ニュース - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」 https://scienceportal.jst.go.jp Thu, 29 Jan 2026 07:20:14 +0000 ja hourly 1 宇宙に巣を張る赤いクモ? 惑星状星雲「NGC6537」 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260129_n01/ Thu, 29 Jan 2026 07:11:38 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=56130
惑星状星雲NGC6537(欧州宇宙機関・ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡、NASA、カナダ宇宙庁、J.H.カストナー氏=米ロチェスター工科大学=提供)
惑星状星雲NGC6537(欧州宇宙機関・ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡、NASA、カナダ宇宙庁、J.H.カストナー氏=米ロチェスター工科大学=提供)

 真ん中のひときわ明るい星。そこから、一対の楕円(だえん)状のガスが、正反対の方向に延びている。いて座にある惑星状星雲「NGC6537」だ。「赤いクモ星雲」とも呼ばれる通り、一匹のクモのように見える。宇宙に巣を張り、輝く星々を捕らえて餌にしているのだろうか。

 惑星状星雲は、年老いて死にゆく星が赤色巨星から白色矮星(わいせい)へと変わりつつある天体だ。今回の画像は米欧とカナダのジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が近赤外線によって捉え、米航空宇宙局(NASA)などが新たに公開した。これまでで最も精細な姿で、水素分子の放つ光がクモの足に見える。

 ジェームズウェッブの名は、1960年代にアポロ計画などを指揮したNASAの2代目長官にちなむ。ウェッブのつづりは「Webb」で、クモの巣の「web」と少し違うが…クモの巣がクモを捕らえたという、しゃれた解釈もできそうだ。

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旅客機内から地表「面」の温室効果ガス自動観測 全日空など世界初 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260128_n01/ Wed, 28 Jan 2026 06:33:01 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=56063  旅客機内から、温室効果ガスなどの大気成分を自動観測する実証を始めると、ANAホールディングスなどが発表した。全日空グループの国内線に搭載すれば日本列島を網羅的に観測できる。既に、航路上の大気を直接取り込む手法による“線”の観測例があるのに対し、リモートセンシング(遠隔観測)による地表の“面”の観測が特徴で、定期旅客便で世界初という。

旅客機内からの観測例。2023年5月、大阪一帯の二酸化窒素濃度を細かく捉えた。交通量の多い幹線道路が白い点となって表れている(ANAホールディングス提供)
旅客機内からの観測例。2023年5月、大阪一帯の二酸化窒素濃度を細かく捉えた。交通量の多い幹線道路が白い点となって表れている(ANAホールディングス提供)

 同社は2020年以降、旅客機内から大気成分を観測する技術の研究を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で「GOBLEU(ゴーブルー)」と称し進めてきた。温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」などの原理を応用し、温室効果ガスの吸収による光の減衰を捉える。機内から窓越しに観測するが、これまでは観測の都度、装置を持ち込み、客席を使ってきた。

 昨年11月、新たにボーイング737型1機を改修し、乗客から見えない位置で自動観測できるようにした。今年3月にはさらに1機を改修予定で、今後も需要に応じ改修機体を増やす。独自の手法について特許を申請している。

 いぶきなどは、高度600キロあまりを南北に回って広範囲を捉え、地表の同じ場所は3日ごとに観測する。これに対し旅客機は同10キロほどを飛び、1機あたり1日4便ほど運航する。各路線が都市間を結ぶため、都市ごとの大気を頻繁かつ詳細に観測できるという。衛星と旅客機の特徴を併せて活用することで、高精度の観測網の構築を目指す。都市域の温室効果ガス排出削減の検討や効果の評価に役立つデータを提供する。

 旅客機を使った大気観測では、日本航空や気象庁気象研究所などが1993年から取り組む「CONTRAIL(コントレイル)」が先行している。ルフトハンザドイツ航空などが参画する欧州主導の例もある。いずれも外気を直接取り込む手法のため、観測は上空の航路上に限られるが、温暖化予測などに役立っているという。

