ニュース - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」 https://scienceportal.jst.go.jp Wed, 13 Aug 2025 04:24:19 +0000 ja hourly 1 「がん免疫療法」の効果高める腸内細菌を発見 国立がん研など https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250813_n01/ Wed, 13 Aug 2025 04:23:45 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54779  がん細胞に対する免疫細胞の攻撃力を強める「がん免疫療法」の治療効果を高める新しい腸内細菌を発見した、と国立がん研究センターなどの共同研究グループが発表した。この細菌は日本人の約2割が保菌しているとされる。研究グループはこれまでこの療法の効果が低かった患者を含め、より多くの患者に効く療法の開発につなげたいとしている。

 がん免疫療法の薬は「免疫チェックポイント阻害剤」と言われ、がん細胞が免疫細胞の働きを抑える「ブレーキ」を解除してがん細胞に対する攻撃力を強める。ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏らの研究がこの薬の開発につながった。「オプジーボ」などいくつかの薬が知られる。手術、放射線療法、化学療法に続く「第4のがん治療法」とも呼ばれて期待が大きい。

 しかし、同センター研究所によると、免疫チェックポイント阻害剤は他の薬と併用した場合でも過半数の患者では十分な効果が得られず、長期間にわたり治療効果が見られる患者は約2割にとどまる。治療効果の有無に腸内細菌が関わっている可能性は指摘されていたが、詳しいことは不明だった。

腸内細菌「YB328」の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)
腸内細菌「YB328」の走査型電子顕微鏡(SEM)画像(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)

 同センター研究所腫瘍免疫研究分野の西川博嘉分野長らは、がん免疫療法を行った胃がんと非小細胞肺がんの患者50人を対象に、がん免疫療法の効果と腸内細菌との関係を解析した。

 その結果、薬が良く効いた患者の便には、十分な効果がなかった患者と比べて「ルミノコッカス科」の細菌が多く含まれていることが判明した。これまで知られていなかった菌で、その細菌を単離、培養して詳しく分析し、「YB328」と名付けた。

 この腸内細菌YB328の機能や性質などを調べるためにマウスに投与する実験をした結果、マウスのがんが縮小していた。さらに詳しく調べたところ、免疫機構の司令塔とされる「樹状細胞」を活性化していることが分かった。

 樹状細胞はがん細胞などの異物を取り込んで抗原を提示し、「この異物を攻撃しろ」と司令を出す重要な働きをする。YB328を経口投与したマウスは、YB328ががんのある部位に移動していた。研究グループは、YB328により活性化した樹状細胞ががん組織に移動して「T細胞」と呼ばれる別の免疫細胞の作用を強めていることを示している、としている。

 さらに、患者から採取したがん組織などを調べたところ、YB328の保有率が高い患者は、活性化した樹状細胞やT細胞ががん組織に多く入り込んでいることも確認した。同センター研究所によると、既に同センター発のスタートアップ企業と臨床応用の準備を進めているという。

透過型電子顕微鏡(TEM)の「ネガティブ染色」画像。中央に腸内細菌「YB328」が、その周囲に多量の分泌物が写っている(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)
透過型電子顕微鏡(TEM)の「ネガティブ染色」画像。中央に腸内細菌「YB328」が、その周囲に多量の分泌物が写っている(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)

 腸内細菌はさまざまな病気や免疫機構、老化などに関わっていることが明らかになりつつある。同センターは5月に、日本人の大腸がん患者の5割に一部の腸内細菌から分泌される毒素によるゲノムの変化があったとする研究成果を発表するなど、がんと腸内細菌との関係の解明を続けている。

 今回成果を発表した共同研究グループは、国の大型研究プログラム「ムーンショット」の目標7などの支援を受け、同センター研究所の西川分野長らを中心として産業技術総合研究所、理化学研究所のほか、名古屋、京都、大阪の各大学の研究メンバーが参加した。研究成果は7月14日付英科学誌ネイチャーに掲載された。

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オス化遺伝子、「環状DNA」に載りX染色体へ移動か Y染色体ないトゲネズミ 東京科学大など https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250807_n01/ Thu, 07 Aug 2025 04:39:55 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54761  南西諸島には、生物の性別を決定する「性染色体」が珍しい特徴を持つトゲネズミがいる。これらの3種のゲノム(全遺伝情報)配列を、東京科学大学などの研究グループが詳しく解読し、性染色体の進化過程の仮説を導き出すことに成功した。オス化に関わるY染色体がないアマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミでは、他の齧歯(げっし)類でY染色体にある7つの遺伝子が、X染色体で見つかった。この2種のトゲネズミでは、オキナワトゲネズミとの3種共通の祖先から分かれる過程で、Y染色体の一部が丸まった「環状DNA」に載った遺伝子が、X染色体に移動した可能性がある。成果は、これらのユニークなトゲネズミの性染色体の進化や、性決定のメカニズムの解明につながりそうだ。

