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先端科学の紹介にも熱心 ノーベル賞受賞の梶田隆章氏

掲載日:2015年10月7日

ノーベル物理学賞受賞が決まった梶田隆章(かじた たかあき)東京大学宇宙線研究所所長は、先端科学に対する一般の人々の関心を高めることにも熱心であることが、科学技術振興機構の資料からうかがえる。

東京大学宇宙線研究所は、科学技術振興機構の研究者情報発信活動推進モデル事業の実施機関となったことがある。応募した「地元の研究者が解説する科学館巡回展示手法の開発」が、2005年度の課題として採択されたためだ。このチームリーダーを務めたのが梶田教授だった。先端の科学に対する一般の関心を高めてもらうことに加え、目立つことが少ない地方科学者の活躍に光を当て、地元の人たちに知ってもらう。そうした狙いも込めた科学館巡回展示手法のモデルをつくりあげることに、1年間力を注いだ。

科学技術振興機構が公表しているチームリーダー・梶田隆章名の採択課題終了報告書に、成果とそれに至る苦労が明らかにされている。

具体的な取り組みとして、ハンズオン(手を触れる)教材について触れたくだりがある。重要性を認める一方で、「分りやすくする」ことや「感じさせる」ことに対して何の役にも立っていない教材が横行している現実を指摘し、実際に制作・展示したハンズオン教材モデルについて報告している。東京都西東京市の多摩六都科学館で開いた「ニュートリノ展」に展示した教材モデルだ。

「われわれがまず知らせたいのは、この宇宙はマクロであると同時にミクロの世界であり、粒子でできていることである。ここを直感的に理解させれば、『現実の物質を作る3つの粒子』と『物質の粒子なのに現実の物質を作らない不思議な粒子ニュートリノ』の話が始められる。そこでわれわれは、3つの粒子が順に結びついて物質となること、その結びつきに関われないで飛んでいるだけのニュートリノがあることをビーズで表現し、粒子の世界を直感的につかんでもらうためのハンズオンを企画した。それは、物質の根源を視覚化するものであった」

子供に配慮した展示物を提示することを重視する日本の現実に対応することの必要も指摘している。「日本の科学館は歴史的に子供を対象としており、子供に配慮した展示を求める。先端科学の展示が各所で始まるようになれば、外国並みに大人が集まる科学館となるかもしれないが、それは未来の話である。現在のところ、子供対策の有無が取り上げてもらう鍵となる」と。

「ニュートリノ展」で実施したアンケートでは、「面白かったか」「楽しかったか」という質問に95%が「はい」と答え、「(研究者の)話が面白かった」が83%、「ニュートリノが何か分かった」が75%という結果が得られた(回答者の90%は小学生)。こうしたデータを示し、「先端科学企画展を実現する手法については、完成度の高いモデル構築ができたことを高く自己評価している」と報告している。

この報告書には、当初の思惑が外れたことも率直に記述してあるのが、目を引く。まず、科学館に協力を求めることが、簡単ではないことが紹介されている。4点挙げられている要点の最初は次のようだ。「まず展示担当者に電話で直接コンタクトを取る。大学と科学館の上層部間で話してもらうとか、手紙で依頼するとかでは、話が進まない。紹介者がなくてもよいから直接展示担当者に電話し、会ってもらうことが一番である」

多くの研究者たちが多分気付いていないと思われる指摘は、これだけではない。「科学館が人々に与えられるのは科学への驚きや感動であり、科学的な見方を呼び覚ますことである。知識を押しつけたり正確な理解を要求したりするのは的はずれなのだと分った。知識は、知りたい人(質問してくる人など)にのみ与えればよいのである」

さらに「講演本体は10分とし、知識の押しつけではなく『科学っておもしろい!』という感動を与える話をする。具体的には、実験の苦労話や裏話、謎解きの楽しさ、発見の喜びなどが適している。話の内容を補うものとして、画像、特に動画が喜ばれる(データグラフは不可)」とも。

チームリーダーとしての梶田氏の考えは、次の記述からもうかがえそうだ。「正確な知識を与えることが目的なら、例えば高校への出張授業などの方が、はるかに効率がよい。科学系大学への進学増加にも直結すると思われる。それでもわれわれがあえて科学館で展示をするのは、人々の目を科学に向け文化の片翼としての科学を忘れないでもらう努力をすることが、研究者としてのわれわれの義務であると考えるからである」

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