 これに対し、GOBLEUでは飛行機の進行方向左側の斜め下、地表での幅50キロにわたり面的に観測する。二酸化炭素や二酸化窒素などを捉え、各地の詳しい排出量や森林による吸収量が分かる。分解能は機体に近い手前で100メートル、遠方で数キロ。観測データは企業への販売も目指す。

 ANAホールディングス事業推進部の松本紋子氏は昨年12月16日の会見で「(CONTRAILなどの)上空大気の直接採取はシミュレーションに役立つ。GOBLEUの取り組みはそれとは異なるデータを取得するもので、いずれも重要だ」と説明した。JAXA衛星利用運用センターの須藤洋志ミッションマネージャは「両者は相互補完できる。例えばリモートセンシングと直接観測の結果を比較したり、組み合わせたりすることで、知見がさらに高まっていく」とした。

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失敗のH3ロケット、衛星が早期に脱離 衛星カバー分離時に異常か https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260127_n01/ Tue, 27 Jan 2026 06:22:58 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=56114  先月打ち上げに失敗した大型ロケット「H3」8号機は、衛星とロケットの結合部が飛行中に損傷し、衛星が予定より早く脱離していたことが分かった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、文部科学省宇宙開発利用部会の小委員会に調査状況を報告した。損傷は衛星搭載部のカバー「フェアリング」を分離した際の異常な衝撃の影響で生じたとみられる。失敗原因の究明には、この衝撃がなぜ生じたかの理解が鍵を握るとみられ、文科省とJAXAが調査を進める。

1段、2段分離後の画像には破片状のものと共に、予定より早く脱離した衛星とみられる物体(右下)が写っていた(JAXAの報告資料から)
1段、2段分離後の画像には破片状のものと共に、予定より早く脱離した衛星とみられる物体(右下)が写っていた(JAXAの報告資料から)

 8号機は先月22日、政府の準天頂衛星「みちびき」5号機を搭載し、種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられた。1段エンジンは正常に機能したものの、2段エンジンの燃焼に異常が発生。衛星を所定の軌道に投入できず失敗した。直後の調査で、打ち上げの3分45秒後のフェアリング分離時、通常より大きな衝撃が記録されていたことが判明した。

 今月20日の小委員会で、JAXAが飛行データの解析や飛行経過の推定状況を報告した。フェアリング分離時に生じた衝撃や2段燃料タンクの圧力、搭載カメラの画像などのデータから、飛行経過を次のように推定した。(1)フェアリング分離直後、何らかの要因で衛星結合部が損傷した(2)1段エンジンの燃焼中は、衛星が機体に押される形で飛行を継続した(3)1段の燃焼が終わると衛星を押す力がなくなり、衛星が脱離した(4)2段エンジンの着火により、衛星と2段機体が離れていった。

 フェアリング分離後の画像から、衛星のパネルがはがれ、衛星が傾く様子などを確認した。1段、2段分離後には破片状のものと共に、脱離した衛星とみられる物体が写っていた。

 衛星結合部が損傷して2段機体へと落ち込み、燃料タンクの加圧配管を損傷させたとみられる。これにより2段の飛行中、加圧バルブが開き続けてもタンク圧が低下した。2段機体は衛星を載せず、タンク圧の低下に“苦しみながら”飛行を続けたことになる。

 衛星は南鳥島(東京都)東方沖の、第1段落下予想区域内に落下したとみられる。地上の被害の報告はないという。JAXAの有田誠プロジェクトマネージャは「今後は衛星関係機関の協力も得ながら、フェアリング分離時の事象に注目し、原因究明を進める。あらゆる可能性を考慮して調査したい」と説明した。

みちびき5号機を搭載し打ち上げられるH3ロケット8号機。この後、失敗に終わった=先月22日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)
みちびき5号機を搭載し打ち上げられるH3ロケット8号機。この後、失敗に終わった=先月22日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)

