コラム - ハイライト -

第3世代原発導入着々と進める中国

一般社団法人海外電力調査会 参事 渡辺 搖 氏

掲載日:2015年10月21日

科学技術振興機構 中国総合研究交流センター主催研究会(2015年9月28日)講演から

2009年8月、2回目の中国駐在として北京に行き、6年間滞在して7月に帰国した。その間に福島第一原子力発電所での原子力事故が発生し、それに対する中国側の状況を見てきた。

今年7月末のデータを見ると、中国の原子力発電所は運転中のものが25基で約2,340万キロワット、建設中が27基で約2,810万キロワット、合わせて5,100∼5,200万キロワットになる。

講演中の渡辺 搖 氏
写真.講演中の渡辺 搖 氏

福島原発事故の5カ月後に新原発運転開始

2011年3月11日に福島第一原子力発電所で事故が発生した時の中国の対応は速かった。5日後の3月16日には、日本で言えば閣議に相当する国務院常務会議が基本方針を決定している。(1)中国の全ての原子力プラントを対象に、全面的な安全検査を実施する(2)運転中の原子力プラントの安全性の厳格な検査を行う(3)建設中の原子力プラントの厳格な安全審査を行う(4)新規立地原子力プラントの設置許可の厳格化を行うが、当面は設置許可を一次凍結する―の四つだ。

日本では、菅首相(当時)が原子力委員長、原子力安全委員長、原子力安全・保安院長を呼んで最悪のシナリオを作れと指示したのが3月22日。中国が3月16日に基本方針を決めて一斉に走り出したのは立派だと思う。推進部門である国家エネルギー局、規制当局である環境保護部の国家核安全局、さらに中国地震局が連携して民生用原子力施設の総合安全検査をどんどん進めた。そしてそれまで建設が進められていた嶺澳原子力発電所4号機は、福島原発事故の5カ月後、2011年8月に営業運転を開始している。

中国の原子力発電の開発体制は、プロジェクトを進めて良いかどうかを国務院が判断し、国家発展・改革委員会が事務局として個別のサイトごとの審査を行う。原子力の安全規制を担うのは国家環境保護部の下にある国家核安全局で、ここが安全審査を行って建設許可を出す。工業信息化部、日本語なら工業情報化省というだろうか、そこは緊急時対策と軍事が入っていない方の核燃料サイクルと国際協力を担当する。このように行政が三本柱となって動いている。

原子力の安全規制を担う国家核安全局長が福島に行ったのは、2011年11月30日だったと記憶している。2012年6月12日には国家核安全局が「福島原子力事故後の原子力発電所改善行動の通用技術要求」を制定しており、ここでは原子力発電所の水防改善能力や緊急時の補給水、移動電源、使用済み燃料貯蔵プールモニタリング、水素モニタリング、応急制御センターの居留可能性、すなわち重要免震棟の整備といった技術要求をしている。実際に福島原発事故の実情に中国がどこまで踏み込んだかは文字面からは分からない。いずれにせよ、事故の1年3カ月後には緊急時対策としての技術要求を出している。

次がさらに重要だ。6月19日には国家核安全局と国家エネルギー局、中国地震局が一緒になって「全国の民生用原子力施設における総合安全検査の状況に関する報告書」を提出し、同じ19日に国家発展改革委員会、財務部、国家エネルギー局、国防科技工業局の五つの部門、つまり推進側、規制側、財務・管理部門が一緒になって「原子力安全および放射線汚染対策『十二・五』計画および2020年長期目標」を決定している。

1年半後に「原子力発電中長期発展計画2011年∼2020年」決定

こういった動きを踏まえ、翌2012年10月24日に国務院の常務委員会は「原子力発電中長期発展計画2011年∼2020年」を決定した。この中身は公表されていないと思うが、リークされた情報が三つある。一つは第12次五カ年計画期間中、つまり2011年から2015年末までは内陸部の新規建設許可は出さないということ。二つ目に新規に建設する原子力発電所の安全性は第3世代炉(注)と同等の安全性を備えたものであること。三つ目に、2020年末に達成すべき原子力発電設備規模を5,800万キロワットとする、ということだ。

このリーク内容と関連して注目されるのは、2012年11月17日に福清原子力発電所4号機と陽江原子力発電所4号機に着工許可が出たこと。それらは第3世代炉ではない。聞いた話によると、福清3号、4号と陽江3号、4号はツインタイプで先に着工許可がおりていたという。ただし、どちらも3号機の工事がある程度進まなければ4号機は着工してはいけないという条件付きだったそうだ。そういう中で福島第一原子力発電所の事故が発生したため、両発電所4号機の着工開始がストップしていた。先ほどお話した10月24日の「原子力発電中長期発展計画」の決定をもって、凍結解除となる第一歩が両サイトの着工許可だろう。

