レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第57回「革新的バイオ医薬品」

2014.06.30

飛田浩之 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター ライフサイエンス・臨床医学ユニット フェロー

飛田 浩之(科学技術振興機構 研究開発戦略センター ライフサイエンス・臨床医学ユニット フェロー)

科学技術振興機構 研究開発戦略センター ライフサイエンス・臨床医学ユニット フェロー 飛田 浩之 氏

 今回は、我々ライフサイエンス・臨床医学ユニットで取り組んでいる活動の一つである「革新的バイオ医薬品」について紹介します。

健康・医療研究開発に対する社会の期待

 少子化・高齢化が急速に進む我が国では、健康長寿社会の実現に向けた医療・介護のニーズが増大しており、医療技術の高度化も相俟って医療費・介護費の高騰が続いています。
薬剤における治療満足度を見てみると、新薬の登場により、治療満足度は向上している疾患がある一方で、治療満足度の向上が必要ないわゆる「アンメット・メディカル・ニーズ」と呼ばれる疾患が存在しています。こうした疾患に対して、画期的新薬へのニーズは高いものと考えられ、近年、希少疾患に対する治療薬(オーファンドラッグ)の開発も推進されつつあります。

 我が国の基礎研究のレベルは主要先進国の中でもトップクラスにあることから、基幹産業となるだけの土壌は十分にありますが、優れた基礎研究が必ずしも産業に結びついておらず、医薬品、医療機器ともに輸入超過の状況が続いています。

 医療を産業ととらえる傾向は諸外国にも既に見られており、医療技術のトレンドが大きく変化する中、我が国のこれまでの取り組みは十分といえず、各国の動きに取り残されつつあると思われることから、まさに今、長期的なビジョンの元で大胆な施策を遂行することが、我が国が医療産業分野で国際的なプレゼンスを示すための重要なポイントだと考えられます。

医薬品の創出

 (医薬品開発の現状と課題)
我が国の基礎研究レベルは高く、実際に創薬につながっているものも多く、例えば、近年、肺がんの新薬として注目されているALK阻害剤は、我が国の基礎研究の成果が創薬シーズとなったものです。今後も持続的に我が国初のシーズを生み出すためには、基礎研究の継続的な支援が最重要と考えられます。米国NIHもファンディング予算の半分以上は基礎研究に投資されており、米国の強力な競争力の一因は基礎研究の強さにあることが推察されます。しかしながら、上記の肺がん新薬の例においての実際に新薬として製品化したのは海外のメガファーマであり、我が国の基礎研究から応用への橋渡しの弱さが露呈した形となっています。

 (医薬品開発のトレンド)
これまで、医薬品の多くは低分子医薬品でしたが、ここ10年でバイオ医薬品の存在感が増しています。現在の世界の医薬品売上高の上位10の半数以上は、バイオ医薬品となっており、市場予測でもバイオ医薬品は今後拡大すると予想されています。このように、医薬品のトレンドは低分子医薬品からバイオ医薬品へ推移していますが、我が国にはこの流れに乗れておらず、バイオ医薬品は欧米企業の独占市場になっている状況です。

 (バイオ医薬品の課題)
現在のバイオ医薬品における課題としてターゲティング、特許ライセンス、活性、安全性、製造コスト等が挙げられています。このような課題がある中で、我が国の製薬企業は抗体医薬への参入が送れ、海外のメガファーマが高いシェアを占めている状態となっています。また、前述の通り、多くの特許が海外で取得されているといった権利ライセンスに対する対価の課題があり、この状況で今から既存のバイオ医薬品に注力しても、海外に圧倒されることが考えられます。将来的に我が国を支える基幹産業としてバイオ医薬品分野を活性化させる為には、現状のバイオ医薬品を凌駕する新技術の研究開発、そして既存技術を基盤とした創薬研究を両輪としてアカデミア、企業、関連府省とで連携して戦略的に推進する必要があります。

革新的バイオ医薬品の実現に向けた研究戦略

 (革新的バイオ医薬品)
革新的バイオ医薬品は、これまで取り組みが不十分であった分子設計の概念を大きく取り組むものであり、目的の組織・細胞内・核内送達技術の開発といった標的組織への送達・機能発現化、送達多機能化、標的への結合力向上といった高機能化、安価な製造技術の開発といった低コスト化を達成する次世代のバイオ医薬品(革新的タンパク医薬、特殊ペプチド、核酸医薬)です。

 (革新的バイオ医薬品における研究開発課題)
革新的バイオ医薬品における様々な研究開発課題の中でも特に重要な取り組むべき技術・領域としては、(1)各臓器、細胞内、核内での動態を制御可能な組織、細胞内、核内送達技術(DDS)、(2)抗体-ドラッグ複合体ハイブリッド、抗体-核酸ハイブリッド技術等の分子複合体技術、(3)従来の概念を超える新しい標的(核内、複数分子にまたがる標的等)といったターゲティング技術、(4)革新的タンパク医薬、核酸医薬における生産製造技術、(5)オープンイノベーション・拠点における共通の安全性・技術評価方法といった安全性・技術評価技術等が挙げられます。

 (プロジェクト推進体制)
我が国は、要素技術は着実に整備進展されているのですが、それらの戦略的な結合が大きな課題となっています。実際の革新的バイオ医薬品の働きを考えた場合、ひとつの要素技術だけでなく、創薬に必要な一連の領域を含む技術を終結しないと目的は達成できません。重要なポイントは、到達点が何であるかを明確にし、それに対して要素技術を終結し必要なものを作っていく体制(拠点)の構築です。それぞれの要素技術の間でクロストークが起こり、上手く融合すれば、革新的バイオ医薬品の開発は加速すると考えられます。

具体的には各研究領域を束ね、縦軸の研究(技術)領域に対し、探索・基礎研究から実用研究まで、関連府省等の関連機関とも連携した横軸を刺すような拠点が必要となります。また、こうした拠点を推進するにあたり、関連府省の連携のもとで全体戦略の立案統括ならびに事業推進戦略の策定を行うヘッドオフィス(ディレクター、推進委員会)の設置も重要です。ヘッドオフィスには拠点全体を率いる企業、アカデミア、関連府省の機関からなる推進委員会を設置し、プロジェクトの成果を最大化するための支援組織として、世界の最新動向の把握、知財戦略を含めた全体戦略の推進、事業推進戦略の策定を行うことで、我が国の国際的な地位の向上を目的として、全ての拠点の付加価値を高めることを目指した積極的なマネジメントを行うことが可能だと考えられます。

我々のユニットでは、ワークショップ、報告書を通じ、戦略コンセプトとして関連府省へ提案を行っています。このような活動を通じて、近い将来、国民一人一人のQOLの向上、そして我が国の成長に大きく寄与する取り組みになることを期待したいと思います。

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