レビュー

科研費改革の成功のために研究者も申請者、評価者として視野を広げよ

2017.02.08

中村 直樹 / 科学ジャーナリスト

 科学研究費助成事業(科研費)の大規模な改革が今年の9月公募分(平成30年度科研費)から実施される。

 科研費についてはこれまで様々な改革が行われてきた。経理区分の大くくり化や繰越手続きの弾力化、基盤的経費との合算使用による研究装置の購入、さらには一部研究種目の基金化など、研究者が自由闊達に研究活動を実施できる環境づくりに貢献してきた。また、これらの改革は他の競争的な研究費の運用にもプラスの影響を与えてきた。しかし今回の改革はこれまでとは様相が異なる。研究費配分システムの中心である審査方式と審査区分を大きく変更するものだからだ。

 現在の審査では、細目数321にキーワードで細分化した432の審査区分が設定され、基盤S・A・B・C、挑戦的萌芽研究、若手研究A・Bの各研究種目が細目ごとに、書面審査と合議審査を異なる審査委員が実施する2段階審査方式で実施されている。今回の審査システム改革では、これまでの432の審査区分を見直し、306の小区分、小区分を複数集めた65の中区分、中区分を複数集めた11の大区分が設定され、また同一の審査員が書面審査を行った上で合議を行う総合審査、同一の審査員が電子システム上で2段階にわたって書面審査を実施する2段階書面審査方式が導入される。

 比較的小規模な研究種目である基盤研究B・C、若手研究については、304の小区分で2段階書面審査が、基盤研究A、挑戦的研究は65の中区分で総合審査が、基盤研究Sは11の大区分で総合審査が実施される。

 なぜ今、このような審査システム改革をやるのか。その背景には、学問そのものの変化がある。従来、学問分野は細分化し、深く深く一つの領域を追求していくことで、新たな発見が生まれ、学問が進展してきた。しかし、研究対象をより細かく観測・観察できるようになってくると、それぞれの領域の境界が曖昧になり、その中から新たな発見が生まれてくるようになった。

 例えば、分子生物学がDNAを基軸として発展し、生体内の変化をミクロレベルで観測できるようになると、その変化は化学反応であることが明らかになり、さらに化学的なアプローチで生体内を操作できるようになった。同様なことは、物理と化学、生物と数学など、多くの学問領域で現在も新たな展開が世界中で起きている。

 そうした中、科学技術・学術政策研究所が公表しているサイエンスマップでは、日本における新たな領域の発生率が他国と比べて小さいことが指摘されている。その理由として、日本の学術研究の基盤となっている科研費のあまりにも細かな領域での審査があるのではないかという意見もある。

 新たな審査区分で評価されるためには、少なくとも隣接した領域の研究者がその学術的な意義を理解しなくてはならない。二段階書面審査は、他の研究者の評価結果を見ることになるため、異なる視点に自らの評価もさらされ、また他者の評価を知ることで自らの視点の足りなさを理解できるようになる。

 今回の改革が成功すれば、日本の学術研究は新たな展開に向けて大きく発展することになるが、そのためには、研究者一人ひとりが申請者あるいは評価者として自らの視野を広げていく必要がある。

図「科研費審査システム改革2018」の概要(提供・文部科学省)
図「科研費審査システム改革2018」の概要(提供・文部科学省)

関連記事

ページトップへ