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カイコ使って見つけた抗生物質が有望

2014.12.10

 日本人になじみが深いカイコを利用する抗生物質の新しい検索方法が登場し、有望な抗生物質が見つかった。カイコにさまざまな細菌を感染させて抗生物質を評価できる手法を開発し、その検索方法で新規の抗生物質ライソシンを、東京大学大学院薬学系研究科の関水和久(せきみず かずひさ)教授と浜本洋(はまもと ひろし)助教らが発見した。黄色ブドウ球菌に対して強い殺菌作用があり、そのユニークな仕組みも解明した。副作用も少なく、新しい抗生物質として有望な候補になると期待される。ゲノム創薬研究所(東京)との共同研究で、12月8日付の米科学誌Nature Chemical Biology オンライン版に発表した。

 超高齢社会の到来で、細菌感染症によって亡くなる患者が増えている。臨床の現場では、多剤耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などが出現して、既存の抗生物質が効かない感染症が深刻な問題となっており、新しい作用の薬が待望されている。しかし、新規の抗生物質の発見は次第に難しくなっている。開発には巨費がかかり、新しい抗生物質が販売されるケースは少ない。

 研究グループは、こうした状況を打破するため、養蚕業で古くから利用され、コストが安くて使いやすいカイコの活用を思い立った。カイコにさまざまな細菌を感染させて、抗生物質を効率的に評価できる手法を確立した。この方法で、1万4000株の土壌細菌の産物を探索した結果、沖縄の土壌から分離されたライソバクター属の細菌が生産する培養上清に、黄色ブドウ球菌に感染したカイコへの治療効果が認められた。この新規抗生物質は約10種類の誘導体があり、ライソシンと名付けた。

 誘導体の中で最も生産量が高いライソシンEについて、その殺菌作用の仕組みを解析した。ライソシンEは、MRSAを含む一部のグラム陽性菌を感染させたマウスに対して治療効果を示し、黄色ブドウ球菌には1分という短時間で99.99%の菌を殺傷するという強力な殺菌活性があることを見いだした。

 ライソシンEは細菌の細胞膜のみを障害する作用があり、その標的が細胞膜の電子伝達系補因子のメナキノンであることを突き止めた。ライソシンEは細胞膜のメナキノンと相互作用して、細胞膜を破壊して殺菌作用を発揮するという仕組みがわかった。既存の抗生物質に、こうした作用は知られておらず、初めての仕組みだった。メナキノンは一部の細菌に限られ、哺乳類にないため、マウスに対して毒性は低かった。

 ライソシンEと、カイコを使った同じ検索方法で北里大学の内田龍児(うちだ りゅうじ)講師らが見つけたノソコマイシンAについて、細菌感染したマウスで効果を調べた。いずれも優れた治療効果があった。昆虫での探索で見いだされた化合物が、哺乳動物でも治療効果を示すことを明らかにした点も重要である。研究グループは、ライソシンEを臨床応用の可能性が高い新規抗生物質として、実用化を目指した研究開発に取り組んでいる。

 関水和久教授は「カイコを指標に使って、ヒトの治療に有望な新規抗生物質を探せることがはっきりした。殺菌作用が強くて、その仕組みも新しいので、期待できる。産学連携の共同研究の成果で、ライソシンEの薬をぜひ世に出して、人々の治療に役立たせたい。この研究が産学連携の成功の突破口になるとよい」と話している。

1万4000株の土壌細菌から探索し、ライソシンの発見につながった過程。右はライソシンEの化学構造
図1. 1万4000株の土壌細菌から探索し、ライソシンの発見につながった過程。右はライソシンEの化学構造
解明されたライソシンEの作用の仕組み
図2. 解明されたライソシンEの作用の仕組み
(いずれも提供:東京大学)

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