レビュー

「あたご」衝突事故はコリジョン・コースの認識不足?

2008.04.28

 2月19日に東京湾で起きた海上自衛隊のイージス艦「あたご」とマグロ延縄漁船「清徳丸」の衝突事故は、コリジョン・コースに対する認識が欠けていたために起きた可能性があると指摘する記事が、雑誌「科学」5月号に掲載されている。

 筆者は、神経・筋肉生理学が専門の酒田英夫・東京聖栄大学教授。酒田 氏は「イージス艦衝突事故の“盲点”」と題し、まず、「広い畑の中で直行する交差点に向かって同じスピードで近づいて走る2台の車の一方から相手の車を見ると、常に正面に対し45度の方向に見えるので止まっているように見える」(コリジョン・コース)というだれでも経験しうる事実があることを指摘している。

 このコリジョン・コースは、2台の車がたまたま同じ速度で走っている場合に限らず、速度が異なっている場合でも、それぞれ他方の車が常に同じ方向に見え、そのまま交差点で衝突してしまうケースがあることも図を併用して説明している。

 次に動いている物体を認識するのに大脳皮質の視覚的運動知覚の中枢で発見された奥行運動感受性ニューロンが働いていること。ただし、この奥行運動感受性ニューロンは数メートル以内の近距離では、左右の網膜像のずれ(両眼視差)の変化に反応するが、少し離れたところになると奥行運動を知覚する手がかりが、大きさの変化だけになることを明らかにしている。

 酒田 氏は、1988年7月に起きた海上自衛隊の潜水艦「なだしお」と釣り漁船「第一富士丸」衝突事故の原因が、コリジョン・コースであると周知されていれば今回の事故も防げたに違いない、と指摘し、両船がコリジョン・コースに乗っていたという試算結果を明らかにしている。これまで得られたデータによって割り出した位置から、「あたご」が327度(ほぼ北北西)の方向に10.4ノットの速度、「清徳丸」が213度(ほぼ南南西)の方向に15ノットの速度で近づき、事故が起きたとされる時刻に両船が衝突した、と推定できるという。

 「あたご」と「清徳丸」衝突事故の原因については、現在、横浜地方海難審判理事所で調査中。「なだしお」と「第一富士丸」の衝突事故については、1990年8月10日の高等海難審判庁裁決で、「なだしおの動静監視が十分でなく衝突を避ける措置をとらなかった」ことと、「第一富士丸の動静判断が適切でなく衝突を避ける措置をとらなかったばかりか、著しく接近してから左転した」ことが原因とされている。

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