 JAXAと三菱重工業は、H3の9号機によるみちびき7号機打ち上げを来月1日に予定していた。H3の8号機の失敗を受けて延期することを、今月7日に発表した。

 H3は固体ロケットブースターを装備しない最小形態を、開発中の6号機で実現する計画だ。国産大型ロケットで初めてとなる。昨年7月に実施した6号機の燃焼試験では、1段機体の燃料タンク内の圧力が十分に上がらない問題が発生した。対策を講じ、燃焼試験を再度実施する。この再試験を8号機の原因究明や対策と並行させるのか、その後に実施するのかは未定という。

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がん5年生存率、部位別で90%超から12%と大差 初の全国登録集計で判明 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260126_n01/ Mon, 26 Jan 2026 06:15:08 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=56107  がんと診断された人が5年後に生きている割合「5年生存率」の部位別数値を厚生労働省が公表し、前立腺や甲状腺などが90%を上回った一方、膵臓(すいぞう)が約12%と部位ごとに大きな差があることが判明した。これまでも国立がん研究センターが集計結果を定期的に公表してきたが、全ての患者を登録する「全国がん登録」のデータを基にした初の集計として注目される。

がん治療は家族ら周囲の人たちの支援も大切
がん治療は家族ら周囲の人たちの支援も大切

 調査と集計の対象は、2016年に新たにがんと診断された15歳以上の男女。男女総数のがん部位別の数値では、前立腺92.1%、甲状腺91.9%、皮膚91.1%、乳房88.0%、子宮75.5%、喉頭75.2%が70%を超える高さだった。男性、女性それぞれ患者数が最も多い、前立腺がん、乳がんの生存率が高い結果となった。

 一方、膵臓11.8%、胆のう・胆管23.0%は低く、患者数が多い肺も37.7%とまだ低い数値だった。このほか、大腸67.8%、悪性リンパ腫64.4%、胃64.0%、卵巣58.6%、白血病43.4%などだった。

 15歳未満の小児がんでは、白血病などが82.2%、神経芽腫などが78.5%、中枢神経系などが60.8%などだった。

がんの部位別5年生存率。上は男性、下は女性(厚生労働省提供)
がんの部位別5年生存率。上は男性、下は女性(厚生労働省提供)

 国は2016年から全国でがんと診断された全員を登録する制度を開始し、協力病院に限られていた「地域がん登録」から移行した。がん登録推進法に基づいて、全ての病院に患者情報の登録を義務付けている。

 国立がん研究センターの「最新がん統計」によると、2021年に新たに診断されたがんは男性55万5918例、女性43万2982例。男女総数では大腸、肺、胃、乳房、前立腺の順に多い。男性では前立腺、大腸、肺、胃、肝臓の順、女性は乳房、大腸、肺、胃、子宮の順だった。死亡数の部位別では男女総数で肺、大腸、膵臓、胃、肝臓の順だった。

 日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男女とも約2人に1人を数える。また、がんで死亡する確率は男性が約4人に1人、女性が約6人に1人。平均寿命が延びるとがんに罹患する確率も高まり、今やがんは「一般的な病気」になっている。

 国は2023年3月に「第4期がん対策推進基本計画」を決め、「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」を掲げた。「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」が3本柱。がん医療分野では、がん遺伝子変異などを明らかにして一人一人の体質や病状に合せた「がんゲノム医療」や、膵臓がんなどの生存率が依然低い「難治がん」対策を重視している。

 今回、全国登録集計により公表されたがん5年生存率は、治療の評価や診断後の経過を予測するめどを考える上で参考になる。その一方、生存率は個々の患者の「余命」を決めるものではない。余命は最善を尽くす治療と患者本人の闘病や家族ら周囲の人たちの支援の仕方により大きく異なると認識することが大切だ。

第4期がん対策推進基本計画の概要(厚生労働省提供)
第4期がん対策推進基本計画の概要(厚生労働省提供)
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競馬のムチの音をAIで自動検出 より公正なレースへ、筑波大が開発 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260122_n01/ Thu, 22 Jan 2026 06:32:55 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=56059  競馬のムチの音をAI(人工知能)で自動検出する技術を、筑波大学の研究グループが開発した。レース中にムチを使う回数や方法には規則があり、現在は動画などをもとに人間がチェックしている。今回の技術が実用化されれば、ムチの使用状況をより正確に把握できるようになってレースの公正性が担保される。また、ムチの適正な使用が徹底されることで、動物福祉にもつながるとしている。

