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発生期の大脳皮質の神経細胞移動を解明

掲載日:2014年9月3日

ほ乳類の大脳皮質こそは知的活動の源である。その大脳皮質が作られる際、神経細胞が非常に特殊な様式で移動する仕組みの一端を、慶應義塾大学医学部の川内健史(かわうち たけし)特任講師らが解明した。大脳皮質の6層構造を形成する過程を分子レベルで解析した成果として注目される。9月2日付の英科学誌Developmentのオンライン版で発表した。

記憶や学習など高度な脳活動を担うほ乳類の大脳皮質は厚さ1ミリほどの6層からなる。この6層構造が胎児の発生期で形成されるには、神経幹細胞が細胞分裂を止めて神経細胞に分化し、その神経細胞が大脳の内側から移動して、適切な層構造の場所に順次配置されることが必要となる。この神経細胞の移動は、進行方向の突起の根元に膨らみが生じて、細胞核が細長く伸びていくことは知られているが、どの分子が調節しているかは謎だった。

研究グループはマウスの大脳をスライスして組織培養する方法で、神経細胞の移動を直接解析した。神経細胞の増殖を停止させる分子p27、てんかんや知的障害を伴う滑脳症(大脳がつるつるになってしわが形成されない疾患)の原因遺伝子Dcx、これらの上流制御因子Cdk5の機能をそれぞれ阻害剤や遺伝子ノックダウン法で抑えると、いずれも神経細胞の移動が阻害された。

Cdk5とp27はこれまでの研究で、神経細胞の増殖停止や形態変化に関与することがわかっていた。今回の解析で、Cdk5とp27のタンパク質が、神経細胞の増殖を止めたあと、神経細胞の移動に関わって、大脳皮質の組織化を促すステップすべてを制御する司令塔のような分子であることを初めて突き止めた。

また、Dcxを過剰に発現して機能を高める実験と、遺伝子ノックダウン法で発現量を減らす実験を行ったところ、どちらの場合も移動中の神経細胞の特徴的な膨らみの形成と細胞核の伸長が抑制されて、神経細胞の移動速度が低下した。この実験で、Dcxの適切な活性の維持が、神経細胞の移動に重要なことがわかった。研究グループは一連の実験をまとめて「神経幹細胞の増殖を停止させて神経細胞を生み出すために必要な分子であるCdk5とp27がDcxと協調的に働いて、神経細胞の移動を制御している」と結論づけた。

科学技術振興機構のさきがけ研究者としてこの研究に取り組んだ川内健史特任講師は「マウスもヒトも大脳皮質の6層構造は共通で、マウスの現象は基本的にヒトでも起きていると考えられる。細胞の移動は体のあちこちで見られるが、大脳皮質の6層構造を形成する神経細胞の移動は特異な様式を示す。その移動に関わる分子が、神経細胞の増殖を止める分子と同じなのは興味深い。この研究成果は大脳皮質が関連する滑脳症などの疾患の原因究明にも役立つだろう」と話している。

ほ乳類の大脳皮質6層構造の形成過程
図1. ほ乳類の大脳皮質6層構造の形成過程

培養した大脳皮質組織スライス内を移動する神経細胞の蛍光顕微鏡写真。3分おきに観察。細胞核が黄色、下段の「核の形態」の拡大写真では赤色。
写真. 培養した大脳皮質組織スライス内を移動する神経細胞の蛍光顕微鏡写真。3分おきに観察。細胞核が黄色、下段の「核の形態」の拡大写真では赤色。

今回の研究結果の概念図
図2. 今回の研究結果の概念図
(いずれも提供:川内健史・慶應義塾大学特任講師)
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