2016年12月号「国際高等教育統計資料」<英国大学協会:「International Higher Education in Facts & Figures 2016」より>
2016年6月、英国大学協会(Universities UK)の国際ユニットは、「International Higher Education in Facts & Figures 2016」と題する、国際高等教育分野に関する動向統計資料を発表した。今月号では、この中から一部を抜粋して紹介する。
1. 世界の留学生の動向
留学先 | 世界における留学先シェア | 2003年: 海外 からの留学生数 |
2013年: 海外からの留学生数 | 過去10年間の 増減率 |
米国 | 19.4 % | 586,316 名 | 784,427 名 | 33.8 % |
英国 | 10.3 | 255,233 | 416,693 | 63.3 |
オーストラリア | 6.2 | 188,160 | 249,868 | 32.8 |
フランス | 5.7 | 221,567 | 239,344 | 8.0 |
ドイツ | 4.9 | 240,619 | 196,619 | -18.3 |
ロシア | 3.4 | 68,602 | 138,496 | 101.9 |
日本 | 3.4 | 86,505 | 135,803 | 57.0 |
カナダ | 3.4 | 59,067 | 135,187 | 128.9 |
中国 | 2.4 | 36,386 | 96,409 | 165.0 |
イタリー | 2.4 | 36,137 | 82,450 | 128.2 |
その他の国 | 38.9 |
年度 | 学士課程 | 修士課程 | 博士課程 | 合計 |
2007・08 | 104,445 名 | 97,835 名 | 27,365 名 | 229,645 名 |
2010・11 | 134,220 | 134,660 | 29,230 | 298,110 |
2014・15 | 153,745 | 124,610 | 33,655 | 312,010 |
* 英国へのEU域外からの留学生数は2007年度から3分の1以上増加したが、最近ではその伸び率が鈍化している。
中国 | 89,540 | 香港 | 16,215 | ギリシャ | 10,130 | ルーマニア | 6,590 |
インド | 18,320 | ドイツ | 13,675 | キプロス | 9,545 | ブルガリア | 6,255 |
ナイジェリア | 17,920 | フランス | 11,955 | サウジアラビア | 8,595 | タイ | 6,240 |
マレーシア | 17,060 | アイルランド | 10,905 | シンガポール | 7,295 | パキスタン | 6,080 |
米国 | 16,865 | イタリー | 10,525 | スペイン | 7,040 | カナダ | 6,075 |
* 2007・08年度から、英国への中国人留学生は著しく増加した一方、インドからの留学生は過去4年間で50%以上減少した。(筆者注:英国政府の学生ビザ発給条件の厳格化が一因と思われる)
2. 留学生が望むもの
2-1) 留学生の満足度と留学経費
順位 | 総合 | 学習 | 生活 | サポート |
1 | 英国 | 英国 | 英国 | 英国 |
2 | 米国 | 米国 | オーストラリア | 米国 |
3 | カナダ | カナダ | ニュージーランド | ニュージーランド |
4 | オーストラリア | オーストラリア | 米国 | オーストラリア |
5 | ニュージーランド | ニュージーランド | カナダ | カナダ |
出典:International Student Barometer, I-graduate (2015)
オーストラリア | 42,093 | カナダ | 29,947 | 台湾 | 11,911 |
シンガポール | 39,229 | フランス | 16,777 | トルコ | 11,365 |
米国 | 36,565 | マレーシア | 12,941 | 中国 | 10,730 |
英国 | 35,045 | インドネシア | 12,905 | ||
香港 | 32,140 | ブラジル | 12,628 |
出典:HSBC (2014)
2-2) 英国に留学した学生の就職
* 英国の大学卒業者の失業率は、OECD諸国の中でも最も低いレベルにある。
国別 | 学士号または同等学位 | 修士号または同等学位 |
英国 | 2.7 % | 2.1 % |
オーストラリア | 2.7 | 3.9 |
米国 | 3.9 | 2.6 |
オランダ | 4.0 | 3.6 |
