ニュース - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」 https://scienceportal.jst.go.jp Tue, 16 Dec 2025 06:52:58 +0000 ja hourly 1 コーヒーにミルク? 火星の冷たい「極冠」に熱い視線 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251216_n01/ Tue, 16 Dec 2025 06:52:05 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55813
欧州の探査機マーズエクスプレスが捉えた火星の南極の極冠(欧州宇宙機関、ドイツ航空宇宙センター、ドイツ・ベルリン自由大学提供。CC BY-SA 3.0 IGO)
欧州の探査機マーズエクスプレスが捉えた火星の南極の極冠(欧州宇宙機関、ドイツ航空宇宙センター、ドイツ・ベルリン自由大学提供。CC BY-SA 3.0 IGO)

 コーヒーにミルクをポタリ…にも見えるこの写真は、火星の南極にあるドライアイスでできた「極冠」を捉えている。欧州の探査機マーズエクスプレスが2015年に撮影した。3年後、この探査機のレーダー観測を基に、科学者はこの下に液体の水の湖があるとの見方を示した。火星に生命がいるかどうかなどをめぐり、再び議論が高まった。

 これに対し、米航空宇宙局(NASA)は先月25日、米探査機マーズ・リコネサンス・オービターの観測により、湖とみられたものは岩石やチリの層だろうと発表した。特別な技術で、レーダーの信号を地下深くまで到達させて調べた。関連する論文が同17日、米地球物理学連合の専門誌ジオフィジカル・リサーチ・レターズに掲載された。冷たい極冠の謎を、科学者の熱い視線がいつ解くのだろう。

 さすがにタコ型の火星人はいないにせよ、微生物のようなものはいるのか。つい9月にも生命の痕跡の新たな「有力証拠」が発表されたばかり。太陽系内では木星や土星の衛星にも熱い視線が注がれている。科学の地道な取り組みが続く。

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千葉県チーム優勝、第13回科学の甲子園ジュニア 姫路で激闘 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251215_n01/ Mon, 15 Dec 2025 06:00:53 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55799  全国の中学生が理科や数学などの知識や活用力を駆使して競う「第13回科学の甲子園ジュニア全国大会」が兵庫県姫路市で開かれ、千葉県代表チーム(市川学園市川中学校)が優勝した。主催した科学技術振興機構(JST)が14日発表した。

優勝した千葉県代表チーム=14日、兵庫県姫路市
優勝した千葉県代表チーム=14日、兵庫県姫路市

 予選である都道府県大会には計2万7474人の生徒が参加登録。各都道府県で選出された6人ずつが代表チームを構成し、計282人が全国大会に臨んだ。12日に開会式、13日に競技を実施。理科や数学などの複数分野に関する知識と活用能力を駆使し、さまざまな課題に挑戦した。筆記競技と2種目の実技競技の得点を合計した総合成績により、優勝は千葉県、2位は神奈川県、3位は愛知県代表チームに決まった。

 共催する兵庫県教育委員会の大久保拓哉教育次長は14日の表彰式で「さまざまな垣根を越えて集まった仲間が助け合い、励まし合いながら答えを導き出す経験こそが、この大会の醍醐味であり魅力。喜びや悲しさをばねに、さらに科学への興味関心を高め、これからも探求心を発揮し、さまざまなことに挑戦されることを期待している」と呼びかけた。

 来賓の松本洋平文部科学相は「チームの仲間と切磋琢磨(せっさたくま)しながら競技に取り組んできた経験や、全国の科学好きの仲間との交流を通じて得たつながりは、将来、皆さんがさまざまな分野で活躍される際の大きな支えになる」と映像であいさつした。

 2020年12月に予定された第8回が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け中止。翌年は各都道府県会場で筆記競技のみ実施した。22年の無観客実地開催を経て、23年にコロナ禍前の通常プログラムに戻った。今年は初めて会場となった兵庫県立武道館に、多くの観客が来場。大会の模様はネットで中継された。

 大会は高校生を対象とした「科学の甲子園」の中学生版。科学と生活のつながりに気付き、科学を学ぶことの意義や楽しさを実感できる場を提供しようと2013年に創設された。第14回は来年12月中旬、姫路市で開かれる。

