コラム - インタビュー -

「科学技術の成果を産学官連携で社会実装する 第5期科学技術基本計画の目指すもの」(1/2)

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 議員 久間和生 氏

掲載日:2016年5月13日

昨年12月に総合科学技術・イノベーション会議で了承された「第5期科学技術基本計画」が、1月22日、閣議決定された。この計画は今年の4月から5年間にわたり、日本の科学技術の方向性を示すものである。その要点を、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員久間和生氏に伺った。

久間和生 氏
久間和生 氏

—これまでの4期20年の科学技術基本計画の成果と、出てきた課題についてお話し下さい。

1995年に科学技術基本法ができて、科学技術の重要性を国としても認識し、20年前に科学技術基本計画がスタートしました。この間に科学技術に対する期待は大きく変わっています。20年前は、科学技術だけを振興すればいいという時代だったのですが、今は、科学技術をベースにしたイノベーションを創出しなくてはいけない時代に変わりました。

それまで、科学技術分野では、一流の学会誌に論文を掲載したり、大きな賞をもらうことが大きな成果でした。それはそれで重要なのですが、科学技術の成果を産業界や社会に生かさなくてはいけない時代になりました。これは世界全体の流れなのですが、第4期科学技術基本計画(以下「第4期」)まではあまり明確にされていなかったのです。第5期科学技術基本計画(以下「第5期」)はそれを強く主張しています。ですから、第5期で何(What)をするかといえば、研究開発の成果を産業や社会に生かし、産業競争力強化や豊かな社会の構築に貢献することとなります。

では第5期をどうやって(How to)推進していくかですが、第4期まではばらばらだった、人材育成、大学改革、研究開発法人改革、産学官連携、グローバルという課題を、第5期ではすべてを連動させながら解決していくということになります。

第4期までは、科学技術のベースを作ってきたという大きな成果があります。物理、化学、医学分野で日本のノーベル賞受賞者が非常に増えました。だから、間違いなく日本の科学技術は世界のトップ集団に入っているのです。しかし、「科学技術の成果を社会実装することで、産業競争力を強化し社会に貢献する」といった努力や施策は弱かったのです。

強い産業をより強くする

—課題を踏まえた具体的な計画は、どんなものですか。

第5期の大きな特徴の一つは、産業界と一体になって策定したことです。第5期の4本柱、「未来の産業創造と社会変革」「経済・社会的な課題への対応」「基盤的な力の強化」「人材、知、資金の好循環システムの構築」のうち、最初の二つは、特に産業界の貢献が大きい。産業界と総合科学技術・イノベーション会議の主たるメンバーが議論しながら作り、それを産学官の有識者の方々に議論いただいて決めるというプロセスをとりました。産業界が本気になって作ったので、日本の産業は何が強くて何が弱いかが明確に示されたと思います。

日本の産業は、今まではフィジカルシステム(物理的なシステム)が主でしたが、これからはサイバーフィジカルシステム(Cyber physical system、以下「CPS」)の時代に移行しようとしています。ICT(情報通信技術)が飛躍的に発展してデジタル化が進み、その結果、情報の蓄積と伝送、処理が桁違いに大容量化・高速化されたことが、すべての原点です。

これまでの日本の産業界は、ハードウエアが非常に強かった。半導体とか、電気製品といったものです。さらに、そのハードウエアに組み込みソフトを融合した製品が生まれました。カーナビや携帯電話、工作機械などがそうです。

ところが、センサー技術が進歩して、膨大な情報を容易に取れるようになるとともに、それらの情報を大量に蓄積したり高速に処理できる技術がサイバー空間に備わってくると、何もハードウエアに組み込みソフトを入れる必要がなくなりました。情報を処理する空間は実空間と離れていてもいいのです。サイバー空間で処理すると、膨大な情報のデータベースを基に処理できます。しかし、ハードウエアの中だと、処理するデータが制限されるので、組み込みソフトとして処理できることは限られてしまいます。

クラウドのようなサイバー空間は膨大なデータを使えます。今までに蓄積した情報と、センサーで集めた情報を合わせて情報処理をする。そして何をすればいいかを実空間に送る。実空間では、それに基づいて次のアクション(操作、制御、加工など)を起こす。それがCPSです(図1)。

