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女性特有の“働かないX染色体”

2013.04.02

 ヒトには2種類の性染色体(X、Y)がある。男性はXY、女性はXXの組み合わせを持つが、男性よりもX染色体が1本多い女性の場合は、どちらかのX染色体の働きを休止させなければ、生存できないという。このため女性の細胞の核では、働いていない方のX染色体は小さく折りたたまれて凝縮した「バー小体」として観察される。北海道大学大学院先端生命科学研究院の小布施力史(おぶせ・ちかし)教授や九州大学生体防御医学研究所、大阪大学大学院などの研究チームは、「バー小体」の形成に関わるタンパク質を発見した。このタンパク質の働きを操作することで、筋ジストロフィーやがんの病因解明や治療法の手がかりになるかもしれないという。

 「バー小体」は女性の細胞核だけに見られる不活性のX染色体として、60年以上も前から報告されていた。そのままでは、2本あるX染色体から読み取られる遺伝子の量が女性の方が男性よりも2倍多いことになり、致命的な影響が出ることから、小さく折りたたまれて凝縮することにより、遺伝情報を読み取られないようにしていると考えられるが、詳しい構造や形成の仕組みなどは分かっていなかった。

 研究チームは、「バー小体」を構成するタンパク質の種類や働きを、質量分析器や遺伝情報解析装置などを使って調べた。その結果、不活性X染色体に多く存在するタンパク質「HBiX1(エイチ・ビックス・ワン)」を発見した。さらにHBiX1は、他のタンパク質「SMCHD1」とも連携してX染色体を小さく折りたたんでいくことが分かった。これらのタンパク質の働きを抑えると、「バー小体」は形成されなかった。

 HBiX1 やSMCHD1 はX 染色体以外の染色体にも存在することから、染色体上のさまざまな領域の凝縮に関わっていることが示唆された。これは例えば、皮膚の細胞ならば皮膚の形質に関わる遺伝子以外は読み取られないようにするなど、細胞間の違いを生み出す遺伝子の発現パターンを規定しているとも考えられる。

 これらのタンパク質の働きを操作することで、現在効率が非常に低いとされるiPS 細胞(人工多能性幹細胞)の作成法の改善や、同じ染色体を複数持つなどの遺伝的な障害の緩和も可能となるかもしれない。さらに今回発見のタンパク質は、ある種の筋ジストロフィーの発症やがんの発症に関与していることも最近報告されており、効果的な治療法の開発につながるものと期待されるという。

 研究論文“Human inactive X chromosome is compacted through a PRC2-independent SMCHD1?HBiX1 pathway(ヒト不活性化X 染色体はPRC2 経路に依存しないSMCHD1-HBiX1 経路によって小さく折りたたまれる)”は、「Nature」 姉妹誌の「Nature Structural & Molecular Biology」に掲載された。

研究の成果

  • 染色体を2本、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持つ。
  • 男女とも、正常に生きるためにはX染色体1本だけの遺伝子が働くことが重要。
  • 女性の細胞ではX染色体の1本が働かないように小さく折りたたまれているが、その仕組みは明らかではなかった。

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