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ふたご座流星群、14日ピーク 月明かりの影響小さく好条件 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251210_n01/ Wed, 10 Dec 2025 06:09:59 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55727  流星(流れ星)が特に多く現れる三大流星群のうち、「ふたご座流星群」のピークが14日に迫っている。毎年起こる流星群の一つだが、今年は月が昇るのが未明で影響も小さく、好条件という。天気さえ良ければ防寒や安全、マナーに留意し、天体ショーの好機を生かしたい。

ふたご座流星群=2004年12月14日、茨城県常陸大宮市(国立天文台提供)
ふたご座流星群=2004年12月14日、茨城県常陸大宮市(国立天文台提供)

 国立天文台によると、発生のピーク「極大」は14日午後5時頃と予想される。最も多く見られるのは14日夜から15日明け方にかけて。空の暗い場所で、14日午後9時頃に1時間あたり30個と予想される。東京の場合、同11時~翌15日午前2時頃には同50個程度が期待される。その後は下弦を過ぎた、つまり半月よりやや細い月が昇ってくるが、月明かりの影響はさほど大きくならない。明け方にかけて同35~45個程度が予想される。前日の13日夜から14日明け方にも、多くなりそうだ。実際にどの程度観察できるかは場所や気象条件、熟練度、視力などによる。

彗星の軌道に帯状に残されたチリに地球がさしかかって、流星群が起こる(模式図、国立天文台提供)
彗星の軌道に帯状に残されたチリに地球がさしかかって、流星群が起こる(模式図、国立天文台提供)

 流星は、宇宙空間のチリが地球の大気圏に突入して燃え尽きる際、成分が光って夜空に筋を描く現象。彗星(すいせい=ほうき星)の通り道に多くのチリが帯状に残されており、地球が毎年そこにさしかかる際に大気に飛び込んで、流星が多発する流星群が起こる。地球がチリの帯を通り、流星群が起こる時期は毎年決まっている。チリを残した天体「母天体」はふたご座流星群の場合、活動的小惑星「フェートン」だ。

 活動的小惑星は小惑星に分類されるものの、彗星のようにチリを活発に放出する小天体。2021年には米国の研究グループが、フェートンが放出するチリの正体はナトリウムとみられるとする研究成果を公表した。日本はフェートンを探査する技術実証機「デスティニープラス(DESTINY+)」を計画。このナトリウムの謎にも迫るという。打ち上げは当初は昨年度とされ、後に今年度に延期された。さらに、搭載する予定だった小型ロケット「イプシロンS」の開発難航を受け、ロケットを大型の「H3」に変更し、28年度に延期することが昨年12月に決まっている。

気化したナトリウムを放出するフェートンの想像図(NASA、米カリフォルニア工科大学提供)
気化したナトリウムを放出するフェートンの想像図(NASA、米カリフォルニア工科大学提供)

 大小100以上の流星群のうち、特に流星が多発するものは「三大流星群」と呼ばれる。中でもふたご座流星群は、毎年ほぼ安定して多く出現するとされる。ただし極大の時刻と月明かりとの兼ね合いなどで、年により条件は変わる。

三大流星群。極大時の数は年により異なる(国立天文台などの資料を基に作成)
三大流星群。極大時の数は年により異なる(国立天文台などの資料を基に作成)

 流星群は空のどこにでも現れうるが、光の筋をさかのぼって延長すると一点の「放射点」に集まる。その向こうの宇宙空間から降ってくるチリが、地上から観察すると放射状に飛び出すように見えるためだ。ふたご座流星群の放射点はふたご座付近にある。時間により、放射点の高度が高いほど流星の数が増える。今回は木星がマイナス2.6等級でふたご座付近にあり、放射点を把握しやすい。

 一つ一つの流星がいつ、空のどこに出るかは全く予測できない。なるべく空の開けた場所で、肉眼で観察する。シートを敷いて寝転ぶと楽だが、利用できる安全な場所であることを確かめる必要がある。

ふたご座流星群の解説図(国立天文台提供)
ふたご座流星群の解説図(国立天文台提供)
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鮮やかな黄色い帯の新種ハゼ…あの人気キャラ釣り上げた!? https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251203_n01/ Wed, 03 Dec 2025 04:43:20 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55679
新種「エレキハゼ(Vanderhorstia supersaiyan)」(平坂寛氏提供)
新種「エレキハゼ(Vanderhorstia supersaiyan)」(平坂寛氏提供)