トゲネズミ3種の性染色体進化の仮説。アマミ、トクノシマトゲネズミでは、祖先のY染色体にある「BASD配列」が働き、Y染色体の7遺伝子が「染色体外環状DNA」(eccDNA)に載ってX染色体に移動。Y染色体の消失を可能にした(久留米大学の奥野未来講師提供)
トゲネズミ3種の性染色体進化の仮説。アマミ、トクノシマトゲネズミでは、祖先のY染色体にある「BASD配列」が働き、Y染色体の7遺伝子が「染色体外環状DNA」(eccDNA)に載ってX染色体に移動。Y染色体の消失を可能にした(久留米大学の奥野未来講師提供)

 ヒトやラット、マウスなど多くの哺乳類では、性染色体で性が決まる。X染色体とY染色体を1本ずつ持つXY型だと男性(オス)、X染色体を2本持つXX型だと女性(メス)となる。しかし、南西諸島に生息する日本固有のトゲネズミ属では、奄美大島と徳之島(いずれも鹿児島県)にそれぞれ生息するアマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミがY染色体を失っており、オスもメスも性染色体はX染色体のみだ。一方、沖縄本島に生息するオキナワトゲネズミにはY染色体が残っており、XY型がオスとなる。近縁で性染色体に違いがあることから、トゲネズミは性染色体の進化や性決定のメカニズムの解明に適した研究材料といえる。いずれも国の天然記念物に指定されている。

トゲネズミの性染色体の特徴と地理的分布、一般的な哺乳類の性染色体の模式図。一般的に哺乳類ではY染色体にある「Sry遺伝子」に依存してオスになる(久留米大学の奥野未来講師提供)
トゲネズミの性染色体の特徴と地理的分布、一般的な哺乳類の性染色体の模式図。一般的に哺乳類ではY染色体にある「Sry遺伝子」に依存してオスになる(久留米大学の奥野未来講師提供)

 哺乳類などの性決定のメカニズムを調べている北海道大学大学院理学研究院の黒岩麻里教授(生殖遺伝学)は、2014年頃から東京科学大学生命理工学院の伊藤武彦教授(ゲノム情報学)らの支援を受け、トゲネズミのゲノム配列を解読してきた。20年頃からは最新技術を活用し、トゲネズミ3種のゲノム全長配列の決定に成功。伊藤教授の下で研究していた久留米大学医学部の奥野未来講師(ゲノム情報学)が、これらを比較した。

 哺乳類のY染色体は小さく、齧歯類のY染色体に共通して見つかるのは10遺伝子しかない。アマミ、トクノシマトゲネズミでは、X染色体の端付近でこれらのうち7つが見つかった。オキナワトゲネズミでも、部分配列を含め7つあった。オキナワではX、Y染色体それぞれに、性染色体ではない「常染色体」がくっついているのに加え、Y染色体で遺伝子がいくつも重複していた。多くの哺乳類では、性決定に関わる「Sry遺伝子」がY遺伝子に存在する。アマミとトクノシマがこのSry遺伝子を持たないのに対し、オキナワでは5つを確認した。

 詳細なゲノム配列が分かったことから、トゲネズミ3種共通の祖先にあったとみられるY染色体の状態を、統計的に推測した。ゲノムの変化を追うと、ゲノム構造が異なる場所の境目には特定の「BASD配列」があることが分かった。BASD配列はトゲネズミ以外の齧歯類ではX染色体に1~2しか見つからないが、アマミで3、トクノシマで4、Y染色体での遺伝子重複が顕著なオキナワでは108見つかった。

 BASD配列やその周囲のゲノムの状況から、まずトゲネズミ3種共通の祖先で、X染色体にあったBASD配列がY染色体に移動し、オキナワトゲネズミでは遺伝子の増幅や性染色体の拡大が進んだという仮説が出てきた。一方、アマミ、トクノシマトゲネズミではY染色体の一部が丸まって「染色体外環状DNA」を形成し、BASD配列を介してX染色体上に入り込み、その後にY染色体が消失したとの仮説も生じている。今後は性染色体の進化や、アマミ、トクノシマでSry遺伝子の代わりとなっている因子などを調べ、性決定のメカニズムの解明を目指すという。

 研究は北海道大学と東京科学大学、久留米大学、国立遺伝学研究所、沖縄大学で行い、5月6日に分子生物学や進化学の国際誌「モレキュラー・バイオロジー・アンド・エボリューション」電子版に掲載された。