ムチは馬をコントロールするために使われるが、馬の苦痛を抑えるため回数や頻度に規則がある(1月4日の中山金杯、競馬のおはなし提供)
ムチは馬をコントロールするために使われるが、馬の苦痛を抑えるため回数や頻度に規則がある(1月4日の中山金杯、競馬のおはなし提供)

 筑波大学システム情報系の善甫(ぜんぽ)啓一准教授(ヒューマンインターフェース学)は2年ほど前、競馬の配信サービス会社の関係者から「馬のムチの音を検出できないか」との相談を受けた。ブタのくしゃみの音を検出することで健康状態などを把握する、という内容の善甫准教授の共著論文を読んで連絡してきたという。

 JRA(日本中央競馬会)は、レース中のムチの回数や頻度、強さ、ムチの長さや形などを決めている。これらに違反すると、罰金や失格、騎乗停止などの重い処分が下される。海外のレースでも同様に決まりがある。ムチの使用状況は、審判員がレース後に動画などでチェックしており、善甫准教授は「自動検出システムがあれば効率化できる」と考えて研究に取り組んだ。

 善甫准教授らは、ムチの音に注目した。まず、厩舎内で調教師らに形状の異なる様々なムチを使ってもらい、それぞれの音データを記録した。これらを詳しく解析した結果、22キロヘルツを超える高い周波数の音も含まれていることが分かった。こうした高周波音を一般的な録音方式で正確に拾うことは難しく、特殊な機材を使うことにした。

ムチの音の周波数を解析したグラフ。非常に高い周波数帯までの音を含んでいた(筑波大学提供)
ムチの音の周波数を解析したグラフ。非常に高い周波数帯までの音を含んでいた(筑波大学提供)

 続いて、関東の競馬場やフランスのパリロンシャン競馬場のレースでムチの音声データの収集を試みたところ、競馬場内は観客の歓声などで70~126デシベルの騒音が響いていた。飛行機のエンジン音を間近で聞く音量(120デシベル)にも等しく、客の多い場所ではムチの音を拾えない。このため、観客の少ない場所や馬場に近いコーナー付近で集音を重ね、70パーセントの精度で自動検出できるようになったという。

 善甫准教授は残りの30パーセントについて、「馬の種類、ムチの種類、マイクまでの距離など様々な要素があり、完璧な検出は容易ではない。より多くのレースのデータを解析して精度を上げたい」と話す。「1日に何度もあるレースで、人が細かくチェックするのは大変だ。必ずしも人が全部やらねばならない仕事ではないと思う」。

 今回の自動検出システムが実用化されれば、過剰なムチの使用を防ぐことができると期待される。善甫准教授は「馬の負担を減らすことにもつながるよう、技術を確立したい」と話している。

 これまで善甫准教授は競馬をしたことがなかったが、今回の研究を機に500円の馬券を初めて買ったところ1万円に化けた。ただ、それ以降は確率を考えて馬券を買わず、「勝ち逃げ」しているという。

 研究は株式会社NEXION(東京都新宿区)の助成を受けて実施した。成果は2025年11月19日、仏・国際自動制御連盟の学会誌「エンジニアリング アプリケーションズ オブ アーティフィシャル インテリジェンス」に掲載され、同年12月12日に筑波大学が発表した。

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日本国際賞に自然免疫の審良静男氏ら デジタル関連でシンシア・ドワーク氏 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260121_n01/ Wed, 21 Jan 2026 06:15:02 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=56067  国際科学技術財団は21日、2026年の日本国際賞に、自然免疫における核酸認識メカニズムを見出した大阪大学先端モダリティ・ドラッグデリバリーシステム研究センターの審良静男特任教授(72)とテキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンターのジージャン・チェン教授(60)、倫理的なデジタル社会に構築に向けた研究を進めるハーバード大学コンピュータサイエンスのシンシア・ドワーク教授(67)を選んだと発表した。

