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高温ガス炉の実用化見通しは

掲載日:2015年11月11日

日本原子力研究開発機構が高温ガス炉の研究開発に着手して46年になる。多目的高温ガス炉として概念設計にとりかかったのは1969年。85年に高温工学試験研究炉(HTTR)として詳細設計が始まり、91年に建設工事に着手、97年に完成した。機器・システムの機能確認など必要な手順を踏んで、2010年に目標のセ氏950度で連続50日の運転も実施済みだ。同年の12月には、重要な試験で期待通りの結果を得ている。炉心で冷却材であるヘリウムの流れが止まっても、自然に炉停止の状態になることを確かめる高温ガス炉ならではの安全性実証試験だ。

ただし、この試験は出力が30%で行われた。100%出力で試験しようとしていた矢先の2011年3月、東日本大震災に見舞われる。予定された開発スケジュールの中断を余儀なくされ、安全性についての再確認が迫られているのは、商用原子炉と同様。他方、福島第一原発事故で、軽水冷却型原子炉の弱点が露呈され、逆に高温ガス炉の安全上優れた特性にあらためて専門家の関心が集まるという環境の変化も生じた。とはいえ、商用原発(軽水炉)の再稼動や、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の取り扱いが大きなニュースになっているのに比べると、依然として一般の人々の関心は薄い。高温ガス炉が実用化される見通しに変化はみられるのだろうか。

高温工学試験研究炉(HTTR)鳥瞰(ちょうかん)図(日本原子力研究開発機構提供)
高温工学試験研究炉(HTTR)鳥瞰(ちょうかん)図(日本原子力研究開発機構提供)

発電だけでない多目的炉が特徴

今年4月28日、高温ガス炉の実用化戦略を策定することを目的とする産学官の協議会が初会合を開いた。研究開発を担ってきた日本原子力研究開発機構をはじめ、文部科学省、経済産業省、さらに民間企業、大学など26の企業・機関が参加した。原子炉や原子燃料のメーカー、卸電気事業者である日本原子力発電は入っているものの、一般電気事業者である電力会社の名は見当たらない。抱える原発(軽水炉)の事故対応や再稼働へ向けての対応で手いっぱいというより、もともと電力会社は高温ガス炉に関心が無いことの現れといえる。

電力会社の代わりに主要な自動車メーカーや製鉄、プラントメーカーなど原子力には関係が薄い企業が加わっているのが、高温ガス炉が今置かれている状況をよく表している。発電だけでなく、水素製造をはじめとする熱利用にも適した原子炉というのが、高温ガス炉の特徴だ。高温ガス炉の研究開発を続けている日本原子力研究開発機構の高温ガス炉水素・熱利用センター(茨城県大洗町)は、どのような状況にあるのだろうか。

「この配管の向こう側からセ氏950度のヘリウムが流れてきて上方の熱交換器に行きます」。高温工学試験研究炉(HTTR)の原子炉容器の真下で、担当者の説明を聞く。冷却材(ヘリウム)が喪失しても炉心溶融や放射性物質放出を心配しなくてよいというのはなぜか。

HTTRの炉心(日本原子力研究開発機構提供)
写真.HTTRの炉心(日本原子力研究開発機構提供)

冷却材喪失でも炉は自然停止に

「黒鉛の熱容量が大きいため、ヘリウムが無くなってもウラン燃料から出る熱をため、さらに外部に放出してくれる」。担当者の口ぶりは、よどみない。高温ガス炉の特徴は、燃料であるウランの核分裂を制御する減速材として黒鉛を使用していること。普通の水(軽水)に冷却材と減速材という二つの役割を負わせている軽水炉では、冷却材が炉心に行かなくなるとどうなるか。福島第一原発事故で、だれもが知るところとなったように、崩壊熱を除去できなくなる状態を招く。しかし、高温ガス炉は軽水炉とは全く異なる特性を持つ。減速材の黒鉛がウラン燃料の出す熱を受け止め、外部に自然に放出してくれるからだ。ヘリウムにも放射化の危険は無い。