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ツノカメムシの卵、親が外敵から守るために細長く進化 鳴門教育大など https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250806_n01/ Wed, 06 Aug 2025 09:11:13 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54756  ツノカメムシ科の一部のカメムシは、メス親が葉の上に卵のかたまり(卵塊)を産み付けた後、それを抱きかかえるようにして孵化させるが、その際、外敵から効率よく守るために卵の形が細長くなるように進化していることを鳴門教育大学などの研究グループが明らかにした。卵塊の周縁部は捕食される可能性が高く、完全な球体よりも細長い形の方が守りやすいという。

 卵の形状を調べる研究は近年注目されているが、親による産卵後の世話との関連を調べた研究は、鳥類に限られていた。鳴門教育大学大学院学校教育研究科の工藤慎一准教授(行動生態学・進化生態学)らの研究グループは、鳥類だけでなく、魚類、は虫類において卵の形が繁殖行動や繁殖生態において重要な意味を持つことから、カメムシでも卵の形にそれらと関連した変化が起きているのではないかと仮説を立てて調べることにした。工藤准教授はとりわけ、卵の数や大きさを維持しながらも卵塊の面積を小さくするには、細長い卵のほうが有利であるとの仮説を立て、フィールドワークした。

カメムシの中には、産卵後の卵を抱きかかえるようにして捕食者から守る種がいる。卵の捕食の危険が低くなるような卵の形になる(鳴門教育大学提供)
カメムシの中には、産卵後の卵を抱きかかえるようにして捕食者から守る種がいる。卵の捕食の危険が低くなるような卵の形になる(鳴門教育大学提供)

 今回調査したのは、多くが森林に生息し、メス親が卵の世話をするという珍しい性質を一部の種がもつカメムシ。この卵はアリやクモといった小さな節足動物に狙われやすい。日本全国に生息するため、北海道から沖縄のカメムシを30年間かけて探し、卵の縦と横の比率であるアスペクト比を調べ続けた。

ツノカメムシ科では、白丸の保護しない種に比べて、黒丸の保護する種では卵が細長くなる傾向がある。保護するアカヒメツノカメムシと、保護しないハサミツノカメムシの卵を代表例として挙げた(鳴門教育大学提供)
ツノカメムシ科では、白丸の保護しない種に比べて、黒丸の保護する種では卵が細長くなる傾向がある。保護するアカヒメツノカメムシと、保護しないハサミツノカメムシの卵を代表例として挙げた(鳴門教育大学提供)

 その結果、カメムシのうちメス親が卵塊を抱きかかえるようにして守る種の方が、そうしない種に比べて卵が細長かった。さらに、ツノカメムシ科の系統樹を利用して、メス親の保護が一度進化した後に、卵がより細長くなるという進化をたどるプロセスも明らかにした。

ツノカメムシ科における卵の形の進化史。赤い星印はメス親の保護が生じたことを示す。線が赤いほど卵は丸く、青いほど細長い(鳴門教育大学提供)
ツノカメムシ科における卵の形の進化史。赤い星印はメス親の保護が生じたことを示す。線が赤いほど卵は丸く、青いほど細長い(鳴門教育大学提供)

 工藤准教授の研究チームは先行研究で、ツノカメムシ科における子の保護は、「小さな卵」や「多数の卵を含む卵塊」と関連した進化をたどることを明らかにしていた。この結果は、子育ての進化に関する従来の学説とは大きく異なる。工藤准教授は「親が卵の世話をする昆虫は少数。子育ての進化がどのような条件で、どのように進化したのか、その一般論を昆虫の研究を通じて明らかにしていきたい」と今後の展望を語った。

 研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と藤原ナチュラルヒストリー振興財団、台湾の国家科学及技術委員会の助成を受け、総合研究大学院大学、北海道大学と共同で行った。成果は5月27日、英国の科学誌「バイオロジカル ジャーナル オブ ザ リンネアン ソサイエティ」電子版に掲載され、同30日に鳴門教育大学が発表した。

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他者の記憶は脳の神経細胞の組み合わせで働く 東大グループが解明 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250804_n01/ Mon, 04 Aug 2025 07:17:43 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54740  家族や友達など、「他者」に関する記憶は、性別や系統といった属性に関する情報と特定の相手(個体)に関する情報、それぞれに反応する異なる神経細胞が組み合わさって働くという仕組みをマウスの動物実験で解明したと、東京大学の研究グループが発表した。

 これらの神経細胞は記憶を保持する脳の「海馬」にあることも分かり、脳が相手をどのように記憶するかという長年の謎が次第に明らかになってきた。研究グループは今回の成果を、友達ら他者の記憶の能力の低下という症状がある自閉スペクトラム症(ASD)などの新しい治療戦略につなげたいとしている。

