インタビュー

第2回「リスク大きすぎる地層処分」(今田高俊 氏 / 日本学術会議・高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会 委員長)

2012.10.22

今田高俊 氏 / 日本学術会議・高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会 委員長

「高レベル放射性廃棄物『暫定保管』提言の衝撃」

今田高俊 氏
今田高俊 氏

原発に依存した社会であり続けるか、脱原発化か、で世論は真っ二つの様相をきたしている。しかし、どちらを選択するにしても日本はすでに深刻な問題を抱え込んでいる現実に変わりはない。すでに相当量たまっている使用済み燃料を含む高レベル放射性廃棄物をどこに処分するか、という難題だ。どちらの道を選ぶにしろ、深刻さの度合いの差でしかないように見える。「最終処分する前に数十年から数百年程度の期間、回収可能な状態で安全に保管する」。これまでの原子力政策にはなかった「暫定保管」という新しい選択肢を盛り込んだ提言「『原子力委員会審議依頼に対する回答高レベル放射性廃棄物の処分について』」を9月10日にまとめた「日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」の今田高俊委員長(東京工業大学大学院 社会理工学研究科 教授)に、高レベル放射性廃棄物処分の難しさと今後の見通しを聞いた。

―原子力委員会で白熱した議論が行われる前にも、特に「暫定保管」については日本学術会議の委員会自体でも相当な激論が交わされたと想像しますが。

福島原発事故の国会事故調査委員会委員もされた石橋克彦・神戸大学名誉教授にヒヤリングし、皆で議論したことが、大きな影響を与えたと思います。石橋先生は、日本の地層および地下の状態がいかに不安定であるかをいろいろな角度から説明してくださいました。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(いわゆる東日本大震災)が起きて、3カ月ほどたった時です。地震によって日本列島下のプレートや地殻が大変、不安定な状況になっているということでした。「高レベル廃棄物の地層処分をあえて断行するのはリスクが高すぎるのでは」と問うたところ「その通りです」という答えでした。それで「地層処分を考えるのはリスクが大きすぎる」ということになりました。

では、現在六ヶ所村で行われている中間貯蔵はどうかとなります。地層処分する前の使用済み燃料を、30-50年ほど地上の貯蔵施設で温度が冷えるのを待つ方式です。しかし、これはテロ行為に遭う恐れがあります。それで中間貯蔵と地層処分の中間という案が出てきました。ふたはせずに、常にモニタリングしながら、安全性に配慮しつつ数十年から数百年厳重に管理する「暫定保管」がよいということになったのです。この間にも地震や火山の心配はあるわけですが、「暫定保管」施設は2カ所造り、危険な兆しがあれば、高レベル放射性廃棄物を取り出して、もう一つの「暫定保管」施設に移すことで対応します。

実は米国でも、2002年に連邦議会の立地承認決議を法律とし、ネバダ州のユッカマウンテンを処分地に決定しました。しかし、州知事が反対し、オバマ政権は計画中止の方向に向いています。エネルギー長官が設置した「米国の原子力の将来に関するブルーリボン委員会」が代替案を検討した結果、今年1月、従来の高レベル放射性廃棄物処分プログラムを抜本的に見直し、最終処分地の選定、処分施設の開発をやり直すよう提言する報告書をエネルギー長官に提出しています。

併せてこうした取り組みの間の対応として「ひとつまたは複数の集中中間貯蔵施設の開発」も勧告しています。ユッカマウンテンには私もかつて視察に訪れたことがあります。あれだけ費用をかけて地下に深い穴を掘ったにもかかわらず計画を断念せざるを得なくなっているほど、米国でも最終処分地の選定には困っているということです。

―日本列島に原発を造ることの危険性を強く主張してきた石橋氏のような地震学者はむしろ少数派だったように見えますが。

少数派だろうと多数派だろうと、科学的なエビデンス(証拠)があるかどうかが肝心です。政治的に少数派であるのと、科学的エビデンスは別の問題ですから。「そんなに心配することはない」と言う人はいますが、「絶対大丈夫です」と言う人はいません。地震や火山活動が活発だから不安定だという意見もある一方、きちんと探せば安定したところがあるはずという意見もありました。

―委員会全体の議論の中で、工学系の研究者が結論に抵抗するということはなかったのでしょうか。

委員会の構成は人文・社会科学系と工学系が半々になっているうえ、工学系の委員もバラエティに富んでいます。原子力を推進してきた先生は数人です。それと学術会議の委員会としては、通常より開催頻度を高くしました。2010年の9月に審議を始め、半年後に東日本大震災、福島第一原発事故が起き、皆さんの緊張感が一挙に高まりました。いい加減なことを言うと大変なことになる。神経を集中してやらなければならないということで、緊張感が高揚した中で議論が進んだと言えます。反対するにせよ賛成するにせよ頻繁に出席してかなり熱心に議論に参加しないと、自分の意見を通すことはできないという状況があったと思います。審議する中で方向が見えてきたのですが、なかには「こんな結論でまとまるわけはない」と考えた委員もいたと思います。最後に「この案で査読に回す」と言った時に何人かの委員から「まだこの案は成熟度が足りない」「もうちょっと時間をかけて審議したらどうか」という意見が出ました。しかし「今、出さないと遅きに失する。この時期にあえて出したい」と主張して、皆さんの同意を取り付けました。査読用の最終回答案は、時間がないということでメール審議にしました。議論はよいから駄目なら「反対」と書いてほしい、と。

(続く)

今田高俊 氏
(いまだ たかとし)

神戸市生まれ、甲陽学院高校卒。1972年東京大学文学部社会学科卒、75年東京大学大学院社会学研究科博士課程中退、東京大学文学部社会学科助手、79年東京工業大学工学部助教授。88年東京工業大学工学部教授を経て96年から現職。日本学術会議会員。研究分野は社会システム論、社会階層研究、社会理論。著書に「自己組織性-社会理論の復活」(創文社)、「意味の文明学序説-その先の近代」(東京大学出版会)など。

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