日本国際賞に決まった左から審良氏、チェン氏、ドワーク氏(国際科学技術財団提供)
日本国際賞に決まった左から審良氏、チェン氏、ドワーク氏(国際科学技術財団提供)

 「生命科学」分野の受賞者となった審良氏とチェン氏は、ウイルスや細菌といった病原体の体内への侵入をいち早く感知し、防御反応を開始する重要な役割を担う自然免疫において、病原体由来の核酸(DNAやRNA)を感知するタンパク質を発見し、情報が細胞内でどう伝わり免疫反応が引き起こされるのかといった仕組みを明らかにしていったという。

 自然免疫に関しては2011年にノーベル生理学・医学賞を欧米の免疫学者が受賞しているが、「核酸の免疫メカニズムという点において、一番重要といえる免疫系活性化のフレームワークを形作ることができたといえる」と審査委員が評価したという。免疫に関しては、2025年ノーベル生理学・医学賞を同じ大阪大学に所属する坂口志文特任教授も受賞しており、審査委員の一人は「ここ20年から30年ほど、審良氏と坂口氏は世界で最も活躍した免疫学者と言えるだろう」とした。

 「エレクトロニクス、情報、通信」分野の受賞者となったドワーク氏は、社会のデジタル化の急速な進展を前にした1992年、将来の電子メールの氾濫を予見し、防止策として計算コスト負担を提案した。このアイデアが「プルーフオブワーク(PoW)」として現在普及している。

 2006年には、ある一人の情報が入った集団と入っていない集団から得た統計処理結果の差分を取り出せなければその人の情報は漏れないという発想を元にした「差分プライバシー」という概念を提唱。ビッグデータ解析などデータ利用の背後にある個人情報漏洩の危険度を数学的に検討できるようになった。現在ドワーク氏は、人工知能(AI)が差別を引き起こさない方策の研究を進めているという。

 審査委員の一人は「デジタル時代の倫理的な問題に対して、コンピューターサイエンス(計算機科学)の知見を生かし、科学的に取り組んだ研究者。取り組むテーマそれぞれが独創的であり先見性がある」と評価した。

 国際科学技術財団によると授賞式は4月14日に東京都内で行う。

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油井さん、ISSから予定繰り上げ帰還 諏訪さんは来年初飛行へ https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260116_n01/ Fri, 16 Jan 2026 06:55:34 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=56017  国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在していた油井亀美也(ゆい・きみや)さん(55)と米露3人の飛行士が日本時間(以下同)15日、予定を繰り上げ地球に帰還した。4人のうち1人の医療対応のためで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると油井さんではないという。健康理由による早期帰還はISS史上初めて。一方、JAXAは新人飛行士の諏訪理(まこと)さん(49)が来年頃に半年間、ISSに初めて滞在すると発表した。会見した諏訪さんは「25年続くISSのたすきをしっかり受け取り、次の飛行士に受け渡したい」と意気込みを語った。

地上に帰還し、クルードラゴンから退出した油井さん(中央)=15日午後、米サンディエゴ沖(NASAテレビから)
地上に帰還し、クルードラゴンから退出した油井さん(中央)=15日午後、米サンディエゴ沖(NASAテレビから)

同乗飛行士、地上で精密検査の必要

 米航空宇宙局(NASA)が9日に会見し、飛行士1人が地上での精密検査を必要とするため、4人を早期に帰還させることを明らかにした。この飛行士の名前や具体的な症状は、プライバシーを理由に非公表。ISSの運用とは無関係に起きた症状という。ジャレッド・アイザックマン長官は「明らかに深刻な症状だった」とする一方、「容体は安定しており緊急事態ではない」と説明した。

 油井さんら4人は昨年8月2日、米スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」で地球を出発し、同時にISS滞在を開始した。帰還時も同じ機体に搭乗する都合で、4人とも帰還を前倒しすることとなった。帰還したのは油井さんと米国のマイケル・フィンクさん(58)、ジーナ・カードマンさん(38)、ロシアのオレグ・プラトノフさん(39)。来月半ばに到着する後継の4人を待たずに、5カ月半ほどでISSを離れた形だ。

