2016年の熊本地震の被災地を再び激しい揺れが襲い、多くの死傷者を出してしまった。7月28日にマグニチュード(M)7.1、最大震度7を観測した「令和8年熊本地震」の発生からまもなく2週間となる。被災地では連日の猛暑の中、懸命の救援作業が続けられているが、倒壊した建物や損壊した道路も多く、復旧には時間がかかりそうだ。依然大勢の人が避難生活を余儀なくされている。災害関連死をなくすための緊急対策と支援が急務だ。
気象庁の8月4日の発表によると、その後の地震は緩やかに減少しているが地震活動は依然活発で、予断は許されない。政府の地震調査委員会は地震の翌日に臨時会合を開き、震源となった断層帯は約30キロにわたって活動したとの見解を示している。この断層には南部にまだ「割れ残り」が残っており、将来的にまた大地震を引き起こす可能性があるという。長期間にわたって警戒が必要だ。


10年前は震度7地震が連続
2016年の熊本地震では4月14日にマグ二チュード(M)6.5、最大震度7の地震が、16日にM7.3、最大震度7の地震が発生し、前者が前震、後者が本震とされた。10年前は最初の大きな揺れが起きた時、多くの人はそれが本震だと受け取った。だが 2日後に規模がさらに大きい地震が同じ地域を襲った。
九州にはいくつもの断層帯が走っている。2016年の熊本地震では最初に九州の北東―南西方向に走る「日奈久(ひなぐ)断層帯」の一部が動き、2日後にその北側に連なり、東北東―西南西方向に走る「布田川(ふたがわ)断層帯」に断層破壊が広がった。
隣接する複数の断層区間が相次いで動いてM7級の大地震に発展した。この連続した地震は、大地震は「一回で終わる現象」ではなく、地下では複雑な断層活動が継続することを如実に物語った。
日奈久断層帯は、北から「高野(たかの)―白旗(しらはた)」「日奈久」「八代海」の3区間に分かれる。全体が同時に活動すると最悪M8.0程度にも及ぶ巨大な地震が起こると考えられていた。

前回上回る2438ガルの激しい揺れを観測
地震調査委の長期評価では、日奈久断層帯3区間それぞれの今後30年以内の地震発生確率を公表している。今年1月1日時点で高野―白旗区間は「不明」、日奈久区間は「ほぼ0%~6%」、八代海区間は「ほぼ0%~16%」だった。確率が3%以上となる区間は最高リスクの「Sランク」に位置付けされている。
長期評価の数値は、過去の地震活動履歴や平均的な活動間隔、地質調査など、さまざまなデータを基にはじき出されている。特定の断層帯で大地震が発生したからといって直ちにその断層帯全体の長期評価が「ゼロ」になるわけではない。断層帯は大小あり、大きい断層帯はいくつかの区間に分かれて評価されている。活断層型は海溝型よりも地震の周期が桁違いに長いので長期評価の作業は難しく「不明」となる場所も少なくない。
今回の大地震の震源は、地震直後から布田川断層帯から連なり、全長約81キロある日奈久断層帯に入った上部とみなされたが、詳しいことは不明だった。

事態を重視した地震調査委は7月29日に臨時会合を召集し、さまざまな観測データを詳しく検討した。今回の地震は北北西―南南東方向に張力軸を持つ横ずれ断層型だった。国土地理院の「GNSS」(GPSをはじめとする衛星測位システム全般)観測では、震源に近い熊本県八代市の「千丁電子基準点」で北東方向に約87センチ移動するなど、広い範囲で地殻変動を確認できた。
地球観測衛星「だいち2号」の合成開口レーダーの干渉解析結果からも大きな地殻変動があったことが分かった。また、防災科学技術研究所の観測では、震源に近い熊本県の2カ所の観測点でそれぞれ1667ガル、2438ガルの大きな加速度を捉えていた。10年前の熊本地震の時の最大観測値は1791ガルだったのでこれを大きく上回った。
ガルは地震で地面がどれだけ激しく揺れたかを示す「加速度」の単位で、瞬発的な揺れの強さを示す。1000ガルは、揺れの方向や継続時間にもよるが、固定していない家具が大きく動いたり、倒れたりするレベルとされる。観測数値は横ずれ断層型の突発的な強い揺れの凄まじい力が多くの建物を襲ったことを示していた。


