コラム - インタビュー -

「世界中の望遠鏡が協力して中性子星合体を観測 ―重力波と光の同時観測『マルチメッセンジャー天文学』の幕開けは、何を意味するのか?」(2/3)

理化学研究所仁科加速器研究センター 玉川 徹 氏

掲載日:2017年12月28日

中性子星合体の初観測は何をもたらしたのか? 宇宙物理と物質の起源をめぐる3つの発見

-重力波の1.7秒後にショートガンマ線バースト、つまり電磁波の一種であるガンマ線を観測したのですね。それが意味する重要なこととは何でしょう?

ガンマ線は電磁波ですから、光の速度で進みます。1916年にアインシュタインは「重力波は光速で進む」と予言していましたが、これまでのブラックホール合体ではそれを証明できませんでした。重力波とガンマ線の到着時刻の差が1.7秒ということは、どちらもほぼ同時に1.3億年の間、地球に向かって進んできた結果が1.7秒のズレにしかならなかった、つまり非常に高い精度(10-15)で重力波が光速で進むことが実証されたわけです。これは実に大きい成果です(図5)。

図5.中性子星合体により検出された重力波とショートガンマ線バーストのグラフ。赤い矢印で示した重力波とガンマ線の到着時間の差が1.7秒であった。(B.P.Abbott et.al. “Gravitational Waves and Gamma-Rays from a Binary Neutron Star Merger: GW170817 and GRB 170817A”ApJL Volume 848 Number 2 (2017)より引用)
図5.中性子星合体により検出された重力波とショートガンマ線バーストのグラフ。赤い矢印で示した重力波とガンマ線の到着時間の差が1.7秒であった。(B.P.Abbott et.al. “Gravitational Waves and Gamma-Rays from a Binary Neutron Star Merger: GW170817 and GRB 170817A”ApJL Volume 848 Number 2 (2017)より引用)

最近、宇宙の加速膨張を引き起こすというダークエネルギーについて盛んに研究されていますが、その正体はまだ解明されていません。そのため、そもそもアインシュタインの重力理論を疑っている研究者がいたり、重力波は光速で進まないという理論モデルまであります。そういう考え方が、このたった1回の観測で軒並み潰れてしまいました。やはり、アインシュタインは非常に偉かったといえますね。

-玉川先生は以前、ショートガンマ線バーストの研究をされていました。ガンマ線バーストとは、どのような天体現象でしょうか?

ガンマ線バーストは、50年前に初めて発見された非常に明るい天体で、ビッグバンを除く宇宙最大の爆発現象です。ただし、発光時間が短く一瞬で消えてしまうため、どこで起きたのかを見つけるのが難しいという特徴があります。発光時間の長さによって2種類に分けられ、10〜100秒間発光するロングガンマ線バーストと2秒以下しか発光しないショートガンマ線バーストがあります。ロングガンマ線バーストについては、私も研究チームに加わっていましたが、理研とMITが共同で打ち上げたHETE衛星と地上の望遠鏡が協力して、2003年に超新星爆発で捉えることに成功し、その起源が明らかになりました。

一方、ショートガンマ線バーストの起源は長い間分かっていませんでした。2005年、私たちの研究チームが発見し、位置を通報したショートガンマ線バーストから、世界で初めて対応天体を捉え、Nature誌に論文発表しました。ただし、このときはそれがどのような種類の天体なのかまでは分かりませんでした。いくつかの傍証から、中性子星などのコンパクト星の合体によって引き起こされた可能性を示しましたが、これまで12年間不明でした。その可能性が今回の中性子星合体によってほぼ確かめられたことになり、ひと安心しています。

-赤外線の観測から、今回の重要な成果の一つとされるキロノバという現象が発見されました。キロノバは重い元素の合成に関連しているそうですが、そもそも元素とはどのようにして作られるのでしょうか?

映像1.今回の中性子星合体をフォローした9日間の様子を、アニメーションで紹介した映像。重力波とガンマ線が放出された後、キロノバから物質が放出されるまでの現象が紹介されている。出展:LIGO HP(“Jets and Debris from Neutron Star Collision”, Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/CI Lab)
映像1.今回の中性子星合体をフォローした9日間の様子を、アニメーションで紹介した映像。重力波とガンマ線が放出された後、キロノバから物質が放出されるまでの現象が紹介されている。出展:LIGO HP(“Jets and Debris from Neutron Star Collision”, Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/CI Lab)

現在の周期表には原子番号1の水素から118のオガネソンまでの元素が書かれています。このうち、水素からウラン(原子番号92)までの元素のほとんどは天然に存在する物質から発見され、それ以外は人工的に合成されました。約90種類の天然元素が作り出された場所は宇宙です。つまり、私たちの体や身の回りの物質は、全て「星くず」からできているといっていいでしょう。

