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コラム - インタビュー -

第1回「原子力委の依頼を超えた回答内容」

日本学術会議・高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会 委員長 今田高俊 氏

掲載日:2012年10月16日

「高レベル放射性廃棄物『暫定保管』提言の衝撃」

原発に依存した社会であり続けるか、脱原発化か、で世論は真っ二つの様相をきたしている。しかし、どちらを選択するにしても日本はすでに深刻な問題を抱え込んでいる現実に変わりはない。すでに相当量たまっている使用済み燃料を含む高レベル放射性廃棄物をどこに処分するか、という難題だ。どちらの道を選ぶにしろ、深刻さの度合いの差でしかないように見える。「最終処分する前に数十年から数百年程度の期間、回収可能な状態で安全に保管する」。これまでの原子力政策にはなかった「暫定保管」という新しい選択肢を盛り込んだ提言「『原子力委員会審議依頼に対する回答高レベル放射性廃棄物の処分について』PDF」を9月10日にまとめた「日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」の今田高俊委員長(東京工業大学大学院 社会理工学研究科 教授)に、高レベル放射性廃棄物処分の難しさと今後の見通しを聞いた。

- 今回の文書は、原子力委員会からの審議依頼に対する「回答」となっているのですね。最も戸惑っているのは原子力委員会ではないかと想像します。率直に申し上げて、「よくここまで明快な報告書にまとまったな」と感じた人は相当多かったのではないでしょうか。

今田高俊 氏
今田高俊 氏

原子力委員会委員長から、日本学術会議会長に審議依頼が来たのは2010年9月です。原子力委員会は、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が2000年にできたにもかかわらず、最終処分場選定のとっかかりとなる文献調査にも着手できない状況に困っていました。高レベル廃棄物の地層処分について国民にどう説明し、どのように情報を提供すれば納得してもらえるか考えてほしい、と日本学術会議に審議を依頼してきたのです。

地層処分施設の建設地を選ぶにあたって、設置が可能かどうかを調査する地域を全国公募したり、国が調査の申し入れを行った地域にどのように説明したらよいか、またこれらを実施する機関である原子力発電環境整備機構(NUMO)がどういう役割を果たせばよいか考えてほしい、という依頼でした。今までは説明の仕方がいかにも理系的で「安全だ」「安全だ」とばかり言いすぎたためうまくいかなかった。文系の研究者に入ってもらえば上手な説明の仕方を考えてくれるのでは…。そんな狙いが感じられる審議依頼だったのです。

回答は、こうした依頼の範囲を逸脱して、地層処分そのものについての提言になっています。原子力委員長は、そこまでの検討は頼んでいないのに、と回答を受け取って戸惑われたと思います。

- 福島第一原発事故を機に、原子力委員会は組織の存続自体が危ぶまれる状態になっています。回答を受けたものの、原子力委員会としてはもはや政策に生かすことが困難になっていると思いますが。

大西隆・日本学術会議会長が回答を手渡す時、近藤俊介・原子力委員会委員長の表情は確かに硬かったですね。そのすぐ後に原子力委員会の定例会議があり、そこで私が回答の内容を説明し、白熱した議論になりました。ある原子力委員は「今、自分たちが出した放射性廃棄物は、自分たちの世代で処分するのが将来世代に対する責任である」と言いました。「暫定保管」では、責任を放棄することにならないか、というわけです。そんなことは当然、われわれも十分考えました。しかし、最終処分ということは300メートル以上深い地中に埋めてふたをし、隔離してしまうということです。万一、何千年、何万年後に下からマグマが噴き出してきたらどうなるか。今、全国の原発敷地内と六ケ所村の中間貯蔵施設内にある使用済み燃料を全て再処理して、高レベル放射性廃棄物のガラス固化体にすると、およそ27,000本になります。マグマの噴出とまでいかなくても、大地震や火山活動によってこれらが爆発、飛散したら、お手上げです。こうした手の施しようのない状態を、将来世代に押し付けかねないことのほうが無責任ではないか、と反論いたしました。

「暫定保管」は、ガラス固化体あるいは使用済み燃料を、いつでも取り出し可能な状態で厳重に管理するという考え方です。こうしたサイトを国内に最低限2カ所造り、そのうちの1カ所を保管場所とし、もし危険な兆候が見られたら取り出して、もう1カ所に移すということです。期間の目安は、数十年から数百年で、この期間に半減期を短縮する技術や、容器の耐久性向上などの処分方法の研究開発、さらに地層の安定性に関する研究が進展することを期待します。いろいろな選択肢を将来世代に残し、安全な最終処分の方策を確立するまでのモラトリアム期間を設けたほうがよい、という考え方です。

原子力委員会では白熱した議論になりましたが、最後に近藤委員長は「しっかり回答内容を受け止めて、必要とあれば政府に情報提供していく」とおっしゃっていました。実際に枝野経済産業相には、事務局が事前に説明していたようです。

(続く)
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今田高俊 氏
今田高俊 氏
(いまだ たかとし)

神戸市生まれ、甲陽学院高校卒。1972年東京大学文学部社会学科卒、75年東京大学大学院社会学研究科博士課程中退、東京大学文学部社会学科助手、79年東京工業大学工学部助教授。88年東京工業大学工学部教授を経て96年から現職。日本学術会議会員。研究分野は社会システム論、社会階層研究、社会理論。著書に「自己組織性-社会理論の復活」(創文社)、「意味の文明学序説-その先の近代」(東京大学出版会)など。

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