 ヒレに鮮やかな黄色い帯。実にカッコよく、かわいらしくもある見慣れないハゼを、生物系ライターの平坂寛さんが釣り上げた。場所は沖縄県・石垣島沖の、わずかな光が届く海域「トワイライトゾーン」。母校の琉球大学で同期だった小枝圭太・同大助教に知らせると「ヤツシハゼ属の新種では?」。研究の結果、他の特徴もあり新種と判明した。

 ヒレの模様が人気漫画「ドラゴンボール」のキャラクターを思い起こさせるとして、その名をヒントに「Vanderhorstia supersaiyan(バンダーホルスティア・スーパーサイヤン)」と命名。標準和名は、体から放電するように見える模様をもとに「エレキハゼ」を提唱した。

 こんなに面白い姿の魚が、発見されていなかったなんて意外だ。「沖縄のトワイライトゾーンに、まだまだ未発見の未記載種や希少種が多くいる可能性が高い」と研究グループ。

 同大と黒潮生物研究所で研究グループを構成。成果は日本魚類学会の英文誌「イクチオロジカルリサーチ」に先月27日に掲載された。研究は笹川平和財団オーシャンショット助成事業、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の支援を受けた。

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寄生植物が「仲間」に寄生しない仕組み解明 農業被害の軽減につながる可能性 奈良先端大など https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251126_n01/ Wed, 26 Nov 2025 05:17:50 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55636  自分以外の植物から水や養分を奪う寄生植物が、同種や近縁の植物には寄生しない「自己回避」の仕組みを解明したと、奈良先端科学技術大学院大学などの研究グループが発表した。寄生植物に取り付かれた植物(宿主植物)は、思うように成長できなくなる。研究グループは、今回の研究成果をもとに農作物への寄生を抑える技術を開発し、農業被害の軽減につなげたいとしている。

 寄生植物が自己回避をすることは知られていたが、その仕組みは謎だった。奈良先端大の吉田聡子教授、峠隆之教授、理化学研究所環境資源科学研究センターの白須賢副センター長、京都大学生存圏研究所の飛松裕基教授らでつくる研究グループは、モデル植物として研究が進む寄生植物コシオガマを用いて自己回避の仕組みを調べた。

 イネの根(青色)に侵入する寄生植物コシオガマの吸器(紫色)。侵入した吸器は維管束をつなげることで宿主のイネから栄養を獲得する(吉田聡子氏提供)
イネの根(青色)に侵入する寄生植物コシオガマの吸器(紫色)。侵入した吸器は維管束をつなげることで宿主のイネから栄養を獲得する(吉田聡子氏提供)

 寄生植物は「吸器(きゅうき)」という特殊な器官を宿主植物の維管束に侵入させ、水分や養分を奪う。吸器は宿主植物の根などが分泌する吸器誘導物質(HIFs)によって形成されるが、通常、寄生植物自身や近縁の寄生植物のHIFsでは吸器が形成されないために自己回避が起きる。研究グループは、自分自身のHIFsに反応して吸器を形成するコシオガマの突然変異体を調べた結果、HIFsと糖を結びつける特殊な酵素「UGT72B1」が壊れていることを発見した。

 寄生植物のUGT72B1は宿主植物のUGT72B1よりも幅広い種類のHIFsに糖をつけることができ、糖がついたHIFsは吸器を形成する能力を失うことを突き止めた。この仕組みにより、寄生植物が自己回避しているという。

コシオガマの吸器の3D画像。コシオガマの道管(赤色)は宿主組織の中で宿主の道管(グレー)に巻きつくような構造をとっている(吉田聡子氏提供)
コシオガマの吸器の3D画像。コシオガマの道管(赤色)は宿主組織の中で宿主の道管(グレー)に巻きつくような構造をとっている(吉田聡子氏提供)

 寄生植物はアフリカや欧州など世界で年間10億ドル以上の農業被害をもたらしている。吉田教授は「今回の研究成果は寄生植物が自己と他者を分子レベルで識別する仕組みの理解につながり、宿主植物は自らの仲間だ、と寄生植物に錯覚させることで寄生を抑える新たな技術を開発できる可能性がある」と述べている。

