結論 】
  • リーグ・テーブルは、英国内はもとより、国際的にも影響力を増しており、評価方法に関する重大な限界があるにもかかわらず、無視できなくなってきている。
  • リーグ・テーブルは、当初に意図された以上の広範囲の目的のために利用されており、データ自身の持つ意味以上のものになっている。
  • 授業料の上限に関する規制が改定されたり、または撤廃されたりした場合には、リーグ・テーブルの影響力はさらに高まるであろう。また、ランキングのポジションが、学科全般にわたる授業料の値上げに影響を与える可能性もある。
  • 大学の世界ランキングは、国際化によってその影響力が増しており、英国の大学の公的研究評価(RAE)にビブリオメトリクス指標が採用された場合には、その傾向はさらに続くと思われる。
  • リーグ・テーブルの増加しつつある影響力を考慮した場合、政策立案者と大学自身がリーグ・テーブルに対する、国民のより一層の理解とそれに取って代わる大学情報を促進する責任がある。
  • また、リーグ・テーブルの編集者とユーザーの両方にとっての参考資料として、ランキングの編集に関するグッド・プラクティスの体系化への議論もある。海外で編集される世界ランキングの影響力の増大および海外の学生、アカデミックスや政府による世界ランキングの利用を考えると、これは政府間イニシアティブの一環として、国際レベルで行うのがベストであろう。
  • 特に、以下のような「ユーザーの観点」へのさらなる調査から、多くの分野が利益を受けるであろう。:
    • 留学生を含む大学入学希望者によるリーグ・テーブルの利用
    • ソーシャル・ネットワーキング・インターネットサイトやUnistats*2などの、大学に関する新たな情報源の利用
    • 外国政府、奨学金支給機関、雇用者および個人のアカデミックスへのリーグ・テーブルの影響

 

【6. 補足資料 】

【大学の選択にリーグ・テーブルが重要であったと回答した学生の比率】(%)

大学の選択にリーグ・テーブルが重要であったと回答した学生の比率

* 2007年の「UNITE Student Experience Survey」では、1,600名の大学生へのアンケート調査結果が反映されている。

 

【各リーグ・テーブルの主な特色、指標およびウェイティング付け】

主な特色 The Guardian The Times Sunday Times THES-QS World University Ranking SJTU ARWU
発行開始年 1999年 1992年 1998年 2004年 2003年
掲載大学数 120校 113校 123校 201校 510校
指標数 7 8 9 6 6
直近の発行 2007年5月 2007年8月 2007年9月 2007年11月 2007年8月
ウェイティング付け 5-17% 11-17% 4.5-23% 5-40% 10-20%
データ源 HESA(Higher Education Statistics Agency)
HEFCE
HESA
HEFCE
独自調査
HESA
HEFCE
QAA(Quality Assurance Agency)
SFC)(Scottish Funding Council)
HEFCW(Higher Education funding Council for Wales)
独自調査
Scopus
各大学
各国のエージェンシー
ノーベル財団
IMU(International Mathematical Union)
Thomson
ISI
各大学
各国のエージェンシー
           
指標およびウェイティング付け The Guardian The Times Sunday Times THES-QS World University Ranking SJTU ARWU
学生満足度調査(NSS) 15% 17% 16% - -
TQA/学科レビュー - - 7% - -
高等学校長へのアンケート調査 - - 4.5% - -
入学時の成績(Entry Standards) 17% 11% 23% - -
授業や施設への支出(学生1名当たり) 17% 11% - - -
付加価値 17% - - - -
卒業時の成績 - 11% 9% - -
卒業・ドロップアウト率 - 11% ボーナス・ペナルティー点 - -
卒業生の進路 17% 11% - - -
卒業後の就職率 - - 9% - -
研究評価 - 17% 18% - -
学生・スタッフ数比率 17% 11% 9% 20% -
雇用者へのアンケート - - - 10% -
専門家による評価 - - 4.5% 40% -
外国人スタッフ数 - - - 5% -
海外からの留学生数 - - - 5% -
ノーベル賞受賞スタッフ数 - - - - 20%
ノーベル賞受賞卒業生数 - - - - 10%
論文引用数の多い研究者数 - - - - 20%
公表された論文数 - - - - 20%
大学の規模 - - - - 10%
合計 100% 100% 100% 100% 100%

 

 

【7. 筆者コメント 】

当レポートで紹介した、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)の大学リーグ・テーブルに関する調査報告書は、リーグ・テーブルの影響力が公的助成機関の高等教育助成会議も無視できないくらいに増大していることの現れでもある。

しかしながら、リーグ・テーブルの指標やウェイティング付けが、発行元によってまちまちであり、調査報告書では多くの不備が指摘され、また改善案も提案された。

よく利用されている英国内の大学の3つのリーグ・テーブルのうち、最も古いものでも約10年前に開始され、世界ランキングは約5年前から始まったばかりである。これらのリーグ・テーブルは歴史が浅く、まだまだ改良の過程にあると言えよう。

最近、英国のある新聞は、英国全土の大学の学部最終年度生を対象に毎年実施されている「全国学生満足度調査」のランキングを上げるために、某大学の複数の講師が所属する大学の学生に、満足度のスコアを故意に上げるように依頼したと報じた。

これらのスコアに対する故意的操作に対する対策も含めて、その影響力が大きくなっているだけに、リーグ・テーブルの責任はますます重いものになっている。

 

注釈)

  • *1 Open University:通信教育大学。日本の放送大学に類似。
  • *2 Unistats:イングランド高等教育助成会議(HEFCE)が提携機関を通じてウェブで公開している、英国の大学とコレッジの学科に関する比較データ。
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