マウスが属性、系統が異なる他者と出会うイメージ画像(奥山輝大教授提供)
マウスが属性、系統が異なる他者と出会うイメージ画像(奥山輝大教授提供)

 友達など、出会った他者についての記憶は「社会性記憶」と呼ばれ、人間の場合は日常生活で重要な役目を果たす。東京大学定量生命科学研究所の奥山輝大教授らは、これまでに他者についての記憶が、記憶中枢である海馬の中の「腹側CA1領域」という部分に保持されることを突き止めていた。

 しかし、性別をはじめとするさまざまな属性に基づく他者の情報を腹側CA1領域の神経細胞がどのように個々の記憶として整理、処理するかといった詳しい仕組みは分っていなかった。

 奥山教授らは、性別と種類(系統)が異なるマウスを使い、他者であるマウスを記憶する際の神経細胞を詳しく調べた。具体的には1匹の雄マウス(被験マウス)に外見が異なる2系統の雄と雌の計4匹のマウス(刺激マウス)と出会わせて社会性記憶を形成させた。そして柀験マウスに再度、刺激マウスを会わせて腹側CA1領域の神経細胞の電気的活動を記録するなど、神経活動を調べた。

 その結果、この領域には、性別や系統という属性に反応する「プロパティー細胞」と、特定個体に応答する「アイデンティティー細胞」があることが判明した。この領域の神経細胞の活動パターンの解析だけから柀験マウスがどの相手(個体)と出会ったかを予測すると実際に接触したのを7割の確率で当てることができたという。

マウスの海馬の腹側CA1領域の画像(奥山輝大教授提供)
マウスの海馬の腹側CA1領域の画像(奥山輝大教授提供)
他者について記憶する脳の海馬の神経細胞の仕組みを解明する研究の概念図(奥山輝大教授提供)
他者について記憶する脳の海馬の神経細胞の仕組みを解明する研究の概念図(奥山輝大教授提供)

 奥山教授によると、米疾病対策センター(CDC)が2023年に発表した調査では、米国人の36人に1人の割合でASDと診断され、増加傾向にある。興味が限定し、コミュニケーションや共感性に難しさを抱えるほか、友達一人一人を記憶するなどの社会性記憶の能力の一部も低下することが報告されているという。

 奥山教授らはこれまでにASDに関連するとされる遺伝子(Shank3)に欠損を持つマウスは社会性記憶が低下していることも明らかにしている。同教授は「他者を認識して記憶する一連の神経メカニズムをひも解くことが将来、ASD治療法の開発につながる」と話している。

 研究は科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業、日本学術振興会の科学研究費助成事業などの支援を受けて行われ、7月4日付の米科学誌サイエンスに掲載された。

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誰かへのプレゼント? 宇宙望遠鏡が捉えた惑星状星雲「NGC1514」 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250730_n01/ Wed, 30 Jul 2025 05:44:36 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54706
惑星状星雲NGC1514(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所、マイケル・レスラー氏、デービッド・ジョーンズ氏提供)
惑星状星雲NGC1514(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所、マイケル・レスラー氏、デービッド・ジョーンズ氏提供)

 広大な宇宙に散らばる、大小の天体。自然が織りなすユニークな形の美しさに、私たちはしばしば魅了される。米航空宇宙局(NASA)などが新たに公表した惑星状星雲「NGC1514」の姿も、そんな一枚だ。円筒形の箱の中に、バラの花が入っているようにも見える。誰かへのプレゼント?

 米欧とカナダの「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡」が中間赤外線により、おうし座の約1500光年かなたに捉えた。惑星状星雲は年老いて死にゆく星が、赤色巨星から白色矮星(わいせい)へと変わりつつある天体。中心でひときわ輝く星は、1つに見えるが実は2つという。一方の星から流れ出したガスや塵(ちり)が、周囲に広がっている。

 円筒形を構成する2つのリングは主に塵の集まりで、「2つの星がかなり接近したことによる相互作用により、球状ではなく予想外の形になったのかもしれない」と研究者。この姿はこれから、何千年もかけて変わり続けるのだとか。

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食用のスズメバチ、エサは脊椎動物含む324種 DNA分析で明らかに、神戸大など https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250723_n01/ Wed, 23 Jul 2025 06:18:22 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54648  長野県や岐阜県などの郷土料理となる昆虫食「蜂の子」の材料のひとつシダクロスズメバチのエサをDNA分析すると、エサは324種あって昆虫やクモに加えて鳥類や哺乳類などの脊椎動物が含まれることを神戸大学などが明らかにした。ハチを飼育したことのある経験者が、目撃情報などから脊椎動物など多様なエサを与えてきた妥当性を裏付けており、食文化と自然の関係性を探る上での知見となりそうだ。