 研究成果は10月23日付の米科学誌サイエンスに掲載された。

寄生植物が近縁種を回避する仕組みの概念図(奈良先端科学技術大学院大学などの研究グループ提供)
寄生植物が近縁種を回避する仕組みの概念図(奈良先端科学技術大学院大学などの研究グループ提供)
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スパコン速度、米「エルキャピタン」が3連覇 「富岳」は7位維持 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251121_n01/ Fri, 21 Nov 2025 06:30:37 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55620  スーパーコンピューターの計算速度の世界ランキング「TOP(トップ)500」が発表され、米ローレンスリバモア国立研究所の「エルキャピタン」が前回6月に続きトップとなり、3連覇した。毎秒100京回(京は1兆の1万倍)を意味する「エクサ級」のスパコンは、整備を完了したドイツの1台が加わり、集計上4台となった。理化学研究所の「富岳(ふがく)」は7位を維持。理研は後継機を2030年頃に稼働する計画だ。

スパコン世界最速のエルキャピタン(米ローレンスリバモア国立研究所提供)
スパコン世界最速のエルキャピタン(米ローレンスリバモア国立研究所提供)

 TOP500は性能評価用プログラムの処理速度を年2回競うもの。米ミズーリ州セントルイスで開かれた国際会議で日本時間18日に発表された最新版では、米エネルギー省、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、AMDなどが開発したエルキャピタンが毎秒180京9000兆回。トップ3を米国勢が占め、整備完了により同100京回にまで高めたドイツ「ジュピターブースター」が4位で続いた。7位の富岳の速度は、44京2010兆回となっている。

 エルキャピタンは国家核安全保障局の3研究所が利用。核実験を行わずに備蓄核兵器の信頼性を確認することなどに役立て、米国の核抑止力確保に貢献するという。物理学研究などにも用いる。ローレンスリバモア研は機密性の低い研究に広く使うため、エルキャピタンの小規模版「トゥオルミ」も導入しており、12位となった。

 上位500台の内訳は米国が最多の172台。日本は43台でこれに続き、前回4位から浮上した。以下、ドイツ40台、中国39台、フランス22台が続いた。一方、中国は近年、TOP500への参加に対し消極姿勢に転じており、既に複数のエクサ級スパコンを開発済みとされる。

 日本は先代「京(けい)」が2011年に連覇した後、中国や米国に抜かれた。20年6月、富岳で8年半ぶりに首位となり、21年11月まで4連覇した。TOP500と同時に発表された、産業利用に適した計算の速度を競う「HPCG」では2位と、実用性で強さを見せた。グラフ解析の性能を競う「Graph(グラフ)500」も続いて発表され、2位となった。

産業利用に適した計算の速度を競うランキングでは2位の富岳(理研提供)

 富岳は理研と富士通が共同開発し、理研計算科学研究センター(神戸市)の京の跡地に設置された。2020年4月からの試験利用を経て21年3月に本格稼働し、産学官による利用が進んでいる。

 理研は今年1月、富岳後継機の開発開始を発表した。コードネームは「富岳NEXT(ネクスト)」で、2030年頃に稼働する計画。シミュレーションでの実効性能を5~10倍に高めるほか、活用が急速に進むAI(人工知能)に必要な性能で世界最高水準を目指す。3月末には、富岳NEXTを同センターの隣接地に設置することを決めた。富岳を撤去して置き換える場合、利用の空白期間が長くなるためという。また6月、全体システムなどに関わる基本設計の業務実施者を富士通に決定したと発表した。

     ◇

TOP500のランキング上位は次の通り(名称、設置組織、国、毎秒の計算速度)。
1位 エルキャピタン ローレンスリバモア国立研究所(米国)180京9000兆回
2位 フロンティア オークリッジ国立研究所(米国)135京3000兆回
3位 オーロラ アルゴンヌ国立研究所(米国)101京2000兆回
4位 ジュピターブースター ユーリッヒ研究センター(ドイツ)100京回
5位 イーグル マイクロソフト社(米国)56京1200兆回

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見た目も動きもリアル! 恐竜型メカニカルスーツ、最新の研究もとに皮膚の質感まで再現 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251120_n01/ Thu, 20 Nov 2025 06:35:25 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55607
 トリケラトプスやアンキロサウルス、ステゴサウルスの恐竜型メカニカルスーツが観客の目の前を歩く(ON-ART提供)
トリケラトプスやアンキロサウルス、ステゴサウルスの恐竜型メカニカルスーツが観客の目の前を歩く(ON-ART提供)

 「こんなにすごい生き物がいたんだ」と感じてほしい――。そうした思いから、東京都立川市の株式会社ON-ART(オンアート)の金丸賀也(かずや)社長は、見た目も動きもリアルな「恐竜型メカニカルスーツ」のライブイベントを各地で開いている。

