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《JST共催》電子が磁石になる―「情報ひろばサイエンスカフェ」で研究者と市民が語り合う

科学コミュニケーションセンター

掲載日:2017年10月5日

「電子の磁石×くらし~分子の状態を見て、くらしをチェック~」をテーマに、「情報ひろばサイエンスカフェ」〔主催・文部科学省、共催・科学技術振興機構(JST)〕が9月29日、東京都千代田区霞ヶ関の同省内にあるラウンジで開かれた。「情報ひろばサイエンスカフェ」は科学者などのさまざまな分野の専門家と市民が科学や科学技術にまつわる話題や課題について自由に語り合う場として企画された。今回の講師は自然科学研究機構分子科学研究所准教授の中村敏和さん、ファシリテーターは科学技術振興機構(JST)戦略研究推進部の黒木彩香さんが務めた。中村さんは黒木さんとのやり取りも交えながら、電子の磁石とは何か、日々の暮らしの中でどのように応用されているか、などについて分かりやすく解説してくれた。約30人の参加者は磁石がより身近な存在であることを実感したようだった。

中村さんの話が始まる前に黒木さんは参加者に「磁石に興味のある方は」と挙手を求めると大多数の人が手を上げた。この日のテーマに関心を持って聞きに来たという人が多いようで、どんな話が聞けるか楽しみにしている様子がうかがえた。黒木さんが続けて「中村先生に会いに来た方は?」と聞くと挙手はまばら。中村さんが「あらっ」という顔をするとそれまで静かだった会場は笑いに包まれた。固い雰囲気が一気に和らいで会場との距離が縮まったところで、中村さんが話し始めた。「今日は電子スピンの話を中心にします。聞き慣れない言葉で、内容も難しいですが、なるべく易しく、具体的な例を挙げながらご紹介したいと思います」。

中村さんは京都大学理学部出身。現在は電子スピンサイエンス学会会長も務めるなど、電子スピン研究分野の気鋭の研究者だ。自己紹介では、実家が大阪の「ボタン屋」さん(婦人装飾品店)で「親が個人商店をやっていたし、進学などでとやかく言われなかったが、中学のころから科学に興味があって『ブルーバックス』〔講談社〕を片っ端から読んでいた」と、量子力学などの非日常的な現象への興味が研究者への道に結び付いたことを紹介した。

写真1 講師の中村敏和さん
写真1 講師の中村敏和さん
写真2 「情報ひろばサイエンスカフェ」会場内の様子
写真2 「情報ひろばサイエンスカフェ」会場内の様子

続いてこの日のテーマに。「電子スピンは原子核の周りをぐるぐる回っている電子が、その電子自身も回転しているのでそう呼ばれます。電子は自転するので磁場が発生します」と中村さんが説明すると、「電子が回ることによって磁石になるの?」とすかさず黒木さん。「自転している地球が、太陽の周りを回っているようなもの。地球も大きな磁石ですよね」と中村さんは電子を地球に例えた。

中村さんが専門用語を使うと、黒木さんが別の言葉に置き換えながら質問し、中村さんがイメージしやすい具体例を挙げながら解説。ともすれば難解な研究内容の講義になりがちなのをなるべく分かりやすく伝えるこうした工夫もカフェの特長のひとつだ。

この日は理科実験も行われた。電流と磁界と力の関係を理解してもらうためだ。磁石と乾電池、アルミ箔を使ったモーターの原理の実験と、アルミニウム製の筒と球形の磁石を使った電磁誘導の実験だ。簡単な実験だったが、参加者らは身を乗り出すように中村さんのしぐさを見つめている様子が印象的だった。

写真3 モーターの原理の実験装置
写真3 モーターの原理の実験装置
写真4 楽しそうに実験を行う中村さんとサポートをするファシリテーターの黒木さん
写真4 楽しそうに実験を行う中村さんとサポートをするファシリテーターの黒木さん

基本的な説明と実験の後、中村さんは電子スピンがどのように応用されるかに触れた。電子スピンは測定することが可能なので、実に多くの分野で応用されている。暮らしに身近な医療分野や食品分野だけでなく、地質の様子や年代を調べることなどにも利用できる。さらに、人工的に電子を取ったり加えたり操作することで、機能性のある材料を作ることも可能だという。

質疑応答に入ると、会場からは「ラジカル(対になっている電子が離れて1つになったもの)は不安定ですぐに消滅してしまい、磁気を測定するのは難しいのでは?」「電子スピンを見るとは具体的に何を測定しているのですか?」など、かなり専門的な質問が相次いだが、中村さんは一つ一つていねいに答えていた。この日のカフェは最後まで「楽しい電子の磁石ワールド」だった。

この日のサイエンスカフェの記録は前回に続き「ギジログガールズ」がまとめた。

サイエンスカフェをまとめた「ギジログ」(ギジログガールズ記録)

ギジログ1
ギジログ1
ギジログ2
ギジログ2
ギジログ3
ギジログ3
ギジログ4
ギジログ4
ギジログ5
ギジログ5
ギジログ6
ギジログ6
ギジログ7
ギジログ7

(科学コミュニケーションセンター 早野富美、写真は野本直子)

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