コラム - ハイライト -

国立大学は公的資金依存を変えないと

政策研究大学院大学副学長 上山隆大 氏

掲載日:2015年11月12日

東京大学主催「大学のイノベーション経営システム確立推進フォーラム」(2015年11月4日)講演(問題提起)から

日本の国立大学の財務会計をみてみると、何の役にも立たないものをわざと作っているのではないかとしか思えない。それぞれの研究にどれくらいの金がかかり、それにどれくらいの間接的なコストがかかるかという観念がないからだ。プロジェクトを進める時に、外部資金をどのように取り、どう回していくか、大学内部の人間がほとんど決定することができない。


間接経費というのは、実際に研究をやるときにかかる間接的な運営上の全ての経費を表しているものだ。 (直接経費の)30%が適当では、ということがようやく言われ出したが、一律に決めるのはおかしい。全てのプロジェクトごとに直接経費がどれくらいかかり、それに対して間接経費がいくらかかるから間接的経費は何%になる、という議論をしなければならない。それをやるためには大学本部が大学内の全てのプロジェクトを把握していなければならないが、そういう会計システムになっていないのが問題だ。

間接経費をきちんと計上することが、大学内のリソースを把握する一つの方法でもあると思うのだが、日本では行われていない。大学あるいはそれぞれの部局が、運営のためのお金として取ってきて、大学全体の運営の中で使われるお金であるにもかかわらずだ。国立大学運営費交付金が減らされている日本の現状を考えると大学もそのようなことを考えないといけない時期に来ている。

米国においては1980年以降、大学アドミニストレーション(経営陣)の役割が大きくなってきた。スタンフォード大学、ハーバード大学などいくつかの有力研究大学を見てみると、明らかに80年代、90年代から大学本部の予算が急速に伸びていっていることが分かる。寄付や特許収入で大学の基金をきちんと確保していく動きが高まった。各部局がそれぞれ基金を集め、持っているから、部局の会計を完全に透明にして本部が把握することが必要となる。このようなやり方が日本のどこかでできないものだろうか。

スタンフォード大学、ハーバード大学とも寄付金が相当増えてきていることが分かる。「日本では無理」と言う声が聞かれるが、米国では70年代に寄付税制の変更があり、大学や美術館に対する寄付金が税控除の大きな対象になった。それ以降、大学への寄付金も伸びてきた事実がある。日本でも税制の改正によって同じことが起こり得ると考えている。

米国の大学でも、私立の研究大学と州立大学の違いはある。自力でお金を取ってくる私立研究大学の動きは50年代から出ている。スタンフォード大学をみても大学本部の運営費が拡大してきた。大学が企業との共同研究に力を入れることなどによって、本部の力も強くなっている。プロボスト(学務担当副総長)の果たす役割が大きい。

最近、注目しているのがDesignated Fund(指定基金)というものだ。Unrestrict Fundと呼ばれる使途が決められていない基金の中から特定の戦略的な目的に使うものとしてつくられたらしい。どのように使われているかを見てみると、学際研究、人文科学といった研究費が取りにくいところにもこのお金を回している。総合大学に欠かせない人文系に配分ができるのも、こうした基金があるからだ。日本の国立大学は本部に自由がないから、こうした戦略的資金配分ができない。スタンフォード大学だけでなく、カリフォルニア大学バークレー校などもDesignated Fundが急速に伸びており、戦略的に研究資金を提供することが行われている。


欧州の大学も、経済的インパクトが大きい研究にしか政府がお金を出さなくなる傾向が見られる。公的資金に依存している大学が多いため、納税者への説明としてイノベーションに力を入れていると言わざるを得ない事情からだ。この何年かで米国的に変わりつつあるところが見られ、ケンブリッジやオクスフォードといった英国の大学も、寄付金を集めて基金を伸ばしていこうとしている。

スタンフォードやハーバードのような米国の大学の方が、資金が潤沢なこともあり、ゆったりとしており、人文科学系、基礎科学系、応用科学系ともに活躍する大学になっている。州立大学のように公的資金に依存してきた大学の方がプレッシャーが大きく、米国的と言われている大学の方が豊かな環境をつくっているという不思議な現象が起きている。米国は、研究大学に大きな研究開発上の拠点をつくり、総合的な知識とクリエイティブな人間をつくろうとしている。応用技術というよりイノベーティブな環境をつくる意識が強い、という感じがする。

公的資金で完全に守られている日本の国立大学も変わらないといけないのではないだろうか。社会の中で活動を伸ばしていき、多くの資金が大学に入るようになり、それによっていろいろな成果を出し、さらにより多くの資金が入ってくる。そうした道筋を大学人全体で考えないといけない時期ではないだろうか。

(小岩井忠道)

上山隆大 氏

上山隆大(うえやま たかひろ)氏プロフィール
大阪大学経済学部経済学科博士後期課程修了。スタンフォード大学歴史学部大学院修了(Ph.D.)。上智大学経済学部教授・学部長を経て、2013年4月から慶應義塾大学総合政策学部教授。15年4月から現職。スタンフォード大学歴史学部・客員教授、東北大学工学部大学院工学研究科客員教授などを歴任。著書に「アカデミック・キャピタリズムを超えて:アメリカの大学と科学研究の現在」(NTT出版、第12回読売・吉野作造賞受賞)。専門は科学技術政策。

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