では、なぜチェルノブイリ原発であのような大事故が起きてしまったのか。チェルノブイリ原発は高温ガス炉と異なり冷却材は軽水だが、減速材に同じ黒鉛を使っている。「HTTRに使われている高純度の黒鉛と異なり不純物が多い黒鉛が使われていた。さらに最近では、黒鉛が実際に燃えたかどうかについて疑問の声も出ている。HTTRで使っているような高純度の黒鉛は、3,000度、4,000度にならないと溶けない。黒鉛をバーナーで熱しても何事も起こらないことを確かめている」というのがHTTR担当者の説明だ。

安全に関する長所は、ヘリウムを使用していることにもある。希ガスであるためどんな物質とも化学反応しないから、配管を腐食する心配もない。燃料も軽水炉とは大きな違いがある。軽水炉はウランを金属の被覆管で覆っており、放射化しやすいコバルトなどが冷却水の中に溶け出し、燃料が損傷しなくても冷却水は放射能汚染が徐々に進むのが避けられない。高温ガス炉の燃料は、ウランの小さな粒を一つ一つ炭素と炭化ケイ素で四重に覆っている。全体でわずか直径1ミリメートルに満たないこの粒を燃料コンパクトと呼ばれる小さな筒状に焼き固めた形をしており、金属を使っていないからウランの核分裂で放射化するのは炭素だけ。出てくるガンマ線も問題になるほどの量ではない、という。

こうした燃料の形態は、使用済み後の処理、核不拡散の観点からも軽水炉燃料にはない利点をもたらす。「HTTRの燃料として使われている粒の数は9億個にもなる。われわれは国策に沿って軽水炉同様に使用済みの燃料は再処理をするということを想定しているが、再処理しないで使用済み燃料のままで処分する選択も可能だ」と、担当者は言う。燃料の被覆材がセラミックのため腐食する心配もない。キャニスターに使用済み燃料を入れて地下に保管しておくという軽水炉の使用済み燃料などに比べるとはるかに簡単に見える処分法も可能という。福島第一原発事故では、原子炉建屋内の燃料プールに保管されていた使用済み燃料がプール内の水がなくなって溶融することが懸念された。高温ガス炉の燃料は、そうした心配もないということだ。

有害な副生物出さない水素製造も

高温のヘリウムの熱を利用する方法として有力視されている水素製造に関わる開発はどこまで来ているのか。熱で水を水素と酸素に分解しようとすると4,000度というとてつもない高温が必要になる。しかし、高温ガス炉はヘリウムが提供できる温度の約900度で、硫酸(H2SO4)を二酸化硫黄(SO2)、酸素(O2)、水(H2O)に分解することが可能。そこでできた二酸化硫黄(SO2)を、水(H2O)、ヨウ素(I2)と反応させることで、ヨウ化水素(HI)を作り出し、このヨウ化水素(HI)に、ヘリウムが提供する400度の温度を与えると、水素(H2)とヨウ素(I2)が生成される、というわけだ。ヨウ化水素(HI)ができる反応で同時に硫酸(H2SO4)もでき、二酸化硫黄(SO2)を造る原料として繰り返し使用できる。

一方、水素(H2)と共に生成されるヨウ素(I2)もまた、再使用され、硫酸(H2SO4)が分解してできる二酸化硫黄(SO2)、水(H2O)と反応して、再びヨウ化水素(HI)と硫酸(H2SO4)を作る。つまり一連の反応は繰り返されるので、硫酸(H2SO4)とヨウ素(I2)は製造装置内をぐるぐる循環するだけ。水素(H2)と酸素(O2)以外の生成物は製造装置外へ出ないので、温暖化対策で排出削減が求められている二酸化炭素(CO2)の排出もない実に好都合な水素製造システムといえる。

昨年3月に1時間当たり100リットルの製造能力を持ち、金属とセラミックスからなる材料で作り上げた連続水素製造試験装置を完成させ、工程別の機能試験も終えて、これから最終的な水素製造試験に、というのが現段階。うまくいけば今年中には水素製造に結びつけたいというのが、担当者たちの願いだ。ただし、この試験装置は規模が実用レベルに比べて小さく、実用段階に向けては、HTTRと接続し、高温ヘリウムで水素製造を行う実証試験が必要である。また、商用炉システムの設計検討、反応器、熱交換器など基数、物量に基づく経済性評価といったことはこれからの課題として残っている。

写真 連続水素製造試験装置(日本原子力研究開発機構提供)
写真.連続水素製造試験装置(日本原子力研究開発機構提供)