帰還前、ISSの日本実験棟「きぼう」でクルードラゴンの宇宙服に身を包む油井さん(前列右)ら。彼らの早期帰還によりISS滞在中の飛行士は3人となった(NASA提供)
帰還前、ISSの日本実験棟「きぼう」でクルードラゴンの宇宙服に身を包む油井さん(前列右)ら。彼らの早期帰還によりISS滞在中の飛行士は3人となった(NASA提供)

 4人の乗ったクルードラゴンは15日午前7時20分、高度約400キロにあるISSから離脱した。徐々に降下して大気圏に突入。パラシュートを開いて午後5時41分に米カリフォルニア州サンディエゴ沖に無事に着水した。アイザックマン長官は同日夜の会見で「全員が帰還後に健康診断を受けている。懸念されていた飛行士は元気だ。NASAは予期せぬ事態に備え、断固として安全に対応できるよう準備している」とした。

 油井さんは同日夜、X(旧ツイッター)に「無事に地球へ戻ってきました! クルードラゴンの窓から見た満天の星空や大気圏突入時のプラズマの美しさを撮影できなかったのが残念です。地球の重力も懐かしい感じでいいですね。今後のリハビリ、頑張ります!」と、自身が室内で歩く動画と共に投稿した。

 航空自衛隊テストパイロット出身の油井さんは2009年、JAXAの飛行士候補に選抜された。15年、ISSに約5カ月滞在したのに続き、今回が2回目の飛行。滞在中は科学実験や機器の維持管理、日本の物資補給機「HTV-X」初号機のロボットアームによる捕捉や関連作業などをこなした。

「ISSの成果に最後の磨きをかける」

 JAXAからISS滞在の指名を受けた諏訪さんは9日、都内で会見。ISSの運用が2030年に終了する計画であることに触れ、「(自身が滞在する)27年頃は、具体的に後ろが見える時期。成果に最後の磨きをかけることや、地球低軌道利用の民間の需要を作ること、月・火星探査に向け基礎を築くことなどを、意識しながらやっていく」と初飛行を展望した。「地上と宇宙、国と国、月・火星や地球低軌道の未来へといった、『つなぐ』ことを意識して臨みたい」とした。

会見する諏訪さん=9日、東京都千代田区
会見する諏訪さん=9日、東京都千代田区

 国際宇宙探査をめぐり持論を語った。「国同士の立場の違いはあっても、できるところから協力するのが人類の知恵。ISSは好例で、その後の(月探査の)アルテミス計画も国際協力で進む。私の好きなアフリカのことわざに『早く行きたいなら一人で行け、遠くに行きたいなら皆で行け』がある。まさに宇宙開発は遠くに行くことで、皆で行くしかない」

 アルテミス計画は米国主導で、日欧やカナダが参加。アポロ計画以来となる有人月面着陸を2028年までに実現し、月上空の基地「ゲートウェー」を建設して実験や観測をする。日米政府は、日本人2人の月面着陸に合意済み。着陸の前段階として来月にも、半世紀ぶりとなる有人月周回飛行を米国とカナダの計4人が実施する予定だ。

 諏訪さんはこれまでの訓練を振り返った。「何ごとも最初は苦労し、徐々に難度が上がった。(自身では)できないと思う段階もあったが、一回一回しっかりデブリーフ(振り返り)をして先輩飛行士がコメントをくれた。それらを自分で内省し、次の訓練につなげた。飛行士は(宇宙で)どんな仕事もこなす必要があり、『これが苦手』と思われたらまずい。難しいことも苦手意識を持たずクリアできてきたのは、よく設計された訓練や、インストラクターの経験と技量によるところが大きい」

会見後に撮影に応じる諏訪さん
会見後に撮影に応じる諏訪さん

 先輩飛行士のアドバイスが生きた。「ずっと伴走してくれた」という金井宣茂(のりしげ)さん(49)から「キャラ(キャラクター)をつけた方がいい」と言われたのが心に残っているという。「『自分らしくあれ』ということだろう。飛行士に定型はなく、バックグラウンド(経歴)を生かすやり方が良いと、言ってくれたと思う」。金井さんから「日記を書け」とも言われ、2年ほど続けている。

