レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第53回「産学共創イノベーションの深化に向けて」

2014.01.28

齋藤和男 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター イノベーションユニット フェロー

齋藤 和男(科学技術振興機構 研究開発戦略センター イノベーションユニット フェロー)

 CRDSのイノベーションユニットは2012年10月に発足しました。

 政府の第4期科学技術基本計画は、それまでの科学技術政策から科学技術イノベーション政策へと方針を転換しました。イノベーションユニットでは、この転換を実効あるものとするために、イノベーションの担い手である産業界の問題にも踏み込んで、科学技術イノベーションを推進するための具体的方策を提言することを目的としています。?

 科学技術イノベーション施策は数々打ち出され、徐々に成果は出つつあるものの、社会や経済に影響を与えるような成果が出ているとは実感されていません。イノベーションユニットでは、種々の統計調査に加え、産業界に対して、研究開発戦略や大学などへの期待、人材育成・教育、国の施策などに関する幅広い話題のインタビューを行い、さらに、そうした産業界の見方を大学に問いかけるなどして、産学官それぞれが抱える課題を明らかにしてきました。

 産学連携活動は盛んになってきており、大学と企業との共同研究数は年平均3%前後で増加していますが、一件当たりの共同研究費の平均値は200万円台と横ばい状況です。国の研究開発資金の大部分を大学が使用し、企業は独自資金を自ら使用するという具合に、資金面の産学の交流は進んでいません。また、産学の人材交流も進んでいません。産学連携は量の面では伸びているものの、質の面での改善が必要ではないでしょうか。

 そこで、イノベーションユニットでは、質の改善のためには、産学が本気でチームを組んでイノベーションの実現を目指すことが必要であると認識し、これを「産学共創イノベーション」と命名しました。その推進のための方策を「産学共創イノベーションの深化に向けて」と題して今年度中に提言することとしました。それに先立ち、今回はその提言の概要をご紹介します。

 産学官の抱える課題を踏まえ、産学共創イノベーションには3つのアクションが必要と考えます。

 それは「チームを組む本気の相手を見つける」、「イノベーション実現のためのチームをつくる」、「産学共創を支える環境を整備する」の3点です。

 イノベーションユニットでは、他のユニットの協力を得て、信州大学のカーボン科学や東北大学のMEMS(微小電気機械システム)、東京女子医科大学の細胞シート工学などといった、成果創出の期待できる16の事例を調査・分析し、これらのアクションを具体的するための方策を提示します。

 まず「チームを組む本気の相手を見つける」ためには、大学は研究力の強化、研究施設・設備の整備・活用、学内企業ラボの設置、知財ポリシーの見直し、企業に対する提案活動の強化などが求められます。企業は、自前主義を脱却し、将来の事業ビジョン・研究開発戦略の策定、大学へのリエゾン配置などによる研究シーズ発掘などが求められます。政府・ファンディング機関では、大学と企業とのマッチングを積極的に支援することが求められます。

 「イノベーション実現のためのチームをつくる」ためには、大学では部局を横断した研究人材・研究支援人材を集結させた学内協力・支援体制の構築、国際的な研究ネットワーク(NOE)の構築、外部資金の獲得、産学共同研究を通じた教育・研究活動の強化が求められ、企業にはトップマネジメントや事業部門との連携による社内協力・支援体制の構築、共同研究への資源投入が求められます。また、産学の両者でビジョンと出口戦略の共有、研究開発ユニットや運営ユニットの創成や統括プロデューサの選任などによるチームビルディング、進捗管理のための定例会議の設置やオープンな研究環境とクローズドな情報・知財管理体制の構築などによるチームマネジメントが求められます。政府・ファンディング機関には、マッチングファンドの拡充やNOEを支援するための資金配分ルートの多様化などの他、チームに必要な人材整備の支援が求められます。

 「産学共創を支える環境を整備する」ためには、大学ではPBL・対話型授業の拡充やインターンシップの強化などの教育・人材育成の強化、ソーシャルイノベーション活動の強化などが求められ、企業には年功序列制度の改善や人材流動性の促進、退職金制度の見直しなどの人事・処遇制度の改善、インターンシップ受け入れ拡大やサバティカル教員の受け入れなどによる大学の教育システム改善への協力が求められます。政府・ファンディング機関には、研究開発インフラ整備や企業・大学・研究開発法人間の異分野・異業種融合を促進するプラットフォームの構築による世界と戦える研究力強化の支援、基礎から応用・実用化段階までシームレスに研究開発を支援する制度の構築や国際標準化・知財マネジメント強化活動の支援などによる戦略的な産学官連携の促進、イノベーションの担い手の育成支援などが求められます。

 詳しい具体策は今後に出す予定の提言をご覧いただくこととして、これら具体策の実施により、産学共創イノベーションを担う人材が育成・輩出され、制度や環境の整備と結びつき、産学共創イノベーションが実現することを期待しています。

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