レポート

海外レポート ジェンダーと科学の国際会議「ジェンダーサミット6」韓国・ソウルで開催 - 2017年に日本で開催決定

2015.10.08

ダイバーシティ推進室 / 科学技術振興機構

 2015年8月26?28日の3日間、韓国ソウルでジェンダーサミットが開催された。このサミットは、ジェンダー(社会的性差)を科学技術にとって重要な要因と捉え、ジェンダーを視野に入れたイノベーションによって、世界の諸問題の解決を目指す国際会議である。2001年、欧州委員会を中心にブリュッセルで第1回を開催以降、欧州や米国を経て、2015年4月には第5回を南アフリカのケープタウンで、8月には第6回を韓国のソウルで開催するなど、欧米諸国以外も含め、積極的に世界展開を行っている。さらに2015年11月には第7回がベルリンで開催予定である。

 この会議の特徴は、エビデンス→コンセンサス→アクションの流れで具体的な行動を起こすことを重視しており、単なる問題提起にとどまらないところである。また、参加者も大学、公的研究機関、国際機関、政策立案を行う各種団体など、多彩な顔ぶれが一堂に会して具体的な行動に向けた活発な議論が行われていることも大きな特徴といえよう。

 第6回ジェンダーサミット (韓国)は、「創造産業に向けてよりよい科学技術を?研究、開発、ビジネスにおけるジェンダーイノベーションを通して社会にインパクトを与える?」という全体テーマの下、40の国および地域から589人が参加して開催された。

※ジェンダーイノベーション/性差を視野に入れた研究開発を行うことによって生まれるイノベーション

 科学技術振興機構(JST)はこのジェンダーサミット6に開催協力パートナーとして参加し、日本からはJSTを含む学会、大学、企業など総勢40人以上がこのサミットに参加した。サミットでは口頭の発表105件、ポスター発表72件、合計177件の発表があり、活発な議論が行われた。参加国の地域は東アジア、欧米をはじめ東南アジア、南アジア、オセアニアなどで、宗教、国家の経済的地位、社会情勢の違いを踏まえた各地域の問題や取り組みの発表は、非常にバラエティに富んだものとなった。

ジェンダーサミット発表風景(出典:Gender Summit 6 Asia-Pacific Gallery)
写真1.ジェンダーサミット発表風景。(出典:Gender Summit 6 Asia-Pacific Gallery)
ポスター発表も行われた(出典:Gender Summit 6 Asia-Pacific Gallery)
写真2.ポスター発表も行われた。(出典:Gender Summit 6 Asia-Pacific Gallery)

 プログラムでは、研究開発においてジェンダーの視点を取り入れた下記の事例が紹介され、実験に関する現状や、商品開発における現在の流れなど、さまざまな研究成果や知見を共有する場となった。

【紹介された代表的事例】

  • 自動車のシートデザインやエアバッグ等の安全装置は、男性タイプの人型を使用した実験を基に開発されてきた。その結果、自動車事故でむち打ちになる危険性が男性よりも女性の方が圧倒的に高い。これを受けて最近では女性タイプの人型を使用した実験が行われ始めている。
  • 薬の臨床実験や骨粗しょう症の診断法について男性のみを対象とした実験や診断が行われたことにより、女性の治療の際に死亡を含む重篤なケースが発生するなど、適切な診断にならなかった。
  • 女性の方が痛みに敏感であるにもかかわらず、多くの場合、鎮痛薬の研究開発には今でも雄のラットやマウスが用いられている。
  • 大腸がん診断で利用される内視鏡検査の方法は、男性に適した形で確立されている。

 社会システムの事例紹介としては、性別を男女2択から複数の選択肢に変更したスウェーデンの小学校の事例や、各種教育制度や国家による支援、奨学金、また新しい評価基準のファンディング制度など、ジェンダーギャップを解消するための施策が多数紹介された。必ずしもこれらの制度がすぐに成果に結びつくとは限らないが、最終的には社会全体の仕組みに対して力を及ぼし、男女および性的マイノリティに適応したより良い社会の実現に貢献するという講演もあった。

 一方、日本からは プレナリ−セッション(公募演題)で原山優子(はらやま ゆうこ)内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員、宮浦千里(みやうら ちさと)東京農工大学副学長、石川幹子(いしい みきこ)中央大学教授がそれぞれスピーチを行い、日本での取り組みの現状や女性研究者活躍推進施策、また、女性の力が大いに発揮された新しい研究領域の成果を発表した。特に東日本大震災後のまちづくりにおける、形成過程とジェンダー視点の関わりと効果について論じた石川教授の発表では、積極的な質疑応答が交わされた。

