オピニオン

身のまわりのものに関心を持とう(藤嶋 昭 氏 / 神奈川科学技術アカデミー 理事長)

2007.11.28

藤嶋 昭 氏 / 神奈川科学技術アカデミー 理事長

神奈川科学技術アカデミー 理事長 藤嶋 昭 氏
藤嶋 昭 氏

 メヒシバ、イヌビエ、エノコログサなどの名前を覚えておくと、道を歩くのが楽しくなる。これらはかわいそうに、ひとからげに雑草と呼ばれている。しかし、その生き方を知り、小さな葉や花をじっと見つめてみると、それらが持つ逞しさや美しさに感動する。

 新約聖書マタイ第6章の言葉を思い出す。「野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった」。

 私の今一番の関心事はこれら雑草だが、少し前まではアサガオとタンポポだった。アサガオは何時に花を開くのか、ご存じだろうか。「多分、明るくなってからだよ」とか「日の出のときにぱっと開くよ」とおっしゃるかもしれない。実は7月と10月では開花時刻が違うのだ。アサガオは明るくなったから開くのではなく、暗くなってからの時間をカウントしていて、暗くなってから約9〜10時間後に開花する。だから7月は朝5時ごろ開くが、10月は日の入りが早いので、夜中の午前3時ごろには咲いてしまう。

 ではタンポポの花はいつ開くか。タンポポは欧州では「農夫の時計」といわれ、明るくなったら開き、暗くなると閉じる。外来種のセイヨウタンポポは朝開いて夕方閉じることを3日間連続して行い、3日後にはしおれてしまうそうだ。しばらくたつと茎がぐんと伸び、綿毛ができる。綿毛の数は約200あって、それぞれに種が入っていて、いろいろなところに飛んでいく。日本古来のニホンタンポポは受粉の必要があるが、セイヨウタンポポは受粉しなくても種ができるからどんどん増え、日本中で幅をきかせている。

 タンポポが利口だなと思うのは、夜の温度まで検知していることだ。セイヨウタンポポは気温が13℃より高いとき、明るくなると咲く。では13℃以下のときはどうしているかというと、明るくなってもすぐに開かず、太陽が上がって地面が温まってから咲く。明るさよりも温度を感知しているそうだ。このように自然界にはまだまだ不思議が満ちている。

 私が勤める神奈川科学技術アカデミーでは理科好きを増やすための啓発書『くらべる』シリーズを刊行している(丸善より出版)。第1巻では鉄と金を比べた。鉄は毎年、世界で10億トンが生産され、うち日本は約1億トンを作っている。10億トンの鉄はオリンピック用50mプール3万杯分に相当する。一方、金は有史以来の使用総量でも同プール3杯にもならないことがわかると、ここでも驚くことになる。

 第2巻ではホタルの光と蛍光灯の光を比べている。ホタルの光で本当に字が読めるだろうか。中国の晋の時代、車胤(しゃいん)という人が実際に本を読んだそうだ。大きなホタル20匹でどうにか本が読めたという記録がある。しかし、机上の蛍光灯と同じ明るさをホタルの光でつくるには、計算上では数万匹ものホタルが必要になる。

 昨春からは日本化学会会長も務めている。創立130年を迎え、会員数3万3000人に達する学会だ。理科離れを少しでも防ぐことが学会の重要任務と考え、ファーブル昆虫記の化学版に相当する『化学のはたらき』シリーズ刊行を計画、第1巻の編集作業が急ピッチだ(東京書籍より出版)。第1巻では、ややもするとブラックボックス化しつつある家電製品の作動原理や特徴を化学や材料の目でまとめる。テレビや冷蔵庫、携帯電話など身近なものの今昔や原理などを比較している。読んでいただけたらと思う。

本記事は、「日経サイエンス誌」の許諾を得て2007年12月号から転載

神奈川科学技術アカデミー 理事長 藤嶋 昭 氏
藤嶋 昭 氏
(ふじしま あきら)

藤嶋 昭(ふじしま あきら)氏のプロフィール
1966年横浜国立大学工学部卒業、71年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、神奈川大学工学部講師、75年東京大学工学部講師、78年東京大学工学部助教授、86年東京大学工学部教授、95年東京大学大学院工学系研究科教授。97年以降、財団法人神奈川科学技術アカデミーの光科学重点研究準備室長、光科学重点研究室長、地域結集型共同研究事業研究総括、理事を歴任、2003年東京大学大学院工学系研究科教授退官とともに現職。東京大学大学院時代に水溶液中の酸化チタンに強い光を当てると表面で光触媒反応が起きる「ホンダ・フジシマ効果」を発見、この光触媒は環境浄化などさまざまな分野で応用が進んでいる。2004年日本国際賞受賞。日本化学会会長。

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