 諏訪さんは1977年、東京都生まれ。茨城県つくば市育ち。米プリンストン大学大学院地球科学研究科修了。青年海外協力隊のルワンダ派遣、世界気象機関(WMO)を経て、2014年に世界銀行に入行した。アフリカの気候変動や防災に関する取り組みに従事した。23年2月、JAXAの飛行士候補に米田あゆさん(30)と共に選出され、基礎訓練を経て24年10月に飛行士に正式認定された。少年期の1985年に開かれた筑波科学博や、アポロ17号の船長に会ったことなどを通じ、飛行士への思いを強めたという。

油井さんが滞在中の先月初旬、ISSに8つあるドッキングポート全てが宇宙船で埋まった。ISS史上初めてという。日本のHTV-X初号機も係留中だ(想像図、NASA提供)
油井さんが滞在中の先月初旬、ISSに8つあるドッキングポート全てが宇宙船で埋まった。ISS史上初めてという。日本のHTV-X初号機も係留中だ(想像図、NASA提供)

◇1月21日追記
本文の一部を訂正しました。
9段落目
誤「有人月周回飛行を米国人4人が実施する予定だ」
正「有人月周回飛行を米国とカナダの計4人が実施する予定だ」

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高さ25.36センチの東京スカイツリー 3Dプリンターで内部の柱まで再現 阪大 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260115_n01/ Thu, 15 Jan 2026 06:20:52 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=56010
3Dプリンティングした高さ25.36センチの東京スカイツリー模型(左)と高さ634メートルの東京スカイツリー(東京都墨田区)
3Dプリンティングした高さ25.36センチの東京スカイツリー模型(左)と高さ634メートルの東京スカイツリー(東京都墨田区)

 100マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル程度まで絞り込めるレーザービームをピンポイントであててチタン合金を溶融させ、厚み50、60マイクロの層を繰り返し積み重ねること48時間。大阪大学吹田キャンパスにある積層造形(AM)の拠点、阪大金属AMセンターのセンター長を務める中野貴由教授(AM材料学)らが、金属3Dプリンターで25.36センチの東京スカイツリー模型(実物の2500分の1)を完成させた。

 本物の東京スカイツリーと模型を並べて見ると、柱が積み上がっていくにつれて三角形の底が円形に変化する特徴がぴったり一致している。作り込んだ先端の避雷針は直径100マイクロメートル程度。指で押すと突き刺さりかねないが、使用したチタン合金は、インプラントにも用いるものなので、体に害がある心配はほぼ無い。

 角度を変えると内側にも柱が見える。「トラス構造」という部材を三角形状に接合した構造体骨組みまで再現したからだ。金属粉末を薄く敷いて、必要な部分だけレーザーで溶かして下から柱などを伸ばして作った。「レーザーの強度や照射時間を調節して金属をほどよい温度で溶かすことで柱の幅を調節するのが腕の見せ所だった」と、中野教授。

 3Dプリンターでは作成過程によく使う、空中に浮かぶ部分を支える「サポート材」を使わなかったことも見せ所の一つ。実際の建設と同じように下から直線の柱を組み合わせた構造を生み出す過程を体験し、中野教授は「直線の部材を組み合わせて作る美しさ『直線美』を実感した」という。

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サンゴ礁、守るのは美しさだけじゃない 「天然防波堤」効果を予測 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260113_n01/ Tue, 13 Jan 2026 06:41:42 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55993
海面付近に生息し、波を砕く役割を持つサンゴ(和歌山県立南紀熊野ジオパークセンター提供)
海面付近に生息し、波を砕く役割を持つサンゴ(和歌山県立南紀熊野ジオパークセンター提供)

 南の海を彩るサンゴ礁。美しいだけでなく、外洋からの高波を和らげる天然の防波堤としての役割も注目されている。自然の機能を社会に役立てる「グリーンインフラ」の一つというわけだ。

サンゴ礁、守るのは美しさだけじゃない 「天然防波堤」効果を予測
温帯域のサンゴ群集=和歌山県串本町(同)