 金丸さんは東京芸術大学の出身で、博物館の展示物制作に携わっていたとき、硬い強化プラスチックを用いることに違和感があった。試行錯誤する中で、軟らかい樹脂に色を塗り重ねることで動物の皮膚の透明感や、皮膚の下の脂肪や血液の質感を再現できると気づいた。

 2005年、人が中に入って操縦する恐竜型メカニカルスーツの制作を始めた。現在はティラノサウルスやステゴサウルスなど37体。最新の研究を参考にしながら作っており、例えばトリケラトプスは、化石の知見をもとに棘(とげ)や鱗(うろこ)を再現した。ティラノサウルスも、羽毛の有無で複数のスーツがある。

 研究が進まない部分や学説が定まらないところなど「どうしても想像の部分はある」というが、生物として必然性のある姿にするのが基本だ。金丸社長は「映画に出てくるようなモンスターではなく、『生物』として見てもらえるように製作している」と話している。

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インフルエンザ、東北・関東5県で警報級猛威 全国でも前週比1.46倍で厚労省警戒呼びかけ https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251118_n01/ Tue, 18 Nov 2025 06:02:46 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55590  厚生労働省は14日、全国約3000の定点医療機関から3~9日の1週間に報告があったインフルエンザの感染者数は計8万4183人で、1機関当たりの平均21.82人だったと発表した。前週比は1.46倍で、地域別に見ると東北や関東の計5県で、警報レベルとされる30人を上回るなど猛威を振るっている。厚労省はまだ比較的流行程度が低い地域も含めて警戒を呼びかけている。

 都道府県別で最も多かったのは宮城の47.11人で、埼玉45.78人、神奈川36.57人と続いた。東京都は29.03人で警報レベルに迫っている。29都道府県で注意報レベルとされる1機関当たり10人を超えている。一方、高知3.13人、鹿児島4.02人、鳥取4.38人は少なかったが、厚労省はこうした流行程度が低い地域も今後感染者が増える可能性があるとしている。

 また、流行地域では子どもの感染も多く、休校や学年閉鎖、学級閉鎖になった小中高校は計3383校に上り、前週から1000校以上増えている。今シーズンの流行入り発表は10月3日で、昨シーズンより約1カ月早かった。流行しているのはA香港型(AH3型)が中心で、感染力が強く、幅広い年代が感染しているという。AH3型は1968年に世界的大流行(パンデミック)を起こし、その後も流行を繰り返している。

インフルエンザウイルスAH3型の電子顕微鏡画像(米疾病対策センター(CDC)提供)
インフルエンザウイルスAH3型の電子顕微鏡画像(米疾病対策センター(CDC)提供)

 東京都感染症情報センターによると、今シーズン検出されたウイルスのほとんどはAH3型で、昨年同型に次いで多かったB型は少ない。また報告感染者数の増加と同ペースで入院患者数も急増しているという。

 東京都の定点医療機関からの報告数は30人にはぎりぎり達していないが、都は保健所別の患者報告数が警報レベルにあるのは31保健所中12保健所で、これら保健所管内の人口割合は都全体の46.18%で都の警報基準を超えているとしている。

東京都の定点医療機関当たりの患者報告数の推移。今シーズンの流行の立ち上がりの早さが分かる(グラフの赤が今シーズン)(東京都提供)
東京都の定点医療機関当たりの患者報告数の推移。今シーズンの流行の立ち上がりの早さが分かる(グラフの赤が今シーズン)(東京都提供)

 厚労省や東京都などは、感染防止のためにこまめな手洗いや消毒、着用が効果的な場面でのマスク着用、咳エチケットなどの基本的な対策のほか、特に高齢者や重症化リスクが高いと考えられる人に対してはワクチン接種も推奨している。10月1日から多くの医療機関で接種できる。

 厚労省はインフルエンザの感染者が今後全国的に増えて治療薬が逼迫(ひっぱく)する可能性が高まったと判断した場合は、国が備蓄している治療薬を一時放出する方針を決めている。国や都道府県のほか製薬会社も備蓄する合計約4500万人分のうち、国が備蓄する最大1000万人分が放出対象。一部流行地域の薬局などで治療薬が不足し始めているための措置という。

