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『イノベーション』に対する日独米の認識の違い

掲載日:2012年4月9日

一概に「イノベーション(innovation)」と言っても、諸国間に認識の差があるようだ。科学技術政策研究所が日本と米国、ドイツの各国民に調査したところ、ある事例をイノベーションと認識する程度は米国が最も強く、次いでドイツ、日本の順だったという。

調査は昨年2-3月、日本と米国、ドイツの在住者に対して、OECD(経済協力開発機構)のイノベーション測定のためのガイドライン「オスロ・マニュアル」の分類を参考に作った25個の事例を示し、それが自分の考えるイノベーションであるかどうかを回答してもらった。

具体的には「イノベーションと思う」には+3、「どちらかと言えばイノベーションと思う」は+1、「どちらかと言えばイノベーションと思わない」は-1、「イノベーションと思わない」は-3の点数を付けて回答を集計し、「イノベーション認識指数」を算出した。回答者は日本人が1129人、米国人が960人、ドイツ人が921人。

*「オスロ・マニュアル」の分類では次の4種類のイノベーションが示されている。プロダクト・イノベーション(新製品や新サービスなど)、プロセス・イノベーション(新しい製造・生産方法や配送・オペレーション方法など)、マーケティング・イノベーション(新しい販売・プロモーション・価格設定方法など)、組織イノベーション(新しい業務方法や組織形態など)。

その結果、

  1. 3カ国が共通でイノベーションとして認識した(認識指数が正の)事例は、
    〈プロダクト・イノベーション〉

    • 世界で初めてカメラフィルムの技術を液晶ディスプレイの保護フィルムに使った。(米+1.8、独+1.5、日+1.2 )
    • ネット上で音楽配信サービスに接続できる携帯型音楽プレーヤーが初めて登場した。(米+1.6、日+1.0、独+0.9)
    • 家庭用大型冷蔵庫の最新機種の年間消費電力量をさらに5%少なくした。(米+1.1、独+1.0、日+0.5)

    〈プロセス・イノベーション〉

    • お客様相談窓口の電話対応に自動音声案内を導入したところ、相談者の待ち時間が半分になった。(独+1.1、米+0.9、日+0.1)
    • 自動車メーカーが複数の車種で用いることができるように部品を共通化した。(独+1.1、米+0.9、日+0.1)
    • 大量生産している製品の最終検査機器を改良したところ、不良品の発見率が5%上昇した。(米+0.6、独+0.6、日+0.2)
    • 全トラックの配送ルートを見直して、燃料コストを5%削減した。(米+0.6、独+0.5、日+0.1)

    〈組織イノベーション〉

    • 社内だけで行っていた研究活動を大学とも行うことにした。(独+0.4、日+0.2、米+0.1)
  2. 3カ国が共通してイノベーションとして認識しなかった(認識指数が負の)事例は、
    〈プロダクト・イノベーション〉

    • 動画共有サイトが流行する中、ある会社が同様の動画共有サービスを始めた。(米-0.7、日-0.9、独-1.1)
    • デジタルカメラの売り上げが伸びる中、新規参入メーカーがデジタルカメラを発売した。(日-0.8、米-1.0、独-1.3)
    • 有名美術館が閉館時間を18時から18時半に延ばした。(日-1.4、独-1.5、米-1.6)

    〈マーケティング・イノベーション〉

    • ある携帯電話メーカーが、消費者の嗜好の変化に合わせ、携帯電話のカラーバリエーションを増やした。(米-0.4、独-0.6、日-0.8)
    • ある食料品店がポイントカードを導入した。(米-0.3、独-0.8、日-0.8)
    • 他社のネット販売の売り上げが好調であることから、あるメーカーもネット販売を始めた。(米-0.4、独-0.8、日-1.1)
    • 長く続く自社のCMに初めて有名人を起用した。(独-1.2、米-1.3、日-1.4)
  3. 3カ国の認識が一致しなかった(認識指数が正負まちまちだった)事例は、
    〈プロダクト・イノベーション〉

    • あるメーカーの標準的なデスクトップPCのハードディスクが250GBから500GBになった。(米+0.6、独-0.1、日-0.3)
    • ある銀行のネットバンクが、自銀行への振込み手数料だけが無料だったのを、他銀行への振込み手数料も無料化した。(独+0.2、日+0.03、米-0.1)

    〈プロセス・イノベーション〉

    • 同業他社でGPSが普及する中、あるタクシー会社もGPSを導入して、配車に必要な位置情報を自動的に把握できるようにした。(米+1.2、日+0.3、独-0.5)
    • あるファストフード店で店員の作業手順が改善され、注文から商品を受け取るまでの時間が1分短くなった。(米+0.3、日-0.1、独-0.1)

    〈組織イノベーション〉

    • ある企業が、これまでの部門別対応では難しい業務が増えたので、部門間横断のプロジェクトチームを結成した。(独+0.2、米+0.1、日-0.1)
    • ある企業が、中国企業との取り引きが増えたので中国語研修を始めた。(米+0.1、独+0.1、日-0.8)

このほかの結果は、

  • ある事例をイノベーションと認識する程度は、全体的な傾向として米国で最も強く、次いでドイツ、日本の順になった。
  • 各国とも、ある事例をイノベーションと認識する傾向は、男性よりも女性が強く、中高年(40-59歳)より若い層(20-39歳)が強く、フルタイムワーカー(契約・派遣社員含む)よりその他の職種(自営業やパート、専業主婦など)で強い傾向がみられた。これらの傾向がみられた事例数は日本で最も多く、米国は最も少なかった。
  • イノベーションと思う基準としては、3カ国とも「技術・アイディアの先進性」を最も重要視し、その度合いは日本が強かった。「登場時のインパクト」は日本、ドイツよりも米国で重視され、「現時点での新規性」と「社会的な重要度」は米国よりも日本、ドイツで重視された。

調査のきっかけは、OECDのオスロ・マニュアルに基づき、各国でイノベーション調査が行われ、各国間比較も調査されているが、イノベーションの定義が抽象的で、回答者の認識の違い、さらには国民性の違いが結果に影響しているのではないか、という懸念からだ。同研究所の今回の調査は3カ国が対象だが、ご覧の通り、やはり結果はばらつき、各国間での「イノベーション」に対する認識の違いが表れた。

日本では「第4期科学技術基本計画(2012-16年度)」が昨年8月に閣議決定され、「科学技術イノベーション」を重要政策に打ち出した。従来の推進役である「総合科学技術会議」は「科学技術イノベーション戦略本部(仮称)」に改組され、国を挙げてより戦略的に推進していくことになっている。5年後にもイノベーションの認識調査を行ったら、今度は各国間でどんな結果が出るのだろうか。

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