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ガムをかむと食道がんの術後合併症予防に有効 岡山大

2025.01.28

 食道がん手術後は、口腔機能が低下し、誤嚥(ごえん)や発熱、肺炎といった合併症が起こりやすい。岡山大学の研究グループは、手術前後にガムをかむトレーニングが術後合併症を安全に予防する可能性と有効性があることを確認した。今後は日常で嚥下(えんげ)機能の低下に悩む高齢者などにも応用できるのではないかとしている。

 食道がん手術は体に対する負担が大きく、絶食期間も長くなりがちだ。手術野は嚥下に関与する神経にも近い。この神経に麻痺がおこると、術後に唾液などが誤って気管に入り込む誤嚥、さらには肺炎といった合併症が起こりやすい。生命予後や生活の質の向上のために、安全で有効な合併症予防対策が求められている。

 岡山大学病院歯科・予防歯科部門の山中玲子助教(予防歯科学)らの研究グループは、先行研究で、食道がん手術では、嚥下機能を評価する指標の一つで舌の力である「舌圧(ぜつあつ)」が、76パーセントの患者で術後に低下することを確認していた。舌圧が低下すると、誤嚥しやすくなる。

 また、別の先行研究では、パーキンソン病の患者がガムをかむトレーニングを行うと嚥下の機能が改善することや、大腸などの下部消化管手術では術後の胃腸機能の回復が早まることなどが報告されていた。しかし、食道がん手術後の嚥下の機能に対する影響についての報告はなかった。

 これらを踏まえ、ガムをかむトレーニングを食道がん手術前から開始し、術後は麻酔科医や外科医が安全性を確認したうえで、術後2日目以降から再開し、嚥下の機能が保たれるかどうかを検証した。

 研究に先立ち、患者が楽しくガムをかむトレーニングを実施できるように、院内の医師や看護師、管理栄養士らとともに数種類のガムのかみ比べを行った。その中からかみ応えがよく、おいしく、それらができるだけ持続するものを選んだ。

 ガムは左右交互に10回ずつ3分間かんだあと、上顎にガムを押しつけたり唾液を飲み込んだりするなど舌を動かすストレッチを約2分間してもらった。この1回約5分間のトレーニングを1日3回行った。術後は2週間トレーニングを行い、舌圧を測定した。

今回、岡山大学病院に入院した食道がん患者に実施したガムによるトレーニングの概要(同大提供)
今回、岡山大学病院に入院した食道がん患者に実施したガムによるトレーニングの概要(同大提供)

 年齢や性別などでマッチングを行った60~70代の食道がん患者について、ガム群とガムをかまなかった群のそれぞれ25人ずつで比較した。術後2週間目に舌圧が減少した患者の割合は、ガムをかまなかった群が76パーセントだったのに対し、ガム群は44パーセントに抑えられた。

 術後2週間目の舌圧から術前の舌圧を引いた値も、ガム群の方が高く、術後は術前よりも舌圧が向上していたことがわかった。また、嚥下機能を評価する他の指標であるRSST(反復唾液嚥下テスト)の成績も、ガム群のほうが良かった。さらに、ガム群では術後の38度以上の発熱日数も抑えられていた。

ガムをかむトレーニングに参加した群とそうでない群の比較。ガム群の方が、成績が良かったことが分かる(山中玲子助教提供)
ガムをかむトレーニングに参加した群とそうでない群の比較。ガム群の方が、成績が良かったことが分かる(山中玲子助教提供)

 山中助教は「今回、ガム群もガムをかまなかった群も、口腔衛生管理は行っていた。きれいな口の状態で実施することが、より高い効果が得られるポイントだと考えられる。ICU(集中治療室)の看護師からは、『術後の絶食期間中に味のあるものを少しでも口にできたのは、心理的にもよかったのかもしれない』という話も寄せられた」と振り返った。今後、誤嚥などの口腔機能の低下に悩む高齢者にも役立つ可能性があるのではないかという。

 研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と8020研究財団の助成を受けて行われた。成果は2024年10月12日に米国の科学誌「サイエンティフィック リポーツ」に掲載され、11月27日に岡山大学が発表した。

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