10年前の「割れ残り」が破壊と判明
地震調査委はこれらのデータを総合的に検討した。その結果、今回活動した震源断層帯は日奈久断層帯の約30キロで、日奈久区間の北東部と高野―白旗区間の一部に及んでいると判断した。この場所は2016年の地震の震源断層と隣接していた。
記者会見した地震調査委の小原一成委員長は「重なっているかどうかは精査が必要」と慎重な説明をしつつ、地震直後に多くの専門家が指摘した「10年前の地震で割れ残っていた領域が破壊した」との見方を公式に示した。
地震調査委はまた、「(日奈久断層帯周辺では)活発な地震活動が継続しており、その範囲は北東―南西に延びる50キロに広がっている」と断定した。この断層帯は単純な一本の断層ではなく、枝断層から成る複雑な構造をしていることで知られる。
地震後に頻発した地震は、7月28日の大地震により断層が大きくずれたことで周辺地下の力(応力)のかかり方が一気に変化。小さな断層や岩盤の割れ目などが破壊されて起こっているとみられる。周辺の岩盤や小断層が新しい力のバランスへ向かう過程で起きる「余震」と捉えることができる。



怖い「割れ残り」の破壊リスク
重要なのは、今回3区間ある日奈久断層帯全体が一度に動いたわけではないということだ。一般的に「活断層帯が動いた」と言うと、一つの断層帯全体が一気に破壊したような印象を与える。しかし、実際には数十キロから100キロを超える長大な断層帯の場合、一回の地震で動くのはその一部であることが多い。
今回も動いたのは全長約81キロのうちの約30キロだ。地震調査委の詳しい検討により、今回活動した範囲が日奈久断層帯全体の一部にとどまることがはっきりした。一連の余震で「割れ残りが少しずつ壊れている」わけではない。将来別の大地震を引き起こす危険は解消されていない。
南側の八代海区間は海底にも延びている。将来この区間で大地震が発生し、海底地盤が大きく上下すれば大津波を引き起こす。小原氏は「いつ起こるかは分からないが、将来的には日奈久区間の割れ残り部分も破壊されて(大きな)地震を引き起こす可能性は十分ある」などと述べている。
多くの専門家も同じような見方をしている。東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)の福島洋教授は、IRIDeSが7月31日に急きょ開催したオンライン会見(速報会)で、被災地入りしていた遠田晋次教授に代わり、同教授が作成した解析結果を発表、解説した。
この中で福島氏は、2016年の地震以降も地震地殻活動が継続していて、今回の地震を一連の活動の中で捉える必要があると指摘。「2016年の地震により日奈久断層帯沿いに地殻にかかる応力変化が生じた。応力が高まって実際に地震活動も活発化していた範囲の中で今回の地震が起きた」と解説した。10年前の大地震は今回の大地震発生の「火種」として見えない形でくすぶっていたとも言える。
さらに福島教授は、今回の地震による応力も加味した日奈久断層帯周辺の応力図を示しながら「直ちに次の大地震が起きることを意味するわけではないし、発生時期を予測できるわけでもないが、この断層帯の南部や周辺の断層について地震活動や地殻変動、周辺断層の変化をこれまで以上に注意深く監視していく必要がある」と強調している。今回の地震が新たな「火種」になっている可能性を否定していない。



地震のリスクを抱えながら継続した減災力を
日本列島は4つのプレートがせめぎ合う世界有数の地殻変動帯に位置する。地震そのものを止めることはできない。さらに厄介なのは、大地震は、一瞬の強い揺れだけで影響が終わる現象ではないことだ。地震活動や地殻変動は長く続き、被災地では長期間にわたって二次被害や生活環境の悪化に直面する。
今回の熊本地震ではまた多数の尊い命が奪われた。家族や知人の悲しみはいかばかりか。多くの人が住まいを失い、猛暑下の過酷な避難生活を強いられている。無情に突然襲う自然、地震の残酷さ、理不尽さを見せつけた。だが立ちすくんではいられない。
現在の科学では地震を事前予知することはできない。しかし、多くの犠牲を出す大地震の度に少しずつでも、地上からは見えない地下の変化を解き明かしてきた。今回も地震研究に関わる多くの研究者が被災地入りしたり、研究機関でデータを分析したりしながら緊急調査を続けている。
研究者らの調査は地下で何が起きたか、起きているかを解明し、次の災害に備える新たな教訓につながる。得られた知見を被災地の復旧・復興と全国の防災・減災対策に生かす。そして「地震大国・日本」の災害時の緊急対応力や持続した減災対策の強化につなげなければならない。

関連リンク
- 気象庁「報道発表資料」
- 国土地理院「令和8年(2026年)熊本地震に関する情報」