サイエンスポータル SciencePortal

レポート - 研究開発戦略ローンチアウト -

第30回「統合防災システムの構築に向けた議論の展開」

科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー 森 猛 氏

掲載日:2011年12月19日

森 猛(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)

東日本大震災では、広域を襲った大規模災害への危機管理に総合的な力不足が感じられた。災害多発国である日本では技術を実際の現場で鍛え、成熟させる機会に恵まれていたにも関わらず、それがこれまで不十分であったのは、わが国の科学技術の開発においてシステム構築の重要性についての認識が不足していたことも一因であったと推察される。

科学技術に限れば、その原因は大学を含む各種研究機関や自治体、企業などで開発された防災救援のための要素技術が、システムとして統合される度合が未成熟であったため、大規模自然災害には機能しなかったことが考えられる。大規模自然災害が今後もさまざまな形で日本の国土を襲うことが予想される中、防災・減災のための統合システムの構築は「安全を託すことができる持続可能な日本」を実現するための重要かつ緊急の課題である。

わが国の防災・減災科学技術は総合的にみれば世界最先端の水準にある。しかし、優れた研究成果を現実の多様なしかも緊急の災害現場の要求に有効に活用するには、個々の科学技術の先端化だけでなく、それらを統合したシステムの構築が不可欠である。そのためには防災科学の研究者と、システム・計画・適応・データ科学・意思決定・物流・経営などのシステム科学者との協働作業がスムースに行える研究の枠組みを設計することが望ましい。

こうした背景のもと、科学技術振興機構(CRDS)システム科学ユニットでは、2011年7月に「統合防災システム検討会」を設置し、防災科学の研究者とシステム科学の研究者の協働により、東日本大震災で明らかになった科学技術分野の課題を検証し、優先的に解決すべき研究開発課題を抽出することを目的として活動を進めている。これまでに6回の会合を重ね、産・官・学・民、それぞれの立場からの防災・減災活動への取り組みの紹介や、震災の被災現場である宮城県亘理町役場を訪問し、関係者と意見交換するなどの活動を実施してきた。

12月現在において、検討会としての結論を導き出すには至っていないが、基本的な考え方は、平時における科学技術システムとしての防災サイクル(図1)と有事における社会システムとしての減災サイクル(図2)のシームレスな統合によって科学技術が生きる「統合防災システム」を構築する必要があるということである。今後この考え方をCRDSの中で浸透させ、災害科学とシステム科学の融合の場を設定することを通して研究助成につなげていきたいと考えている。

 

図1.平時の防災サイクル 図2.有事の減災サイクル

 

防災は、平時における将来発生する災害への備えであり、減災は発生した災害に対する有事の対応である。両者は災害対応の両輪として相互に補完されるべきであり、シームレスな統合が望まれるが、現時点ではそのような認識に乏しく、人間行動や組織行動を考慮したシステム設計も欠如している。これらを解決するための研究開発課題の一例としては下記が考えられる。<研究開発課題の一例(図中で示したものを再掲)>

  • (多様な災害シナリオに応じた)官・民で共有できる被害予測モデルの構築
  • 災害時の連絡体制の最適化技術の開発
  • 公的機関の事業継続計画(BCP)の基盤整備
  • 災害発生の早期検知と緊急避難発令システムの構築
  • 被害の把握(同定)のための調査計測システムの構築
  • 減災活動のための意思決定支援技術の開発

また、防災・減災体制を社会に実装するためには、単に科学技術面の課題を解決するだけでは不十分であり、現行の法体系や情報の共有化についての課題も解決していく必要がある。「システム化」の観点から科学技術以外の課題を抽出することもCRDSシステム科学ユニットに課されたミッションであると考えている。日本は災害大国であるとともに科学技術の先進国である。防災・減災は「作戦」の準備と展開であり、わが国の先端的な災害科学技術を最大限生かすシステムを構築する必要がある。統合防災システムが構築された暁には、大規模な災害にも適切な対応が図られることが期待されるとともに、システムの海外輸出も可能となるであろう。

ページトップへ