ベルギー | 4.0 | 4.3 |
フランス | 6.0 | 5.3 |
OECD 平均 | 5.6 | 4.5 |
出典:OECD (2015)
2-3) 英国の大学へのEU及びEU域外からの留学生
* 英国の大学の学生の約5人に1人は留学生であり、広範囲の学科で学んでいる。
学科 | EUからの留学生 | EU域外からの留学生 | 学科に占める留学生の比率 |
ビジネス、アドミ | 24,320 名 | 101,160 名 | 38.4 % |
工学・技術 | 12,415 | 40,970 | 33.1 |
社会科学 | 13,140 | 27,985 | 19.8 |
クリエーティブ・アーツ | 10,180 | 16,795 | 16.2 |
法律 | 6,090 | 16,965 | 26.3 |
生物科学 | 10,600 | 12,130 | 10.8 |
医学関連 | 7,975 | 13,300 | 7.7 |
言語 | 6,985 | 12,770 | 17.7 |
コンピューター科学 | 6,690 | 12,300 | 20.4 |
物理科学 | 5,570 | 9,240 | 15.8 |
建築 | 3,345 | 8,915 | 25.4 |
マスコミ | 3,765 | 7,405 | 23.0 |
医学・歯学 | 2,700 | 7,850 | 16.0 |
教育 | 3,100 | 6,920 | 6.1 |
歴史・哲学 | 3,590 | 5,775 | 10.8 |
数学 | 2,425 | 6,715 | 21.6 |
複合学科 | 775 | 2,180 | 6.0 |
農学 | 75 | 1,630 | 12.4 |
獣医学 | 165 | 950 | 18.9 |
出典:HESA Student Record(2014/15)
3. トランスナショナル教育と学生の海外留学
3-1) 種類別のトランスナショナル教育と提供のレベル
* 約664,000名の学生が、英国以外で英国の大学の学位取得を目指して受講している。
筆者注:大学の本拠地以外の海外で授業を提供することを「transnational education」、通称TNEと呼んでいる。これには通信教育等の遠隔教育を含む。
アジア | 319,980名 | 中近東 | 61,415名 | オーストラリア | 3,660名 |
アフリカ | 150,000 | 北米 | 32,085 | 南米 | 2,525 |
英国以外のEU | 75,280 | その他の欧州 | 20,745 |
出典:HESA Aggregate Offshore Record (2014-15)
学士課程 | 大学院課程 | |
EU域外 | 494,920 名 | 95,790 名 |
EU内 | 52,210 | 23,070 |
* 2014・15年度には、トランスナショナル教育を受けている学生数は2008・09年度に比べて約70%増加した。また、そのほとんどの学生は学士課程である。
コース別 | 学生数 | 比率 |
学士課程 | 529,450 名 | 80 % |
学士号以外の学士課程 | 15,605 | 2 |
修士課程 | 113,310 | 17 |
博士課程 | 5,545 | 1 |
海外のパートナー校に登録 | 384,585名 |
英国の大学に登録(その他のコース) | 127,515 |
英国の大学に登録(通信教育、フレキシブル・コース等) | 120,475 |
英国の大学に登録(海外ブランチ・キャンパス) | 22,750 |
その他 | 8,590 |
出典:HESA Aggregate Offshore Record (2014-15)
3-2) エラスムス制度を利用した留学
* 大学生のモビリティー(国を超えた移動)を支援するEUのエラスムス制度(ERASMUS, European Region Action Scheme for the Mobility of University Students) を利用して留学した英国人学生は、2013・14年度には2007・08年度に比べて約50%増加した。
2007・08年度 | 2010・11年度 | 2013・14年度 | |
英国に留学した他のEU国の学生 | 19,088名 | 24,474名 | 27,401名 |
英国から他のEU国に留学した英国人学生 | 10,278 | 12,833 | 15,610 |
出典:European Commission Fact Sheet (2015)
2007・08年度 | 2013・14年度 | |
英国に来た他のEU国のスタッフ | 2,048名 | 3,597名 |
英国から他のEU国に渡ったスタッフ | 1,580 | 2,327 |