さらに同年12月、田湾原子力発電所3号機と石島湾原子力発電所にも着工している。田湾はロシア型加圧水型炉のVVERなので厳密に第3世代炉とは言えないかもしれないが、私自身はほぼ第3世代炉と思っていいのではないかと考えている。石島湾の高温ガス冷却炉は第4世代炉だ。従って、ここで文字通り新規着工を許したということである。

この2012年12月をもって福島の影響は終了したと思ったが、まだ続く。2013年6月30日、国家原子力応急委員会が「国家原子力応急計画」の改訂版を発表した。内容がそれまでとどう変わったかは分からないが、緊急時対応を新たなものに変えたことは事実だ。そして2013年9月、陽江5号機と田湾4号機、12月には陽江6号機に着工許可がおりる。陽江5号、6号はループ(原子炉容器、蒸気発生器、一次系ポンプを連絡している配管)が3系統ある加圧水型炉だ。手元には少しずつレベルアップを図っているという中国当局の説明表があるが、第2世代炉の延長のように思える。それでも「第2世代炉がバージョンアップしたからよい」ということで許可が出た。これが2014年に入るともっと大きな動きになる。

講演会場のようす
写真.講演会場のようす

米中首脳会談直後に「エネルギー発展戦略行動計画(2014∼2020年)」

昨年11月12日、習近平国家主席とアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で訪中したオバマ米大統領は気候変動に関する共同声明を発表した。この中で習主席は、(1)温暖化を「人類最大の脅威の一つ」として対策をとる(2)2030年ごろに二酸化炭素(CO2)排出量を減少に転じさせる(3)一次エネルギー消費に占める非化石エネルギー比率を2030年までに20%前後まで引き上げる―と表明している。そしてその直後の11月19日、国務院は「エネルギー発展戦略行動計画(2014∼2020年)」を発表し、2020年末の原子力発電設備規模を5,800万キロワット、建設中を3,000万キロワットと明記した。原子力発電を引き続き確実に推進する姿勢を示したということだ。

2014年の動きでもう一つ注意しないといけないことがある。12月5日に3ループの加圧水型炉「華龍1号」が、国際原子力機関(IAEA)の原子炉安全設計審査で承認されたことが記事になった。中国に知財権があるということを言いたかったのかもしれない。華龍1号を造るに当たっては中国核工業集団公司と中国広東核電集団有限公司が力を合わせてやらないといけない、と中国国内では言われ続けていた。

3ループ加圧水型炉はフランスから導入した技術だ。私が聞いた話では、中国広東核電集団有限公司の方は「3ループ加圧水型炉を中国国内では自由に造ってよい」という許可をフランスから得ており、一方の中国核工業集団公司は、中国の外でも建設できる権利を持っているという。運転経験や製造実績から言うと中国広東核電集団有限公司の方が上だが、外に持ち出せる権利は中国核工業集団公司が持つので、二者一緒の必要があるということかもしれない。IAEAで承認されたと伝えながら、「華龍1号は第3世代炉だ」と中国国内に一生懸命宣伝しているのが昨今の状況だ。

中国の原子力発電の大開発時代は2007年から始まった。その成果というべき営業運転開始がその後もどんどん行われた。2015年3月、紅沿河原子力発電所5、6号機が4年ぶりとなる国務院からの新規プロジェクト実施許可を受け、同月中に着工している。福島原発事故以降4年もの間、プロジェクト実施許可を出していなかったのが、5,800万キロワットプラス3,000万キロワットの規模にすると言い、さらに華龍1号が第3世代炉だと言い出している。福清原子力発電所5、6号機のプロジェクト実施許可を4月に出し、5月には5号機に着工している。このあたりから福島事故以降、停滞していた中国の原子力開発が明白に動き出したのでないかと思う。

中国の第3世代原子炉について少し紹介する。私はロシア・ロスアトム社製のVVERは第3世代炉とみてよいと思っている。中国では2基が運転中、2基が建設中だ。VVERは二重格納容器で水素-酸素結合装置を40器ほど持ち、炉心が溶融した時のコアキャッチャー(格納容器下部に設置される炉心溶融物保持装置)を設置している。実物は見ていないが、サイトの模型で見たところ、溶鉱炉のような耐圧れんがに囲まれたものを想像させる。

もう一つ重要なのは、安全上重要な電源区分を4区分としていること。日本では第2世代炉でもせいぜい2区分だ。さらにVVERの設計上で非常に興味深いのは、蒸気発生装置が横置き式であるということ。中国人の知り合いに聞いたところ、横置き式は水位がどこにあるか非常に分かりやすい特徴があるという。

