レビュー

複雑化する臓器移植の現実

2006.10.26

 宇和島市で起きた生体腎移植をめぐる臓器売買事件は、移植を受けた男性と、腎臓の提供を依頼した内縁の妻を、検察が臓器移植法違反(臓器売買等の禁止)罪で起訴するに至った。

 約束の謝礼の一部を受け取ったとされる腎臓提供者の女性も、同罪で略式起訴されている。

 今後、裁判の過程でも、諸々の事実が明らかにされるだろうが、生体腎移植が抱える問題は、やはり根が深い、と思わせる記事が目を引いた。

 読売新聞24日朝刊国際面の「比スラム街臓器売買横行」という遠藤富美子記者によるマニラ発の記事である。

 「9月に血縁関係のないフィリピン人に腎臓を提供、8万ペソ(1ペソ=約2.3円)を得てテレビ購入と住宅修理などに使った」港湾労働者の話が、紹介されている。

 「家にはテレビがなく、娘2人は隣家のテレビを毎日のぞき見するのが楽しみだった。隣家はある日、扉を閉め切った」のが、ドナーになる決意を固めた理由という。

 貧困に苦しむ人々が世界中にどれだけいるかを考えると、心臓などと異なり、2個ある腎臓の売買を根絶することが、簡単にできるとは思えない。

 それにしても、今回は日本でのできごとだ。なぜ、このようなことが起きたのか?

 地元、愛媛新聞は、この問題で連載特集「善意の値段 宇和島・臓器売買事件」を組んだが、23日付の2回目で、執刀医である宇和島徳洲会病院の万波誠医師のもとには「県内だけでなく全国から腎移植を望む患者が集まる。外来診療からドナー(臓器提供者)の決定、手術に至る一連の流れを同医師がほとんど一人で取り仕切ってきたという。院長さえも口出しできない『聖域』の中で犯罪は見逃された」と伝えている

 同紙は、5日付でも、宇和島徳洲会病院が開院した2004年4月を機に、愛媛県内の腎移植の実態が激変したことを報じている。

 愛媛県内の腎移植は、「四国の腎移植のパイオニアである」市立宇和島病院が、「2000-03年度は、25-36件を手掛けてきた。しかし04年度からは激減。04年度3件、05年度6件にとどまっている」。

 「対照的に、宇和島徳洲会は04年度29件、05年度34件。06年度も含めると開院から2年半で82件の実績」という。理由は「市立宇和島の泌尿器科部長を長年務めた万波誠医師(65)が宇和島徳洲会に開院と同時に移ったのが要因と複数の関係者はみる」。

 医師の責任を抜きに、生体腎移植売買事件の再発防止は議論できないということだろう。(読売新聞の引用は東京版、愛媛新聞の引用は愛媛新聞ONLINE特集ページから)。

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