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巨大津波でも巻貝の遺伝的多様性失われず 東北大などが大震災前後データを解析調査

掲載日:2017年3月14日

東北地方太平洋沖地震の巨大津波により宮城県・仙台湾周辺の海岸に生息する巻貝は大多数が死滅したものの種が存続する上で重要な「遺伝的多様性」は維持されていたことが、東北大学、高知大学などの共同研究グループの調査で明らかになった。東北大学などが13日発表した。巨大津波が海岸生物の個体数や遺伝的多様性に及ぼした影響を津波の前後のデータを分析して詳しく解明した研究は世界でも例がないという。

共同研究グループは、東北大学大学院生命科学研究科の占部城太郎(うらべ じょうたろう)教授、高知大学農林海洋科学部の三浦収(みうら おさむ)准教授、国立環境研究所の金谷弦(かなや げん)主任研究員のほか、日本大学生物資源科学部、東京大学大気海洋研究所、東北大学東北アジア研究センターの研究者らも参加した。

2011年3月11日の巨大津波は岩手、宮城、福島3県沿岸部の生物にも大きな被害をもたらしたが、生物の遺伝的多様性を調べた研究結果はこれまで明らかにされていなかった。

生物多様性には生物種、生態系、遺伝的のそれぞれ3つの多様性があり、遺伝的多様性は同一種の中の多様性で、種がどれだけ豊富な遺伝子の「型」を保有しているのかを表す指標。人間にも多くの人種があり、同一人種でもひとりひとり個性が異なるが、生物はすべての種が集団や個体ごとに遺伝的に異なる遺伝的多様性を持っている。生物多様性の研究者によると、ある種の個体数が減少しても遺伝的多様性が維持されれば存続する可能性が高まり、遺伝的多様性も減少すると環境変化に対応する力も低下して絶滅しやすくなるという。

共同研究グループは大震災前の2004年から仙台湾周辺の6つの干潟(ひがた)に生息する巻貝ホソウミニナの個体数(生息密度)や遺伝的多様性などを調べていたが、2011年3月以降は巨大津波によりこの巻貝の遺伝的多様性も減少したかどうかに焦点を当てながら調査を継続した。具体的な方法はこの巻貝の細胞核のDNAに散在する「単純反復配列(マイクロサテライトDNA)」の解析。マイクロサテライトDNAはDNAの中にあり、短い塩基配列が繰り返し現れる領域のことで、ここを解析することで遺伝的多様性の変化が分かるという。

共同研究グループは、6つの干潟の巻貝ホソウミニナを対象に個体数と遺伝的多様性について2015年までの変化を解析した。その結果、個体数は巨大津波により激減し、その後13年からは稚貝も現れて多少は増えたが巨大津波前より少ない状態が続いていた。一方遺伝的多様性は干潟によっては増えているところもあり6干潟全体を見ると維持されていることが明らかになったという。

今回の研究結果について共同研究グループは「仙台湾沿岸には約500~800年の周期で繰り返し大津波が打ち寄せてきたことが地質学的研究により明らかになっている。巻貝のホソウミニナという種が100万年存続してきたと仮定すると、今回のような大津波を1,000回以上も乗り越えてきたことになる。個体数が減少しても遺伝的多様性は簡単には減少しない(ことが今回判明した)。これこそが海岸の生物が津波を乗り越え次世代へと命をつないで種を存続させる原動力になっているのかもしれない」としている。

写真1 東北大学、高知大学などの研究グループが調査した干潟の1つの宮城県東松島市潜ヶ浦(かつぎがうら)。津波後の風景(共同研究グループが2012年4月撮影)(提供・東北大学/同大学高知大学など共同研究グループ)
写真1 東北大学、高知大学などの研究グループが調査した干潟の1つの宮城県東松島市潜ヶ浦(かつぎがうら)。津波後の風景(共同研究グループが2012年4月撮影)(提供・東北大学/同大学高知大学など共同研究グループ)
写真2津波を生き抜いた巻貝ホソウミニナ(共同研究グループが2012年4月撮影)(提供・東北大学/同大学、高知大学など共同研究グループ)
写真2津波を生き抜いた巻貝ホソウミニナ(共同研究グループが2012年4月撮影)(提供・東北大学/同大学、高知大学など共同研究グループ)
グラフ 津波による巻貝ホソウミニナの生息密度(個体数)(a)と遺伝的多様性(b)への影響。グラフ(a)の縦軸は生息密度(個体数)、(b)の縦軸は出現した遺伝子型の数を表す(提供・東北大学/同大学など共同研究グループ)
グラフ 津波による巻貝ホソウミニナの生息密度(個体数)(a)と遺伝的多様性(b)への影響。グラフ(a)の縦軸は生息密度(個体数)、(b)の縦軸は出現した遺伝子型の数を表す(提供・東北大学/同大学など共同研究グループ)
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