出典:European Commission Fact Sheet (2015)
3-3) 2014・15年度の英国人留学生
* 2014・15年度に海外留学した約22,000の英国人留学生の内、約半数が他のEU諸国の大学に留学している。
臨床医学 | 1,995名 | 臨床前医学 | 595名 |
フランス研究 | 1,570 | ドイツ研究 | 580 |
スペイン研究 | 1,215 | 時代別の歴史学 | 530 |
ビジネス研究 | 985 | 国際ビジネス研究 | 525 |
英語以外の欧州言語 | 795 | 経営学 | 450 |
出典:HESA Student Record (2014-15)
フランス | 米国 | スペイン | ドイツ | オーストラリア |
3,565名 | 3,060名 | 2,920名 | 1,715名 | 1,390名 |
出典:HESA Student Record (2014-15)
3-4) 外国人アカデミック・スタッフ数
* 英国の大学におけるアカデミック・スタッフの4分の1以上が外国人であり、その比率は過去10年間で19%から28%に増加した。
業務 | EUからの外国人スタッフ数 | EU域外からの外国人スタッフ数 | 外国人スタッフ比率 |
教育と研究 | 13,480名 | 9,960名 | 25 % |
研究のみ | 11,945 | 9,115 | 45 |
教育のみ | 6,105 | 4,445 | 21 |
その他 | 105 | 65 | 11 |
合計 | 31,635名 | 23,585名 | 28 % |
出典: HESA Staff Record (2014-15)
英国 | EU | EU域外 |
139,195名 | 31,635名 | 23,360名 |
出典: HESA Staff Record (2014-15)
4. 国際共同研究のインパクト
4-1) 英国の大学の国際共同研究パートナー国
* 英国の大学の最大の研究パートナー国は米国であり、トップ20の研究パートナー国の内、13か国がEU加盟国である。
米国 | 89,579 | イタリー | 27,789 | スペイン | 23,258 | スイス | 16,589 |
ドイツ | 45,250 | オーストラリア | 24,403 | 中国 | 22,813 | ||
フランス | 33,454 | オランダ | 24,147 | カナダ | 21,860 |
出典:Elsevier and BIS,「International Comparative Performance of the UK Research Base- 2008 to 2012」上記の国際共同研究数は、共同執筆の研究論文数に基づく。
4-2) 国際共同研究
国別 | 国際共同研究論文の比率 | 増加率 2003-2012年 |
国別 | 国際共同研究論文の比率 | 増加率 2003-2012年 |
米国 | 30.3 % | 32.9 % | オランダ | 53.7 % | 20.5 % |
英国 | 46.3 | 29.5 | カナダ | 46.7 | 20.4 |
オーストラリア | 45.7 | 25.7 | 韓国 | 26.4 | 2.6 |
日本 | 24.4 | 24.2 | インド | 16.3 | -7.4 |
ドイツ | 46.1 | 20.9 | 中国 | 15.7 | -16.0 |
出典: OECD (2015)
インドと中国では2003-12年の国際共同研究論文比率が減少しているが、国際共同研究論文数が減少したというより、全体の論文数が急速に増加したためであろう。
英国の人口 | 0.9% | 研究者数 | 4.1% | 研究論文引用 | 11.2% |
研究開発支出 | 3.2 | 研究論文数 | 6.4 | 最も引用された研究論文数 | 15.9 |
出典:Elsevier and BIS,「International Comparative Performance of the UK Research Base- 2008 to 2012」
5. 国際高等教育から派生する経済的利益
* 英国は国のイノベーション能力を示す「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)」において、最近ではスイスに次いで世界第2位にある。
順位 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 |
1 | スイス | スイス | スイス | スイス | スイス |
2 | スウェーデン | スウェーデン | スウェーデン | 英国 | 英国 |
