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脳損傷で肩代わりする別の領域を解明

掲載日:2015年1月8日

脳損傷で失われた運動機能を、残存する脳の別の領域が肩代わりし、しかもその領域がリハビリの過程で変化することを、産業技術総合研究所の村田弓(むらた ゆみ)研究員と肥後範行(ひご のりゆき)主任研究員らがアカゲザルの実験で解明した。リハビリによる運動機能回復過程の脳活動変化を調べた結果で、脳機能の仕組みに基づく新しいニューロリハビリの構築に向けて手がかりとなりそうだ。理化学研究所、生理学研究所、京都大学霊長類研究所、浜松ホトニクスとの共同研究で、1月7日に米科学誌Journal of Neuroscienceオンライン版に発表した。

研究グループはヒトの脳のモデルとして、よく似ているアカゲザルで実験した。その大脳皮質から筋肉へ運動の指令を出す第1次運動野のうち、手の運動機能を担う領域を局所的に薬で損傷し、ヒトと同じように指で物を器用につまむ動きをまひさせた。積極的なリハビリの結果、約1カ月後に指先の器用な動作を含む手の運動機能が回復した。このリハビリによる機能回復の過程で、脳に起きた変化を最新の陽電子放出断層撮影(PET)で調べた。

第1次運動野の損傷後、リハビリにより器用な動作が回復した時点で脳の活動を計測した。損傷前と比べて、損傷した脳の領域の活動は減少していたが、損傷前より活動が上昇した脳の別の領域が複数認められた。損傷から1、2カ月後の回復直後には、運動前野腹側部と呼ばれる別の大脳皮質の領域で、損傷前と比べて活動の上昇が見られた。さらに、損傷後数カ月経過した回復の安定期は、損傷近くの第1次運動野が活動していた。

損傷から1、2カ月後の回復直後と数カ月後の回復安定期に、運動前野腹側部と損傷近くの第1次運動野の活動を抑制する薬剤を投与すると、まひが再発した。この実験で、これらの2つの領域に、新しい運動指令を伝える経路が確立して、損傷した第1次運動野の手の運動機能を担う領域を肩代わりしている可能性が強く浮かび上がった。

これまでの実験からも、損傷部位の機能を肩代わりするような神経ネットワークの変化が提唱されてきたが、脳の一部しか観察されなかったり、麻酔をかけて調べられたりしたため、変化した神経ネットワークが実際に使われているのか、わからなかった。今回の研究で、細かい指の運動を行っているときの脳全体の活動を解析して、損傷を逃れた残存する領域の脳活動が運動機能回復過程で変化することを明確に捉えた。

村田弓研究員は「覚醒した状態でつまみ動作を行わせたときの脳の活動を計測できたので、今回の発見ができた。リハビリに伴う遺伝子発現の変化なども調べ、リハビリが脳活動の変化を生みだす過程を多角的に解明したい。脳計測技術が発展して普及すれば、脳の活動を判定してリハビリの効果を客観的に判定できるようになるだろう」と話している。

運動指令を担う領域の損傷後、把握動作を用いたリハビリで手の運動機能が回復した。このとき残存する脳領域で損傷した領域の機能を肩代わりする脳活動の変化が生じていた。
図1. 運動指令を担う領域の損傷後、把握動作を用いたリハビリで手の運動機能が回復した。このとき残存する脳領域で損傷した領域の機能を肩代わりする脳活動の変化が生じていた。

脳損傷前(左)と損傷から1、2カ月後の機能回復直後(右)のPET画像。回復直後には損傷前と比べて運動前野腹側部の活動が高まった。
図2. 脳損傷前(左)と損傷から1、2カ月後の機能回復直後(右)のPET画像。回復直後には損傷前と比べて運動前野腹側部の活動が高まった。

機能回復後数カ月経過した安定期のPET画像。損傷近くの第1次運動野の活動が高まった。
図3. 機能回復後数カ月経過した安定期のPET画像。損傷近くの第1次運動野の活動が高まった。
(いずれもアカゲザルの実験、提供:産業技術総合研究所)
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