東京都の集団感染報告者数の推移。定点報告者数の増加とペースを合せて増加している(東京都提供)
東京都の集団感染報告者数の推移。定点報告者数の増加とペースを合せて増加している(東京都提供)
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温室効果ガスの排出量、過去最多の年間577億トン 「対策強化しないと今世紀中に気温が最大2.8度上昇」とUNEP https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251113_n01/ Thu, 13 Nov 2025 06:26:49 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55545  国連環境計画(UNEP)は11月4日、2024年の世界の温室効果ガス排出量が前年より2.3%増え、二酸化炭素(CO2)換算で過去最多の577億トンに達したとする「目標未達―排出ギャップ報告書2025」を発表した。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の下で各国が提出した温室効果ガス削減目標(NDC)を達成しても、産業革命前からの気温上昇は今世紀末までに2.3~2.5度、対策を強化しなければ今世紀中に最大2.8度になると指摘。「地球は深刻な気候リスクと損害の拡大に向かっている」と、各国に一層の排出削減策を求めた。

UNEPの「排出ギャップ報告書2025」の表紙(UNEP提供)
UNEPの「排出ギャップ報告書2025」の表紙(UNEP提供)

 2024年の排出量が最も多かったのは中国で156億トン。次いで米国が59億トン、インド44億トン、欧州連合(EU)32億トン、ロシア26億トンの順だった。アフリカ連合(AU)を除いた主要20カ国・地域(G20)の排出量は全体の77%を占めたが、35年までの新たな排出削減目標を掲げた国はわずか7カ国にとどまる。報告書は「G20諸国の行動とリーダーシップが鍵を握る」と指摘した。

温室効果ガス排出量の多い5カ国とEUの2024年の排出量(CO2換算、左)と1990年からの排出量増減(右)をそれぞれ示すグラフ(UNEP提供)
温室効果ガス排出量の多い5カ国とEUの2024年の排出量(CO2換算、左)と1990年からの排出量増減(右)をそれぞれ示すグラフ(UNEP提供)

 パリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温の上昇幅について、「複数の10年単位で見て1.5度に抑えること」を目指している。報告書によると、この「1.5度目標」を達成するためには、排出量を2030年までに19年比で40%、35年までに同年比55%それぞれ削減する必要がある。しかし、各国がNDC達成に向けた対策を実施しても、35年の排出量は19年比で約15%の削減にとどまる見通しで、今後10年以内に「1.5度目標」を超える可能性が大きいという。

 こうした見通しに対し、2035年までの新たなNDCを提出した国は60カ国で、パリ協定締約国の3分の1未満。気候変動に大きな影響を与えているとされる温暖化を食い止めようとの積極的な機運が十分でないことをうかがわせている。

 UNEPのアンダーセン事務局長は「各国の排出量削減計画に一定の進展があるものの、速度が足りない。今こそ、かつてない規模の排出削減を、極めて限られた時間内に達成しなければならない」と強調した。また国連のグテーレス事務総長は「(報告書で)科学者は2030年代初頭にも1.5度上昇は一時的に避けられないと警告しているが、1.5度目標は依然、私たちにとって北極星であり、まだ到達可能だ。問題は私たちが本気で(大幅削減という)野心を高められるかどうかだ」などとする声明を発表した。

UNEPのアンダーセン事務局長(UNEP提供)
UNEPのアンダーセン事務局長(UNEP提供)

 日本は2030年度に13年度比で46%削減、35年度に60%削減という目標を掲げている。UNEPは報告書で「日本の現行対策で目標に近づくものの、わずかに届かない」と予測している。環境省によると、日本の24年の排出量は未公表だが23年度で11億トンという。

 UNEPの報告書は、国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)に関連して6日と7日にブラジル・ベレンで首脳級会合が開かれるのを前に、各国に積極的な削減対策を求める形で公表された。10日に始まったCOP30には約140カ国・地域が参加し、2035年までの新たなNDCや発展途上国向け資金、CO2を吸収する森林保護などについて21日までの予定で討議している。