ご飯にのせた蜂の子。佃煮や炒めるなどして調理する(神戸大学の佐賀達矢助教提供)
ご飯にのせた蜂の子。佃煮や炒めるなどして調理する(神戸大学の佐賀達矢助教提供)

 長野や岐阜など中部地方には、クロスズメバチなどのハチの幼虫やさなぎをはじめ、イナゴや水生昆虫のザザムシ、カイコのさなぎをタンパク源として食べる文化がある。蜂の子は珍味としても知られており、愛好者は野外の巣を取ってきてエサを与えて巣を大きく育てて食べる。ただ、エサについては、古い調査や文学作品中で昆虫やクモ、カエルがあると分かっている程度で、詳しくは分かっていない。

魚のエサをとりに来たシダクロスズメバチの働き蜂(左)と蜂の巣(神戸大学の佐賀達矢助教提供)
魚のエサをとりに来たシダクロスズメバチの働き蜂(左)と蜂の巣(神戸大学の佐賀達矢助教提供)

 学生時代からスズメバチの研究を続けている神戸大学大学院人間発達環境学研究科の佐賀達矢助教(生態学)は、各種生物のDNA情報のデータベース化が進む中、腸の内容物にある生物ごとに特有なDNA配列をバーコードのように読み取る「DNAメタバーコーディング」によって、ハチが食べたエサを調べることにした。

 佐賀助教らは、中部地方の里地里山で食用となるシダクロスズメバチを対象とし、岐阜と長野で野生の巣5つ、飼育した巣7つからそれぞれ幼虫を20個体と32個体を採取した。その幼虫の腹部を開いて腸にある未消化物を分離し、DNAの遺伝子配列を調べたところ、ガやカメムシなどの昆虫やクモに加えて、カラスの仲間である鳥類、哺乳類のほか、両生類、爬虫類、魚類を含む計324種がエサとして判明した。

 エサの種類の数は野生と飼育の巣でほぼ同じだったが、野生の巣では脊椎動物の検出が多く、死体をエサにしている事が分かった。飼育した巣では、エサとして与えたニワトリやシカ、ウズラのDNAが高頻度で検出された。

 全ての巣から何らかの鳥、野生と飼育のほぼ全ての巣から哺乳類のDNAが検出されており、鳥類や哺乳類がシダクロスズメバチの重要なエサになっていることも分かった。愛好者が飼育する際に鳥類や哺乳類の肉を与えてきたことは、野生のエサ選択と重なっており、ハチ飼育の経験知が科学的に妥当であることを示しているという。

飼育では鶏肉やレバー、鹿肉などをつるしてシダクロスズメバチのエサとする(神戸大学の佐賀達矢助教提供)
飼育では鶏肉やレバー、鹿肉などをつるしてシダクロスズメバチのエサとする(神戸大学の佐賀達矢助教提供)

 飼育経験者にアンケートを行うと、29人の58%が「野生巣産と飼育巣産では味が異なる」と回答している。佐賀助教は、「蜂の子の味は里地里山という生物多様性のホットスポットの生態系と深く結びついていた『環境の味』であると言える」としており、今後は季節や地域性についても調査していくという。

 研究は岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の藤岡春菜助教と行い、5月14日に国際誌「ジャーナル オブ インセクツ アズ フード アンド フィード」電子版に掲載された。

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宇宙からの帰還、過酷な道のり物語る“真っ黒焦げ” https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250717_n01/ Thu, 17 Jul 2025 06:42:34 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54612
ソユーズ宇宙船の帰還カプセルとパラシュートの実物=今月11日、東京都江東区の日本科学未来館
ソユーズ宇宙船の帰還カプセルとパラシュートの実物=今月11日、東京都江東区の日本科学未来館

 夏休みを前に、都内で始まった宇宙展。その一角に、真っ黒焦げの大きなカプセルがたたずんでいる。ロシアの「ソユーズ」宇宙船の実物で、国内では実に希少。飛行士が3人乗り込め、機体構成のうち唯一、地上に着陸する「帰還モジュール」部分だ。

 この機体は2021年、日本の民間人で初めて国際宇宙ステーション(ISS)滞在を果たした実業家、前澤友作さんらが搭乗したもの。前澤さんが購入した私物という。外壁の黒焦げは大気圏突入の際、超高温になってできた。帰還の道のりの過酷さを物語る。天井に、地上への降下中に開くパラシュートも展示されている。

