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光からスピン流を生成する新原理発見

掲載日:2015年1月9日

特定の金属微粒子を含む絶縁体の磁石に可視光を照射して、スピン(磁気)の流れを生成できる新しい原理を、東北大学金属材料研究所の内田健一(うちだ けんいち)准教授らが実証した。次世代のスピントロニクスや分散型発電、省エネ技術の基盤となる発見として期待される。東北大学の齊藤英治(さいとう えいじ)教授と日本原子力研究開発機構先端基礎研究センターの前川禎通(まえかわ さだみち)センター長、安立裕人(あだち ひろと)副主任研究員らとの共同研究で、1月8日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

持続可能な社会に向けた環境、エネルギー問題への取り組みの中で、身近に存在する光、熱、振動、電磁波などをエネルギー源として利用するような、新しいエネルギー変換原理の創出が待望されている。クリーンで信頼性の高いエネルギー変換技術の候補として太陽電池や熱電素子、圧電素子などを用いた発電技術が盛んに研究されている。

研究グループは、金属微粒子への光照射で誘起される「表面プラズモン」と呼ばれる電子の集団運動を磁石の中で励起することで、絶縁体磁石に埋め込んだ金微粒子近傍に強力な電磁場を発生させ、この電磁場でスピンの運動を効果的に駆動させた。こうして、絶縁体で光のエネルギーのスピン流への変換に世界で初めて成功した。スピン流を電流に変換する技術は確立しており、光から電流を生成する新しい変換原理が創出されたことになる。

今回の実験では、絶縁体である磁性ガーネット(BiY2Fe5O12)薄膜の表面に白金(Pt)薄膜を接合した素子を使った。この素子は、磁性ガーネット層にナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの金(Au)微粒子を埋め込んだ構造となっている。これに分光した可視領域の単色光を照射しながら、白金層に発生する電気信号の精密測定を行った。

金微粒子は光アンテナとして機能しており、増強された電磁場によって磁性ガーネット中のスピンの運動が励起された結果として、上部の白金薄膜中にスピン流が誘起される。白金に注入されたスピン流は、「逆スピンホール効果」と呼ばれる固体中の量子相対論的効果で起電力に変換される。

これまでは、熱や音波、電磁波でスピン流を生成していた。光とスピンの相互作用は半導体で研究されてきたが、今回の絶縁体での効果は全く異なる物理原理に基づく。熱や音波、電磁波によるスピン流生成と同様の材料で、光-スピン流生成も発現することがわかり、電流やスピン流の駆動力として同時に利用可能なエネルギー源の選択肢が広がった。

内田健一准教授は「表面プラズモンをスピン流素子に導入した初めての例で、これまで独立して研究されてきたスピントロニクスとプラズモニクスを融合した新分野の形成につながる成果だ。今後、さらなる新原理の解明や新機能の発現も期待できる。光、熱、音波、電磁波といったさまざまなエネルギー源を同様の素子構造でスピン流や電流に変換できることを示した点に意義がある。新原理を利用するには大幅な効率向上が必要だが、次世代のスピンデバイスの駆動源として応用につながる可能性はある」と話している。

表面プラズモンを用いた光-スピン変換
図. 表面プラズモンを用いた光-スピン変換。(a)実験に用いた素子の模式図。可視光を照射すると、金微粒子中に励起された表面プラズモンを介して光とスピンが相互作用し、磁性ガーネットと白金の界面近傍にスピン流が生成される。このスピン流を起電力に変換して、電気信号として観測した。(b)走査型電子顕微鏡で撮影した金微粒子。直径100nm(ナノメートル)以下の金微粒子が光アンテナとして作用する。(c)金微粒子近傍の電磁場分布のシミュレーション結果。可視光域の波長690nm近傍の光を照射すると、表面プラズモン共鳴が生じるため、金微粒子の周りに局在した強力な電磁場が発生し(左図)、スピンの運動が励起される。表面プラズモン共鳴条件を満たさない波長500nmの光を照射した場合には、電磁場の増強効果は起こらない(右図)。
(提供:東北大学)
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