世界の温室効果ガス排出量の増加を示すグラフ(UNEP提供)
世界の温室効果ガス排出量の増加を示すグラフ(UNEP提供)
ブラジル・ベレンで11月10日から実質討議が始まったCOP30の議長席の様子(国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局提供)
ブラジル・ベレンで11月10日から実質討議が始まったCOP30の議長席の様子(国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局提供)
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ハエトリソウが虫に気づく「感覚毛」 根元のタンパク質が触覚センサー 埼玉大など https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20251106_n01/ Thu, 06 Nov 2025 06:52:09 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=55490  二枚貝のような形の食虫植物ハエトリソウにおいて、細胞膜にあるタンパク質が、虫に触れられたことを感知する「感覚毛」の根元で、触覚センサーの役目をしていることを埼玉大学などのグループが明らかにした。「種の起源」や「進化論」で有名なチャールズ・ダーウィンをはじめとした研究者が200年以上調べている、虫を閉じ込める機構における接触刺激を感知する仕組みの一部が細胞レベルで分かった。

ハエトリソウで虫を捕まえる葉の部分と感覚毛(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)
ハエトリソウで虫を捕まえる葉の部分と感覚毛(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)

 ハエトリソウは、北米湿地帯に生育する食虫植物のひとつで、葉を折りたたむように動かしてアリなど虫を捕まえる。葉には6本の「感覚毛」が突き出しており、2回触れることで葉が閉じるように動き、虫を逃げられなくする。

 感覚毛は、ある程度の強さで触れると、電気シグナルが発生する。埼玉大学大学院理工学研究科の須田啓助教(植物生理学)と豊田正嗣教授(生物物理学)らは、電気シグナルとともに生じるカルシウムイオンの濃度変化によるシグナルがどのように葉で伝わるかを2020年に可視化し、2回目の接触によって葉を閉じるために必要な「接触の記憶」のような役割をカルシウムシグナルが担う可能性を示した。

野外で育つハエトリソウ(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)
野外で育つハエトリソウ(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)

 須田助教と豊田教授は、電気シグナルとカルシウムシグナルを細胞レベルで同時に観察することで、接触刺激を感知しているセンサーが特定できるようになると考え、カルシウムイオン濃度に応じて光る人工タンパク質を組み込んだハエトリソウの感覚毛を、二光子顕微鏡で観察しながら電位も測れるシステムを構築した。

タッチプローブで感覚毛に接触刺激を与えて、二光子顕微鏡でカルシウムシグナルを撮影しつつ、電極で1細胞レベルの電気シグナルを測定する装置(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)
タッチプローブで感覚毛に接触刺激を与えて、二光子顕微鏡でカルシウムシグナルを撮影しつつ、電極で1細胞レベルの電気シグナルを測定する装置(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)

 顕微鏡下で観察を続けながら感覚毛を大きく曲げたり小さく曲げたりしたところ、大きく曲げる強い刺激では葉全体に電気とカルシウムのシグナルが生じた。一方、弱い刺激だと電位は局所的に少し上がるだけで、カルシウムシグナルは広がらなかった。また、感覚毛の折り曲がる根元部分にある細胞をレーザーで除去すると、カルシウムシグナルが広がらなくなることも確認できた。

顕微鏡でカルシウムシグナルの発生を可視化した感覚毛の根元部分(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)
顕微鏡でカルシウムシグナルの発生を可視化した感覚毛の根元部分(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)

 感覚毛にあるどの分子が接触刺激に関わるのかを特定するため、ハエトリソウの感覚毛に多くみられ、細胞膜の伸展で活性化して細胞内から細胞外へイオンを通すとされるタンパク質(DmMSL10)に着目。このタンパク質の遺伝子を働かなくしたハエトリソウで接触刺激への反応を調べると、電気シグナルもカルシウムシグナルも発生しなくなった。実際に、アリを歩かせても、捕まえる確率が低くなった。

野生株のハエトリソウでは白矢印で示した感覚毛にアリが触れると感知してカルシウムシグナルが葉に広がるが、タンパク質(DmMSL10)破壊株だと感知できないことがあった(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)
野生株のハエトリソウでは白矢印で示した感覚毛にアリが触れると感知してカルシウムシグナルが葉に広がるが、タンパク質(DmMSL10)破壊株だと感知できないことがあった(埼玉大学の豊田正嗣教授提供)

 「ハエトリソウには動物が持たない遺伝子を使った接触の刺激を感知する仕組みがあることが明らかになった」と須田助教と豊田教授はしており、「動物とは異なる植物の『感覚』の解明に向けた大きな一歩になる」という。

 研究は、基礎生物学研究所などと共同で、日本学術振興会の科学研究費助成事業や科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業、サントリーなどからの支援を受けて行い、成果は、英科学誌ネイチャーコミュニケーションズに9月30日公開された。

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