図1.サイバー社会の到来で変わる産業構造
図1.サイバー社会の到来で変わる産業構造

—IoT(モノのインターネット)もその一つですね。

IoTは、実空間にある機械や端末機器などにセンサーをつけて、情報を吸い上げ、サイバー空間に送って処理し、判断して実空間に返します。CPSの一つです。

将来はこういう方向にどんどん移っていきます。もちろんフィジカルシステムは残るけれども、そのときに製品の価値がどうなるかです。これまではハードウエアの性能や品質、そしてコストが絶対的な価値でしたが、これからはシステムやサービスが主役なのです。フィジカルシステムにサービスをプラスする、そこに価値が移ってくるということです(図2)。

図2.超スマート社会サービスプラットフォームのシステムイメージ
図2.超スマート社会サービスプラットフォームのシステムイメージ

ところが、ICTをベースにしたイノベーションは、欧米に比べて日本は遅れた。例えばインターネットができたことによって、Eメールができ、グーグルやアマゾンが生まれました。こういうインターネットベースのビジネスや、最近話題のインダストリー4.0 、あるいは米国のゼネラル・エレクトリック社(以下「GE」)がやっているインターネット・コンソーシアムのように、ICTをベースにしたイノベーションは、日本も全くできていないというわけではありませんが、欧米から見ると遅れています。

例えばGEは航空機エンジンや発電所のタービン、医療機器事業などの強化を目指して、自分たちのノウハウやデータをオープンにして、センターに利用者のデータを集め、メンテナンスをより高度化する事業を起こしています。それがインターネット・コンソーシアムです。でもこれは、日本メーカーのエレベーター、エスカレーターのメンテナンス事業と本質的に同じなのです。個々のエレベーターの情報をインターネットでセンターに集め、故障したら可能な限りリモートで修理しています。防犯カメラの映像も送られて、事件が起こったらセンターで調査できる仕組みもできています。だから、GEがインターネット・コンソーシアムを始めたと大慌てするけれども、日本でも一部でできているのです。

しかし、宣伝が下手なのと、本格的にシステム・サービス産業にシフトしようとする意識が、国にも、企業にもない。だから、そこを新たな産業として徹底的に強くする。今までの日本の強みだったものづくり産業をより強くするとともに、現在は劣勢なCPSをベースにしたシステム・サービス事業を強化することが、産業界に必要になるはずです。社会もそれを必要とするでしょう。


—フィジカルシステムの強みを生かしながら次のステップに進むわけですね。

CPSだけをやっても日本はうまくいくはずがない。例えば、日本がグーグルのようなビジネスを今からできるかといったら疑問です。だから日本の産業で国際的競争力のある分野を強化し、システム化も推進する。ものづくり、電力、エネルギー、自動車、産業機器、素材といった強い産業をより強くするとともに、それらの強い産業をコアとした新しいシステム産業を創出していこうということです。

そのためにも大事なのが省庁連携です。私が総合科学技術・イノベーション会議に来て思ったことは、省庁連携がまるでできていなかったことです。省庁間はもちろんのこと、一つの省内でも局間が縦割りで、コミュニケーションがない。

大きな会社には、事業本部というのがあります。私がいた三菱電機株式会社の場合では、デバイスから家電、情報通信、FA(ファクトリーオートメーション)、宇宙、重電など10の事業本部があります。それらがばらばらに動いていれば中小企業の集合体ですが、一緒になって動き始めると、シナジーで強大な力を発揮します。事実、三菱電機はそういう方向に進化しました。それから強いものをより強くするという資源の集中投資です。三菱電機の場合、パワーエレクトロニクス、産業メカトロニクス、宇宙、エアコン、パワーデバイスなど、世界で戦える分野に資源を集中しました。それが今、成功しています。そういうことを国レベルでもやらないといけない。

もう一つはチャレンジです。リーマンショック以来、日本は、産業界だけでなく国も大学もチャレンジすることを忘れてしまっています。だから目先のことしかやらない。目先のことだけでは、将来はないのです。