米ウェスティングハウス社製のAP1000は、三門原子力発電所1、2号機、海陽原子力発電所1、2号機を建設中で、さらにどんどん造ろうとしているところだ。こちらも格納容器が二重になっているが電源区分は2区分だけ。代わりに、格納容器の中に大きな水のタンクが三つ設置されている。コアキャッチャーを持たない代わりに、圧力容器の下の部分に水がためられる構造となっており、メルトダウン(炉心溶融)したとしても、圧力容器自体が溶けないような設計になっている。格納容器の中で水を出すところは爆破弁だ。これにより、電気が途絶えても何とかすることができ、大体72時間は耐えられる設計になっているらしい。

一方でAP1000の泣き所は巨大なポンプだろう。原子炉からSG管(蒸気発生装置)に水を出し入れするポンプがまだ開発に成功していない。そのため、2013年末までと予定されていた三門1号の運転開始はいつになるか分からない状態になっている。今、米国で一生懸命開発しているようだが、ポンプが完成したら三門に送り、冷態試験、温態試験を経なければならない。まだ時間がかかるのではないだろうか。

EPRはフランスのアレバが誇る第3世代炉と言われている。二重格納容器とコアキャッチャーがあり、電源区分も4区分とかなり安全なものだ。コアキャッチャーは底が厚いコンクリートになっていて、中の方では水が流れるパイプで熱を取る設計だ。昨年3月、この現場に入ることができた。EPRは台山1号が世界で最初になると思われていたが、原子炉圧力容器上ぶたに問題が生じ、足踏み状態で、代わりに出てきたのが華龍1号だ。核工業集団公司と広東核電集団有限公司の総設計師が二人並んで説明を行ったが、炉心損傷確率は10のマイナス6乗より小さく、大規模な放射性物質の放出事故発生確率は10のマイナス7乗を下回るように設計し、その検証まで行った、と言っていた。

ちなみにAP1000の炉心損傷確率は5かける10のマイナス7乗とされている。そのパンフレットを見せながら再度、華龍1号のより具体的な数字を教えてくれと質問したが「先ほど話したから」というのみだった。いずれにせよ、十分に整ったものではないかもしれないが、相当程度安全なものをつくろうとしているのは事実だ。AP1000とは異なるが、設計上は格納容器の外側に鉢巻きのようにめぐらされた水のプールのバンドのようなものが施されているし、蒸気発生装置や格納容器内の熱交換装置といったものもある。

2050年設備容量目標3億キロワット

中国電力報に載った電力超長期見通しによると、2050年で原子力発電の設備容量は3億キロワットとされている。中国では原子炉寿命を60年としている。原子力発電所の建設の一つの目安は5年間だ。「エネルギー発展戦略行動計画(2014∼2020年)」では、2020年末時点で建設中の原子力発電設備規模を3,000万キロワットとしている。その通りできれば、2050年の3億キロワットという見通しは、大体いい線ではないかと思う。

以上が中国の原子力発電状況だ。2011年3月11日の福島の原子力発電所の事故を受けて規制当局と開発当局が対応し、4年をかけて再度、開発体制を取り戻した。しかし最初に示した通り、運転中と建設中の規模を足しても、現時点では5,100∼5,200万キロワットにしかならない。「エネルギー発展戦略行動計画(2014∼2020年)」で2020年末の原子力発電設備規模として示された5,800万キロワットを達成するにはできれば今年中に600万キロワットくらいを積み上げないといけないだろう。そう考えると、5,800万キロワットというのは少し苦しい数字かもしれない。

太陽光発電、風力発電および原子力発電について、日中のコストを比較すると、日本がそれぞれ1キロワット時当たり27円、22円、8.8∼10.3円であるのに対して、中国の場合は18∼20円、10.2∼12.2円、8.6円となる。日本の場合、太陽光と風力による電源コストがとても高いのが目立つ。親日家であり知日家である中国人の朋友たちから「エネルギー資源に乏しい日本が原子力を捨てたら、日本の将来は無いよ」と何回も忠告されたことを報告したい。

(注)第3世代炉:炉心損傷確率および大規模な放射性物質放出事故の発生確率が、第2世代炉の10分の1以下の原子炉。日本で営業運転となった第3世代炉に相当する改良型沸騰水型(ABWR)炉は4基ある。

(小岩井忠道)

渡辺 搖氏

渡辺 搖 氏(わたなべ はるか)氏プロフィール
北海道大学大学院工学研究科土木工学修了。1976年通商産業省入省。資源エネルギー庁原子力発電安全審査課原子力発電安全統括審査官、社団法人海外電力調査会北京駐在員事務所代表・財団法人日中経済協会北京事務所電力原子力室長、新エネルギー産業技術開発機構(NEDO)地熱開発センター所長、関東経済産業局資源エネルギー部長、日本原燃株式会社広報渉外室部長・理事 、一般社団法人海外電力調査会参事北京事務所長・一般財団法人日中経済協会北京事務所電力室長などを経て、2015年7月から現職。

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