レビュー

効果ある政府の研究投資とは

2009.06.25

 科学技術政策研究所が、科学技術基本計画をフォローアップした調査研究報告書「政府投資が生み出した成果」を公表した(2009年6月23日ニュース「社会還元意識した研究6割」参照)

 この中にiPS(人工多能性幹)細胞研究など政府の支援が功を奏した代表的な成果「政府投資が支えた近年の科学技術成果事例集」として、12の例が挙げられている。

 これら12例については、どのような種類の支援が効果的だったか、がそれぞれ当該研究機関からの回答を基に付記されている。さらに全体の傾向として、一つの政策だけで成果が実現できた事例は存在せず、複数の政府支援の相乗効果が大きいことを強調している。中でも有効な支援策とされているのが、「研究開発への資金投資」と「最先端の連携拠点の形成・活用・維持」だ。

 この指摘自体に異論はないと感じる人は多いと思うが、ではその他の支援策の効果はどうだったのか。報告書を読んでみて気になる点がある。「人材の育成・確保・創造」と「社会制度の策定・整備(法規制、社会基盤)」を有効な政府支援策として挙げている成功事例が少ないことだ。

 「この支援がなければ成果は達成しなかった」として「人材の育成・確保・創造」を挙げた成功事例は、12のうち「次世代画像表示技術(有機EL)」のみ。残りは「脳科学の展開」と「動脈硬化予防・治療法(高脂血症治療薬)」がそれぞれ「この支援がなければ成果の達成が遅れたであろう」というものに「人材の育成・確保・創造」を挙げているだけだ。

 資金や研究拠点整備といった支援に比べ、人材の育成は一朝一夕にいかない。そう言ってしまえばそれまでだろうが、人材の育成と確保は第3期科学技術基本計画の大きな柱ではなかっただろうか。

 効果があったとされる例が少ないもう一つの支援策「社会制度の策定・整備(法規制、社会基盤)」についても、イノベーションという観点から気になる。

 「基礎研究の成果、開発研究の成果、発明、技術革新などだけでは『イノベーション』とは言わない」

 「研究者が論文を書いて喜ぶだけでなく、その先の新たなコンセプトを出すように科学技術政策を変え、それに加えて社会システムの変更や国民全体の意識の変更、あるいは市場構造の変更へと政策誘導していくのが本当の意味でのイノベーション政策」

 こうした声が、早くからイノベーションの必要を唱える指導的な人々から出ている。科学技術政策研究所が成功事例とした12の成果のうちで、こうした高い目標を掲げる人々を満足させるようなものは果たしてどれほどあるのだろうか。

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