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《JST共催》離れていても感覚が伝わる-「情報ひろばサイエンスカフェ」で研究者と市民が語り合う

科学コミュニケーションセンター

掲載日:2017年12月5日

「身体×テクノロジー ~身体性から考える未来のメディア~」をテーマに「情報ひろばサイエンスカフェ」〔主催・文部科学省、共催・科学技術振興機構(JST)〕が11月24日、東京都千代田区霞ヶ関の同省内にあるラウンジで開かれた。「情報ひろばサイエンスカフェ」は科学者らさまざまな分野の専門家と市民が科学や科学技術にまつわる話題や課題について自由に語り合う場として企画されてきた。また、「越境する」をテーマに掲げる「サイエンスアゴラ2017」(JST主催)の連携企画の一つでもある。

今回の講師は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)准教授の南澤孝太さん。ファシリテータ-は同じくKMDの柳原一也さんが務めた。参加者は高校生1人を含む16人。体験デモンストレーション(体験デモ)などを通じて参加者は身体感覚の不思議な世界を実感できたようだ。

この日はカフェが始まるまでの時間を使って「感覚が伝わる」という体験デモが行われ、参加者全員会場に到着した順に“体験”した。体験デモは2つ。一つはハムスターが餌を食べている感触が、棒を持った人の手に伝わってくるというもの。実際はつかんだ棒に振動が伝わってきているだけなのだが、餌を食べているハムスターが映像で流されているため、実際に餌を食べている感覚になってしまうのだ。もう一つは、コードでつながれている2つの紙コップを使ったデモ。片方の紙コップにビー玉などを入れて振ると、もう片方の紙コップは空なのに、ビー玉を入れたのと同じ感覚が得られるというもの。

写真1 振動を感じる体験中の参加者(左)とファシリテーターの柳原一也さん(右)
写真1 振動を感じる体験中の参加者(左)とファシリテーターの柳原一也さん(右)

柳原さんは一人一人にていねいに説明しながらこの体験デモを行った。そのこともあって、参加者はカフェ開始の頃には既に不思議な感覚の世界を感じ始めていたようだった。そして、「今日はどのような話が聞けるのか」。そんな期待感で会場内の空気は包まれた。

南澤さんは東京ディズニーランドのある浦安(千葉県)で生まれ育った。そのため、小さい頃からテクノロジーがエンターテインメントを変えることに親しみを持っているという。「少年時代は遊園地の乗り物に乗っているときにもただ楽しむだけではなく、どこにスピーカーが隠れているのだろう、煙はどこから出ているのだろう、といったことを考え、それを探求する子どもだった」と少年時代を振り返る。中高生になると技術を使って人を楽しくさせたいという思いから、東京・秋葉原に部品を買いに行くようになったこと、そして大学時代にバーチャルリアリティ(VR)の世界と出会ったことが現在の研究につながっていることなど、現在に至る経緯を紹介している。

写真2 講師の南澤孝太さん
写真2 講師の南澤孝太さん

南澤さんは、「触覚」のほか、「遠隔存在感(テレイグジスタンス)」、テクノロジーによる「身体拡張」というテーマを中心に研究している。テレイグジスタンスとは、例えば孫の結婚披露宴に入院のために出ることができないおばあちゃんが、入院先の施設にいたまま、まるで披露宴会場に出席しているような感覚になれるというもの。おばあちゃんは、孫にもお嫁さんにも触れた感覚を得ることができるという。披露宴会場の方でも、ロボットを通しておばあちゃんがまるでそこに存在しているように感じることができる。カフェの参加者はその映像を見ながら、参加者自身もあたかもそこに一緒に存在しているかのような一体感を実感していた。

この研究が進めば、さまざまなことが実感できるようになるという。例えば、水中に潜る、放射線が漏れているような危険な場所で作業する、空を飛ぶ、といったケース。実際の現場にはロボットがいて、人は離れたところにいて操作する。その際、操作する人は現場の触覚を感じながら自在に作業ができるようになる。南澤さんは、それらのアイデアを多くの人がさまざまな分野で使えるようになるために一般の人たちとともに考えていきたい、という。そんな思いを実現するためにこれまでにいくつものワークショップを開催してきた。

この日の後半は、その経験を持ち込んでワークショップを展開。参加者からさまざまなアイデアが出された。「国際会議を一つの国に集まらないで、人はそれぞれの国にいたまま会議を開けるようにしたい」「自動車教習に使用するシミュレーターに感覚も取り入れたい」「音楽を色で表して、聴くだけでなく目でも見てみたい」などなど。

写真3 ワークショップでアイデアを提案する参加者
写真3 ワークショップでアイデアを提案する参加者

「どこまでが自分の意志でどこまでが機械(AI)の意志なのか、どこまでが自分の体でどこからがロボットなのか。技術の進化によりそれらの境界線が曖昧になってしまう」と南澤さん。最終的には哲学的な問題に踏み込むことにはなると指摘した。その上で南澤さんは「そうした問題を私たちが今後どのように考えていくかが課題となっていく」などと技術の進歩について皆で考えていくことの大切さを強調した。そして最後に「この領域はこれからどんどん盛り上がっていく。(今日のカフェを)いろいろなものを目にしたときに、これが将来どのように変わっていくのか、またはどのように変わっていったらいいのか、を考えるきっかけにしてほしい」と結んだ。

この日のサイエンスカフェの記録はこれまで同様「ギジログガールズ」がまとめた。

ギジログ1
ギジログ1
ギジログ2
ギジログ2
ギジログ3
ギジログ3
ギジログ4
ギジログ4
ギジログ5
ギジログ5
ギジログ6
ギジログ6

写真 サイエンスカフェをまとめた「ギジログ」(ギジログガールズ記録)

(科学コミュニケーションセンター早野冨美、写真は野本直子)

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