レポート

サイエンスアゴラから(3)「見えないものを五感で知ろう= 分子、新惑星、放射線 =」

2014.11.11

JSTサイエンスウインドウ編集部

 見えないものをどう見せるか。サイエンスアゴラの会場ではさまざまな展示があるなかで、「見せる化」に工夫する団体が多い。なかには視覚だけでなく、五感を駆使してイメージすることの大切さも伝えるコーナーもあった。

見えない分子を体で感じてみよう!

楽しそうに実験に参加した子どもたち
楽しそうに実験に参加した子どもたち

 「バラの匂いがレモンの匂いに変わった!」「えっ、なんで?」—。子供たちの声が聞こえてきたのは「モレキュリアス(MoleQrious!) 『ぶんし』を感じよう」のブースから。出展したのは名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の佐藤綾人特任講師。

 佐藤講師によると、この匂いの変化は、別の物質を加えることによって、バラの匂いのする物質が化学変化した結果で、「私たちの体も、身の回りのものも、すべて分子でできているのに、私たちはそれを全く感じることはありません。鼻で感じることで目に見えない分子を体で感じることができるのですよ」と話す。

 次に行った実験、入浴剤を湯船に入れた時のようにシュワシュワと出てくる泡を作る実験にも、たくさんの子どもたちが集まってきた。重曹とクエン酸をボールに入れて、水を少しずつ加えながらこねていく。プチプチと音がし始め、シュワシュワする感じが手にも伝わってくる。重曹とクエン酸の分子同士がぶつかりあっているのを、子供たちは耳や手の感触で感じているようだった。

「あなたの星」を五感でイメージ

さまざまな香りや匂いの素を説明する田中真理・府中郷土の森博物館のプラネタリウム解説員
さまざまな香りや匂いの素を説明する田中真理・府中郷土の森博物館のプラネタリウム解説員

 「五感を使って表現しよう! あなたの星、みんなの宇宙」を出展したのは、山梨県立科学館の語り部チーム。最近、次々に見つかっている太陽系の外にある惑星に名前を付けようと、新たな星に対するイメージを膨らまそうという企画だ。

 現在、太陽系の外にある惑星は1700個以上も発見され、国際天文学連合が命名を公募している。日ごろ、視覚や聴覚に障害のある人と一緒に天文を楽しむ活動を展開している語り部チームは、「名前を付けるにも、多くの人に共有できるイメージで伝えたい。その惑星はどんな色や香り、匂いがあるかを想像したり、自分の思いを寄せてみよう」と提案。ブースには、さまざまな色や香りの線香をはじめココア、コーヒー、お茶、酢、レモンなどを並べ、来場者は香りや匂いを試しながら星の形や姿を想像した。

 子どもたちに、「どんな星だったらいい」と聞いた国立天文台主任技術員の伊藤哲也さんは「イルカやクジラがいっぱいいる星、やさしい人たちが住んでいる星、食べ物で出来ている星と答えるなど、子どもの発想が新鮮でした。この子たちのように多くの人が宇宙に目や心を向けていってほしい」と話した。

見えない放射線を知る

放射線の幾つも飛んだことが分かる飛跡
放射線の幾つも飛んだことが分かる飛跡

 3・11の原発事故以降、必要性が高まっている放射線教育。会場には放射線に関するブースが複数あったが、放射線医学総合研究所は放射線を実際に目で見ることができる「霧箱実験」を用意した。展示した箱を上からのぞくと、霧の中に何か白い線が飛んでは消えていくのが見える。その長さは数cm程度。「見えるのは放射線の中でも飛ぶ距離が短いアルファ線です」と広報課の野里真澄さん。

 霧箱実験は、エタノールをドライアイスで下から冷やして霧を発生させると、中に置いた石が発した放射線の飛んだ跡を見ることができる仕組み。野里さんは「アルファ線は私たちの体を突き抜けるようなことはなく、紙などでも簡単に遮蔽することができます」と説明した。放射線の存在を確かめる基本的な実験だ。

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