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植物の螺旋(らせん)構造が金属マイクロコイルに

東京工業大学JST-ERATO彌田超集積材料プロジェクト バイオテンプレートグループグループリーダー 特任准教授 鎌田香織 氏

掲載日:2013年8月19日

バイオミメティクス・市民セミナー「バイオテンプレートと構造機能材料」(2013年7月6日、主催:北海道大学総合博物館、協賛:高分子学会バイオミメティクス研究会、高分子学会北海道支部)から

東京工業大学JST-ERATO彌田超集積材料プロジェクト バイオテンプレートグループグループリーダー 特任准教授 鎌田香織 氏

鎌田香織 氏

 

世界最古の鋳造(ちゅうぞう)貨幣は、リディア王国(現在のトルコ)の「エレクトラム貨」といわれ、紀元前7世紀ころにさかのぼる。日本の場合、飛鳥時代の683年に作られた「富本銭」が最初とされている。古代から人類は「鋳型(いがた)を作り、それを成型する発想」を元に、モノづくりをしてきた。

日本語の「鋳型」を意味する英語の「テンプレート」は、一般的にウェブデザインや文章などのひな型を連想するかもしれない。しかし、工芸品・装飾品やマンホールのふたのようなインフラ資材、精密な工学部品まで鋳型が使われている。身近な「たい焼き」の型は、世界中で日本独自の素適な技術ではないだろうか。

私は、東京工業大学の「ERATO彌田(いよだ)超集積材料プロジェクト」に所属し、2012年から「バイオテンプレート」を名称にした研究グループをスタートさせた。微生物の精緻な構造をテンプレート(鋳型)にして、ナノ*やマイクロメートル(μm)スケールの機能材料の創出を目指している。
ナノは10億分の1。1ナノメートル(nm)は10億分の1メートル=100万分の1ミリメートル

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米国の半導体メーカーのインテルは、「Intel Developer Forum 2012 Innovation Enabled Technology Pipeline」において、微細加工技術のロードマップを発表した。それによると、2013年は14nmサイズの集積回路の達成、15年以降は10-5nm、あるいは原子レベルへの到達を目標にしているようだ。

半導体など電子部品の製造では、鋳型加工の発想から、「ナノインプリント」という技術が生まれ、日本のメーカーも技術開発にしのぎをけずっている。製造法のうち1種類を概略すると、〈基板の表面にレジストと呼ぶ樹脂材料を塗布→基板を加熱し、樹脂材料が溶けたところに、超微細加工をしたナノスタンパ(金型)を押し付ける→冷却→ナノスタンパを剥離する〉。これは型を作る技術が非常に重要で、効率良くプロトタイプに運用できるかがポイントになる。現在、ハニカム構造や半球状のマイクロレンズアレイ、四角錘など複雑なデザインの鋳型も、100-数十μmのサイズで作製が可能になった。

微細構造の3次元化についても研究が進んでいる。例えば、レーザービーム加工によって螺旋(らせん)構造を形成した医療用ステント*や、薬剤を皮膚から体内に導入する微小な針「マイクロニードル」などが、日本で実用化しつつある。
血管や気管などの内径を拡げ、維持する医療器具

 

◇植物組織の素晴らしいマイクロ構造

生垣のレッドロビンの木の葉を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、綿状の維管束の導管の壁に、巻き方向が揃ったらせん構造が見えた。微小コイルの作製を思いつき、葉を酸とアルカリで煮て超音波を照射、1年半くらいかかって、直径5μmの左巻きのらせん状の繊維(専門用語で「らせん紋」)を抽出した。レーザー加工によるステントのコイルよりかなり小さく、大量生産の可能性もある。ただ、不要な植物組織の処理が難しく、より良い方法はないかと思案した。そこで次に示す蓮(はす)に着目した。

蓮の茎や蓮根を折って引っ張ると、断面から何本も白い「らせん紋」が出て来る。光学顕微鏡で見ると、左巻きの3次元らせん構造(空芯コイル構造)だ。南半球で採集しても左巻きしか存在しない。直径は50-80μm、ピッチ(ひと巻の間隔)が50-100μm、長さは引っ張り加減によるが、最長数十センチメートル(cm)ほど。引っ張りすぎて巻きが伸びても、水に入れると数分で形が戻る。主成分は結晶性セルロースで、導管壁の強度を上げる役割が考えられている。発生学でも、このあたりのメカニズムはまだ謎が多いと聞く。なお、ミャンマーのインレー湖では蓮糸(はすいと)を紡ぎ、織物を作っている。しなやかな風合いの貴重な民芸品である。

生物由来の金属コイルを作ろうと、らせん構造を「無電解めっき」した。電気を使わない化学反応であり、めっき液に含まれる金属イオンが、めっきしたい金属(この場合は銀)を還元させ、対象物をその金属で被覆(ひふく)する。非金属素材にも適用でき、被膜の均一性に優れている。

この銀のコイルの電気伝導度を測定すると、抵抗率が低くて両端から電気が良く流れ、誘導磁場が生じる。超伝導量子干渉計(SQUID)を使って、コイルの電磁誘導特性を評価した。本来の用途ではないけれど、微小な磁束の変化を検出し、磁気的性質を測定できた。磁場にエネルギーを蓄える「インダクター」として使えるのではないか。「電磁誘導」は、米国の物理学者ジョセフ・ヘンリーが1830年に発見、英国の科学者マイケル・ファラデーが31年に発表している。ヘンリーは、コイルに流れる電流の変化が、逆方向に「誘導起電力(自己誘導)」をもたらすことを発見した。これらの発見は、ワイヤレス通信をはじめとして、現代社会を支える技術に発展した。