 最終日、ソウル宣言が公表され、併せて2017年にジェンダーサミットを日本で開催することも発表された。Hei Sook Lee(WiSET/Women in Science, Engineering and Technology)理事長から渡辺 美代子(わたなべ みよこ)JSTダイバーシティ推進室長にジェンダーサミットのトーチが手渡され、2017の日本開催に向けバトンタッチがなされた。

2017年日本での開催に向け、ダイバーサミットのトーチがHei Sook Lee理事長から渡辺美代子JSTダイバーシティ推進室長に手渡された。
2017年日本での開催に向け、ダイバーサミットのトーチがHei Sook Lee理事長から渡辺美代子JSTダイバーシティ推進室長に手渡された。(出典:Gender Summit 6 Asia-Pacific Gallery)

 なお、期間中、JSTは日本からの参加者を中心としたダイバーシティに関する意見交換会も開催し、日本の大学、学会、企業からの参加者、約30人が集い、各参加団体のダイバーシティに関する取り組みが紹介された。お互いに初対面の参加者も多く、それぞれの立場と問題意識による意見が活発に交わされ、新しい知見を得る機会となるとともに、参加者間に新たなネットワークを構築する機会ともなった。

 また、ジェンダーサミット2017年の日本開催に向けた議論が行われ、ジェンダーのみならず、幅広くダイバーシティ(多様性)を推進する方向性が示されるなど、文字通りダイバーシティに関わる意見交換会となった。

【ジェンダーサミット日本開催に向けた主な意見】

  • 大きなテーマを決め、ジェンダーだけではなく他のテーマと組み合わせるのはどうか。
  • 男性の理解を深めるためのテーマも必要。
  • 東アジアのみならず、東南アジアとも連携の輪を広げるべきだ。
  • 国内機関との幅広い連携が必要。
  • 若手・社会科学系研究者など多様な参加者を積極的に募るべきだ。

 ジェンダーサミット日本開催まであと2年。国内外の多彩な機関の連携とともに、開催国である日本全体、そして科学技術分野におけるジェンダーギャップの改善が望まれる。現在、日本のジェンダーギャップ指数は142か国中104位(2014年)という結果だ。このジェンダーサミット開催に向けてさまざまな機関が互いに連携することで、イノベーションが生まれ、より多くの人に適した社会へつながることを期待したい。

[参考(プログラム)]

第1日目(8月26日)
カンファレンスとワークショップ(3会場)

  • Conference 1 
    高等教育段階のSTEMM (Science, Technology, Engineering, Mathematics, and Medicine)分野でのジェンダーに関する取り組み紹介
  • Conference 2
    K-12(教育を受ける最初の12年間)の教育における、ジェンダー改善に向けたSTEMMの才能育成プログラムの提案
  • Workshop
    11th AASSA (The Association of Academies and Societies of Sciences in Asia) 地域ワークショップ 科学研究と教育におけるジェンダー問題について-科学、工学、技術と産業におけるジェンダーイノベーション

第2日目(8月27日)
オープニングセレモニーでのウェルカムスピーチの後、キーノートスピーチがあり、プレナリーセッションが二つ行なわれた。その後、3会場に分かれ、パラレルセッションが行なわれた。JSTでは、同じ時間帯にダイバーシティに関する意見交換を開催した。

  • Plenary Session
    1:ジェンダーイノベーションを通じて優秀な研究の追跡
    2:ジェンダーの基盤構築とイノベーションを促進する科学政策の開発
  • Parallel Session
    1:より効果的で持続可能な成果に向けたアジアパシフィックにおける研究、イノベーション、開発ゴールへのジェンダーの主流
    2:研究におけるジェンダーイノベーションのワークショップ
    3:ジェンダーに配慮したイノベーションエコシステムの推進
  • その他
    JST主催 ダイバーシティに関する意見交換会

第3日目(8月28日)
前日より1、2と続いたプレナリーセッションの3、4、5を開催。ソウル宣言の採択、クロージングセレモニーが行われた。

  • Plenary Session
    3:STEMMにおけるジェンダーの多様性を改善するための政策とパートナーシップの進展
    4:ジェンダーを基盤とした技術を通して社会経済の改善に向けた公的要望の構築
    5:科学、技術、政策のネットワークを通じたジェンダーイノベーションに向けた指導力の発展

その他、3日間通じて、ポスターセッションが開催された。

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