 実に60年近く活躍中のソユーズだが、1967年と71年には死亡事故も起こした。機体を見つめるうち、人類が磨いてきた技術の苦闘の歴史が、外壁ににじんでいる気がしてきた。この特別展「深宇宙展~人類はどこへ向かうのか」は、東京・お台場の日本科学未来館で9月28日まで。

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AI先駆的研究の甘利俊一氏ら3氏に京都賞 稲盛財団 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250716_n01/ Wed, 16 Jul 2025 06:28:33 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54601  稲盛財団(京都市、金澤しのぶ理事長)は2025年の京都賞を、人工ニューラルネットワークの研究を先駆し、機械学習などの基盤を築いた帝京大学特任教授の甘利俊一氏(89)、哺乳(ほにゅう)類で、父母どちらの由来の遺伝子かにより発現のオン・オフが決まっている現象「ゲノムインプリンティング」を発見した英ケンブリッジ大学ガードン研究所研究ディレクターのアジム・スラーニ氏(80)ら3氏に贈ると発表した。

甘利俊一氏(左)とアジム・スラーニ氏(稲盛財団提供)
甘利俊一氏(左)とアジム・スラーニ氏(稲盛財団提供)

 甘利氏は「先端技術部門」での受賞で、理由は「人工知能の理論的基盤を拓(ひら)く先駆的貢献と情報幾何学の確立」。動物の神経細胞(ニューロン)は、隣の細胞から受け取って処理した信号を次の細胞へと伝達する。このネットワーク構造を模したモデルで機械学習を行う仕組みが、人工ニューラルネットワークだ。甘利氏はデータから学習し適応的に分類する仕組みを理論的に整理し、機械学習の基礎的枠組みを打ち立て、発展、深化させた。統計モデルや確率分布の集合の性質を、幾何学的手法で解析する「情報幾何学」も確立。先駆的な研究により、多くの重要な理論を提唱している。理化学研究所栄誉研究員。

 同財団は「現在もなお、人工知能の進化において不可欠な役割を果たし、最先端の研究を推進し続けている。その揺るぎない研究姿勢は、研究者の模範となり、若手研究者に大きな刺激を与えている。また、理論と応用の両面にわたる貢献は、今なお極めて大きな意義を持ち続けている」と評価した。

 スラーニ氏は「基礎科学部門」での受賞で、理由は「哺乳類におけるゲノムインプリンティングの発見および分子機構の解明」。哺乳類のゲノム(全遺伝情報)には、父母どちらの由来かにより、発現するか否かがあらかじめ記憶のように刷り込まれた(インプリンティング)遺伝子が一部含まれることを発見した。これにより、片方の親に由来する遺伝子だけが発現する。スラーニ氏は、哺乳類の正常な発生には父母両方に由来するゲノムが必須であることを示した上で、これに影響を与えるゲノムインプリンティングを発見した。これらが働く仕組みも、先導して解明してきた。

 同財団は「ゲノムインプリンティングの発見および分子機構の解明は、現代の生命科学の広範な分野の基盤を形成する先駆的業績で、生命科学の発展に大きく貢献した」と評価した。

 このほか「思想・芸術部門」で米ニューヨーク大学教授のキャロル・ギリガン氏(88)が決まった。「女性の思考と行動の分析を通じて従来の心理学理論の歪みと限界を指摘し、『ケアの倫理』の新たな地平を開拓」したと評価された。

 発表は先月20日付。同賞は科学や文明の発展、人類の精神的深化、高揚に貢献した人物に贈られるもので、今回で40回目。授賞式は11月10日、国立京都国際会館(京都市)で行われ、3氏にそれぞれ賞金1億円などが贈られる。

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トマトのかび病原菌を食べる菌を発見、生物農薬として実用化に期待 摂南大など https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250715_n01/ Tue, 15 Jul 2025 06:12:49 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54597  トマト栽培において生育不良や収量低下を起こす「葉かび病」の病原菌を食べる「菌寄生菌」を摂南大学などのグループが発見した。葉かび病菌へ寄生する鍵となる化合物の合成能力は、7680万年前に麹菌との共通祖先から伝わっていたことも明らかになった。農業生産において、化学農薬が効かない耐性菌の出現などが問題となる中、環境に配慮した生物農薬としての実用化が期待できる。

 トマト葉かび病は高い湿度を好み、トマトを植物工場や温室内などの施設内で栽培すると多発する。通常、抵抗性をもつ品種を開発したり、化学農薬で防除したりして対応する。しかし、ヒトの病原菌で薬剤耐性菌が生まれるのと同様に、葉かび病菌も進化して、農薬が効かなくなったり、抵抗性のある品種にも感染できるようになったりする。そのため、農薬や品種改良などとは別の防除技術が必要になる。