連携がない、チャレンジが足りない、これを何とかしなくてはいけないということで、われわれはSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)ImPACT(革新的研究開発推進プログラム)を立ち上げました。基礎研究から実用化まで一気通貫でイノベーションを創出するのがSIPです。ImPACTは、ハイリスクでもハイリターンな、破壊的イノベーション創出にチャレンジするプログラムです。失敗するかもしれませんが、成功したら産業や社会に大きなインパクトをもたらします。

—4本柱の一つ「経済、社会的な課題への対応」というのは、具体的にどんなことですか。

これは例えば、エネルギーや食糧、健康長寿のような、現在日本が抱えている課題の解決です。これらは今までも取り組んできましたが、継続して取り組まなければいけない。

一つ目が、持続的な成長と地域社会の自律的な発展という課題です。

二つ目が、国および国民の安全・安心の確保と、豊かで質の高い生活の実現です。これは自然災害の対応をどうするかとか、サイバーセキュリティーに対する確保とか、国家安全保障に対する対応です。安全保障関連法案が通ったわけですから、国家安全保障に対する科学技術面からの対応も、しっかりと取り組まなくてはいけないと私は思っています。

三つ目が、世界に対する貢献です。地球規模の課題への対応と世界の発展への貢献です。CO2問題、気候変動への対応、生物多様性などをどうするかです。

四つ目は海洋と宇宙に関する新たな取り組みです。海洋と宇宙を科学のフロンティアとしてだけではなく、多面的に取り扱うのが特徴です。宇宙で特に重要なのは民生応用です。例えば準天頂衛星が打ち上がれば、それによってGPSビジネスが変革します。地図自体のビジネスも重要ですが、地図情報をベースにした自動走行システムができますし、社会インフラシステムや防災・減災システムも進化します。人工衛星でICTを活用した大きなビジネスを作れるのです。

また人工衛星は、人工衛星そのものでもコンポーネントでもいいのですが、輸出産業を目指すべきです。さらに国家安全保障を目的とした情報収集も重要です。このような多面的な捉え方は海洋も同じです。

—イノベーションの基盤的な力の強化では、どんな領域を強化されるのですか。

一つ目は人材力の強化、二つ目が知の基盤の強化、三つ目が資金改革です。

人材力の強化とは、イノベーション人材の育成です。イノベーション人材とは、新しいことを発見するイノベーターと、それをいち早く見つけて事業化するプロデューサーです。これまでの日本はプロデューサーを軽視していました。この2種類の人材の能力は全く異質です。イノベーションには、こういう2種類の人間が必要なのです(図3)。

図3.イノベーション創出に必要な人材
図3.イノベーション創出に必要な人材

イノベーション人材が必要というと、大学ではイノベーション教育だけが取り上げられますが、それでは駄目です。イノベーターとプロデューサーは必要ですが、イノベーションを起こすには製品企画や、電気、情報、化学、機械などの技術、知財・標準化、マーケティングなど、それぞれの分野の専門家が一流でなくてはいけないのです。イノベーター育成ばかりに注力して、多様な専門家の育成を忘れてはいけません。

もう一つは、投資の専門家です。米国は投資の専門家がたくさんいます。だから研究者もプロデューサーも思い切って新しい冒険ができる。日本は数年して芽が出なかったらすぐに投資を打ち切ったりするでしょう。目利き力がないですね。本物の投資家は、資金を持っていると同時に、目利き力のある人です。そういう専門家を含めて、多様な人材を育成しなければいけないのです。

久間和生 氏

久間和生(きゅうま かずお)氏のプロフィール
内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員、工学博士。1977年東京工業大学大学院博士課程電子物理工学専攻を修了。同年三菱電機株式会社入社、中央研究所(現 先端技術総合研究所)勤務。98年半導体事業本部人工網膜LSI事業推進プロジェクトマネージャ、2003年先端技術総合研究所長、06年常務執行役開発本部長、10年専務執行役半導体・デバイス事業本部長、11年代表執行役副社長、12年常任顧問。13年総合科学技術会議議員(常勤)、14年より現職

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