宇宙は138億年前のビッグバンによって誕生しましたが、そのときできたのは水素とヘリウムなどの最も軽い元素だけでした。それらが集まり、やがて太陽のような恒星ができます。恒星の中では核融合反応が起こって、炭素、酸素、ケイ素、マグネシウム、鉄などの元素が徐々に合成されていきます。元素の中で鉄(原子番号26)が最も安定です。

鉄よりも軽い元素の起源はほとんど解明されています。例えば、クロムとマンガン(原子番号24と25)は、地球上で鉄の埋蔵量の1,000分の1程度しかなく、レアメタルとよばれています。私たちの研究チームは2008年、それらがある種類の超新星爆発で合成されることをX線天文衛星「すざく」を使って突き止めました(参考:理化学研究所2008年9月11日プレスリリース「鉄との合金に重要なレアメタルの生成現場を宇宙で初めて確認」)。

−最も安定な鉄よりも重い元素は、どのようにして合成されるのですか?

鉄よりも重い元素を「重元素」といいますが、重元素は中性子捕獲反応によって合成されます。簡単にいうと、鉄などの原子核に中性子がくっついて、その中性子が陽子と電子、ニュートリノに変わるベータ崩壊を起こします。これで原子番号が上がって、さらに重い元素ができるというメカニズムです。また、中性子捕獲反応は反応の速さによって2種類あります。ゆっくり進む反応を「s過程(slow process)」、素早く進む反応を「r過程(rapid process)」といい、それぞれで合成される重元素が分かれます。s過程は主に年老いた太陽質量8倍以下の恒星の内部で進み、ストロンチウム、バリウム、鉛などの重元素を効率よく合成することが明らかになっています。

写真2.キロノバと重い元素について話す玉川氏
写真2.キロノバと重い元素について話す玉川氏

一方、r過程でできる元素には金、プラチナ、レアアース、ウランなどがあります。レアアースは希土類元素ともよばれ、イットリウムやネオジムなど合計17種を含み、スマートフォンやパソコンなどの機器には欠かせない元素です。ところが、r過程元素の起源は全く分かっていませんでした。r過程では、中性子が原子核にくっつく速度がs過程の場合よりも圧倒的に速いため、中性子が非常に多い環境でないと起こりません。これまでは、それに適した唯一の場所として超新星爆発が候補に上っていました。しかし2014年、理研の和南城伸也氏(現上智大学特任准教授)らの研究チームがシミュレーションをしてみると、超新星爆発では中性子の数が少なすぎ、鉄よりも少し重い元素が作られたところで中性子を使い切ってしまうことが分かりました。それに比べて、中性子星合体ではもっと多くの中性子が放出される可能性が高いので、r過程に最適ではないかと考えられるようになりました(参考:理化学研究所2014年7月17日プレスリリース「金やウランなどの重い元素は中性子星の合体で作られた可能性が高い」)(図6)。

図6.中性子星合体で合成されると考えられる重元素(黄色)。(Credit: LIGO-Virgo)
図6.中性子星合体で合成されると考えられる重元素(黄色)。(Credit: LIGO-Virgo)

キロノバは、r過程で合成された元素が放射性崩壊を起こし、そのエネルギーで周りが暖められ赤外線で明るく見える現象です。中性子星合体が有力な候補でしたが、今回、国立天文台のすばる望遠鏡(米国ハワイ島)などが、キロノバの明るさの時間変化を追跡することに成功しました。この成果は理論予測とよく一致しており、中性子星合体がr過程元素の合成現場であることを裏付けたといえます(参考:サイエンスポータル10月17日ニュース「日本の観測チームが「重力波」の源を世界で初めて光で捉えた」)(図7)。

図7.キロノバの想像イラスト。(Credit: NAOJ)
図7.キロノバの想像イラスト。(Credit: NAOJ)

-なるほど。アインシュタインの「重力波は光速で伝わる」という理論の実証、ショートガンマ線バーストの発生、そして、金やプラチナなどr過程元素の起源が中性子星合体に関係していること。それらの大きな発見が、「この観測が100年に1度」の歴史的な観測とされる所以なのですね。

玉川 徹 氏

玉川 徹(たまがわ とおる)氏のプロフィール
理化学研究所仁科加速器研究センター
玉川高エネルギー宇宙物理研究室 主任研究員
1970年、兵庫県生まれ。理学博士。1993年、東北大学工学部応用物理学科卒業。2000年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。同年、理化学研究所宇宙放射線研究室協力研究員、牧島宇宙放射線研究室研究員を経て、2010年玉川高エネルギー宇宙物理研究室准主任研究員、2017年より現職。2005年より東京理科大学客員教授を兼任。

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