 摂南大学農学部農業生産学科の飯田祐一郎准教授(植物病理学)は、葉かび病菌を研究中、偶然に病菌に寄生する菌寄生菌(Hansfordia pulvinata)を2018年に発見し、「デオキシフォメノン」という化合物が寄生に関わることを明らかにした。

葉かび菌で病気になったトマトの葉(左上)と、葉かび病菌に菌寄生菌が寄生したトマトの葉(左下)。右は寄生した部分の顕微鏡像(摂南大学の飯田祐一郎准教授提供)
葉かび菌で病気になったトマトの葉(左上)と、葉かび病菌に菌寄生菌が寄生したトマトの葉(左下)。右は寄生した部分の顕微鏡像(摂南大学の飯田祐一郎准教授提供)

 遺伝子解析により、飯田准教授らは、デオキシフォメノンの生合成に関わる遺伝子群を同定した。その遺伝子群が他の菌類にもあるかを139種のゲノム情報において解析した結果、発酵食品などに使用される麹菌やその近縁種にもあることが分かった。進化による系統分化の過程に照らし合わせると、7680万年前に共通祖先から菌寄生菌が遺伝子群を受け継いでいることが明らかになった。

 ただ、デオキシフォメノンの機能を調べると、麹菌では胞子形成調節に関わる一方で、菌寄生菌では葉かび病菌を弱らせる抗菌性としての役割を持つように変化していた。異なる菌類において、同じ化合物をそれぞれ異なる目的で利用するように進化した事例とみられる。

デオキシフォメノンは麹菌類では麹菌の胞子形成を制御する役割があるが、生合成遺伝子群が菌寄生菌に水平伝播することによって葉かび病菌への抗菌性に役割を変えた(摂南大学の飯田祐一郎准教授提供)
デオキシフォメノンは麹菌類では麹菌の胞子形成を制御する役割があるが、生合成遺伝子群が菌寄生菌に水平伝播することによって葉かび病菌への抗菌性に役割を変えた(摂南大学の飯田祐一郎准教授提供)

 飯田准教授によると、新たな化学農薬の開発は数百億円に上る開発コストとおよそ10年の開発期間が必要とされる一方で、新たな耐性菌の出現によりすぐ使い物にならなくなるリスクを抱えている。今後は、菌寄生菌がトマト葉かび病菌をどうやって見つけるかや、どのように寄生するかといったメカニズムを明らかにしていくことで生物農薬としての実用化の可否を見極める必要があるという。

 研究は、滋賀県立大学や九州大学、農業・食品産業技術総合研究機構、日本女子大学と共同で行い、4月9日に米国微生物学会誌「エムバイオ(mBio)」に掲載された。

◇7月16日追記
一部を訂正しました。
本文2段落目
誤「ウイルス」
正「ヒトの病原菌」

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原因は高度計のハードウェア異常 アイスペース月面着陸2度目失敗 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20250708_n01/ Tue, 08 Jul 2025 06:14:48 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=newsflash&p=54513  宇宙ベンチャー、アイスペース(東京)は同社2機目の月面着陸機「レジリエンス」の失敗原因が、搭載した高度計のハードウェアの異常だったと発表した。先月6日に月面へ降下中、測距が遅れて減速が間に合わず月面に衝突した。2027年に3、4機目が挑戦する計画で、高度計の選定法などを見直し、第三者の専門家などの支援を受け改善を図る。

会見でレジリエンスの失敗原因を説明する、アイスペースの袴田武史CEO(左から3人目)ら=先月24日、東京都中央区
会見でレジリエンスの失敗原因を説明する、アイスペースの袴田武史CEO(左から3人目)ら=先月24日、東京都中央区

 レジリエンスは同社の月面着陸計画「ハクトR」の2機目で、1月15日に地球を出発した。先月6日午前、北半球中緯度にある「氷の海」への着陸を試みたが、上空20キロを過ぎて主エンジンを噴射後、着陸予定の約2分前に機体からの信号が途絶して失敗に終わった。わが国では昨年1月の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「スリム」に続き2機目、また米国以外の民間で初の着陸となるか注目されたが、実らなかった。2023年4月にはハクトRの1機目が、ソフトウェアによる高度の誤判断で失敗している。

 計画では先月6日午前に降下中、高度3キロまでに高度計の測距が始まるはずだったが、遅れて893メートルで始まった。この時点で想定より高速だったため、機体は急減速を開始した。650メートル付近で秒速44メートルを想定したのに対し、同66メートルを記録。その後、高度192メートルで秒速42メートルとのデータを最後に、信号が途絶した。減速が間に合わず、この5秒後の午前4時15分31秒に月面に衝突したと推定される。