3 | シンガポール | シンガポール | 英国 | スウェーデン | スウェーデン |
4 | 香港 | フィンランド | オランダ | フィンランド | オランダ |
5 | フィンランド | 英国 | 米国 | オランダ | 米国 |
6 | デンマーク | オランダ | フィンランド | 米国 | フィンランド |
7 | 米国 | デンマーク | 香港 | シンガポール | シンガポール |
8 | カナダ | 香港 | シンガポール | デンマーク | アイルランド |
9 | オランダ | アイルランド | デンマーク | ルクセンブルグ | ルクセンブルグ |
10 | 英国 | 米国 | アイルランド | 香港 | デンマーク |
出典: The Global Innovation Index (2015) by Cornell University, INSEAD Business School & the World Intellectual Property Organization(WPO)
コーディネート国 | プロジェクト数(概算) | コーディネート国 | プロジェクト数(概算) |
英国 | 1,480 件 | オランダ | 550 件 |
スペイン | 900 | デンマーク | 230 |
ドイツ | 880 | ベルギー | 220 |
フランス | 720 | スウェーデン | 190 |
イタリー | 660 | アイルランド | 180 |
出典:European Commission Cordis (April 2016)
* 英国はEUの「Horizon 2020」による各種プロジェクトを、他のEU諸国に比べて一番多くコーディネートしている。また、これらのプロジェクトの4分の3以上を主導しているのが大学である。
筆者注:「Horizon 2020」は、2014年-2020年の7年間で総額800億ユーロ(9兆2,000億円※1)の予算規模を持つ、EUの大型の研究イノベーション枠組み計画である。
※1 1ユーロを115円にて換算(以下の記述中も全て)
2009-10年度 | 2010-11年度 | 2011-12年度 | 2012-13年度 | 2013-14年度 | 2014-15年度 |
0.74 (962億円※2) |
0.80 (1,040億円) |
0.92 (1,196億円) |
1.07 (1,391億円) |
1.17 (1.521億円) |
1.23 (1,599億円) |
出典: HESA Finance Record (2009-10 to 2014-15)
※2 1ポンドを130円にて換算(以下の記述中も全て)
筆者注:上記の研究収入の内、ほぼ毎年60-70%はEUからの公的助成金であり、EU域外からの企業、EU域外のチャリティー機関、EU域内の企業等がそれに続く。
英国 | 18.9 % | オーストリア | 15.3 % |
ドイツ | 5.2 | オランダ | 12.5 |
米国 | 4.5 | 日本 | 0.4 |
カナダ | 6.0 | 韓国 | 0.7 |
※3 Gross domestic expenditure on research and development(GERD)
【留学生の経済的インパクト】
* 海外からの留学生は、英国経済に年間約110億ポンド(1兆4,300億円)の収入をもたらしていると推定される。EU域内からの留学生だけをとっても、年間約37億ポンド(4,810億円)の収入を英国にもたらすと共に、英国中で34,000名以上の雇用を支えていると考えられている。
6. 筆者コメント
* 英国は世界の留学生市場の約10%を占め、米国に次いで世界第2位である。しかしEU離脱後には、今まで英国人学生と同額だったEU学生向けの授業料が他地域からの留学生向け授業料と同じく高額になる可能性があり、特にEUからの留学生は今後減少に転じるかもしれない。
* また、2014年-2020年の7年間で総額800億ユーロ(9兆2,000億円)の大型予算を持つEUの研究イノベーション枠組み計画である「Horizon2020」の各種プロジェクトを、英国は他のEU諸国より一番多くコーディネートしている。その数は約1,500件と、2位のスペインの900件を大きく引き離して断トツである。しかし、英国がEUを離脱した後は、今のままだとEU域内における各種プロジェクトへの英国の影響力は大きく減少することが危惧される。
* 現在のところ、英国のEU離脱後についてのはっきりした道筋がまだついておらず、英国の大学によるEUプロジェクトへの今後の参画がどのようになるのか、不透明である。しかしながら、英国もEUも共同プロジェクトの重要性を理解しており、共同プロジェクトに対する何らかの新たな枠組みができると思われる。