レポート

平成26年度「野依科学奨励賞」発表

2015.05.11

サイエンスポータル編集部

 今年も野依科学奨励賞が決定し、4月15日から国立科学博物館のウェブページで紹介されている。朝顔の水やりをきっかけに、小松菜や三つ葉が葉・茎・根のどの部分で水を飲むのかを調べた「しょくぶつのくちはどこにあるの?」[山本知明(やまもと ともあき)さん/小1]、カタツムリとナメクジを比較して、ヌメヌメした分泌液の出し方や性質の違いを観察した「なめくじさんおうちはすてたの?パートⅢ」[片岡嵩皓(かたおか たかひろ)さん/小3]、クロオオアリのコロニーで、アリたちの役割分担の変化を観察した「アリの役割分担を探る 2014年クロオオアリ観察日記 Part4」[世鳥山和也(よとりやま かずや)さん/中2]など、どの作品もユニークな視点が引き立つ。虫や植物、鉱物など、身近な自然の中で見つけた疑問符を契機に、丁寧に粘り強く観察した作品ばかりだ。

 同賞は、国立科学博物館が「子どもたちの科学技術・理科への興味関心を高め、科学する心を育てる」ことを目指して2002年に始めた「博物館の達人」事業の一企画として立ち上げられた。今回は12年目にあたり、ウェブでは過去の受賞作品の記録を見ることができる。同館の担当者、土屋順子(つちや じゅんこ)さんは、「研究を発展させて数年にわたり受賞する方が多いことも特徴」と言う。確かに、「骨から見た動物の暮らしや姿」[青木至人(あおき ゆきひと)さん/中3]の研究は6度目の受賞で、小学校3年生から同じテーマで研究し続けているようだ。ほかにも、先に挙げた「なめくじさんおうちはすてたの?」の嵩皓さんの兄、柾人(まさひと)さんは、「だんごむしとわらじむしってふたごかな?」をテーマに、小学1年のときから6年間続けているらしい。兄がダンゴムシとワラジムシを、弟がカタツムリとナメクジを、2人そろって何年も観察し続けている姿を想像してほしい。2人が大人になっても、原風景として、記憶の中に宿り続けることだろう。

 3月に行なわれた授賞式で、野依良治(のより りょうじ)審査委員長は、「受賞者の多くは、探究には時間がかかり、簡単には投げ出さない、あきらめない力が必要なことを実感していることでしょう。今年は戦後70年ですが、ほとんど焼け野原になった日本が、今では奇跡的な復興をとげ、安全で、平和で、優れた技術を持ち経済的にも繁栄した、世界で尊敬される国になりました。その歩みを支えた力の一つが科学技術だと思います。疑問や問題点に真剣に取り組み、壁に当たってもあきらめず、粘り強く探求してきた多くの科学者・技術者たちが進歩を切り開いてきました」と語り、「優秀でみずみずしい感性をもった若い人たちが、人任せではなく、自分で責任をもって未来を切り拓いていってほしい」と子供たちにエールを投げた。一方、指導者の部の受賞者に対しては、「教育の現場はどんどんゆとりがなくなり、児童・生徒と一緒に、時間をかけて課題に取り組む活動は難しくなっていると思いますが、今後とも志を失うことなく、ご指導をお願いします」と語った。

 野依科学奨励賞への2014年度小中学生の部への募集は60件だったという。派手には目立たぬ地道な活動だが、参加した子供たちには、時間に追われる現代生活ではなかなか体験できない価値のある時間を生み出しているのだろう。今年も、11月30日を締め切りに、小論文作品を受け付けている。

片岡嵩皓(かたおか たかひろ)さん(小3)の作品「なめくじさんおうちはすてたの?パートⅢ」
写真1. 片岡嵩皓(かたおか たかひろ)さん(小3)の作品「なめくじさんおうちはすてたの?パートⅢ」(2014年度)より。
カタツムリとナメクジの分泌液を比較する観察をした結果、「カタツムリはしっぽの近くの少し凹みがある部分から、進む時と体をそうじする時だけ分泌液を出すのに対し、ナメクジはしっぽの近くで凹のない部分から、常に分泌液をしみ出させている」など、興味深い結果を得た。
増井真那(ますい まな)さん(中1)の作品「変形菌の研究-7 変形体の「自他」を見分ける力」
写真2. 増井真那(ますい まな)さん(中1)の作品「変形菌の研究-7 変形体の「自他」を見分ける力」(2014年度)より。
増井さんは、変形菌の研究を小学1年生から続けている。今年は異なる種類の変形体を出会わせるとどうなるのかを研究。291シャーレで合計526回の出会いの実験を行い、変形菌に自他を見分ける力があるか、自他の融合の仕方には何が関わるかなどを観察した。
大竹杏実(おおたけ あみ)さん(小4)の作品「雨蛙と冬眠」
写真3. 大竹杏実(おおたけ あみ)さん(小4)の作品「雨蛙と冬眠」(2011年度)より。
雨蛙が冬眠する条件を調べた。5カ月間、毎日、生きたエサを与え、皮膚の乾燥を防いで飼育しながら観察した。その結果、[1]冬でも気温が 13〜15℃と温かく安定した環境では冬眠しない、[2]冬眠を体験した雨蛙でも、気温が高く皮ふの乾燥を防ぐ水とエサが十分にある環境では冬眠しない、[3]気温が一定に保たれた温かな環境では食欲が落ちることはなく捕食するという興味深い結果を得た。その後、自ら調べて「夏眠」する蛙がいることを学んだ。

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