 米航空宇宙局(NASA)の周回機「ルナー・リコネッサンス・オービター」が、レジリエンスの着陸目標から南に約282メートル、東に約236メートルの地点に、直径約16メートルのクレーターが新たにできたことを捉えた。レジリエンスの衝突によるものとみられる。

米国の月周回機ルナー・リコネッサンス・オービターが先月11日に撮影した新たなクレーター(矢印の先)。レジリエンスが衝突してできたとみられる(NASA、米アリゾナ州立大学提供)
米国の月周回機ルナー・リコネッサンス・オービターが先月11日に撮影した新たなクレーター(矢印の先)。レジリエンスが衝突してできたとみられる(NASA、米アリゾナ州立大学提供)

 この高度計はレーザー・レンジファインダー(LRF)と呼ばれ、月面に向けレーザー光を照射し、反射して戻ってくる光により機体と月面の間の距離を測る仕組みだ。同社の検証の結果、着陸誘導のソフトウェアや、開発時のLRFの取り付け、エンジンなどはいずれも正常だったことを確認。失敗の原因がLRFのハードウェアの異常だったことを突き止めた。

 LRFが遅くとも高度3キロまでに測距を始めるとの想定は、メーカーの情報や各種試験データを根拠としていた。測距が遅れた背景の要因として、月面から反射するレーザー光が想定よりも少なかったことや、降下が速く測距できなかったこと、地球出発後にLRFが宇宙環境の影響で劣化したことが、可能性として考えられるという。LRFのメーカーは非公表。

 高度は、慣性計測装置(IMU)と呼ばれる別のセンサーでも推定していた。だがIMUの性能レベルを考慮し、高度3キロまで降下してもLRFが機能しない場合にIMUに測距を委ねる設計にはしていなかったという。

(左)会見するアイスペースの氏家亮CTO、(右)野崎順平CFO
(左)会見するアイスペースの氏家亮CTO、(右)野崎順平CFO

 1機目のLRFは正常に動作したとみられるが、その後、メーカーが製造を終了した。そのため、レジリエンスでは宇宙での使用実績のない同等品を採用した。失敗原因を発表した先月24日の会見で、アイスペースの氏家亮最高技術責任者(CTO)は「(製品の選定で)使用実績は重視する。だが着陸系センサーの市場が非常に限られている上に、着陸機が小型なので軽量であることも大事だ。限られた範囲からだったが、実績がなくても、しっかり試験して使えると判断した製品を選んだ。考え方をしっかり正すのが今後の大事なポイントとなる」と話した。

 野崎順平最高財務責任者(CFO)は「民間企業はクオリティーの高い物だけを、納期も無視して使うといった選択肢は採れないし、それでは民間でやる意味がなくなる。投資いただいている方々もそれを望んではいないだろう。宇宙で使われる部品はどれも最初は実績がなく、誰かがそれを使い始めないといけない。当社は可能な限り検証し、自信を持ってやった。そのチャレンジは一番難しく、最後の着陸のところで判断が誤っていたということだ」と付け加えた。

月面に着陸した場合のレジリエンス(左)と、搭載した小型探査車の想像図。この姿は実現しなかった(アイスペース提供)
月面に着陸した場合のレジリエンス(左)と、搭載した小型探査車の想像図。この姿は実現しなかった(アイスペース提供)

 次回の3機目は、同社の米国法人がNASAとの契約に基づく商業計画のチームに参画し、機体開発を担当するもの。燃料を除く重さ340キロのレジリエンスに対し、1.73トンと大型化。2027年に打ち上げ、月の裏側の南極付近に着陸する。4機目も同年を予定。以降も着陸機の開発、運用を重ね、月面の資源利用、周辺の開発を通じた経済圏の構築を目指す。

 今回の失敗を受け、同社は3機目以降に向け、LRFなどの着陸センサーの選定基準や検証方法を、社外の知見も採り入れて見直す。専門家チームを発足させるほか、スリムなどの実績を持つJAXAから、より強力に技術支援を受ける。3、4機目の開発で、着陸センサーの再選定や試験計画の見直しなどにより、最大計15億円程度の開発費用増を見込んでいる。

 着陸成功の実績を持たないまま、3機目以降を大型化する計画だ。これについて袴田武史最高経営責任者(CEO)は、会見後「多少変わることはあるものの、機体を大型化しても推進系の難しさは同じ。細心の注意を払い設計するが、基本的なシステムは同一で大きな影響はない。誘導制御方式も信頼性の高いものになる」との見方を示した。

レジリエンスが航行中に撮影した月(手前)と地球。挑戦は続く(アイスペース提供)
レジリエンスが航行中に撮影した月(手前)と地球。挑戦は続く(アイスペース提供)
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