レビュー

ゲーム市場もイノベーションの本物争い?

2007.05.07

 「プレイステーション(PS)3」が、「Wii(ウィー)」に売れ行きで後塵を拝しているのはなぜか? 東京新聞6日朝刊の特報面が、「常勝ソニー『PS3』苦戦のワケ—高性能でもソフト不足」と題し、出遅れの理由を分析している。

 ソニー・コンピュータエンタテインメントの「PS3」と任天堂の「Wii」。この2つのゲーム機は昨年末、相次いで発売された。いずれも「発売日には行列ができた」。しかし「ゲーム情報誌大手エンターブレインの調べでは、4月22日現在、国内の推定販売台数はWiiの約2,166,000台に対し、PS3は約868,000台と、約2.5倍の差がついている」。

 東京新聞の記事は、PS3出遅れの理由として、見出しにあるように、高性能であるためにソフトの開発に時間がかかり、「真打ソフトがそろう前に発売された」ことを指摘している。

 さらに、岡三証券シニアアナリスト、森田正司氏の次のような興味深い分析を紹介していた。「ゲームに対するイメージが随分変わった。PS2は発売当時、相当オシャレだったが、今はWiiやDSのように女性や子供が手軽に遊べるものがオシャレになってしまった」

 ただし、年末年始まで両者の勝負は決着がつかない、というのが記事の結論である。PS3がゲーム機を超えた高性能機であるから、ということらしい。

 東京新聞の記事にはあまり触れられていないWii側から見た今回の攻防について、東京工業大学同窓会誌「蔵前ジャーナル」1000号記念特別号に興味深い記事が載っている。

 今年1月、同大学で行われた岩田聡・任天堂社長(1982年東京工業大学情報工学科卒業)の講演をもとに、技術ジャーナリスト、西村吉雄氏が、Wii成功の秘密に迫った記事だ。

 岩田社長は、講演の演題を「ゲーム業界におけるイノベーションのジレンマからの脱却」としていた。「イノベーションのジレンマ」というのは、ゲームにおいては「ゲームの熟練者である優良顧客の言うことを聞くうちに、やがて大部分の客にとっては性能過剰となり、彼らは市場から離れ始める」ことを指す。最新技術を駆使して豪華でリアルな表現を追求することが、初心者をはじめとする多くの客を失ってしまうことになるということだ。

 このジレンマから脱却するために、任天堂が選択したのが「ゲーム人口の拡大」という基本戦略だったという。「5歳から95歳までが対象」「ゲーム経験の有無を問わない」「誰もが同じスタートラインに立てる」「家族の誰にも敵視されない」「お母さんに嫌われない」というのがキーワードだった。「豪華にリアルに」とは方向がまるで違う。

 こうして携帯型ゲーム機「ニンテンドー−DS」が、2004年12月に発売され「脳を鍛える大人のDSトレーニング」などにより、「老若男女が入り混じってゲーム市場の拡大が始まった」。この結果、「2006年には市場は4割増え、携帯ゲーム市場が据え置き市場を上まわ」り、岩田社長によると「日本のゲーム市場は『脱ゲーム離れ』を始めた」。それが、据え置き型である2006年11月のWii発売につながる。

 「従来機の延長線上にはないゲーム機、それがDSでありWii。だからDSやWiiは破壊的イノベーションの例」。「蔵前ジャーナル」の記事がこのように評価するWiiに対して、ソニー・コンピュータエンタテインメントが、PS3でいかに巻き返しに転じるか。「真のイノベーションとは」という観点からも関心を集めそうだ。

ページトップへ