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鼻が長いゾウは嗅覚受容体も特に多い

掲載日:2014年7月23日

ゾウは鼻が長いだけでなく、嗅覚も抜群なことが遺伝子レベルでわかった。哺乳類13種の嗅覚受容体遺伝子を調べたところ、アフリカゾウが最も多く、約2000個もあり、イヌの2倍以上、ヒトの5倍にも上ることを、東京大学大学院農学生命科学研究科の新村芳人(にいむら よしひと)特任准教授と松井淳(まつい あつし)特任研究員、東原和成(とうはら かずしげ)教授が見いだした。

この哺乳類13種にある1万個以上の嗅覚受容体遺伝子を対象に、遺伝子の進化の道筋も解明した。嗅覚受容体の生理機能やヒトの嗅覚研究に刺激を与える成果として注目される。7月23日付の米科学誌ゲノムリサーチのオンライン版に発表した。

研究チームは、ゲノム(全遺伝情報)が解読されて公開されている13種類の哺乳類で、におい分子を認識する嗅覚受容体の遺伝子を塩基配列から調べた。嗅覚受容体遺伝子の数は種ごとに大きく異なっていた。アフリカゾウが約2000個と最も多く、これまで報告された中で最多だったラットの嗅覚受容体遺伝子数約1200個を大きく上回った。ラットに続いてウシやマウス、ウマ、イヌが多かった。霊長類の嗅覚受容体遺伝子数はいずれも少なめで、ヒトは396個だった。

鼻腔の嗅神経細胞で発現している膜タンパク質の嗅覚受容体は複数のにおい分子を認識する働きがある。嗅覚受容体遺伝子数が多いほど、より多様なにおいをかぎ分けることができると考えられる。今回の結果から見ると、ゾウは、嗅覚が優れているとされるイヌよりもはるかに、においをかぎ分ける能力が高そうだ。実際に、野生のアフリカゾウはケニアの民族集団をにおいでかぎ分け、狩猟する民族を避けるように行動しているという報告もある。

研究チームは次に、哺乳類の嗅覚受容体遺伝子の進化を追跡した。哺乳類は約1億年前の中生代にひっそりと生息していたネズミのような小さな夜行性動物の共通祖先から進化したと考えられている。新しいバイオインフォマティクスの手法を独自に開発、アフリカゾウの嗅覚受容体遺伝子数が多いことを利用して解析した。その結果、哺乳類の嗅覚受容体は781グループに分類できた。

ほとんどの嗅覚受容体遺伝子は少数の子孫遺伝子に引き継がれていたが、例外的に100個以上もの子孫遺伝子を残しているものもあった。アフリカゾウの系統だけで、83回も遺伝子重複を起こしていた遺伝子も見つかった。781グループのうち、3グループの遺伝子だけは重複や欠失がなく、進化の過程で安定して保存されていることもわかった。そのうちの2グループの遺伝子は鼻腔だけでなく、体内のさまざまな組織で発現しており、嗅覚以外の重要な生理機能を担っていることがうかがえた。

研究チームの新村芳人特任准教授は「嗅覚の仕組みは哺乳類で基本的に同じだが、嗅覚受容体のレパートリーは種によって大きく異なっている。その違いは、種の進化の跡と生活環境の違いを反映している。さまざまな動物の嗅覚受容体遺伝子を進化的な視点からより詳しく解析すれば、ヒトの嗅覚への理解も深まるだろう」と話している。

13種類の哺乳類のゲノム中に存在する嗅覚受容体遺伝子の数。機能遺伝子は現在、嗅覚受容体として機能している遺伝子。偽遺伝子は機能を失った遺伝子。分断遺伝子は一部の配列しかわからず、機能遺伝子か偽遺伝子かが判定できない遺伝子。
図. 13種類の哺乳類のゲノム中に存在する嗅覚受容体遺伝子の数。機能遺伝子は現在、嗅覚受容体として機能している遺伝子。偽遺伝子は機能を失った遺伝子。分断遺伝子は一部の配列しかわからず、機能遺伝子か偽遺伝子かが判定できない遺伝子。
(提供:東京大学)
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