レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第75回「フェロー活動の1年間」

2016.10.13

松田一夫 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 環境エネルギーユニット

松田一夫 氏
松田一夫 氏

 私が、科学技術振興機構(JST)の研究開発戦略センター(CRDS)・環境エネルギーユニットに採用されたのは2015年10月ですから、早くも1年が経ちました。この1年間を振り返りながら、フェローの業務を紹介します。

難関(難問)の採用試験に挑戦

 私は長らく製油所や石油化学工場を顧客とするプラントエンジニアリング会社でエンジニアとして働き、工場の省エネを専門にしていました。そして省エネの技術開発を大学との共同研究で進めたことを契機に、多数のアカデミアの人たちと知り合うことができました。彼らと議論をしているうちに「日本の科学技術研究の方向性を決めることに関わるのも良いかな」と思うようになり、ちょうど募集があったCRDS・環境エネルギーユニットのフェローの募集に応募しました。

 採用試験では、「あなたはエネルギー分野での実績は多いが、当方が欲しいのは環境分野の専門家です」と言われ、帰宅後、公募内容を見ると、確かにそのとおりでした。しかし、試験中は、何とか対応する必要があり、若い頃に公害防止管理者の免許を取得していたことを思い出して、「でき(ると思い)ます」と力強く答えました。また、履歴書の趣味欄に、「プレゼン資料をパワーポイントで作成すること」と記入していたのですが、試験官に「それは趣味ではなく、特技では?」と問われ、「プレゼンを聞く人にとって、分かりやすい資料にすべく、あれこれ考えて作るのが好きなので、やはり趣味だと思います」と回答しました。そんなやりとりの結果、難関(難問)の採用試験を突破できました。

主要業務は「俯瞰報告書」と「戦略プロポーザル」

 晴れてCRDSに勤務し始めると、そこはシンクタンクといわれ、主要な業務は研究の状況を調べて報告書を作成し、文部科学省や内閣府などの官庁へ政策提言を行うことでした。報告書は、俯瞰報告書と戦略プロポーザルに大別されます。俯瞰報告書は、各分野の調査ユニットが、担当分野の国内の研究動向や研究内容を海外との比較なども含めて2年間もかけて調査し、記述します。網羅する研究の数は、環境分野で約20、エネルギー分野では約30に上ります。

 一方、戦略プロポーザルは、これはと思うひとつの研究に絞って、1年間で調査報告書を作成します。ひとつに絞るからこそ、官庁への説明もしやすく、政策への反映率も高くなるのだろうと思います。戦略プロポーザルの作成チームへは、CRDS内ではユニットの枠を超えて、またCRDS以外の職場からもメンバーが希望して参加します。私は、「分離工学イノベーション」という戦略プロポーザルの活動に参加しようと考えて、上司に申し出たところ、マネジメント担当の承認が必要と言われ、それまでクラブ活動のようなものだろうと軽く受け止めていたので驚きました。その後、承認を得て、活動に参加してみると、メンバーには「政策提言のための報告書を作成する」という意識があることが分かり、その重要な位置づけを改めて理解しました。任務は報告書を作って終わりではなく、官庁へ説明(提言)して、政策へ反映できるように周知宣伝活動を行うことも含まれます。

化学工学会の月刊誌に携わって

 私は、2015年4月から2年間の任期で、化学工学会の月刊誌「化学工学」の編集委員長を務めています。委員長への打診があった際には、「自分で希望してもなかなか得られない職だから」と考えて、引き受けました。これが後々、CRDSでの仕事に非常に役立っています。

 俯瞰報告書や戦略プロポーザルの作成では、多数の研究者に面談し、意見を聞いたり、原稿をお願いしたりします。上述の編集委員会は、編集委員(=研究者)が40余名もいるので、多数の研究者とまとめて知り合いになれたわけです。そして編集委員に相談したり、編集委員から適切な人を紹介してもらうことができました。

 2016年9月初め、化学工学会の秋季大会が行われました。そこでCRDSは、化学工学会内の分離部会と共同で「分離工学イノベーション」という特別シンポジウムを開催しました。戦略プロポーザル「分離工学イノベーション」の内容を広く周知宣伝する活動の一環です。この開催にこぎ着けたのは、編集委員のつながりのおかげでした。そして化学工学会は、このシンポジウムへの学会員からの事前問い合わせが多く、かつJST・CRDSとの今後の連携の重要性にも配慮してくれたとのことで、最大規模の会場(収容人数220名)を用意してくれました。初めは、逆に空席が目立ったらどうしようかと心配していましたが、フタを開けてみると立ち見が出るほどで、事務局が、慌てて席を増設するなどうれしい悲鳴を上げる結果となりました。

政策研究大学院大学の講師も担当

 2016年5月、政策研究大学院大学で修士学生向けに環境エネルギー政策の講義があり、その一コマを担当しました。講師依頼の話は2月頃にあり、資料作成の“趣味”を活かして準備を進めました。講義のタイトルは、「環境エネルギー分野の研究戦略」としました。授業時間は90分枠で、当初、パワーポイントでスライドを70枚作ったのですが、上司やユニットの同僚相手に説明したところ、「大作だ」「長すぎる」と言われ、一気に40枚に減らしました。実際の授業では、40枚で十分でした。授業中、留学生からは活発な質問があり、私の伝えたかったことは通じたようだと思いました。

 このようにして、フェローとなって1年が経過しました。この拙文を読んで、CRDSのフェロー業務に関心・興味を持ってくださる方が一人でも増えれば、大変幸いです。

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