発電用ガスタービンの小型化も

もう一つの熱利用である高効率ガスタービンによる発電システムの方はどこまで進んでいるか。こちらは三菱重工と共同で実用規模の3分の1のヘリウム圧縮機、熱交換器、タービンブレード材などを開発済み。軽水炉のような蒸気タービンと違いヘリウムを使うことで小型化が図られ材料費などの節約も期待できる。3分の1の規模の装置の開発実績があるため,ブレークスルー的な技術は必要ない。7-8年後にはHTTRにつなぎ、実用化も水素製造より早い、と担当者たちは自信を示している。

とはいえ、実用化の道筋はなお不確かさが残る。HTTRそのものの試験運転再開については、福島第一原発事故を機にできた新しい規制基準に適合していることを示す設置変更許可申請書を原子力規制委員会に提出し、許可を待っている段階にある。高温ガス炉はもともと英国で技術開発が始まった。その英国は長年、黒鉛を減速材とし冷却材に炭酸ガス(CO2)を用いるガス炉による発電システムを維持してきたが、軽水炉路線に軌道変更を決めている。米国は次世代原子炉として研究開発の段階で、高温ガス炉に熱心な国は日本と中国くらいだ。

発電用炉としての実用化は中国が先か

日本原子力研究開発機構の担当者によると、中国が高温ガス炉に大きな関心を持っているのは、大量の冷却水を必要とする軽水炉に代わり、内陸部での建設に高温ガス炉が適しているから。中国からはこれまで担当者が何度かHTTRの視察に来たが、最近は来ない。今やライバルになっている、というのが担当者たちの見方だ。中国の原発事情に詳しい渡辺搖(わたなべ はるか)海外電力調査会参事も、発電を目的にする商用炉を最初に造るのは中国とみている。渡辺氏によると、中国は2012年12月に山東省威海市で華能山東石島湾核電有限公司が最初の商用モデルである高温ガス冷却炉に着工している。原子炉出力25万キロワットの炉二つが一つのタービン・発電装置に連結して電気出力21万キロワットの発電を行う計画ということだ。

原子力研究開発機構の担当者によると、HTTRの熱交換は1次、2次系ともヘリウムだが、中国は2次系に水を使っている(1次系はヘリウム、ただし温度はセ氏750度)。ヘリウムより技術的に簡単な水蒸気でタービンを回す方式を選び、まずは発電炉としての実用化を狙っている。水素製造に関しては関心は薄い、とみているが、渡辺氏は「水素製造技術開発で日本と技術交流することを望んでいるようだ」と言っている。

高温ガス炉実用化システム予想図(日本原子力研究開発機構提供)
高温ガス炉実用化システム予想図(日本原子力研究開発機構提供)

エネルギー基本計画、日本再興戦略にも盛り込まれたが

昨年の4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」には、「利用方法次第では高いエネルギー効率、低い環境負荷、非常時対応等の効果が期待される水素は、将来の二次エネルギーの中心的役割を担うことが期待される」と水素社会の実現に向けた取り組みを加速することが盛り込まれている。加えて、「水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発を国際協力の下で推進する」という記述が入っている。

今年の6月に閣議決定された成長戦略「『日本再興戦略』改訂2015」にも、「高温ガス炉など安全性の高度化に資する技術開発の国際協力を進める」ことが、新たに講ずべき具体的施策の一つに挙げられている。

果たして高温ガス炉が、より安全な発電炉であり、水素製造にも適した高温を提供できる炉として、実用化に向けての速度を速められるだろうか。黒鉛を減速材とするガス冷却炉の弱点は、最大出力が軽水炉の4分の1程度であるにもかかわらず炉心が大きいため、発電コストが高いと思われていることだ。原子力研究開発機構の試算では、発電効率が10%以上も高く、安全設備や水・蒸気系の設備が簡素化できることを考慮すると、大型軽水炉と十分に競合できる経済性を有するとされているが…。世界を見渡しても軽水炉が圧倒的に多いのが現実で「経済性で軽水炉に勝る炉はない。高温ガス炉を一つ、二つ造ったところで、軽水炉と競争できる発電炉になるとは考えられない」と言い切る原子力開発に長年携わった経験者もいる。

高温ガス炉の将来は産業界の意向にかかっており、結局はコストが見合うかどうかが鍵となる、ということだろうか。

(小岩井忠道)

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