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ヒトES細胞で立体網膜を作製

2012.06.14

 ヒトの受精卵の一部から作製したさまざまな体細胞に分化する能力をもつ胚性幹細胞(ES細胞)を使って、眼球のもととなる立体的な網膜組織を作ることに、理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(神戸市)と住友化学・生物環境科学研究所などの研究チームが世界で初めて成功した。視力が失われる難病「網膜色素変性症」などの治療法の開発につながるものと期待される。

 研究チームは、ES細胞を酵素によってバラバラに分散させたものを再凝集して、培養液に浮いた状態で立体的な組織を作る技術「無血清凝集浮遊培養法(SFEBq法)」を2005年に開発した。マウスのES細胞を使った実験をもとに培養液の組成などの条件をさらに工夫し、今回、ヒトのES細胞9,000個を同技術で培養し、24-26日後には、眼球のもととなる胎児の「眼杯」と同様な大きさ(直径約0.5 ミリメートル)と形、神経網膜組織や色素上皮組織などが形成された。

 また、ヒトES細胞から作った神経網膜組織を立体培養すると、126日後には生体と同様な視細胞や神経節細胞、介在神経細胞など6種類の主要細胞からなる多層化した組織構造が作られた。

 さらに研究チームは、ある薬剤を添加することで視細胞を効率よく、約6週間という早期に分化させる技術も開発した。また将来の移植治療への実用化を見越して、ヒトES細胞だけではなくiPS細胞(人工多能性幹細胞)など由来の多層化網膜組織を、培養期間中の任意の段階で冷凍保存する技術も開発した。

 ヒトの生体組織に近い立体網膜組織が簡便に作製が可能となったことで、網膜に作用する薬の開発や、「網膜色素変性症」などの遺伝病に対する治療法の開発、網膜難病の発症メカニズムの解明などが期待されるという。

 今回の研究成果は、文部科学省の「再生医療の実現化プロジェクト」の一環として行われた。14日付けの米国の科学誌「セル・ステムセル(Cell Stem Cell)」に掲載された。

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