 

◇植物の持つマス・ファブリケーションの利用

金属コイルを、「1度に大量生産、形状をコントロールできる」素材として、藍(らん)藻類のスピルリナを思いついた。形は、ラテン語の“Spira(英語:Spiral):らせん形”に由来する名前のとおりだ。アフリカのチャドやメキシコの湖に自生しているが、栄養素が注目され、70年代後半、日本のメーカーが世界初の人工池による培養に成功した。当研究室は、国立環境研究所の微生物系統保存施設の「保存株の情報」から、有料で藻を購入した。スピルリナに特化した培養液を使い、塊ができて沈殿したりしないように、エアポンプで水中に空気を送り込んでいる。

初期培養液で1ミリリットル(ml)に400個位のスピルリナが、8日間過ぎると10万個に増える。透過型電子線顕微鏡(TEM)で細胞分裂の様子を観察した。細胞が群体のように繋がったまま、1つの細胞の真ん中に分割面ができて、2つに分裂して徐々に長くなっていく。大体、直径が40μm、ピッチが60μm、長さが300μmだが、生き物なので、1-2割程度の誤差やばらつきがある。直径とピッチはほぼ一定だが、長さはどんどん伸びていくのが特徴的だ。乾かして走査型電子顕微鏡で見ると、巻き方向が揃ったらせん構造をしていて、しなやかだ。

植物や微生物は、水と光と適当な養分が存在さえすれば、こういう構造を構築して生きのびている。感動と同時に研究意欲を刺激される。

培養条件(温度や光の照度など)によって、ピッチ約15μmのきつい巻きのコイルもできる。興味深いことに、薄い膜状の寒天の上で培養すると、蚊取り線香のような渦を巻いた平面コイル形状になる。この1年余りで、さまざまな条件で培養した形状や巻きが異なるものが250種類できた。

スピルリナの表面は、ゼラチン粘膜のようなもので覆われており、金属化を妨げるので、グルタルアルデヒドというホルマリンに似た薬品で細胞を固定化した。グルタルアルデヒドは、ゼラチン質の主成分のアミノ基とリシンを選択的に結合することで、らせん形状を維持して保存する。銅を無電解めっきしたが、ニッケルやクロムもめっき可能だ。そして「SEM-EDX分析」「XPS分析」「XRDプロファイル」の3つの方法で、元素や化学結合状態などを分析し、物質の結晶構造を同定した。北大総合博物館には、タンパク質の結晶構造を回析する方法が非常に詳しく展示され、勉強になった。

金属コイルは電磁誘導特性を持っているので、量産のために「銅マイクロコイル分散シート」を作り始めた。ホットプレートでパラフィンを80℃で溶解しながら、攪拌(かくはん)したコイルを中に分散し、5cm四方の枠に流し込む。このシートの電波透過率を測定した。何もないシートは100%透過してしまうが、マイクロコイルが1 %存在すると、透過率は0.1%、反射率は3%にすぎない。このシートが電波のエネルギーの97%近くを吸収していることになる。将来的にこのコイル単体を集積回路の要素部材に応用できれば良いが、電波を吸収、遮蔽(しゃへい)、あるいは反射する新しい「コイル分散シート」ができないか、開発に取り組んでいる。

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現在、AM・FM放送、地上デジタルテレビなどは、それぞれ電波の周波数が決まっている。ちなみに、日本で1928年に発明された「八木・宇田アンテナ」は、第二次世界大戦前はむしろ欧米が注目した。携帯電話や電子レンジ、suicaにも、そのサイズに対応したコイルが入っている。いま携帯電話の業界では、5-10GHz(ギガヘルツ)をターゲットにデバイスが開発されている。バイオテンプレートが対象にしている数十から数百μmの範囲を、周波数に変換すると0.5-50THz(テラヘルツ)になる。テラヘルツは光と電波の中間領域で、ギガヘルツの千倍の大きさ(10の12乗)だ。

どの周波数を使うかは、各国が想定して決めている(日本の管轄は総務省)。用途が多すぎて、対応する周波数が無くなって来ている。植物由来の金属マイクロコイルが、高周波に応答する新時代の電子部品材料に貢献できるよう邁進(まいしん)したい。

(サイエンスレポーター 成田優美)
東京工業大学JST-ERATO彌田超集積材料プロジェクト バイオテンプレートグループグループリーダー 特任准教授 鎌田香織 氏
鎌田香織 氏
(かまた かおり)

鎌田香織(かまた かおり)氏のプロフィール
2002年東京都立大学応用化学専攻博士課程修了。ワシントン大学化学科にて博士研究員を経て、03年から東京工業大学資源化学研究所助教。12年から現職。工学博士。最近の論文は「植物組織から金属マイクロコイルをつくる(Fabrication of Metal Microcoil from Plant Tissue)」(Kaori Kamata, Yuka Akimoto, and Tomokazu Iyoda, Cellulose Commun. 20, 69〈2013〉)など。

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