サイエンスポータル SciencePortal

ニュース - 速報・レビュー(レビュー) -

事実とは

掲載日:2007年2月16日

毎日新聞の15日夕刊「夕刊とっておき」面の記事が面白く、かついろいろ考えさせられる。

タロとジロは生きていた! 1959年南極から届いたニュースが、日本中を感動させた。さらにその20数年後、映画「南極物語」(蔵原惟繕監督)で、再び多くの人々のこころをとらえた出来事について、当時、現場にいた地球惑星学者の北村泰一氏(九州大学名誉教授)が、意外な「事実」を明らかにしている。

「主役の隊員が、何か気配を感じる。そして、雪の地平線に目をやると、小さな黒い点が現れる。脇の1人が「タロジロです」と叫び、隊員はそれまでの思いを吐き出すかのようにウオーと叫び声を上げる-。…壮大な大陸をイメージさせるバンゲリスの曲が流れ、タロジロが走り出す」

映画のクライマックス場面を、記事はこのように紹介している。

さらに、映画公開と同じ年、1983年発行のドキュメンタリー本「タロ・ジロは生きていた」(藤原一生著、教育出版センター)では、次のように描かれているという。

「2頭のカラフト犬が背をまるめて氷原をかけてきたのだ。…大塚隊員は思わず自分の目をうたがった。…「犬だ、犬が生きていたぞ!」。犬と、人間が速力をもって接近した。大塚隊員は、犬にだきつくと、黒々とした毛に顔を埋めた」

さて、犬を置き去りにした第一次越冬隊で犬の係を勤め、第3次隊員として、タロ、ジロに再会した北村泰一氏によって明らかにされた「事実」を、記事は次のように書いている。

「昭和基地に到着すると、黒い2頭の犬は基地の周りで遠巻きに人を見ていた。『…いざとなれば逃げられるくらいの距離、4、5メートルくらいまで近づいたが、こっちに来ようともしなかった』。北村さんは片っ端から犬の名を呼んだ。…最後に試しに「タロか」と呼ぶとしっぽがかすかに揺れた。「じゃあこっちはジロだろう」と思い、「ジロ」と呼ぶと、ペタリと座り、前からの癖、右前脚を上げる仕草をした。…」

「タロジロとの再会の瞬間が北村さんの頭から今も離れない。2頭は雪の上、ほえもせず、しっぽも振らず身動き一つせず、ただ、北村さんを見つめていた」

映画、ドキュメント本に描かれた“再現シーン”と、当事者である北村氏によって明らかにされた「事実」とを比べて、読者はどう感じただろうか。

2頭の犬が生き残って隊員たちと再会した。こうした感動的な事実の前には、途中の細かな過程などどうでもよい。そう考える人もいるだろう。また、観客の受けを優先したつくりものの“再現シーン”より、北村氏の明かした「事実」の細部にこそ感動した、という人もいるのではないだろうか。

テレビのねつ造番組が大きな問題になっている。ねつ造番組の根絶はむずかしいかもしれない。「事実」の価値を大事にする人と、必ずしもそうではない人が世の中にいる以上。

毎日新聞の記事から、そんなことを考えた人はいないだろうか。(毎日新聞の引用は東京版から)

ページトップへ