レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第40回「中国におけるイノベーション型産業クラスター形成の取り組みについて」

2012.11.19

単 谷 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 中国総合研究センター フェロー

研究開発戦略センター 中国総合研究センター フェロー 単 谷

 2010年に中国の名目GDPは日本を抜き、米国に次ぐ世界第2の経済大国となった。その急速な経済成長には、中国全域に分布する各種産業クラスターが大いに貢献しているのは言うまでもない。しかし、これらの産業クラスターは、労働集約型生産方式を中心に用いており、企業イノベーション能力が依然として低く、コア技術の外国への依存度が高く、付加価値の高い製品が欠如しているなどの問題があった。

 この状況を変えるために、中国ではイノベーション型産業クラスターの形成を目指して、2011年7月から、中国科学技術部(日本の省に相当する行政機関)は一連の方策を打ち出した。その取り組みについて簡単に紹介したい。

中国におけるイノベーション型産業クラスターの形成について

方針:
科学技術を中心とした各種イノベーション資源を結集し、研究開発型中小企業、ハイテク企業およびイノベーション人材の主体的な参画を得て、高度技術型または知識集約型製品を中心とした製品の研究開発、製造ができる産業クラスターの形成を推進する。

目標:
既存の国家ハイテクパークをベースに、毎年複数の産業クラスターの形成を試験的に行う。3-5年間をかけて、中国の戦略的新興産業分野(※1)における先進的な産業クラスターを形成し、年間売上高が1,000億元(約1兆3,000億円)以上の産業クラスターを20カ所以上、年間売上高が500億元(約6,500億円)以上の産業クラスターを30カ所育成して、これらの産業クラスターが牽引の役割を果たして、年間売上高が200億元(約2,600億円)以上の地方産業クラスターを100以上創成して、地域経済の活性化を目指す。

推進方策:

  • 中国科学技術部傘下のタイマツハイテク産業開発センター(※2)(一般に、タイマツセンターと呼ばれている)に産業クラスター発展課を新設し、イノベーション型産業クラスターの認定、形成推進状況の評価を行う。
  • 各省(日本の都道府県に相当する行政区画)レベルの科学技術行政管理部門は、省内のイノベーション型産業クラスターの形成を主導し、毎年進捗状況をタイマツセンターに報告するとともに、イノベーション型産業クラスター所在都市政府は主体的に形成計画を策定し、推進に関わる全体マネジメントを担う。各参画機関および関係者は、所在都市政府の全体調整の下、連携、協力しつつ、取組を推進する。
  • タイマツセンターに認定されたイノベーション型産業クラスターに対し、所在省は省レベルのワーキンググループを結成し、関連機関間の連携や調整など支援体制を整備するとともに、イノベーション型産業クラスターの形成に必要とする予算の確保、物資の優先的な調達を行う。
    イノベーション型産業クラスターの選定方法:国家ハイテクパークをベースとしたイノベーション型産業クラスター候補所在省から申請を行う。タイマツセンターで書類選考および現地調査を実施するとともに、中国国務院発展研究センター、国家発展改革委員会、中国科学院、中国社会科学院、中国科学技術発展戦略研究院など関連機関の専門家による認定委員会の審査によって、認定される。

中国のイノベーション型産業クラスター形成の現状について

 2011年11月、中国科学技術部は74の候補から、最終的に41のイノベーション型産業クラスターを認定した。これらのイノベーション産業クラスターには、いずれも研究開発型企業、ハイテク企業が集積し、高度技術型または知識集約型製品を主力商品としている一方、それぞれの強みや特性を生かしている。ここでは、内モンゴルに所在する包頭レアアース産業クラスターを例として紹介したい。

 包頭レアアース産業クラスターは、現地に豊富なレアアース資源を生かし、内モンゴル包鋼希土ハイテク有限公司や包頭瑞?希土金属材料有限公司などをはじめとする中国国内のレアアースハイテク企業を集積し、希土類永久磁石材料、水素吸蔵合金、レアアース研磨剤を中心とした研究、開発、製造を行うとともに、日本の昭和電工株式会社やフランスのローディア(Rhodia,)社などからの投資を受けながら、レアアース原料→レアアース新材料→先端末端製品開発のようなイノベーションにつなげる仕組みを作り、産業集積、先端技術の開発、イノベーション人材の育成及び高度なサービスなど機能を有する産業クラスターの形成を推進している。

今後の展開について

  • 国は地方政府との連携を強化して、イノベーション型産業クラスター形成推進計画を整備し、国際的な競争力のある戦略的な新興産業分野を確立する。
  • 41のイノベーション型産業クラスターから、さらに重点に育成するクラスターを選出し、3-5年後、年間1,000億元(約1兆3000億円)以上の売上高規模になるよう支援を強化する。
  • 認定されたイノベーション型産業クラスターで行ったハイテク技術研究開発やサービスなどに対し、3年間連続資金援助を行う。
  • イノベーション型産業クラスターの成長を促進するため、評価システムを改善、充実する。
  • 企業イノベーション能力の向上及び研究型中小企業の育成を促すため、政策的・資金的な支援を強化する。

感想

 中国は、2020年までにイノベーション型国家への転身実現を目指している。当面そのイノベーション能力で世界トップレベルとは言えないが、国の強力な行政指導および明確な国家ビジョンの下、推進戦略を打ち出し、イノベーションに関わる各種資源を集積し、合理化した上で着実に取り組んでいる。イノベーション型産業クラスターの形成は、その取組の一環に過ぎないが、限られている資源で、これらの産業クラスターの形成を推進し、期待される新興産業を重点的、戦略的に育成して、関連産業を牽引していくのは、地域イノベーション能力向上の有効な手段である。

 わが国の第4期科学技術基本計画には、地域イノベーションシステムの構築が明記されている。それに沿って推進方策が展開される中、各地域がその強みを生かして、自立的に科学技術イノベーション活動の展開が期待されているが、それを効率に支援するシステムの構築には、国のより強力なリーダシップが必要ではないかと思う。

※中国第12次五カ年計画に記されている「戦略的新興産業分野」(〈1〉省エネ・環境保護〈2〉次世代情報技術〈3〉バイオ〈4〉先端設備製造〈5〉新エネルギー〈6〉新素材〈7〉新エネ自動車)
※タイマツハイテク産業開発センター:中国のハイテク産業を発展させるため、1988年8月、中国国務院の認可で、中国科学技術部より「タイマツ計画」と呼ばれる指導的計画を策定した。タイマツ計画の主な内容としては、(1)ハイテク産業の発展に必要な環境作り、(2)国家ハイテク産業開発区およびハイテク創業サービスセンターの設立、(3)タイマツ計画プロジェクトの企画や推進、(4)国際協力の強化とハイテク産業の国際化の推進、(5)ハイテク産業の振興に必要な人材の育成や誘致-などである。タイマツハイテク産業開発センターは、「タイマツ計画」の具現化に必要な環境整備、組織化、実施推進、政策立案、指導などを主要な業務をする、中国におけるハイテク産業の主要推進機関である。

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