 和歌山県立南紀熊野ジオパークセンターなどの研究グループは亜熱帯域に温帯域を加え、サンゴの成長なども考慮し、波高を抑える効果を2100年まで予測した。対象とした温帯域は、大規模なサンゴ群集があるが、サンゴ礁と呼べるほど発達していない同県串本町。その結果、温帯域などではサンゴの成長が続くと効果が有意に高まり、沿岸の災害リスクの低下につながることを示した。この成果は「コンクリート製インフラの建設見直し、コスト抑制などにつながる」という。サンゴ礁を守ることの大切さが改めて認識された。

 研究グループは同センター、和歌山大学、産業技術総合研究所、東京大学で構成。成果は日本サンゴ礁学会の専門誌「ガラクセア、ジャーナル・オブ・コーラル・リーフ・スタディーズ」電子版に昨年12月4日掲載され、和歌山大学などが同9日に発表した。

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「ナイスステップな研究者2025」に気鋭10人、多彩な分野で成果 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20260107_n01/ Wed, 07 Jan 2026 04:28:40 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55954  文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP、ナイステップ)は、科学技術イノベーションのさまざまな分野で活躍している研究者10人を「ナイスステップな研究者2025」に選定した。社会的課題に関わる研究に取り組むほか、広く成果を還元している人物を選んだという。

「ナイスステップな研究者2025」に選ばれた釜江氏の研究から。(左)理想的な大陸を配置した数値実験により雲や大気循環の応答を調べる(右)中緯度で観測される特徴的な水蒸気輸送システム」(筑波大学提供)
「ナイスステップな研究者2025」に選ばれた釜江氏の研究から。(左)理想的な大陸を配置した数値実験により雲や大気循環の応答を調べる(右)中緯度で観測される特徴的な水蒸気輸送システム」(筑波大学提供)

 専門家約1600人への調査などにより、最近の活躍が注目される研究者を抽出。研究実績に加え、人文・社会科学との融合などの新興・融合領域を含めた最先端の画期的な研究内容、産学連携・イノベーション、国際的な研究活動の展開などの観点から、NISTEPの所内審査を経て10人が決まった。

 活躍が期待される若手研究者を中心に、気象や材料科学、AI(人工知能)、ライフサイエンス、民俗学などの分野の人材が選出された。

 「ナイスステップな研究者」は2005年に開始。過去には、後にノーベル賞を受賞した山中伸弥氏や天野浩氏も選ばれている。

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 選定された研究者と研究内容は次の通り。敬称略。所属は公表の先月26日時点。

 釜江陽一=筑波大学生命環境系准教授「雲と大気循環を基軸とした気候感度および極端現象の研究」

 川越吉晃=東北大学グリーン未来創造機構グリーンクロステック研究センター准教授「マルチスケール解析で拓く航空機材料・設計・運用の学際研究」

 塩足亮隼=独マックスプランク協会フリッツハーバー研究所物理化学科グループリーダー「ナノスケールを超越した極小の光による単一分子の化学」

 新津藍=理化学研究所生命医科学研究センターチームディレクター「タンパク質をつくり細胞膜のダイナミクスを理解する」

 橋本雄太=国立歴史民俗博物館研究部准教授「みんなで翻刻:古文書資料のシチズンサイエンス」

 日永田智絵=奈良先端科学技術大学院大学助教「心に寄り添うAIロボットに向けた感情モデルの開発」

 姫岡優介=東京大学大学院理学系研究科生物普遍性研究機構助教「生命と非生命の差異を明らかにするための理論研究」

 深見開=東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻准教授「非線形機械学習を用いて非定常航空流体解のデータ科学的ブレイクスルーを狙う」

 八木隆一郎=コルバトヘルスCEO、慶応大学病院臨床研究推進センター特任助教「心血管疾患の早期発見の革新を目指して―心電図・心エコーAIの研究開発とその実装―」

 山本慎也=米ベイラー医科大学分子人類遺伝学部准教授「ショウジョウバエを用いた希少未診断疾患研究」

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